試乗記

“スイスポ”よりもマイルドでベーシックなマニュアルモデル、スズキの新型「スイフト」5速MT仕様に試乗

新型「スイフト」の5速MTモデルに試乗

ニーズの隙間を埋める貴重なMTモデル

 新型スイフトは時代の流れに移行できない人にもフレンドリーだ。インテリアには今どき珍しいCDスロットが備わっており、サブスクなどに対応できないオジサン、オジイサンも受け止めてくれる。そしてさらに、今回のお題となるマニュアルトランスミッション車である。それを先代同様に5速MTをカタログラインアップさせてきた。やはりクラッチ付きじゃなきゃ乗れない人もまだまだいるし、マニアはやっぱりMT! なんて人もいる。そのわずかな欲求を満たしてくれたことは、新型スイフトの良心といっていい。

 基本的には先代のキャリーオーバーとなるのだから、どうせMTモデルは先代のものをそのまま持ってきたのだろうと思っていた。だが、それは大間違いで、エンジンはきちんと新開発の3気筒を搭載。しかも環境性能を考えて、マイルドハイブリッドを搭載しているというのだ。このMT+マイルドハイブリッドという組み合わせは、スズキの国内販売において初の試みとなる。結果としてWLTCモード燃費は25.4km/Lを達成。同グレードのCVTモデルは24.5km/Lとなる。これにより5速MTモデルのエコカー減税は新型スイフトで唯一の免税対象。ほかは50%減税で、ベースグレードのXGの4WD車は減税ナシとなる。

 メリットはそれだけじゃない。前輪軸重がCVTモデルに対して20kgも軽く仕上がっており、車両重量は920kgを達成。CVTモデルも旧型に対して1.9kg軽くしたという話だが、この軽さには勝てない。ちなみに現行スイフトスポーツのATモデルは車重990kgであり、その差の大半がフロントであることは間違いない。すなわち、ノーズまわりにいた成人男性が1人降りてくれたことになるわけで、どれほど軽快なのかは興味深い。

「スイフト HYBRID MX」5速MTモデル(192万2800円)。ボディサイズは3860×1695×1500mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2450mm。車両重量は920kgで、現行スイフトスポーツのATモデルと比べると70kg、同じスイフト HYBRID MXの2WD/CVTモデルと比べると20kg、上級のHYBRID MZの2WD/CVTモデルと比べると30kg軽い
16インチアルミホイール(シルバー塗装)に組み合わせるタイヤは185/55R16 83Vサイズの「エコピア EP150」
ウレタンステアリングホイールと、メランジグレー&ブラックのシート表皮を採用する5速MTモデルのインテリア。CVTモデルと異なりセンターアームレストは採用されていない
シフトノブ
ペダル
上級のHYBRID MZは電動パーキングブレーキを採用していたが、HYBRID MXは手引き式
新型スイフト共通の最高出力60kW(82PS)/5700rpm、最大トルク108Nm(11kgfm)/4500rpmを発生する直列3気筒DOHC 1.2リッター「Z12E」型エンジンに加え、スズキのMTモデルとして初めて最高出力2.3kW(3.1PS)/1100rpm、最大トルク60Nm(6.1kgfm)/100rpmを発生する「WA06D」モーターを組み合わせるマイルドハイブリッドを搭載

軽さは正義!?

 ドライバーズシートに収まりギヤをいじってみると、ストロークは長すぎず短すぎずといった感覚で実用車って感覚だが、節度感はまずまずだから扱いやすそうだ。さらには電動パーキングブレーキではなく、ハンドブレーキをきちんと備えたところはこれまで通りの感覚でうれしい。発進させてみると、クラッチをスッと離していくだけでイージーに動き出してくれる。トルクがしっかりとあり、コントロール性に優れるクラッチということもあって、難しさは一切ない。あまり回転を上げずに次々とシフトアップを繰り返し、低回転で走らせてもグズつくようなところがないところもベーシックモデルらしい仕上がりかもしれない。その後、高速巡行まで行ってみたが、5速ホールドでもアップダウンをしっかりとこなしてくれるあたりはさすが。ACC使用時もシフトのアップダウンは可能で、たとえ上り勾配が来たとしてもラクにこなせるだろう。

 その後、ワインディングを走ってみたが、ノーズの入りや軽快な動きは新型で一番と思えるほど。素直でクセのない旋回性はやみつきになりそうだ。足まわりの設定は基本的にCVTモデルと変わらないらしいが、そのせいか5速MTモデルでは余裕が生まれて微振動やしなやかさもアップしているように感じられた。これはよくできたベーシックモデルである。エンジンは高回転を回して楽しむようなタイプではないが、スイフトスポーツだと速すぎて楽しめないという人であれば、こちらをあえて選ぶのもわるくはないかもしれない。

 これはある意味で名車だ。今ではなかなか味わえない軽さを手にして、さらにシャシーに余裕がある造りをしているのだから。一般公道で天然素材を気兼ねなく楽しめるという意味において、この新型スイフト5速MTモデルはなかなかマニアックでいい! こんなグレードを残してくれたスズキの良心に拍手だ。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学