インプレッション

ダイハツ「コペン プロトタイプ」

 新しい「コペン」と初めて出会ったのは2013年11月のことだ。東京ビッグサイトで行われた東京モーターショーのダイハツブースの目玉として置かれた2台のコンセプトカーは、「KOPEN future included Rmz(コペン・フューチャーインクルーデッド アール・エムゼット)」と、「KOPEN future included Xmz(コペン・フューチャーインクルーデッド クロス・エムゼット)」という車名を掲げ、軽カースポーツの再出発を約束していた。

 それからおよそ4カ月。コペンはプロトタイプという姿で我々の前に現れ、その約束を果たしにきた。車名はまだ正式なものではないらしいが、説明会の冒頭で出てきた頭文字は“K”ではなく“C”であり、「新型COPEN」と表記されていた。6月の正式発表時にはCOPENの後ろに一般公募(2014年1月10日から2月10日まで行われた)した何らかのサブネームが付くようだ。

 以前会った東京ビッグサイトから直線距離にして数kmに位置する台場のだだっ広い駐車場が舞台となる今回の試乗会。東京臨海新交通臨海線(愛称ゆりかもめ)の船の科学館駅前にあるこの駐車場は、D1グランプリやモータースポーツジャパンといったクルマイベントのメッカである。そんな駐車場は外から丸見え状態であり、だからこそ今回のプロトタイプは、まるで独ニュルブルクリンクでテストをするかのようなカムフラージュした姿での登場となったわけだ。

 ちなみに試乗車には8本スポークのホイールと、5本スポークのホイールの2種類があったが、これもまた擬装の1つ。8本スポークのホイールは旧型「ムーヴ」が履いていたもので、正式バージョンは後者のものらしい。

撮影車は新型コペン プロトタイプの7速CVT車。詳細なボディーサイズなどは明らかになっていないが、社内測定値で車重は870kg(MT車は850kg)とアナウンスされている。電動開閉式ルーフは新型コペンでも採用され、約20秒での全開/全閉が可能

まずはCVTモデルでコースイン

 さて、そんなプロトタイプのコペンはどう走るのか? 早速その駐車場に設定された特設コースを走ってみる。

 まずはCVT車でコースインすると、搭載されるDVVT(連続可変バルブタイミング機構)付き3気筒660ccターボエンジンが軽やかにスピードを重ねる。最高出力47kW(64PS)/6400rpm、最大トルクは92Nm(9.4kgm)/3200rpmを発生するというこのエンジンは、メーター上ではレッドゾーンが7500rpmとなり、7速のマニュアルモードで走るとそこを境にシフトアップして行く。

 オープン状態で軽やかな心地よいエンジンサウンドを聞いていると、ついついニッコリしてしまう自分がいた。やっぱり軽カーオープンスポーツカーってイイものだ。まるでスニーカーのように軽やかに、そして使い切る感覚に溢れるこの2ペダルは、多くの人に軽カースポーツの楽しさを広めてくれるだろう。今回の試乗車にはステアリングにパドルシフトが備わっておらず、フロアシフトでのマニュアル操作となったが、正式バージョンではおそらくパドルシフトも備わるだろう。

 乗り心地についてはやや引き締められた印象があり、一般的な軽自動車とは一線を画すシッカリ感を実現している。「ミライース」のシャシーをベースとしながらも、あらゆる部分に補強部材を追加した新骨格構造「D-フレーム」は、かなり硬質な感覚を伝えてくるのだ。従来比で上下曲げ剛性3倍、ねじり剛性で1.5倍を実現したというこのボディーは、単体で従来比-75kgという軽量化を実現したにも関わらず、かなり強固になったと感じさせる。

 それを一番に感じたのは、継ぎはぎだらけで、しかも各部に段差がある駐車場の路面をみごとにいなしていたからだ。前後のサスペンションはストロークをシッカリと保ちながら路面からの入力をきちんと吸収している。かといって動きすぎるわけでなく、適度に引き締められているからこそスポーティに走っても満足できる。先代(初代)はこうした路面ではまるでカートのようにリアがすっ飛び出しオーバーステアを誘発していたが、このプロトタイプにはそんな動きが一切ない。懐深く走ってくれる。ただし、安定方向に終始していないところも面白いポイント。最終的にはスタビリティコントロールが介入するが、ブレーキングで適度にリアを動かしながら曲げられるところも面白さといっていいだろう。

新骨格構造「D-フレーム」を採用した新型コペン。ボディー剛性を外板に頼らず骨格だけで確保することを目標にしており、フロントフード、ラゲッジ、フロント/リアバンパー、前後左右フェンダー、左右ロッカーパネル、フューエルリッドの11部品(樹脂製)は着脱構造として交換可能になっている。これにより、スマートフォンのケースのように気軽に外板の交換が行える

 ステアリングの感覚も剛性感が得られたところは好印象だった。この手のオープンスポーツの場合、クローズド状態にしていないとスカットルシェイクがそのままステアリングに伝わって違和感を覚えるのが常だが、今回のプロトタイプはオープン状態でもそうした感覚が薄く、クローズド状態とさほど変わらないステアフィールを得られるところがよさだと感じた。ただ、タウンスピードになるとパワーステアリングの介入量が増え、軽くなりすぎるところはやや残念に感じた部分だ。女性もターゲットにしたいと考えているからこその設定なのだろうが、もう少し重みがあってもよいと思う。正式発表された時にどうなっているのか、仕上がりに期待しよう。

プロトタイプのため、インテリアについての情報は開示されていない。6月の発表を待ちたい
ルーフを閉じたとき(写真左、中)と開けたとき(写真右)のトランクスペースの様子

CVT車より500rpmまわる5速MT車

エンジンは最高出力47kW(64PS)/6400rpm、最大トルク92Nm(9.4kgm)/3200rpmを発生する直列3気筒DOHC DVVTターボエンジン「KF-VET」を搭載。プロトタイプの5速MT車のレブリミットは8000rpmに設定されていた

 後に試乗した5速MT車は、フロント側の重量がおよそ30kgも軽いということもあり、その軽快感をより一層引き立てていた。軽自動車だからといって馬鹿にできない本格オープンスポーツの幕開けだと感じることができた。もちろん、ガチガチの体育会系スポーツカーというわけではないが、車重850kgの車体を意のままに操れる感覚に溢れている。

 5速MT車のよさはそれだけじゃない。エンジンパワーについてもCVT車以上に引き出せることが判明した。コチラはレブリミットが8000rpm。レッドゾーンが始まってからさらに500rpmもまわってくれるのだ。CVT車とMT車でレブリミッターに違いがあるのは、CVTを保護するためらしい。やはり心底オープンスポーツを楽しむならMT車を選ぶべきだろう。

 こうしてプロトタイプの時点でも好印象の走りをみせてくれた新型コペンだが、期待はまだまだ高まる。その1つが「DRESSFORMATION(ドレスフォーメーション)」と呼ばれる着せ替え可能なボディーで、すでにアフターパーツメーカーにも取り付け位置のサイズなどを何社かに開示したと聞いている。

 すなわちこれは、正式発表時にいくつものボディーが登場してくる可能性があるということ。2014年6月。一体どんなオープン軽カースポーツが誕生するのか? そしてモーターショー時のように、タフ&アグレッシブなスタイリングのXmzのようなモデルも誕生するのか? 妄想を始めると、今からワクワクが止まらない。

コペンプロトタイプのルーフを閉じるときの様子

Photo:安田 剛

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。