インプレッション

スズキ「クロスビー」(車両型式:DAA-MN71S)

乗ると期待以上に楽しく、いろいろな工夫や遊び心にあふれたクルマ

“ハスラーの1.0リッター版のようなモデルが出るらしいゾ”と噂されていたなか、2017年の東京モーターショーで華々しく披露されたスズキの「クロスビー」。会場でその姿を見つけて「これか!」と心踊ったのは私だけではないはず。ニッコリと笑いかけてくれるような愛らしいフロントマスクといい、ぽってりとした丸さと逞しい下半身を融合した独特のボディといい、パッと見た印象はまさにハスラーの兄貴分だ。

 だが、クロスビーには面白い仕掛けが潜んでいた。単なるコンパクトクロスオーバーSUVではなく、そこに「ワゴン」という要素をプラス。デザインや走りでは満足度が高いものの、後席や荷室はちょっと狭くて使いにくいよね、という既存のコンパクトクロスオーバーSUVの弱点を克服してきたのである。しかも、クロスビーのボディサイズは3760×1670×1705mm(全長×全幅×全高)と、5ナンバー規格ギリギリには達しない小さめサイズ。スズキのモデルでいえば、「ソリオ」より全長が50mm、全幅が45mm大きく、全高は40mm低いという、ソリオをつまんで縦横に引き伸ばしたような感覚だ。

 それでも、デザインからは「ワゴン」の要素は見事に消し去られている。ルーフラインやベルトラインがシャープで、横方向への勢いを感じさせるものだったり、初代「エスクード」を思わせるブリスターフェンダーや、しっかりと取られたアプローチアングル/デパーチャーアングルなどで力強さを表現している。さらにホワイトやブラックの2トーンルーフが用意されたり、サイドガーニッシュにアクセントカラーが入ることでも一気に生活臭がなくなって、楽しい気持ちにさせてくれる。ボディカラーはややシックな色味が多いが、ライオンのたてがみをイメージしたという新色の「ラッシュイエローメタリック」は、個性的なクロスビーの魅力を引き立ててくれる印象だ。

クロスビー HYBRID MZ(ミネラルグレーメタリック 3トーンコーディネート)。ボディサイズは3760×1670×1705mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2435mm。車両重量は2WD(FF)車が960kg、4WD車(写真)が1000kg
タイヤサイズは175/60 R16で全車共通
3トーンコーディネートのボディにはイエロー(写真)、またはオレンジのドアスプラッシュガードとホワイトルーフが与えられる

 そんなクロスビーの室内は、これまた遊び心あふれる空間。パイプフレームをモチーフにしたというインパネのデザインや、メーターナセルやドアトリムまで覆うホワイトパネル、シートに入る3色のパイピングとカラーアクセントなど、乗る人をワクワクさせる楽しさがある。それでも、ペットボトルから500mL紙パック飲料まで置けるドリンクホルダー、ボックスティッシュを収納したままティッシュが引き出せるというインパネトレー、充電しながらスマートフォンなどを収納できるセンターポケット、折りたたみ式のパーソナルテーブルなど、使い勝手をしっかり考えたスズキらしい機能性は健在だ。

 大人4人で座ってみた感想は、想像以上の広さ。前席の頭上や助手席との距離もゆとりがあるし、後席では足下スペースの余裕にびっくりしたほど。後席にもう1人加わって3人掛けになるとさすがに窮屈かなと思ったが、子供なら大丈夫。コンパクトSUVには珍しく、後席に165mmのスライド機能があるので、人と荷物の状況に合わせて使いやすくなっている。ただ、5名乗車が定員でありながら、後席に2名分のヘッドレストしか標準装備されないのはガッカリ。後席が5:5分割可倒式であることが関係するのだろうが、ここは改善してほしいところだ。とはいえ、広さ的には4人家族のファミリーユースならまったく問題ないだろう。

2本のパイプフレームをモチーフに使い、水平基調で広々と力強いデザインが与えられたインパネ。全車オーディオレス仕様で、写真内の「全方位モニター対応ナビゲーション」はディーラーオプション
HYBRID MZは本革巻ステアリング&本革巻シフトノブ、クルーズコントロールなどを標準装備
中央に大型スピードメーター、左側にタコメーター、右側に3.5インチ マルチインフォメーションディスプレイを設定する常時発光式のメーターパネル
インパネ中央に、「スポーツ」と「スノー」の走行モード、4WD機能の「グリップコントロール」と「ヒルディセントコントロール」のON/OFFスイッチを設定
2WD車はハザードスイッチのみを用意
運転席の右前方側に「デュアルセンサーブレーキサポート」や「ふらつき警報機能」などのON/OFFスイッチを設置

 また、前席のヒップポイントはベースとなった「イグニス」から+60mm、後席が同+50mm高められた設定で、乗り降りがしやすいのも美点。これはソリオと同じ数値だというから、このあたりにもワゴンの要素が効いている。ドアもしっかりと大きく開くので、スペースが取れる場所ならチャイルドシートに座る子供のお世話もしやすそうだ。

 そしてラゲッジスペースは、後席を最後端にした状態で124L、最前端で203Lと思いのほか容量が少ないと感じたが、なんと床下のアンダーボックスが81L(2WD車の場合)もの大容量。ラゲッジボードを開ければグンと深さが増し、ベビーカーの縦積みもOKだ。クーラーボックスや旅行バッグなども同時に入るので、それなら納得。4WDモデルは37Lとなってしまうので要注意だが、後席を倒さずとも35Lのキャリーバッグを5個積載することが可能とのこと。後席を倒せば最大520Lまで容量を拡大でき、上級グレードのHYBRID MZには濡れた荷物などを気にせず積める「防汚タイプラゲッジフロア」も用意されているなど、キャンプやアウトドアスポーツを楽しむ人にも便利に使えそうだ。

後席のシートバック肩口に前後スライドとリクライニングの操作レバーを用意
シート表皮は全車ファブリック。HYBRID MZは座面がはっ水加工となる
ラゲッジスペースの「ラゲッジアンダーボックス」は駆動方式によって形状と容量が変化し、2WD車(左)は81L、4WD車(右)は37L。両サイドにグリップがあり、樹脂製で水洗い可能となっている
2WD車のラゲッジアンダーボックスは深さがあり、ベビーカーを縦置き収納しても後方視界に影響を与えにくい
クロスビーのディーラーオプション装着車。クロスビーには内外装をカスタマイズしたり、趣味のアイテムを搭載するときに便利な純正用品が多数用意されている
オレンジ色のバンパーガーニッシュやドアスプラッシュガードパネル、ホイールアクセント、ボンネットやルーフのデカールを追加してスポーティさを強調
インパネガーニッシュはオレンジ(写真)のほか、イエロー、レッド、ブラック、グレーの計5色を用意
フロントドアを開けたときに足下を照らす「ドアランプ」は、クロスビーのロゴマークをカラーで路面に映し出す

どこかフランス車を思わせる挙動

 さて、そんなクロスビーをいよいよ走らせてみる。パワートレーンは全車に直列3気筒DOHC 1.0リッター直噴ターボエンジン+マイルドハイブリッドを搭載。トランスミッションはCVTではなく6速ATが採用された。試乗車のHYBRID MZ 4WD車は車両重量が1000kgと軽いこともあり、大人4人乗車での発進加速は十分に力強く、モーターアシストの効果もあって走り出しはとてもスムーズ。アクセルペダルを踏み込む感覚とエンジン回転の上がり方、そして加速フィールにしっかりとしたリニア感があって気持ちがいい。これはATならではのシフトレスポンスのおかげもありそうだ。上り坂に差し掛かってもさほどアクセルを踏み足す必要はなく、エンジンが悲鳴をあげるようなこともなく、モリモリとした余裕さえ感じられる。

直列3気筒DOHC 1.0リッター直噴ターボの「K10C」型は最高出力73kW(99PS)/5500rpm、最大トルク150Nm(15.3kgm)/1700-4000rpmを発生。最高出力2.3kW(3.1PS)/1000rpm、最大トルク50Nm(5.1kgm)/100rpmを発生する「WA05A」型モーターを組み合わせたマイルドハイブリッドを採用する。トランスミッションは6速AT

 足まわりではフロントにスタビライザー(2WD車はリアも標準装備)が付き、専用チューニングのサスペンションを採用。16インチタイヤを履く足下は適度な硬さがありつつも、路面の乱れを包み込んでから伝えてくるようで、安定感の高さと乗り心地のよさを両立する。カーブでは内輪が沈み込んでからのコシの強さがあり、どこかフランス車を思わせる挙動で面白い。峠道などに行ったら運転する楽しさが存分に味わえそうな印象だ。

 そして流れの速い幹線道路での悠々としたクルージングは安定感も上々で、ステアリングにも好ましい程度の重厚感があるのがまたドライバーの満足度を高めていると感じる。聞けばクロスビーには、ステアリング操作量に対してタイヤの切れ角が変化する可変ギヤレシオステアリングに加え、電動パワーステアリングを専用チューニング。レスポンスのいいハンドリングを手に入れつつ、市街地では軽快に、高速走行ではどっしりとしたステアリングフィールを目指したとのこと。そこにサスペンションチューニングやタイヤの特性が絡み合い、ベストなマッチングを実現していると感じた。

 安全装備では、単眼カメラとレーザーレーダーでクルマや歩行者を検知する衝突回避・被害軽減ブレーキの「デュアルセンサーブレーキサポート」をはじめ、後退時のブレーキサポートもスズキの小型車として初搭載するなど、先進の安全運転支援技術が手厚く用意されている。最近は他メーカーのコンパクトクラスで搭載が進んでいる、追従機能付きのクルーズコントロール(ACC)は搭載されなかったが、一方で全方位モニターに「3Dビュー」を採用したり、後方の誤発進抑制機能やパーキングセンサーを搭載するなど、使う頻度が高くユーザーが恩恵を感じやすい安全装備が優先されているように思う。

単眼カメラとレーザーレーダーを一体化した「デュアルセンサーブレーキサポート」のセンサー部
システム起動時に全方位モニターに表示される「3Dビュー」で、走り出す前に車両の周辺状況を気軽に確認できる。写真の「室外視点」のほか、車内からボディを透過しているように表示する「室内視点」も選択可能

 東京モーターショーでの初対面で心奪われ、早く乗ってみたいと待ち焦がれていたクロスビーは、乗ってみると期待以上に楽しく、いろいろな工夫や遊び心にあふれたクルマで、さらに好きになってしまった。この流れは、思い返せばハスラーのときとまったく同じ。またしても大ヒットの予感だ。ハスラーだとファミリーで乗るにはちょっと小さいと躊躇していた人や、子育て中でも使い勝手のいいコンパクトSUVを探している人には、とくにオススメしたいクロスビー。家族みんなでチェックしてほしい1台だ。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。17~18年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:堤晋一