インプレッション

メルセデス・ベンツ「CLA 180」

 Bクラス、Aクラスに続く第3弾として「CLAクラス」が導入された。この3車は、メルセデス・ベンツの新世代MFAプラットフォームを採用しており、CLAとAクラスには4MATICが用意されている。

 エクステリアは、CLSクラスにも通ずる緩やかな弧を描くルーフ「ドロッピングライン」を採用しながら、LEDポジションライトを内蔵した大きなヘッドライトと大開口面積のグリルにより、A/Bクラスとの兄弟関係を感じさせながら独自性の演出にも成功した。また、リアセクションにはLEDコンビネーションランプを配置(CLA 180を除く)するなど、新型Sクラスともイメージをうまく重ねてきている。

 試乗したのは、ベースグレードである「CLA 180」(重量1470kg)。ユニバースブルーのメタリックペイントに「エクスクルーシブパッケージ」、「セーフティパッケージ」、「バリューパッケージ」などのオプションパーツ、さらに「COMANDシステムナビゲーションフルセット」が装着され、総額は税込で429万9400円となる。

 エンジンは180のネーミングを持つA/Bクラスと共通の直列4気筒DOHC 1.6リッター直噴ターボ(アイドリングストップ機能付き)で、7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)との組み合わせ。駆動方式は2WD(FF)だ。執筆時現在、カタログ燃費数値は発表されていないものの、同エンジンでギヤ比まで同一のトランスミッションを搭載するA 180(1430kg)が15.9km/L、B 180(1450kg)では16.0km/Lとなることから、同程度の値を示してくると予想する。

DCTとドライブ・バイ・ワイヤの関係性

 試乗は、市街地から都市高速、渋滞路を含む国道を交えたコースで100km弱とやや短距離ながら、MFAプラットフォームが目指したシャキッとした乗り味を堪能することができた。しかしながら、シリーズ3車に共通する独特のアクセルワークを要するところに、やや誤解されやすい走りのキャラクターが潜んでいることも改めて実感した次第。

 最高出力122PS、最大トルク20.4kgmを発生するパワーユニットは、直列4気筒DOHC 1.6リッター直噴ターボを搭載するボルボ「V40」(180PS/24.5kgm)や、直列4気筒DOHC 1.4リッター直噴ターボを搭載するフォルクスワーゲン「ゴルフ ハイライン」(140PS/25.5kgm)に対して数値こそ及ばないが、過給圧がしっかりと高まった領域でのトルクは芯が強く、1500rpm以下の低回転領域であってもアクセルワークに対する反応自体はよい。しかし、それが体感的な速さを伴わないためもどかしさを感じてしまう。

 これは、メルセデス・ベンツ流のDCTに対する考え方と、スロットル信号を生み出すDBW(ドライブ・バイ・ワイヤ)の設定に起因している。DCTは発進時にどれだけスムーズなクラッチワークを生み出せるかによって、日常での扱いやすさが評価される。簡単に説明すると、鋭い発進加速や変速直後からガツンとした駆動力を生み出すためには、インナー/アウターのそれぞれのクラッチミートを素早く行えばよいのだが、渋滞路や頻繁な発進加速を繰り返す場面ではそれが仇となり、疲労が溜まる。また、クラッチ制御そのものが荒ければ、駆動力がDCTに伝わる度にボディーがガクガクと震えるジャダー現象に悩まされてしまうわけで、DCTの制御1つでクルマのそのものの評価が大きく下がってしまうのだ。

 A/B/CLAクラスのDCTのうち、1.6リッターエンジンを搭載する180グレードに関しては、スムーズさを第一に考えた設定を採り入れながら、シフトモードで「ECOモード」を選択して走行する際のDBW特性はアクセルワークに対して穏やかな方向性。つまり、相対的に必要な加速力を生み出すには、アクセルの踏みしろを深くする必要性がある。また、“ふんわりアクセル”が身についているドライバーにしてみれば、この深い踏みしろが影響し、実際にはドライバーが想像しているよりもずっと少ないアクセル開度に終始するため、もどかしさを感じてしまうのだ。

 その証拠に、ややラフにアクセルを踏み込んでみるとイメージに近い発進加速性能が味わえる。とは言え、当然ながらこうしたラフな操作を受け入れるためのDBW特性ではなく、メルセデス・ベンツが他のクラスで正としてきたアップライト気味のドライビングポジションから、腕をグッと前に伸ばすストレートアーム寄りに変わったことも理由としては大きい。こうしたドライビングポジションではヒップポイントも同時に下がるため、サーキットなど高い横Gに堪えながらのコーナリングにはうってつけながら、足を前に投げ出すポジションは同時に足首の動きに制約を生んでしまう。

 そのため、市街路から高速道路、時には長時間の渋滞路といったジワッとしたアクセルワークの連続では疲労が溜まりやすく、ごく日常的な場面ではそれが乗りにくさを助長してしまう。そうしたことを踏まえた上で改めて「ECOモード」の特性を解釈すると、特別な操作を必要とせず経済的な燃費重視の走行モードができると割り切れば、存在意義は大きいと言える。

 一方、シフトモードを「SPORTモード」にすると、シフトスケジュールが明確に切り替わり、各ギヤ段の保持時間が長くなるため右足とボディーがダイレクトにつながる感覚が強くなる。細かく見ていけば、スタートから30km/hあたりまでの加速感の演出は弱めながら、過給圧の上昇とともにスムーズに速度を上げていく体は好ましい。「ECOモード」の特性が気になる場合は、こちらで対応することもできるが、オーナーとして長い付き合いをするならば、DBWの特性を理解してアクセルワークで対応するほうが、結果的に燃費数値も向上するのではないだろうか。

高速巡航燃費は18.6km/Lをマーク

 CLAの空気抵抗係数は0.23と3車の中ではずば抜けて低いこともあり、高速巡航燃費では期待以上の数値を記録した。ディストロニック・プラスを80km/hにセットし、そのまま前車に追従しながら30kmほど走行(ECOモード/平均車速73km/h/外気温36℃/エアコン設定温度22℃)した結果、18.6km/Lを記録した。これは、間違いなくCセグメントでは上位に入る燃費数値だ。

 また、渋滞路を含む市街地では45kmほど走行(ECOモード/平均車速21km/h/外気温32℃/エアコン設定温度24℃)して9.1km/L。やはり先ほどのDBW特性が身体に馴染むまでは、必要以上にアクセル開度が深くなっていたようで急激な悪化を招いてしまった。

 ちなみにA/Bクラスの「180 Sports」は、同じエンジンを搭載する標準モデルの「180」とスペックこそ同じだが、過給圧の上昇具合から体感加速に至るまでに結構な違いがある。「180」の体感加速を100%とするならば、「180 Sports」は125%程度と名ばかりのSportsでないことを主張する。さらに、低回転域からのタービンノイズの演出もなされていて、それだけでも気分が高揚するから不思議だ。できることなら、「CLA 180」にもこのA/BクラスのSportsと同じ演出が欲しい。

 ハンドリングはA/Bクラスよりもしっとり感が強く好印象だ。ステアリングに伝わるザラついた微小振動が群を抜いて少ないことも上質感を高めている。また、リアオーバーハングの荷重が増えたことで、たとえば都市高速での合流付近で遭遇する少しきつめの曲率のカーブでも終始安定し、カーブの先でさらに回り込んでいる場合でも、ステアリングのちょっとした切り足しに素直に応じてくれる。電動パワーステアリングのアシスト量も適正で、カーブの途中で切り足すことはあっても戻すことを強要されることがないため、今回はテストできなかったが、たとえば雨天時など路面μが低い状況であってもクルマに対する信頼感は高いはずだ。

 乗り味はダンパーによる減衰力が伸/縮ともに強めで、40km/h以下では路面の細かな凹凸に身体が細かく上下に揺すられることもある。CLAクラスが醸し出す優雅なスタイリングに対し、18インチの大径ホイールは引き締め効果を高めているものの、速度域の低い市街路での快適性に関してはマイナス面も目立つ。とは言え、60km/h前後を境にフラット感が強調され、A/Bクラスにはないスムーズなドライビングを堪能できるあたりは美点の1つだ。

「PRE-SAFEブレーキ」とは異なる「CPAプラス」

 安全装備でのトピックは、衝突警告システムである「CPA」に緊急ブレーキ機能が加わり「CPAプラス」へと進化(CLA 45 AMG 4MATICに標準装備。その他にオプション)したことだ。従来からA/Bクラスに採用されていた「CPA」とは、25GHzのミリ波レーダーを使用して、前を走る車両との車間距離が短い場合に警告灯で注意喚起を行いつつ、同じく前車や静止している障害物に対して2.6秒以内に衝突する可能性がある場合には、警告灯に加えて警報音を鳴らしてドライバーにブレーキを踏ませることを促すデバイスだ。この時、ドライバーのブレーキを踏む力が弱い場合には、ブレーキアシスト機能が介入しフルブレーキをサポートする。つまり、ドライバーが自らペダルを踏まなければブレーキの自動介入はなく、当然、自動ブレーキによる完全停止は行われない。

 今回の「CPAプラス」では、警告灯と警報音のタイミングでドライバーがブレーキを踏まなかった場合、フルブレーキの60%に相当する制動力をシステムが自動的に立ち上げる。これにより衝突リスクや万が一の際の被害軽減効果は高まった。しかし、Cクラス以上が採用するフルブレーキまで自動的に制動力を立ち上げる「PRE-SAFEブレーキ」とは介入度合が違う。「CPAプラス」の追加機能は、あくまでもブレーキをドライバーが踏めなかった場合の最終的なサポートとして用意されたデバイスであると解釈すべきだ。なお、作動速度範囲は7~200km/h(静止物には7~30km/h)と「PRE-SAFEブレーキ」とほぼ同等で、現在はA/Bクラスにも「CPAプラス」としてオプション装備となっている。

 CLAクラスは大胆なエクステリアとスポーティなドライビングポジションに加え、今回試乗したベーシックな「CLA 180」、2.0リッター直噴ターボの「CLA 250」、そのAWDモデルである「CLA250 4MATIC」、さらに「CLA45 AMG 4MATIC」など幅広いバリエーションを揃える。また、ルーフエンドを延長し、テールゲートとラゲッジルームを追加した「CLAシューティングブレーク」の開発も進んでいると言う。Cクラスのように、息の長いモデルに育ってもらいたい。

Photo:堤晋一

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員