試乗レポート

直6ターボ&4WDのBMW「M240i xDrive」、縦置きFRレイアウトで存続させた心意気に敬意を表したい!

縦置き後輪駆動ベースを踏襲

 グランクーペやMPV系の2シリーズは、横置き前輪駆動の1シリーズとの共通性の高いことはご存じのことだろうが、クーペがどうなるのかとやきもきしていたところ、期待どおり縦置き後輪駆動ベースで出てきたことに、まずはひと安心している。

 3シリーズらと同じ後輪駆動のCLARプラットフォームをベースとしており、日本仕様は発売時点で、2.0リッター直4ターボで後輪駆動の「220i」と同Mスポーツ、3.0リッター直6ターボで4WDの今回の「M240i xDrive」がラインアップされた。いずれMハイパフォーマンスモデルである「M2」が登場するまでの間、その弟分的な位置付けのMパフォーマンスモデルであるM240i xDriveが2シリーズクーペの頂点に位置することになる。

 従来のF22型でも当初のM235iが改良で性能向上した際に、M240iというグレード名となったのだが、F22型では本国にはあるxDriveが日本には導入されなかったところ、新型は逆になった。また、6速ATのほかに3ペダルの6速MTが選べたのが大きな特徴だったが、新型はいまのところ8速ATのみ。走りこだわる人の多い2シリーズクーペゆえ、3ペダルを求める声も小さくないことだろうから、ゆくゆくはMTの導入も考えられる。

 のびやかなファストバックスタイルの4シリーズクーペに対し、こちらは昔ながらのBMWのクーペに通じる趣を感じさせるノッチバックで、リアフェンダーのふくらみも目を引く。4シリーズクーペに比べると常識的なフロントマスクは、これまたひとクセあって目にすると印象に残る。

今回試乗したのは3月に発売した2シリーズ クーペをベースにしたMモデル「M240i xDrive(エムニーヨンマルアイ・エックスドライブ)」(758万円)。ボディサイズは4560×1825×1405mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2740mm。車両重量は1710kg
ベースとなる新型2シリーズ クーペもワイドボディや筋肉質なアスリートを彷彿とさせるスタイリングを特徴とするが、M240i xDriveではさらにセリウム・グレーのサイドミラーやリアスポイラーを装備することで、空力特性の向上に加えより精悍なスタイリングを実現。クーペモデルらしいダイナミックな走りを実現するために軽量化を行ないつつ、サスペンション取り付け部やアンダー・フレームを強化するとともに、高剛性ボディを採用することでロール剛性の強化、切れのあるスポーティなハンドリングに加え、衝突時の安全性能も向上させた。撮影車の足下は19インチ M ライト・アロイ・ホイール・ダブルスポーク・スタイリング893Mバイ・カラー(ジェット・ブラック)にミシュラン「パイロット スポーツ 4S」(フロント:245/35R19、リア:255/35R19)を組み合わせる

 インテリアも各部の装飾などに4シリーズとの共通性が感じられる中にも、ロゴが光るドアトリムのような新しい試みも見られる。定員は同じく4人で、後席もいざとなれば十分に使える広さが確保されている。もちろん前倒ししてトランクスルーさせることもできる。

M240i xDriveのインテリア

ウェットでも不安なく踏めた

 387PS/5800rpmの最高出力と、1800-5000rpmの幅広い回転域で500Nmの最大トルクを発生する直6エンジンについては何の心配もしていない。気になっていたのは、後輪駆動の1シリーズをベースとする前身のF22型が持っていた、手ごろなサイズとパワーで手の内で操れる感覚が、3シリーズをベースとすることでどうなっているのかである。

 ボディサイズは4560×1825×1405mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2740mm、車両重量は1710kgもある。車検証によると前軸重が910kg、後軸重が800kgだ。従来のF22型のサイズが4470×1775×1410mm、ホイールベースが2690mmで、後輪駆動のみで車両重量は1550kg、最高出力は340PSだった。新型では全長が90mm、ホイールベースが50mm長くなり、4WD化もあってだいぶ重くなっている。参考まで、「M440iクーペ」は4775×1850×1395mm、ホイールベース2850mm、車両重量1740kgで、エンジンスペックは同じだ。

 テストドライブはあいにく雨の中がメインとなったのだが、だからこそよさが分かった部分も大いにある。後輪駆動ベースの電子制御4WDであるxDriveによるトラクションの高さがいかんなく発揮されて、挙動を乱すことなく貴重なストレートシックスのパワーをあますことなく路面に伝えてくれるので、ヘビーウェットでも不安に感じることなく安心して踏んでいける。

 これには、適度に引き締まっていてしっかりとかつしなやかに路面を捉えることのできる、「ファスト・トラック・パッケージ」というオプションに含まれる電子制御のアダプティブMサスペンションや、Mスポーツ・ディファレンシャルも効いているに違いない。

ストレートシックスの深い味わい

 B58B30B型エンジン自体のフィーリングは申し分ない。縦置きの直6ならではの調律されたサウンドと心地よいビートを伝えながら、低回転域からトップエンドまでどこからでも踏んだとおりに応答遅れなくパワーを生み出し、極めてスムーズに吹け上がる。そんな伝統のストレートシックスの深い味わいを、よりドライバーに訴えようとしているかのように感じさせるあたりも、「M」の付いたモデルらしい。8速となったATも、そのよさをダイレクトかつ繊細に伝えてくれる。0-100km/h加速タイムで4.3秒を誇る動力性能にも不満はない。いずれ出るM2にはおよばなくとも、M240iだって体感的にもなかなかの速さだ。

パワートレーンは最高出力285kW(387PS)/5800rpm、最大トルク500Nm/1800-5000rpmを発生するガソリンの直列6気筒DOHC 3.0リッターツインパワーターボエンジンに8速ATを組み合わせた。WLTCモード燃費は10.9km/L

 気になっていたサイズの拡大と車両重量の増加による走りの変化は、やはり予想していたフィーリングに近く、F22型で味わった手の内で操れる感覚が薄れたのは否めないものの、代わりに圧倒的な上質感を手に入れた。もはや4シリーズクーペと変わらないほどの車格感があって、スタイリングの好みだけで選んでよいように思えたほどだ。ただし、先進運転支援系の機能や装備類については上級モデルと比べるといくつか設定されていないものもあるのだが、そこは今後に期待することにしよう。

 思えば、これぐらいのサイズでFRのクーペというのはめっきり少なくなった。BMWがいうとおり、プレミアムブランドでは2シリーズクーペが唯一だ。消滅してもおかしくなかったところ、よくぞ縦置きFRレイアウトで存続させてくれたBMWの心意気に敬意を表したい。そして試乗したM240i xDriveは、BMWのクーペのエントリーモデルにおける現状の頂点としてふさわしい、素晴らしい仕上がりであった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸