インプレッション

三菱自動車「デリカD:5」「パジェロ」「アウトランダーPHEV」

左から「デリカD:5」「パジェロ」「アウトランダーPHEV」。この三菱自動車工業を代表する3モデルの試乗会に参加し、オフロードコースで4WDの性能を体験してきた。この試乗会には3モデルの開発陣とともに、ダカールラリーで日本人初となる2年連続総合優勝を果たした増岡浩氏が参加し、それぞれのクルマの魅力を語ってくれた

3タイプの4WDシステムをラインアップ

 三菱自動車工業が主催する夏の恒例イベント「スターキャンプ」が朝霧高原で開催され、前日にはその近くに位置する「富士ヶ嶺オフロード」で、「デリカD:5」「パジェロ」「アウトランダーPHEV」という同社の4WD車を代表する3モデルに試乗する機会を得た。

 三菱自動車といえば4WDのスペシャリスト。富士ヶ嶺オフロードは、約2.5㎞もの距離のある外周路と、その内側にはさまざまな角度や路面のコースが設定された本格的なオフロードコースであり、4WDの実力を試すにはもってこいの場だ。

 さて現在、三菱自動車には大きく分けてランサーエボリューションを除いて3タイプの4WDシステムが存在する。1つめは前輪駆動をベースに、状況に応じて適宜後輪に駆動力を配分する「電子制御4WD」で、いくつかの車種に搭載されている。2つめはパジェロに搭載される、任意に2WDと4WDに切り替え可能なパートタイム4WDをベースに、副変速機やデフロック機構を備えた「スーパーセレクト4WDII」。そして3つめは、アウトランダーPHEV専用に開発された「ツインモーター4WD」で、前後に独立した高出力モーターを搭載し、それぞれを制御するという独自のものだ。

 それぞれの大まかな解説と、乗った印象がどうだったかをお伝えしよう。

ミニバンでありながらSUVとしての悪路走破性を備えるデリカD:5

クリーンディーゼル搭載のデリカD:5。ボディーサイズは4730×1795×1870mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2850mm。直列4気筒DOHC 2.2リッターディーゼルターボに6速ATを組み合わせ、最高出力109kW(148PS)/3500rpm、最大トルク360Nm(36.7kgm)/1500-2750rpmを発生。JC08モード燃費は13.6km/L

 まずは電子制御4WDを搭載するデリカD:5から。このシステムはいわゆるスタンバイ4WDの一種であり、前輪が滑ったときに電子制御によって即座に後輪にも駆動力を伝えるというものだ。ドライブモードとしては、効率重視の2WDモードのほか、上記の制御が適宜、自動的に行われる4WDモードと、疑似的なデフロック状態となるLOCKモードが選べる。

 見てのとおりの路面なので、アクセルを踏むと簡単に空転しそうになるのだが、瞬時に後輪にも駆動力を配分するおかげでしっかり前に進んでくれる。デリカD:5にとってはまだまだ余裕という感じ。ミニバンでありながら、SUVとしての悪路走破性を備えているところが偉い。

 ご参考まで、デリカD:5のデモ走行で見たのだが、モーグル路面で対角線のタイヤが浮いた状態でスライドドアを開けても、そのまま何の問題もなく閉めることができる。それが実はすごいことで、並みのミニバンではそうはいかない。ボディー剛性が低いと開口部が変形して閉まらなくなってしまうところ、デリカD:5は十分な剛性が確保されているので、そうした状態でもスムーズにドアを開閉することができるのだ。

こうした対角線のタイヤが浮いた状態でもスライドドアを開閉できるデリカD:5。“堅牢ボディー”はダテじゃない!

起伏の激しいモーグルもなんのその、高い走破性をみせるパジェロ

同じくクリーンディーゼルエンジンを搭載するパジェロ。ボディーサイズは4900×1875×1870mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2780mm。直列4気筒DOHC 3.2リッターディーゼルターボと5速ATの組み合わせで、最高出力は140kW(190PS)/3500rpm、最大トルクは441Nm(45.0kgm)/2000rpmを発生。JC08モード燃費10.0km/L~10.4km/L

 次いで、今回の中ではもちろん、世に数多あるオフロード4WDの中でもトップレベルの走破性を身に着けているパジェロ。外周路では舗装路向けの2Hモードや4Hモードを試しても走れないことはなかったが、やはりこういうところではセンターデフがロックされる4HLCモードを選ぶと、より走りやすくなる。さらに、任意にロックしたり解除したりできるリアデフをロックさせると、よりアクセル操作に対してリニアにクルマが反応し、それは悪路ほど効果が大きいことが分かった。

 そして、その優れた走破性を試すべく、パジェロのみ起伏の激しいモーグルを走らせることが許された。副変速機が低速ギアとなる4LLCモードを選択し、インストラクターの指示に従ってゆっくりとアクセルを踏んでみる。すると、ほとんど空転することなくゆっくりと前に進んでいく。車輪が浮いて対角線上でシーソーのような状態になっても、そこから駆動力が逃げることはない。接地しているタイヤに駆動力を伝えるので着実に前に進んでいける。

 しかも、これほどのモーグルでも車内にいる我々の姿勢は安定していて、サスペンションだけが大きくストロークしながら、車体をあまり傾かせることなく進んでいけるところもポイントだ。そして、パジェロもやはりリアデフをロックさせると、よりイージーに走破できるようになる。予想どおり、悪条件下でのパジェロの実力はさすがのものがあった。

悪条件下でも高い走破性をみせてくれたパジェロ

“4WD”としての期待に十分に応えるアウトランダーPHEV

前輪をエンジンとモーターで、後輪をモーターで駆動する「ツインモーター4WD」を採用するアウトランダーPHEV。ボディーサイズは4655×1800×1680mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm。87kW(118PS)/4500rpm、186Nm(19.0kgm)/4500rpmを発生する直列4気筒DOHC 2.0リッター MIVEC「4B11」エンジンに、フロントとリアそれぞれに最高出力60kW(82PS)、最大トルク137Nm(フロント。リアは195Nm)の電気モーターを搭載

 そしてアウトランダーPHEVだが、4WDでありながら、フロントとリアがつながっていないのがこのシステムの特徴だ。おかげでより自由度の高い制御が可能となる。走行モードはNORMALのほかに、こちらも疑似的にデフロック状態を作り出す4WD LOCKモードが選べる。

 このクルマにはサーキットでも試乗したことがあり、そのときはリニアなアクセルレスポンスと軽快なハンドリングがとても好印象だった。アウトランダーPHEVで採用するシステムはそれほどオフロード走行を重視して考えられたものではないというが、こうしたシビアなコースも走破できる、“4WD”としての期待に十分に応える性能を備えていることが体感できた。

 3モデルのオフロード走行を満喫したあと、その日の夜はスターキャンプの会場で仲間とバーベキューを楽しみ、自ら張ったテントに泊まった。調理に必要な電力をまかなってくれたのはアウトランダーPHEVだ。

 スターキャンプでは必要な道具をすべて貸してもらうことができ、キャンプ経験のない人でもスタッフがアシストしてくれる。家族みんなで手ぶらで出かけても大丈夫という懐の深いイベントであった。

夜はスターキャンプの会場で仲間とバーベキューを楽しませていただいた。アウトランダーPHEVは交流100Vを最大1500Wまで使うことができ、当日は主にホットプレートや電気ケトルの電力として使った。こうして屋外で気軽に電力を使えるというのもこのクルマの魅力の1つといえよう

45度の登坂はインパクト満点!

増岡浩さんのドライブで最大傾斜角45度の坂を登るデモを体験した

 キャンプ翌日は、ダカールラリーで日本人初となる2年連続総合優勝を果たした増岡浩さんのドライブで、TV-CMでもおなじみの坂を登る例のデモを、パジェロとデリカD:5の助手席で体験した。

 まずパジェロから。最初にバンクや階段などの障害物を越えていく。バンクは20度に設定されており、それでもかなり傾いて感じられたのに、その倍以上の45度までは大丈夫と聞いて驚いた。階段ではタイヤのカドの部分しか当たらないため接地面が非常に少なくなってしまうのだが、電子デバイスの巧みな制御によりラクに越えていける。

階段やバンクなどの障害物を越えるデモ。バンクは20度の設定だったが、最大45度まで対応可能だというから恐れ入る

 そしていよいよ、トレーラーの上に作られた急坂を登る。はじめは傾斜が20度で、途中から30度になるとちゃんと座っているのも大変な状況になるのだが、傾斜を感知すると自動的にシートベルトが固定されるので助かる。そして45度になるとかなりしんどい。こんなに急だとは思わなかった。それなのに登っていけるパジェロはすごい! 頂点に到達したときの高さは5mぐらいとのことだったが、もっと高い感じがした。

 増岡さんによると、荷重がほとんどリアにかかり、フロントタイヤがロックしやすくなるので、なるべく空転させないようコントロールするのがコツとのこと。また、実際のラリーではサラサラな砂の上を走ることもあり、その場合はタイヤの空気圧を落として、接地面を大きくして走破するそうだ。

 続いて同じくパジェロで前後を入れ替え、バックで登坂。45度というと垂直の半分とはいえ、感覚としてはほとんどまっさかさまに落ちるような感じだ。

傾斜角45度では、まっさかさまに落ちるような感覚を覚える

 次いでデリカD:5。副変速機は付かず、さすがにパジェロほどの能力はないが、それでもこのとおり。ボンネットのあるパジェロに対し、デリカの方がフロントの荷重が小さくロックしやすいので、それを抑えるためにはミリ単位でのブレーキ操作が必要なると増岡さんは教えてくれた。

 いやはや、これは絶大なインパクトがある。TV-CMを見た人からは、「CGではないか」とか、「上から引っ張っていると思った」という人も大勢いたそうだが、そんなことはまったくなく、本当に可能であることを身をもって確認した次第。スゴイぞ、三菱SUV!

デリカD:5でも体験。増岡さんいわく「ミリ単位でのブレーキ操作が必要なる」とのことで、まさに職人の技を見せていただいたのでした

 そのほかスターキャンプにはさまざまなイベントプログラムが用意されており、家族みんなで大自然を楽しむことができるところがよい。我々もキャンプを楽しみ、三菱SUVの実力の高さを実体験した、夏の日の2日間であった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。