インプレッション

スズキ「スペーシア」「スペーシア カスタム」(車両型式:DAA-MK53S)

新型スペーシア&スペーシア カスタムの走りや使い勝手をママ目線で確認

 気に入って長く使っているスーツケースには、旅の思い出がパンパンに詰まっている。だんだんとついてゆく汚れや傷もまた、愛着を深める味になる。スズキの新型「スペーシア」は、そんなスーツケースをモチーフとしたデザインで登場した。

 フロントウィンドウを立ち気味にして、いかにも荷物がたくさん入りそうな大きさを表現。ジッパーのようなフロントグリルを使い、ベルトラインを高くすることでぽってりとした厚みを強調したボディ。人気のスーツケースブランドを思わせるビードがサイドに入り、ぐるりとドアウィンドウを囲んだ部分もスーツケースのハンドルのイメージだ。四隅のタイヤはキャスター、2トーンカラーのモデルにはルーフレールが装着されて、今にもコロコロと引いて歩き出せそうなところが面白い。

スペーシア HYBRID X(ツールグリーンパールメタリック ブラック2トーンルーフ)。ボディサイズは3395×1475×1800mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2460mm。スペーシアの2トーンルーフ車はルーフレールを純正装着しているため、ほかのモデルより全高が15mm高い

 インテリアでも同様に、インパネアッパーボックスなどにスーツケースを思わせるデザインが施され、これはなかなか凝っている。過去にも「ラパン」をはじめ、独自の世界観を持つデザインでファンを掴んできたスズキだが、「ハスラー」あたりからそれが一気に昇華した感があり、この新型スペーシアもそうした“デザインでの指名買い”が増えそうな予感。生活感を消すのが難しいスーパーハイトワゴンだからこそ、このデザインはよりユーザーの心に響きそうだ。

ラインアップ中、スペーシア HYBRID Xだけで選べるベージュ内装。ステアリングはウレタン式の3本スポークタイプで、ステアリングオーディオスイッチはメーカーオプション
スペーシアのメーターは車速をシンプルに表示する1眼タイプ。常時発光式でモノクローム表示のマルチインフォメーションディスプレイを組み合わせる
助手席前方のインパネアッパーボックスは、光沢アイボリーのリッド表面に凸型のビードを設定。スーツケースをモチーフとしたデザインとなっている
シート表皮はファブリック。フロントシートSRSサイドエアバッグは全車で標準装備

 もう1つ、新型「スペーシア カスタム」も同時に登場したが、こちらは大型のメッキフロントグリルがドーンと押し出しのある印象で、LEDヘッドライトも鋭い細目になり、標準デザインとは全く異なる存在感。カラーバリエーションも、優しい色合いが多い標準車とほとんど被らないヴィヴィッドな色合いがそろう。デザインの方向性をガラリと変えたことで、幅広いユーザーが取り込めるのは間違いない。

スペーシア カスタム HYBRID XSターボ(ピュアホワイトパール ブラック2トーンルーフ)。ボディサイズは3395×1475×1785mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2460mm
2種類のメッキ加飾を使って存在感を強調する大型フロントグリル。LEDヘッドライトはスペーシア カスタムで標準装備
ボディ同色のドアサッシュとブラックアウトしたルーフ&ピラーにより、ドアサッシュを“スーツケースのハンドル”のように見せる
ルーフエンドスポイラー、導光レンズを使ったLEDリアコンビネーションランプをスペーシア カスタム全車で標準装備

 ただ、1つ悩ましいのはパワートレーンの選択だ。新型スペーシア/スペーシア カスタムは全車にマイルドハイブリッドを搭載し、52PS/60Nmの直列3気筒DOHC 0.66リッター自然吸気エンジンと、64PS/98Nmの0.66リッター直列3気筒ターボエンジンを用意しているが、ターボが選べるのはスペーシア カスタムの最上級グレードのみ。ファミリーユースを想定し、旅のワクワク感を強調するデザインにしたならば、標準デザインにもターボを設定した方がよかったのではないかと思ったが、チーフエンジニアの鈴木猛介さんに聞いたところ、「確かにそうした意見もありましたが、ひとまずはこれで行こうということになりました」とのこと。“ひとまず”ということは、反響や売れ行き次第ではのちに標準デザインにもターボが追加される可能性は、ゼロではないと言えそうだ。

直列3気筒DOHC 0.66リッター自然吸気エンジンは、最高出力38kW(52PS)/6500rpm、最大トルク60Nm(6.1kgm)/4000rpmを発生
直列3気筒DOHC 0.66リッターターボエンジンは最高出力47kW(64PS)/6000rpm、最大トルク98Nm(10.0kgm)/4000rpmを発生

ターボエンジン+14インチタイヤの組み合わせが理想的

 しかし、試乗してみるとその悩ましさがさらに複雑になった。というのは、もちろん全域における走りのパワフルさではターボの方が上で、流れの速い幹線道路でも余裕のあるクルージングができたのだが、乗り心地に関しては15インチタイヤを履くスペーシア カスタムのHYBRID XSターボは前席でも硬めで、とくに後席では直線走行でも常にゴツゴツとした振動がある。「N-BOX」や「タント カスタム」などのライバルと比べてもよい方とは言いにくく、カーブでの安定感が抜群にいいならばそれも仕方ないが、揺れ方がやや急にグラリとくる感覚なのも気になった。

 ところが、14インチタイヤを履くスペーシアのHYBRID Xは全ての席で乗り心地に落ち着きがあり、カーブでのしなやかさもあって、自然な感覚で運転できる。今回は大人4人フル乗車で試乗したので、実際にファミリーで荷物を積んで出かけるシーンでも同じような印象となるのではないだろうか。自然吸気エンジンは市街地ではややアクセルを踏み込む回数が多いものの、パワーは必要十分。高速道路でもステアリングにあるパワーモードのスイッチを押すと、エンジンとCVTの制御変更やモーターアシストのトルクアップに助けられ、ここぞの追い越しもラクにできたが、やはり余裕のクルージングを続けるにはもう少しパワーが欲しい。ということは、“標準デザインにターボエンジン搭載で、タイヤは14インチのまま”という組み合わせがあれば理想的ではないかと感じたのだった。

スペーシア全車で採用する155/65 R14タイヤ。標準装備品はフルホイールキャップだが、試乗車では「アップグレードパッケージ」のアルミホイールを装備
スペーシア カスタムのHYBRID XSとHYBRID XSターボで165/55 R15タイヤ。スペーシア カスタムは全車でアルミホイールを標準装備する

 さて、そんな新型スペーシア/スペーシア カスタムの見どころは、実はパワートレーン以外にもたくさんある。まずは、スズキらしいアイデア満載の室内空間だ。後席専用にエアコンを用意するほどのコストがかけられない軽自動車で、しかもスーパーハイトワゴンほどの広さとなると、起こりやすいのが前席と後席での寒さ・暑さの温度差問題。

スペーシアのHYBRID X、スペーシア カスタムのHYBRID XSとHYBRID XSターボで標準装備する「スリムサーキュレーター」。スリットから小風量の高速気流を吹き出して周囲の空気を誘引。大きな空気の流れを作り出して車内全体の温度を均一化していく

 それを解決すべく新採用されたのが、車内の空気を循環させて素早く温度を均一にしてくれる「スリムサーキュレーター」(一部のグレードに標準装備)で、ちょうど前席の頭上あたりの天井に設置されている。また、エアコンを全開にしても前席の人に風が強く当たらないよう、風量調節だけでなく風を拡散させる機能がついたエアコンルーバーも軽自動車初採用された。4人乗車で試したところ、スリムサーキュレーターは作動音がちょっとうるさく感じるものの、暖かい風が天井付近に溜まることなく、室内全体に効率よく回っているのが感じられた。運転席でも、顔に風が直撃するような不快感がなかったのは初採用のエアコンルーバーのおかげだろう。

 ただ、これはデビュー当初から「リヤサーキュレーター」を採用している日産「デイズ ルークス」&三菱自動車「eKスペース」も同様なのだが、運転席からはサーキュレーターをとても操作しにくい。というより、ほぼできないに等しい。ママとチャイルドシート装着の子供だけで乗っているような場合に、子供が暑がったりしたら運転席からこまめに調節できればもっと便利だと感じた。

ブラックパール色とシルバー加飾の組み合わせでシックな雰囲気を演出するスペーシア カスタム HYBRID XSターボのインテリア
スペーシア カスタム HYBRID XSターボはレッドステッチを備えた本革巻ステアリング&シフトノブを標準装備。クルーズコントロールはHYBRID XSターボ専用装備となる
大型のスピードメーターの左側にタコメーター、右側に燃料計を設定する3連メーターを採用。スピードメーター上側に、表示の色で運転状態のエコ具合などを教えるステータスインフォメーションランプを用意
シート表皮はファブリックのほか、サイドサポートやヘッドレストなどにレザー調素材を使用

子育て世代が「本当に欲しい」ものが詰まっている

後席を最後方に設置した状態。ルーフトリムの形状変更でヘッドクリアランスが拡大され、ヒップポイントも15mm高くなったアップライトなパッケージングで開放感がさらに向上している

 次は収納やシートアレンジなど、室内の使い勝手をチェックしてみる。後席は210mmの前後スライドで、車内側だけでなく荷室側からも操作可能。格納はワンアクションで座面と背もたれがフラットになる「ワンタッチダブルフォールディング」。スライド量はライバル車と比べると少し短いが、アレンジ操作のしやすさは、これまでのスズキ車からしっかり継承している。

後席は前後に210mmスライド。スライドのロック解除は座面前方のノブのほか、荷室側のトラップでも操作可能

 収納に関しては、スズキは「ボックスティッシュをいかにうまく収めるスペースを作るか」ということにこだわるメーカーという印象があるが、今回はインパネの助手席前方に引き出し式の収納スペースを作り、そこにボックスティッシュがすっぽり入るようになっている。細々とした物をサッと出し入れしやすいポケットも、ドアトリムやセンターパネルなどに豊富にそろっており、スズキお約束の「助手席シートアンダーボックス」も健在で、申し分のない収納力。

 ここで1つ気になったのは、これまでのスズキ軽モデルならドア内側のノブまで小さなポケットを兼ねていたはずなのだが、新型スペーシア/スペーシア カスタムでは普通のグリップ式ノブになっていたことだ。鈴木さんに「私はここによくカギやリップクリームを放り込んで重宝していたんですけど」と話すと、「近ごろは乗り降りの際やドアを開け閉めするときに、しっかり握って掴めるグリップがほしいという要望が多いんです」との答え。確かに、軽自動車としてはドアが大きめとなるだけに、風の強い日の開け閉めや、子供やお年寄りなどの支えとして、グリップがあった方が安心かもしれない。こうしたユーザーの要望の変化を敏感に感じ取って、素早く商品に活かしてくるところに感心したのだった。

助手席の座面下に備える「助手席シートアンダーボックス」は、フロアにマイルドハイブリッド用のリチウムイオンバッテリーなどが設置されるようになって深さが減ったものの、取り外してバケツとしても利用できる便利なアイテム
ドアの内側にあるグリップも“スーツケースのハンドル”をモチーフとした形状。ポケットタイプではなく下まで開放型にすることで、ネイルなどで彩った女性の指先が当たりにくく、ドライブ中に同乗者が握りやすいこともメリットになる

 室内空間の広さとしては、天井の高さが1410mmと先代より35mmアップし、N-BOXの1400mm、タントの1365mmを抜いて一気にトップへ。しかし、室内幅1345mm、室内長2155mmはN-BOX、タントには及ばない。つまり、新型スペーシア/スペーシア カスタムは低床をキープしながら全高を上げることで、室内の上下方向の広々感で勝負してきたということ。これは快適性だけでなく、ヒップポイントが前席で30mm、後席で15mm高められ、運転のしやすさや後席の乗降性をアップさせることにもつながっている。

 さらに、この高さが大きく効いてくるのが荷室の使い勝手。フロアの地上高を先代比-25mmの510mmに抑え、開口部の高さを1150mmと大きく取ったことで、通常の荷物はもちろん、27インチ自転車が余裕で積めるようになっている。掃き出し口には自転車のタイヤを乗せることでスムーズな積み込みを助けるガイド溝があるのも親切だ。左右分割式でフラットにできる後席との段差もほとんどなく、これは使いやすい。4人乗車でも各自のバッグやカメラ機材などが収まるスペースが取れたので、工夫すればファミリーの旅行にも使いやすいはずだ。

荷室容量は後席を前後させたり、背もたれをワンタッチダブルフォールディングさせることなどで自在に変更できる。後席の背もたれは8段階でリクライニングする
荷室の掃き出し口に用意された自転車のタイヤガイド。ここに前輪を仮置きすると後輪を持ち上げるときに前輪がふらつかず、力が入れやすくなるという
オプション装備の全方位モニター。「室外視点」「室内視点」の2種類で自車周辺の状況を表示する「3Dビュー」を軽自動車として初採用した

 さて、最後は安全装備について。新型スペーシアはベースグレードとなるHYBRID Gから、「デュアルセンサーブレーキサポート」をはじめとする先進安全技術「スズキ セーフティ サポート」を用意している。どのグレードにも「非装着車」(5万9400円安)を用意しているが、基本的には全車に標準装備だ。そして軽自動車初の装備として、後退時にも衝突回避または被害軽減を助ける「後退時ブレーキサポート」を搭載。N-BOXのようにACCによる追従機能までは付かなかったが、フロントウィンドウ投影式のヘッドアップディスプレイの採用や、全方位モニターには「3Dビュー」を追加するなど、軽自動車初の装備が盛りだくさんとなっている。追従機能は長距離を頻繁に走行するユーザーには恩恵が大きいが、近所のチョイ乗りがメインならそれほど使うシーンがない。新型スペーシアは、そうしたユーザー層の使い方を考えて、必要な安全装備を厳選してきたと言えるだろう。

フロントウィンドウ投影式のヘッドアップディスプレイには、瞬間燃費やエンジン回転数、エネルギーフローといった車両情報のほか、カーナビの交差点案内、衝突被害軽減ブレーキの警告表示、進入禁止の道路標識などの情報をカラー表示できる
ヘッドアップディスプレイの表示位置や明るさ、表示内容などはステアリングの左前方にあるスイッチで調整可能

 こうしてチェックしてきて感じたのは、室内の装備から使い勝手、安全装備に至るまで、子育て世代を中心とするファミリー層が「本当に欲しい」というものが詰まっているということ。熟成が進むスーパーハイトワゴンのカテゴリーで、スペーシアはこれまでやや劣勢を強いられてきたが、ここでいよいよ本領発揮。スズキらしさや魅力が大集結したのが新型スペーシア/スペーシア カスタムと言えそうだ。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。17~18年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:堤晋一