試乗記

ホンダアクセス「Modulo」体感試乗会 エアロ開発用アイテム“ぬりかべ”初公開&最新ホイールで走りはどうなる?

ホンダアクセスがエアロ開発に使用している「ぬりかべ」と呼ばれるアイテムを装着したS660 Modulo Xに乗ってみた

 ホンダアクセスが手掛ける純正アクセサリーブランド「Modulo(モデューロ)」が誕生30周年を迎え、その過去・現在・未来を体感する「Modulo 30th Anniversary EXPO」と題した取材会が、モビリティリゾートもてぎで開催された。

 1994年に始動したModuloは以降、アルミホイール、エアロパーツ、サスペンションを中心にホンダ車と一体開発されてきた。その独自の視点による優れた性能を発揮する製品の数々は好評を博し、ときにホンダ本体にも影響を与えたほどだと言う。

風の流れで走りが変わる!? 開発用アイテム「ぬりかべ」とは?

ホンダアクセスは2008年に独自のエアロダイナミクス開発思想「実効空力」を提唱

 ホンダアクセスが、2008年から提唱している独自のエアロダイナミクス開発思想「実効空力」は、空気がボディに与える影響をエアロパーツによって整え、市街地走行レベルでも運転しやすさと走行安定性を向上させるものだ。当時のシビック(FD型)から採用し、その後も多くの車両のエアロやコンプリートカー(Modulo X)に採用している。

 実効空力の効果を体感する比較試乗では、3台の「S660 Modulo X」を使用した。1台はフロントバンパーにエアロ開発用アイテム「ぬりかべ」を装着した状態、もう1台はフロントバンパーだけノーマルに交換した状態、もう1台は市販状態のModulo Xだ。

S660 Modulo Xにエアロ開発用アイテム「ぬりかべ」を装着した状態
S660 Modulo Xをフロントバンパーだけノーマルに交換した状態
市販状態のS660 Modulo X

 ホンダアクセスでは開発時にテストコースで、開発者だけでなくモデラーやデザイナーや実験担当者らも走って形状を作り込んでいくという独自の取り組みを行なっている。その際にまず重要な風の流れがクルマに与える影響を理解するために、ぬりかべバンパーのような車両を用意したそうだ。

ホンダアクセスがエアロ開発に使用している「ぬりかべ」と呼ばれるアイテムを装着したS660 Modulo X
もちろん他の車種でもエアロ開発は「ぬりかべ」を作成してからスタートするそうだ

 ぬりかべバンパーで円旋回を試みると、予想どおり音からして騒々しく、ハンドリングも不安定でおぼつかないことを感じる。次いでノーマルバンパーに乗り換えると、ぬりかべバンパーとは一変して、普通に走れた。

 これで十分と思いながら、さらに市販状態のModulo Xに乗り換えると、目からウロコ。スッと素直に回頭し、姿勢も安定していて、走りの一体感がぜんぜん違う。自由自在に行きたいところに行けそうな感覚がある。

 コースに円旋回のあとで急に狭くなる箇所が設けられていた理由も走ってみてよくわかった。ぬりかべはもちろん、ノーマルバンパーでもパイロンに当たらないよう多少は緊張しながら走らなければいけないところ、市販状態のModulo Xならまったく不安がない。気持ちよく走れて安心感もある。それらが30km/h程度の低い車速でも十分に体感できる。

 確認のため各車をあらためて乗り比べてみると、ぬりかべバンパーはアクセル踏み込んだときに空気の抵抗が感じられることも分かった。ノーマルバンパーも、キビキビ動いてスパンと曲がるのは、それはそれで楽しい半面、好みは分かれそうだが、所作としては上品とは言えない。

 本当に足まわりは同じでフロントまわりの形状だけでこんなに変わるのか? Modulo Xではなくノーマル車両にノーマルバンパーの間違いではないかと思ったほどだ。

やはりコンプリートカーの走りは、さらに上質なものだった
エアロパーツの効果は絶大であると再認識できた試乗だった

ホイールをしならせれば走りの質が変わる!?

 続いては、2024年春の「ヴェゼル」のマイナーチェンジに合わせて発売された、純正アクセサリーコーディネート“Sports Style(スポーツスタイル)”に取り入れられている18インチアルミホイール「MS-050」と、ノーマルホイールとの乗り味の比較試乗。

ヴェゼル用18インチホイール「MS-050」の開発に携わった株式会社ホンダアクセス 開発部 VEZEL アルミホイール開発担当 菊田辰哉氏(左)、同 菊川邦裕氏(右)
MS-050の裏側を見るとタイヤの接地面圧をしっかり高められるようにリム部はできる限り平らにしている
スポーク裏側の肉抜き(削る)などで重量と剛性の最適化を図っている

 ホンダアクセス開発部 VEZELアルミホイール開発担当の菊川氏と菊田氏によると、Moduloではホイールもサスペンションの一部であり、タイヤのパフォーマンスを最大限引き出すためには、ホイールをしならせて接地面圧を高めたほうがよいと考えているという。そこで剛性が高くて軽ければいいという既成概念を打破し、表面のスポーク部とリム部の剛性バランスの最適化を図っているのが特徴だ。MS-050の場合、重量的にはノーマルとほぼ同等となっている。

「ホイールもサスペンションの一部」という設計思想で開発している
2015年のS660 Modulo Xの開発で誕生した「MR-R01」から、ホイール自体をしならせる方向で設計している

 リムまで伸びたスポークに斬新な凝ったデザインと、見た目からしてとてもスタイリッシュなMS-050は、実は2022年中の発売を予定していたが当時の慢性的な半導体不足や不安定な海外情勢などの複合的要因によって生産遅れが生じたことから、発売中止となってしまったホンダ純正コンプリートカー「VEZEL e:HEV Modulo X」用に開発が進められていたものだ。そのときのホイールをベースとしつつ、今回のマイナーモデルチェンジに合わせて最適化させたのだと言う。

2022年の東京オートサロンに展示した開発中の「ヴェゼル e:HEV Modulo X Concept」

 この日は、2種類の違いが分かりやすいように、ホイール以外を同一条件とした2021年式のヴェゼル e:HEVのAWDモデルで乗り比べてみた。

 まずノーマルホイールで走って感覚をつかんでおき、MS-050を装着した車両に乗り換えて走り出すと、最初にステアリングを切った一発目の回頭感からしてぜんぜん違う! 操舵フィールがスッキリとしていて、タイヤがしっとりしなやかに路面をとらえる感覚が伝わってくる。正直ホイールだけでここまで変わるとは驚いた。

 円旋回を試みると、これまたぜんぜん違う! ノーマルは外輪に荷重が集中する感覚があったところ、MS-050は内輪も接地して4輪でしっかり路面をとらえている感覚がある。同じRでも舵角がずっと小さく、舵の切り増しにも応えてくれる。実際には同じはずのロール角まで不思議と小さく感じられた。

ノーマルホイール
ホンダアクセスの18インチアルミホイール「MS-050」

 円旋回後の狭くなる箇所でも、MS-050は操舵したとおり正確に動くので、不安に感じることなく入っていける。安心感がぜんぜん違うのだ。

 ステアリングの切り始めも、戻すときもスムーズについてきて、一連の動きにどこにもカドがない。“ピタッと”一体で動く感覚がある。開発陣に聞いたところ、かつてドイツのアウトバーンを走った経験も開発に生かされていると言う。

ノーマルホイール
ホンダアクセスの18インチアルミホイール「MS-050」

 アウトバーンでは、事故処理や工事の際にも極力、車線数を減らさずに幅員を狭めて対処するのだが、そこを通常時の高い車速のまま通過しなければならないというシチュエーションが多々ある。そこを不安なく走るための正確な操縦性を得るためには、4輪の接地性が欠かせない。

 ノーマルホイールも悪いわけではなく、むしろ曲がり方は俊敏な印象はあるが、操舵との位相ズレがずっとあることが乗り比べるとよく分かる。編集部員に運転してもらい後席にも乗ってみたところ、こちらも乗り心地がぜんぜん違って、身体が横Gで左右に持っていかれる感覚もMS-050はおだやかだった。

ノーマルホイール
ホンダアクセスの18インチアルミホイール「MS-050」

 試乗コースの最後に設けられた段差を通過したときには、ノーマルは大げさに言うと、「バタン! バタン!」とクルマ全体に衝撃が響くのに対し、MS-050は衝撃が小さく、ストン、ストンと、瞬時に収束するという違いもあった。

 本当にホイールだけでこれほど挙動がおだやかで走りが上質になり、より気持ちよく走れるようになるとは恐れ入った。路面への接地の重要性と、いかに剛性バランスが効くかが乗り比べてよく分かった。

 かたやホイール、かたや空力と異なるアプローチながら、いずれも結果としてModuloの開発思想の根幹である「4輪で舵を切る」を非常によい形で実現できているところが印象的だった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一