試乗記
シックにまとめたデザインのルノー「E-TECH エンジニアード」 コンパクトハッチ「ルーテシア」とSUV「アルカナ」2台イッキ乗り
2023年7月20日 13:21
2台のE-TECH エンジニアード、その違いは?
ルノーのコンパクトSUVである「アルカナ」と、Bセグメントハッチである「ルーテシア」に、新たなグレードとして「E-TECH エンジニアード」が加わった。そしてこれを、2台同時に乗り比べることができた。
走り出す前にまずその概要をお伝えすると、E-TECH エンジニアードは現状アルカナとルーテシアのみに用意されるグレード。ベースとなるのは同社初となる「E-TECH FULL HYBRID」搭載車で、ここに専用の内外装と上級装備を与えたモデルというのが、そのあらましとなっている。
ルノーがこのE-TECH エンジニアードを設定した理由は、これまで用いていた「R.S.ライン」を名称変更したかったからだろう。というのもルノーは昨年、そのスポーツ部門である「ルノー・スポール」を「アルピーヌ」へと組織変更したからだ。
そしてこれに引っ張られる形で、ルーテシアにもE-TECH エンジニアードが設定されたという運びだろう。
ということでその内容だが、おもしろいのは“エンジニアード”と銘打ちながらも、その変更点が完全に“見た目だけ”であることだ。すなわちパワーユニットやシャシーは、E-TECH FULLL HYBRIDからまったく変更がない。
大胆なのはルノーのエンブレムを、フロントガーニッシュもろともブリリアントブラックで塗りつぶしてしまったこと。
対してフロントグリルの「F1ブレード」はウォームチタニウムカラーで塗装し、サイドステップとリアバンパーフィニッシャーにも、同色のラインを入れた。
ブラックアウトされたフロントマスクをCシェイプのLEDデイランプがキリッと引き締め、ゴールド系の大胆な配色がインパクトを与える。一見ド派手な色選択はしかし、マットカラーで極めてシックにまとめられているという、とても日本人には真似のできないセンスがすごい。ちなみにホイールスポークも、1本分だけウォームチタニウムカラーとなっている手の込みようだ。
そしてインテリアにも、ウォームチタニウムカラーの差し色が入ったインパネやエアコンルーバー、ステッチを配したシートとドアトリムが与えられている。
またアルカナには9スピーカーを装備するBOSEサウンドシステム、ルーテシアには360度カメラが標準装備となった。
そんな2台を走らせて興味深いのは、セグメントをまたいでまったく同じ素材を使っていることだ。
まずその骨格は、ルノーが開発を主導し、日産および三菱自動車とともに作り上げた「CMF-B」プラットフォーム。Bセグメント用のプラットフォームを、そのホイールベースを延長させてまでひとクラス大きなアルカナに採用したのは、その軽さと剛性のバランスにルノーが自信を持っているからだろう。また先進安全技術を投入する意味でも、新型Cプラットフォームを待つより時短できる。
エンジンは自然吸気の直列4気筒1.6リッター「H4M」型で、アルカナ、ルーテシアともにボア×ストローク値(φ78×83.6mm)も、圧縮比(10.8)も同じ。
しかしながらルーテシアの91PS/144Nmに対して、サイズが大きく車重が重たいアルカナは94PS/148Nmと、わずかだが高出力な仕様となっている。
対して2つのモーターは、走行用モーターが49PS/205Nm、HSG(ハイボルテージスターター・ジェネレーター)が20PS/50Nmと、まったく同じスペックだ。
E-TECH フルハイブリッドはエンジン側に4段、モーター側に2段のギヤを搭載し、これを組み合わせながら走行する超個性派なハイブリッドだが、そのギヤ比もアルカナとルーテシアでは、微妙に異なっている。
具体的にはルーテシアがエンジンおよびモーター側で1速のみローギヤード。対して最終減速比は、アルカナの方がローギアードになっている。ちなみに燃費はルーテシアが25.2km/Lであるのに対し、アルカナは22.8km/L。2台の車重差が160kgあることを考えると、こうした微妙な出力差やギヤリングの違いが、燃費面にも効果を発揮しているのだと思われる。
見た目では想像できない走りを味わえるルーテシア E-TECH エンジニアード
ルーテシアを走らせて最初に感じるのは、Bセグメントのコンパクトハッチ“らしからぬ”、質感の高さだ。
足まわりは、端的にシャッキリ系。転がり抵抗低減のためにサイドウォール剛性を高める現代タイヤに対して、足まわり剛性を高めることでその入力をきちんと受け止め、エネルギーロスを最小限に抑えながら、上手に乗り心地を確保している。
そしてこの硬さをも1つのキャラクターとして、高速巡航時の安定性やカーブでの操作性に役立てている。
こうしたシャシーに対して、パワーユニットが心地よくレスポンスしてくれるのもE-TECH フルハイブリッドの大きな特徴だ。
よほどアクセルを大きく踏み込むようなことがない限り、街中ではスタートから50km/hくらいまで、ほぼモーターのみで走りきる。その走りはEV的で、リニアなアクセルレスポンスがとても快適だ。充電用にエンジンがかかっても不快な振動がなく、その角もうまく丸められているから嫌みがない。
アクセルを大きく踏み込むような場面では、このモーターパワーにエンジンからの出力が加わる。ドッグクラッチを介した加速感にはメリハリがあり、高速巡航時のみエンジンを直結させるトヨタやホンダのハイブリッドとは、ひと味違うダイレクト感が味わえる。
細かなアクセル操作をしたときはたまに駆動がギクシャクすることもあるが、基本的にはHSGがエンジンとギヤの回転を同調してくれるから、ショックもほぼない。
唯一残念なのは回生ブレーキをパドルで細かく操作できるようなシステムがないことだが、「B」レンジに入れればかなり強力な減速も得られる。総じてルーテシア E-TECHエンジニアードは、シッカリとしたシャシーとスッキリとした動力性能を持つ、ちょっとプレミアムなBセグコンパクトに仕上がっていると筆者は感じた。
アルカナ E-TECH エンジニアードが魅せる余裕の走り
対してアルカナは、ひと回り大きくなったボディの余裕が、そのまま走りの質感となって現れていた。ルーテシアもBセグハッチとしては十二分に上質なのだが、やっぱりこの室内幅の余裕と、視界のよさは魅力的である。ちなみに後席の居住性は、広くはないが狭くもない印象。ヘッドクリアランスは身長171cmの筆者だと、握りこぶし縦1つ分くらいという感じだ。
動力性能的には、車重のせいもあってだろうルーテシアの方が、少ないアクセル開度でスッと前に転がる印象。またアクセルを強く踏み込むような場面でも、アルカナの方が中間加速はおとなしめだ。初速こそモーターパワーを使ってグッと蹴り出すが、あとはやや平凡に加速していく。昨今はスピードが求められる時代ではないが、正直これだけのイケメンクーペSUVなのだから、もう少しパンチがあってもいい。
ただそもそも論で言うと、このハイブリッドはルノーが小排気量ディーゼルターボの代替えとして開発した高燃費ユニットだから、その役目は十分に果たしているとは言える。
ちなみにその燃費性能は、今回“プチ燃費チャレンジ”をしたので別項で確認してみてほしい。
一方でハンドリングは、とても気持ちいい。
広いトレッドと、ルーテシアと同じくやや硬めな足まわりの組み合わせは、カーブでSUVボディを実にバランスよく踏ん張らせる。操舵フィールは正確で、切れば切っただけフロントタイヤがラインを捉えてくれるから、コーナリングがとても楽しい。
また、長いホイールベースはカーブでの挙動を安定させてくれるだけでなく、前後ピッチングをも抑えてくれるだけでなく、前後ピッチングをも抑えてくれるから、乗り心地も上質にまとめられている。さらに言うと、今回の試乗車には発売を目前に控えるCOX製「ボディダンパー」までもが装着されていた。車種ごとにその減衰力を専用で設定するこのダンパーは、ボディを1つのバネと見立てて、その変形や振動を減衰してくれる。だからだろうその乗り味は、スポーティさと上質さがうまくバランスしていた。シッカリしつつも突き上げ感のない、ドイツ車寄りのフランス車という印象だ。
ということで、ルーテシアとアルカナ。同じコンポーネンツを使いながらもそのクラスと個性が、きっちり分けられているのがまず印象的だった。
個人的にホレボレするのはBセグメントのコンパクトなボディに、E-TECHハイブリッドを組み合わせたルーテシア。その価格は国産Bセグメントのハイブリッドと比べてしまうと6割以上高いが、プレミアムB、もしくはプチCと呼べるだけの価値が、このシャシーとハイブリッドシステムにはある。
翻ってアルカナは、よくぞBプラットフォームベースでここまで仕上げたものだと感心した。CセグメントのクーペSUVとして貧弱さが感じられないどころか、ルーテシアに対してきちんと格の違いも出せていた。
また、フルハイブリッドを搭載する輸入車CセグコンパクトSUVとしてはオンリーワンの存在であるし、このルックスも合わせて469万円という価格は、コストパフォーマンスが高い。もしプリウスがSUV仕立てになったら、いいライバル関係になるのではないだろうか。