試乗レポート

ダイハツの新型「ムーヴキャンバス」NAとターボに試乗 待望の追加となったターボがもたらした変化

ダイハツ「ムーヴキャンバス」

エクステリアデザインはキープコンセプトでも中身は一新

 フォルクスワーゲン・バスに触発されたダイハツ工業の「ムーヴキャンバス」。ハッチバックからハイトワゴン、スポーツカーまで何でもそろっているのが軽自動車カテゴリーだが、キャンバスはスタイルワゴン系として2016年にデビューした。母と子をテーマにして若年層を中心に月間販売台数は平均5600台を誇る人気車種に成長し今年2代目に引き継がれた。なんと購買層の9割が女性だった先代のユーザー層を広げるのが新型の次のテーマだ。

 タント、ロッキー、タフト、ハイゼットに続く、ダイハツの開発手法であるDNGAの第5弾でもある。DNGAはプラットフォームだけでなく、パワートレーン、アンダーフロア、サスペンションなどの一括企画で軽量化と高効率を図る、スモールカーに特化したダイハツ版TNGAで、軽量高剛性でコストの削減も目指している。

 キャンバスの2代目は好評だったデザインをキープしつつ、従来型の延長線上にストライプスと、「父親と息子」のキャンバスを標榜するセオリーの2グレードをそろえる。

ムーヴキャンバス ストライプス G。価格は167万2000円(2WD)。初代のイメージを継承しつつ、時代に合わせてすっきりと洗練されたかわいらしさを表現した。ボディカラーは「シャイニングホワイトパール×シトラスイエロークリスタルシャイン」。14インチ2トーンカラードフルホイールキャップ(シルバー×パールホワイト)に装着するタイヤはダンロップ「エナセーブ EC300+」、タイヤサイズは155/65R14。ボディサイズは3395×1475×1655mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2460mm
ホワイトを基調としたインパネを採用し、シンプルですっきりとした明るい内装とすることで、自分の部屋のようにくつろげるプライベート空間を実現。撮影車はオプションのダイハツコネクトに対応する10インチ スタイリッシュ メモリーナビを装着。さらに、新開発の保温機能付き「ホッとカップホルダー」や、運転席/助手席シートヒーターを標準装備
ソファのような座り心地の新開発のフルファブリックシートを採用。リアシート足下にはフロアに直接置きたくない荷物を収納できる置きラクボックスを備える
ムーヴキャンバス セオリー G。価格は179万3000円(2WD)。“大人の価値観・持論を表現できるクルマ”として、シックで落ち着いた雰囲気を演出した。ボディカラーは「サンドベージュメタリック」。14インチ2トーンカラードフルホイールキャップ(シルバー×グレー)を装着。なお、ストライプスとセオリーに価格差はないため、好みのデザインを選べるようになっている
セオリーの内装は深みのあるブラウンとネイビーを組み合わせ、シックで大人なイメージ。さらに、本革巻のステアリングホイールやシフトノブの採用で上質さを演出
セオリーのメーターは、パネルがブラックとなり落ち着いた印象に
ペダル
セオリーはネイビーのシートにブラウンのシートパイピングを採用
NAモデルは最高出力38kW(52PS)/6900rpm、最大トルク60Nm(6.1kgfm)/3600rpmを発生する直列3気筒DOHC 0.66リッターエンジンを搭載。トランスミッションはCVTを組み合わせる
ターボモデルは最高出力47kW(64PS)/6400rpm、最大トルク100Nm(10.2kgfm)/3600rpmを発生する直列3気筒DOHC 0.66リッターターボエンジンを搭載。トランスミッションはD-CVTを組み合わせる。ターボモデルはストライプ、セオリー両モデルに設定されている

NAモデルもDNGA化で進化

 最初に試乗したのはストライプスのNAエンジン車。従来キャンバスにはターボの設定はなかったが、市場の要望とセオリーグレードが加わったことでNAとターボの2本立てとなった。

 DNGAによる新しいプラットフォームで車両重量は従来型より50kgも軽く仕上がっている。安全装備も含めて装備の充実が図られているので一括開発の効果が大きいことが分かる。しかも剛性が上がっており、乗り心地や静粛性など、走りの性能も大きな進化を遂げていた。

 エンジンはKF型で低速トルクが向上している。これまでのキャンバスは低速トルクが薄かったので、発進時などいわゆるラバーバンドフィールのお手本のようにエンジン回転が上がり、トーボードから入るエンジンの透過音も大きかったが、新型では緩い坂なら低中速回転を維持して加速でき、それほど気にならないし、加速も粘り強い。これだけでも走りの質感が上がった。

 試乗ルート上には段差路や石畳の路面があったが、路面からの突き上げは少なく、ドタンバタンとした連続的な衝撃はマイルドにいなし、車体も揺さぶられない。意外なほどアシの動きはしなやかだ。剛性アップはボディだけでなく、サスペンションの取り付け部に及んでおり無理なく動いている感じだ。段差乗り越しでも後部から入るドシンとした衝撃も小さい。

 ショックアブソーバーは同じDNGAのタフト、タントに比べてリア側の入力を抑えるためにリアの減衰力を下げているという。確かに後席でもショックが小さい。

 装着タイヤは155/65R14サイズのダンロップ「エナセーブ EC300+」で転がり抵抗の小さいタイヤだが上下方向に対するショック吸収が早く、乗り心地はよい。パターンノイズもピーク音が小さく、ボディ側の遮音効果もあって突出した音が入ってこないのが好ましい。

 電動パワーステアリングの操舵力は軽く滑らか。またハンドルに伝わる反力も適度な重さがあり、日常の取りまわしも優れている、軽自動車らしく最小回転半径4.4mと小まわりが効くのもありがたい。新しいキャンバスにはGグレードに電動パーキングブレーキとなり、ブレーキホールド機能も備える。使ってみると停車時の利便性は高い。

 一方ワインディングコースではハンドル応答性は鈍く設定されており、キャンバスのキャラクターに合わせられている。

 少し早めの操舵を行なうとタイヤのサイド剛性はそれほど高くないのでロールが少し大きく、対角線方向の路面突起に対してピッチングが起こるが、このカテゴリーとして十分な性能だと思う。

 シートは広くて乗降性もいいが、座面角度とバックレストが体にフィットするとなおよいだろう。前方視界ではAピラーが比較的前に位置して視界に入るが大きな三角窓が効果的。大きなヘッドクリアランスと共に解放感がある。

 リアドアは先代から引き継いだスライドドアを採用しており、両手がふさがった状態でもドアオープンが可能な機能を持つ。試乗車では全てオートでイージークロザーも備わり、小さな子供を乗せるのも重宝する。もちろん運転席から開閉可能だ。

 後席の下に引き出し式の左右フラップ付きボックスがあり、シートを汚したくない荷物をちょっと置いておくには便利。5kgまで対応でき左右シートに備わる。その他にも容量は大きくないが小さな収納ボックスがたくさんあり、小物置き場には困らない。

 ユニークなのはGグレードの助手席カップホルダーは飲み物を42度に保温できる機能がある。女性は特に重宝するだろうシートヒーターもこのグレードに装備されている。

ターボの追加で広がった世界

 一方男性を意識したというセオリーではターボエンジン車を試乗した。2トーンカラーのストライプスとは異なり、こちらは単色で落ち着いたカラーがラインアップされ、内装もブラウンとネイビーの構成で、がらりと雰囲気が違う。

 NAの38kW/60Nmの出力に対して、47kW/100Nmを出しており低回転から力が出せる。さらにNAではキャリーオーバーだったCVTがターボではD-CVTとなり大トルクにも適応でき、しかもワイドレシオに設定できる特徴を活かして、アクセル開度が小さくても大きな駆動力を発揮できる。KF型ターボの特性も低回転からレスポンスに優れた設定になっており、加速も余裕十分。高速回転でのパワーよりも実用性に優れた低中速回転でのアクセルのツキのよさがある。

 ハンドルスポークの右下に付いたPWRボタンを押すと、ブーストを増したようにグイと加速する。ちょっと加速したい時、例えば郊外路での追い越しなどに使っているユーザーが多いという。このPWRボタンはNAエンジン車にも備わっており、ユーザーからは好評だという。

 ちなみに高速道路で全車速クルーズコントロールを入れると、前車への追従が上手で、離されてもレスポンスよく加速してついていく。レーンキープはサポートを適度にしてくれ、両方を使うと長距離移動も楽に行なえる。

 試乗車のタイヤはブリヂストン「エコピア EP150」、サイズはストライプスと同じ155/65R14となる。路面からのアタリは若干強めでパターンノイズもわずかに高い。しかし、乗り心地ではピッチングや横揺れ時の収束が早く、コーナーでもロールの進行が穏やかだった。ターボではアッセンブリーで20kgほど重いが、ハンドリングは好ましい。

 ただ、ブレーキペダルはもう少し剛性が欲しいところ。微妙なコントロールが曖昧になりがちだ。

 ダッシュボードセンターにはメーカーオプションの9インチスマホ連携ディスプレイオーディオが配置され、スマホ世代に合わせた機能向上が図られている。ディーラーオプションでは ダイハツコネクトに対応した10インチサイズの見やすいナビも設定される。

 ムーヴキャンバスはターボの登場で動力性能の余裕が大きく膨らみ、これまでのユーザーの守備範囲を大きく広げるだろう。

 WLTC燃費は従来型よりも10%ほど向上しており、NAで22.9km/L、ターボで22.4km/Lだ。実際に燃費を気にせず高速や郊外路を走り回った燃費ではターボでは約13km/L。NAは約16km/Lだった。

 安全対応では対歩行者も含んだ衝突被害軽減ブレーキ、踏み間違い加速抑制装置、車線逸脱、オートライトに対応したサポカーSワイドに対応したグレードがそろっており、サポートカー限定免許の対象車でもある。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛