試乗記

電動化したメルセデス・ベンツ「Gクラス」の走りをオン&オフロードで試す

G580 with EQ Technology Edition1

本格SUVがオフロード走行のために電動化

 メルセデス・ベンツ究極のオフローダー、Gクラスも電動化の波が押し寄せている。Gクラスの源流はゲレンデヴァーゲン。NATOのために開発されたオフロードビークルだけにどこへでも行けるのを本領としている。日本でも人気は高く、以前は少数が雪国で活動していたが今や都会で見かけるが方がはるかに多くなった。

 ラダーフレームの上に載せられたボディはスクエアで特徴的。40年以上変わらない質の高いデザインを誇る。

 新しいGクラスに加わったのはバッテリEV。Gクラスの伝統を受け継ぎながら4つのモーターを各輪に配し、電気により細やかな制御を実現している。

 バッテリEVに最も遠いと思われたGクラスだが、メルセデスは悪路こそモーター駆動がふさわしいと、新しい4輪駆動技術を取り入れた新機軸のGクラスを完成させた。

メルセデス・ベンツ G580 with EQ Technology Edition1。ボディサイズは4739×1985×1990mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2890mm。車両重量は3120kgと3tを超える。4輪それぞれにモーターを搭載し、システム総出力は432kW(587PS)、システム総トルクは1164Nmを発生する
20インチAMGアルミホイールに装着するタイヤはファルケン「AZENIS FK520」(275/50R20)

 各モーターは108kWを出し、システムでは432kW(587PS)/1164Nmにもなる。内燃機関ではなかなか出せない1000Nmを超えるトルクはすさまじい。

 このトルクは加速の際に重量を感じさせないばかりかオフロードでも柔軟に走るために使われる。アクセルコントロールは内燃機より微妙に行なえるのが特徴だ。4つのモーターはラダーフレームの4輪近くに取り付けられ、短いドライブシャフトで各輪を駆動する。完全独立した駆動も可能でそれが後述するG-TURNにつながる。

 搭載されるバッテリは116kWの大容量。WLTCモードで530kmの航続距離を誇る。車両重量3tを軽く超えるクルマとしては長い距離を走れる。

ボンネット内にはサウンドバーを搭載。“G ROAR”を切り替えることで、音を楽しむこともできる

 実際G 580の実力は本格的だ。渡河は最低地上高の高いヘビーデューティクロカンでもためらうが、水厳禁に思われそうなG 580なら水深850mmまで渡河できる。腰のあたりまである水深に入っていくには勇気がいるが……。逆にディーゼルのG 450 dでは吸気口の関係で700mmが限度とされている。いずれにしてもサスペンションストロークが長く凹凸の路面を正確に捉えられなければ難しい。Gクラスらしい芸当だ。

 そのサスペンションは頑丈なラダーフレームに取りけられたフロント/ダブルウィッシュボーン、リアはストロークの稼げるド・ディオンタイプのリジットがG 580のために開発された。いずれも路面状況や車速に応じて減衰力を可変させるアダプティブダンパーを持っている。

 ボディはラフロードで下面を保護する目的からカーボンをなどさまざまな素材を組み合わせた26mmのガードが張られており、合わせてフロアをフラットにしたことで空気の流れを整流している。

 本来的にはギヤを持たないBEVだが、G 580は各輪にトランスミッションを持ち、減速比を1:2にすることでローレンジを設定することができた。

 登坂能力はG 450と同じ45度という見上げるような坂を上ることもデータ上可能だ。

 ボディサイズは4730×1985×1990mm(全長×全幅×全高)で大きいが、乗ってみるとスクエアなボディは意外なほどとりまわしがよい。独立したフェンダーのためボンネットが小さく斜め前方の視界は優れている。Gクラスのアイコンにもなっているフラットウィンドウからの見晴らしもピラーにさえぎられることなく、よい。

ボディ各所にG 580専用のパーツを採用。エアロダイナミクスを向上し、Cd値は0.44を達成
リアのボックスには充電ケーブルを収納可能

 コクピットはセンターに大型モニターを備えるG 380と同じで現代的。クラッシクな雰囲気を漂わせるのはエクステリアだけだ。センターモニターにはシースルーで車両前方の画面が表示される。もはや勘に頼るドライビングは必要ない。

上質な素材とクラフトマンシップを融合させたラグジュアリーなインテリア
12.3インチのメディアディスプレイを採用。ドライブ、サスペンション、ステアリングの設定を統合制御する「DYNAMIC SELECT」を設定する際には、画面に3Dモデルとともにモードが表示される
丸型のエアアウトレットや助手席側のグリップハンドルなど、Gクラス伝統のデザインを踏襲。デフロック機能のスイッチ周辺はG 580専用に再設計され、G-TURNや G-STEERINGの起動スイッチがレイアウトされる
シートは前後ともにブルーステッチ入りのシルバーパール/ブラックのナッパレザーシートを標準装備

 オフロードでは積極的に凹凸の激しいコースを選ぶ。対角線にタイヤが離れてしまうモーグルでも何事もなく動いていく。

 エンジン車ではローレンジに入れ、センターと前後のデフロックを入れのが常套だが、G 580は駆動力を4輪個別に行なうために難なく走り抜ける。またローギヤに入れ3段階で微低速を選べるオフロードクロール機能を使えば3t越えの巨体をゆったりと平坦地まで連れて行ってくれる。

モーグルも難なくクリア可能

 このオフロードクロール機能は急坂を下りるときも効果的でアクセルを離すと安定した姿勢で下りてゆく。速度コントロールは最も遅いのは2km/h、この上に2段階で状況に応じてフレキシブルに速度を選べる機構となっている。

オフロードクロール機能を活用すると、急な下り坂も安定したまま下りられる

 タイヤはファルケン・アゼニス FK520。275/50R20の大径でパターンは夏タイヤ寄りだが、泥濘地でもグリップ力を発揮する。濡れたダート路面でもグリップが落ちないのはシステムの効果とこのタイヤのオールマイティ性が大きい。富士ヶ嶺オフロードコースにある林道を勢いよく走ったが、安定性とハンドリングの正確性は少しも落ちなかった。

林道もヒラヒラとした身のこなしで走る

 渡河能力は前述のように防水対策さえしっかりしていれば難なく走れる。とは言いながらボンネットまで上がってくる水を眺めるのはいい気持ちはしない。こんな経験をしないで済むに越したことはない。

最大渡河水深はG 450 dの700mmを上まわる850mmを実現

 もう1つ非現実的だが高いパフォーマンスを示すG-TURNも驚く。

 平坦なところでステアリングを直進状態にしてダイナミックセレクト(ドライブモード)でROCKを選ぶ。ブレーキを踏んでシフトをニュートラルにしてダッシュボードセンターにあるLOW RANGEを選択する。さらにブレーキを踏んだままシフトをDレンジにしてLOW LANGEの右にあるG-TURNスイッチを押す。旋回したい方のパドルを引き、アクセルを全開にすると左右の駆動輪が逆方向に回り、まるで戦車のようにその場で旋回する。

 G-STEERINGというのもある。G-TURN同様にこちらも公道では使えないが片側の駆動輪にブレーキをかけ旋回半径を小さくするものだ。いずれにしても目の前でやられたらビックリするに違いない。操作を面倒にしているのは理にかなっている。

使う機会はあまりないかもしれないが、その場で360度ターンを行なうG-TURNも可能

 オフロードが初めての人でもベテランドライバーのように走れるのはG 580を無敵にしているが、オンロードでも重量車特有のゆったりとした動きと、その気になれば0-100km/h加速4.7秒という俊足も発揮する。しかも自然と高速域に到達しているのがすごい。

 コーナーでは低重心で予想以上に安定しているが大きなGがかかるとロールを無理に抑えているような感触があり、やはり3.12tの重さを感じる。ブレーキはこの重量を止めるには足る剛性感と制動力を持っているが反復使用は躊躇する。

オフロードだけでなくオンロードもしっかりとこなす

 さて外観でパワートレーンの区別はほとんどつかないが、バックドアに背負うスペアタイヤケースが四角い充電ケーブルケースになっているのがG 580だ。WLTCモード530kmの航続距離は電動オフローダーの可能性を感じさせた1台だ。

AMG G 63 Launch Edition

 一方、内燃機のGクラスは3.0リッター直6ディーゼルターボの450 dとガソリンのAMG G 63の2機種になり、4.0リッターV8ツインターボを搭載するのが後者になる。多彩なバリエーションの中でもトップエンドとなるAMGに試乗した。

AMG G 63 Launch Edition
最高出力340kW(585PS)/6000rpm、最大トルク850Nm/2500-3500rpmを発生するV型8気筒4.0リッターターボエンジンを搭載。さらにISG+48V電気システムを搭載することで最高出力15kW、最大トルク208Nmのブーストが得られる。トランスミッションは9速ATで、駆動方式は4WD

 Gクラスは今回のビッグチェンジでも1979年以来の伝統のスタイルを受け継いでいるが内外装は大きくアップデートされた。日本で多彩なバリエーションを展開できるのはGクラスがいかに日本で愛されているかの証でもある。

 パワートレーンではBEVのG 580が衝撃だが内燃機も全モデル48VマイルドハイブリッドのISGを採用した。AMGも例外ではない。

 AMGは外観から判断するのは難しくない。フロントグリルが縦縞になり装着タイヤも21インチの45扁平になる。試乗車はピレリ・スコーピオン ゼロ アシンメトリコの285/45R21を履く。3000万円越えのLauch EditionでAMGナイトパッケージが標準装備となる。メルセデスはパッケージオプションでさらに豪華さや機能性が手に入る。さらに試乗車ではカーボンパッケージも装備されていた。

 Launch Editionで注目はハイパーブルーマグノに代表される目を引くボディカラーだ。そして内装はダイヤモンドステッチの入った凝ったナッパレザーシートやダッシュボードなどで、このほかにもチタニウムグレー/ブラックなどの2トーンカラーも選べる。

 外観からも注目度が高いが、内装もオフローダーの匂いがない。

AMG G 63 Launch Edition

 エンジンは丁寧に組まれた4.0リッターV8ツインターボのM177型。最高出力430kW、最大トルク850Nmを発生する。BEVのG 580にはかなわないが2570kgの重量を軽々と運び、0-100km/hはG 580を上まわる4.4秒と俊足だ。BEVよりパワーを感じやすいのは出力特性とともに迫力ある低音に抑えたエキゾーストノートの相乗効果もある。エキゾーストパイプはサイドに2本ずつ出した4本で、それ自体ですごみがある。

 48Vマイルドハイブリッドの電動ブーストは15kW/200Nmあり、発進時はこの効果も大きく最初の一押しは力強い。

 威風堂々と走るAMG G 63は郊外の伸びやかな道路から村に入る細い道でも悠然としており、とりまわしも思っていたほど苦しくない。

 荒れた舗装路では突き上げ感も感じるが、285/45R21という大きなタイヤでは妥当だ。むしろ荒れた舗装路を通過した際のサスペンションコンの制御はうまく、鋭角的なショックは伝わってこなかった。アダプティブダンピングシステムは伸び/圧を同率制御ができ、合わせて電子制御油圧スタビライザーとの相乗効果で重量級のオフローダーを見事に制御しており、上下動はあるもののショックはよく抑えられている。AMGの名前からもう少し締め上げられた足になっているかと思ったが予想外にしなやかだ。

 ハンドリングはラダーフレームの枠を超えた一体感がありサイズなりのロールはするが、自然なロールと4輪の接地力がSUVカテゴリーでもAMGらしさを感じた。

重量級のオフローダーでも一体感のある走りを味わえる

 AMG DYNAMIC SELECTは変速タイミング、出力特性、サスペンション、エキゾーストシステムを統合制御してドライブモードに応じた最適な特性を選定する。オンロードではSlippery、Comfort、Sport、Sport+、組み合わせのできるIndividualの中で選定できるが、個人的には試せなかったIndividualを除いてSportが一番心地よかった。ちなみにオフロードではSand、Trail、Rockが選択できる。

 MBUXも“Hi メルセデス”で呼びかける対話型インフォテインメントシステムがGクラスとして初めて採用され、音声で多くの機能が動くようになり利便性は大幅に高まった。

 2635万円という価格を気にしなければAMG G 63は運転の楽しいクロスカントリー車だった。

G 580もAMG G 63も楽しい走りを味わえた
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一