インプレッション
トヨタ「ヴィッツ」「ヴィッツ RS G’s」
Text by Photo:安田 剛(2014/7/15 00:00)
ひと昔前のマイナーチェンジといえば、見た目の変更を行って新鮮味を取り戻すだけといったパターンが多かった。走りに拘りを持つスポーツカーならば、次々に進化させて速さやタイムを追い掛ける車種も一部には存在したが、ファミリーカーではそうはいかない。
しかし、今度のヴィッツは一味違う。オーリスから始まったキーンルックを採用するフロントマスクと、デザインを一新したテールレンズなど、ありがちなマイナーチェンジでは終わらなかった。エンジンは1.0リッター、1.3リッター、1.5リッターの全てのエンジンで改善が図られ、燃費を向上させているところがポイントの1つだ。
なかでもメインとなる1.3リッターモデルには、これまでトヨタではハイブリッド専用だったアトキンソンサイクルを採用。電動式の可変バルブタイミングやクールドEGRを用いることで圧縮比を11.5から13.5まで高めることで、最大熱効率を35%から38%まで高めることに成功した。また、アイドリングストップを全車に装着することで、結果として1.3リッターの2WD(FF)車はJC08モード燃費で25.0km/L(旧アイドリングストップ付は21.8km/L)を達成している。
ただ、燃費対策だけで終わらなかったのが新型ヴィッツのスゴイところ。テーマはいわゆるNVH(ノイズ、バイブレーション、ハーシュネス)の低減と、操縦安定性の向上である。
ボディーに対してはダッシュパネルの板厚アップに始まり、フロア&リアフェンダーアーチ内側でのスポット打点追加、さらにフロアトンネルに補強パーツを追加するなど、かなりの変更を施している。また、天井前方には制振材を、リアハッチゲート内部にはダイナミックダンパーを追加し、音や振動対策を施しているところも興味深い。
足まわりの変更点も多岐に渡る。アッパーマウント内に備わるスラストベアリングは、樹脂からボールタイプに変更することでステアリングの手応えと応答性を向上。バンプラバーは当たりはじめを柔らかくしてソフトな乗り心地を実現する。ショックアブソーバーは新開発の「超飽和特性バルブ」の採用とオイルシールの摩擦低減により、不要な減衰力を低減。しなやかさと安定性を高次元で両立したという。
さらにコラムアシストタイプのEPS(電動パワーステアリング)についても制御が改められた。ステアリング操作開始時のアシスト力を増加することで車両の応答性を改善。さらに操舵角を検知する舵角センサーを新規に搭載。ステアリング角と車両の各種情報を利用し、ドライバーのフィーリングにマッチしたステア操作をサポートする。
そんな1.3リッターモデルに乗ってみると、段差の突き上げが少なく、それでいてフワフワしているわけじゃない丁度いい塩梅。路面を見事にいなしていく感覚に優れている。それでいてステアリングにはシッカリと感覚が伝わってくるところがマル。以前はステアリングを切り始めるとどんどん切れ込んでいき、戻ってこない感覚があったのだが、今度のモデルは反力が出て自然に中立付近まで戻ってくれる。どんな領域でもじつに忠実に走ってくれる感覚がイイ。
また、静粛性もかなり高まっている。燃費向上ばかりで力強さがなくなることを懸念していたエンジンだが、必要十分な加速を実現している。我慢して燃費を稼いだ感覚はない。このように、エンジンから走りまですべてが上質になったという印象だ。
しなやかで正確に、意のままに走るG’s
一方、派生車種となるヴィッツ RS G’sも進化した。顔つきなどは従来と変わらずという感覚だが、こちらもまた走りに対して煮詰められている。ボディーにはそもそも専用の剛性アップパーツが備えられているのだが、その形状を一部で変更。より正確にドライバーに対して情報伝達を行おうと躍起になっている。この考えはドライバーズシートにも表れていて、形状を変更することでホールド性を高めているところがポイントだ。そのほかのボディーはベースモデルに準じている。
走ればパキパキして乗り心地も走りも粗さがあった初期モデルとは違い、しなやかさのなかに正確性アリといった仕上がり。乗り心地だってよく感じる。ミニサーキットでの試乗では狙ったラインを1度も外すことなく、まさに意のままに走って見せたのだ。無駄なく効率よく、いつまでもタイムを叩き出すことを可能にするこの正確な走りはかなり魅力的。FRの86(ハチロク)のように派手な走りとはならないが、ドライビングはかなり楽しい。思いどおりに動くからこそそう感じるのだろう。
このように、全ての領域で進化した今度のヴィッツ。今じゃアクアの影に隠れてしまった感もあるが、ここまで基本に忠実に進化したこのクルマには、独自の魅力があると見た。ハイブリッドばかりがトヨタじゃない。そう思わせてくれたヴィッツの進化だった。