インプレッション
三菱自動車「デリカD:5」「パジェロ」「アウトランダーPHEV」
Text by 岡本幸一郎(2014/8/20 00:00)
3タイプの4WDシステムをラインアップ
三菱自動車工業が主催する夏の恒例イベント「スターキャンプ」が朝霧高原で開催され、前日にはその近くに位置する「富士ヶ嶺オフロード」で、「デリカD:5」「パジェロ」「アウトランダーPHEV」という同社の4WD車を代表する3モデルに試乗する機会を得た。
三菱自動車といえば4WDのスペシャリスト。富士ヶ嶺オフロードは、約2.5㎞もの距離のある外周路と、その内側にはさまざまな角度や路面のコースが設定された本格的なオフロードコースであり、4WDの実力を試すにはもってこいの場だ。
さて現在、三菱自動車には大きく分けてランサーエボリューションを除いて3タイプの4WDシステムが存在する。1つめは前輪駆動をベースに、状況に応じて適宜後輪に駆動力を配分する「電子制御4WD」で、いくつかの車種に搭載されている。2つめはパジェロに搭載される、任意に2WDと4WDに切り替え可能なパートタイム4WDをベースに、副変速機やデフロック機構を備えた「スーパーセレクト4WDII」。そして3つめは、アウトランダーPHEV専用に開発された「ツインモーター4WD」で、前後に独立した高出力モーターを搭載し、それぞれを制御するという独自のものだ。
それぞれの大まかな解説と、乗った印象がどうだったかをお伝えしよう。
ミニバンでありながらSUVとしての悪路走破性を備えるデリカD:5
まずは電子制御4WDを搭載するデリカD:5から。このシステムはいわゆるスタンバイ4WDの一種であり、前輪が滑ったときに電子制御によって即座に後輪にも駆動力を伝えるというものだ。ドライブモードとしては、効率重視の2WDモードのほか、上記の制御が適宜、自動的に行われる4WDモードと、疑似的なデフロック状態となるLOCKモードが選べる。
見てのとおりの路面なので、アクセルを踏むと簡単に空転しそうになるのだが、瞬時に後輪にも駆動力を配分するおかげでしっかり前に進んでくれる。デリカD:5にとってはまだまだ余裕という感じ。ミニバンでありながら、SUVとしての悪路走破性を備えているところが偉い。
ご参考まで、デリカD:5のデモ走行で見たのだが、モーグル路面で対角線のタイヤが浮いた状態でスライドドアを開けても、そのまま何の問題もなく閉めることができる。それが実はすごいことで、並みのミニバンではそうはいかない。ボディー剛性が低いと開口部が変形して閉まらなくなってしまうところ、デリカD:5は十分な剛性が確保されているので、そうした状態でもスムーズにドアを開閉することができるのだ。
起伏の激しいモーグルもなんのその、高い走破性をみせるパジェロ
次いで、今回の中ではもちろん、世に数多あるオフロード4WDの中でもトップレベルの走破性を身に着けているパジェロ。外周路では舗装路向けの2Hモードや4Hモードを試しても走れないことはなかったが、やはりこういうところではセンターデフがロックされる4HLCモードを選ぶと、より走りやすくなる。さらに、任意にロックしたり解除したりできるリアデフをロックさせると、よりアクセル操作に対してリニアにクルマが反応し、それは悪路ほど効果が大きいことが分かった。
そして、その優れた走破性を試すべく、パジェロのみ起伏の激しいモーグルを走らせることが許された。副変速機が低速ギアとなる4LLCモードを選択し、インストラクターの指示に従ってゆっくりとアクセルを踏んでみる。すると、ほとんど空転することなくゆっくりと前に進んでいく。車輪が浮いて対角線上でシーソーのような状態になっても、そこから駆動力が逃げることはない。接地しているタイヤに駆動力を伝えるので着実に前に進んでいける。
しかも、これほどのモーグルでも車内にいる我々の姿勢は安定していて、サスペンションだけが大きくストロークしながら、車体をあまり傾かせることなく進んでいけるところもポイントだ。そして、パジェロもやはりリアデフをロックさせると、よりイージーに走破できるようになる。予想どおり、悪条件下でのパジェロの実力はさすがのものがあった。
“4WD”としての期待に十分に応えるアウトランダーPHEV
そしてアウトランダーPHEVだが、4WDでありながら、フロントとリアがつながっていないのがこのシステムの特徴だ。おかげでより自由度の高い制御が可能となる。走行モードはNORMALのほかに、こちらも疑似的にデフロック状態を作り出す4WD LOCKモードが選べる。
このクルマにはサーキットでも試乗したことがあり、そのときはリニアなアクセルレスポンスと軽快なハンドリングがとても好印象だった。アウトランダーPHEVで採用するシステムはそれほどオフロード走行を重視して考えられたものではないというが、こうしたシビアなコースも走破できる、“4WD”としての期待に十分に応える性能を備えていることが体感できた。
3モデルのオフロード走行を満喫したあと、その日の夜はスターキャンプの会場で仲間とバーベキューを楽しみ、自ら張ったテントに泊まった。調理に必要な電力をまかなってくれたのはアウトランダーPHEVだ。
スターキャンプでは必要な道具をすべて貸してもらうことができ、キャンプ経験のない人でもスタッフがアシストしてくれる。家族みんなで手ぶらで出かけても大丈夫という懐の深いイベントであった。
45度の登坂はインパクト満点!
キャンプ翌日は、ダカールラリーで日本人初となる2年連続総合優勝を果たした増岡浩さんのドライブで、TV-CMでもおなじみの坂を登る例のデモを、パジェロとデリカD:5の助手席で体験した。
まずパジェロから。最初にバンクや階段などの障害物を越えていく。バンクは20度に設定されており、それでもかなり傾いて感じられたのに、その倍以上の45度までは大丈夫と聞いて驚いた。階段ではタイヤのカドの部分しか当たらないため接地面が非常に少なくなってしまうのだが、電子デバイスの巧みな制御によりラクに越えていける。
そしていよいよ、トレーラーの上に作られた急坂を登る。はじめは傾斜が20度で、途中から30度になるとちゃんと座っているのも大変な状況になるのだが、傾斜を感知すると自動的にシートベルトが固定されるので助かる。そして45度になるとかなりしんどい。こんなに急だとは思わなかった。それなのに登っていけるパジェロはすごい! 頂点に到達したときの高さは5mぐらいとのことだったが、もっと高い感じがした。
増岡さんによると、荷重がほとんどリアにかかり、フロントタイヤがロックしやすくなるので、なるべく空転させないようコントロールするのがコツとのこと。また、実際のラリーではサラサラな砂の上を走ることもあり、その場合はタイヤの空気圧を落として、接地面を大きくして走破するそうだ。
続いて同じくパジェロで前後を入れ替え、バックで登坂。45度というと垂直の半分とはいえ、感覚としてはほとんどまっさかさまに落ちるような感じだ。
次いでデリカD:5。副変速機は付かず、さすがにパジェロほどの能力はないが、それでもこのとおり。ボンネットのあるパジェロに対し、デリカの方がフロントの荷重が小さくロックしやすいので、それを抑えるためにはミリ単位でのブレーキ操作が必要なると増岡さんは教えてくれた。
いやはや、これは絶大なインパクトがある。TV-CMを見た人からは、「CGではないか」とか、「上から引っ張っていると思った」という人も大勢いたそうだが、そんなことはまったくなく、本当に可能であることを身をもって確認した次第。スゴイぞ、三菱SUV!
そのほかスターキャンプにはさまざまなイベントプログラムが用意されており、家族みんなで大自然を楽しむことができるところがよい。我々もキャンプを楽しみ、三菱SUVの実力の高さを実体験した、夏の日の2日間であった。