インプレッション
メルセデス・ベンツ「GLAクラス」
Text by 岡本幸一郎(2014/8/22 13:59)
乗用車的なメルセデスで5番目のSUV
このところドイツのプレミアムブランド御三家は、まるでラインアップする車種の数の多さを競うかのように矢継ぎ早にニューモデルを送り込んでいる中、メルセデス・ベンツのコンパクトクラスにSUVタイプのニューモデル「GLAクラス」が加わった。
コンパクトクラスとしてはBクラス、Aクラス、CLAクラスに続く4車種目であり、Gクラス、Mクラス、GLクラス、GLKクラスと展開してきたメルセデスの5車種目となるSUVモデル。メルセデスというと、やはり高級サルーンのイメージが強いが、実はスポーティモデルやSUVのラインアップも非常に充実していることを、あらためて認識した次第。SUVが5車種もあるというのは、世界のプレミアムブランドの中でもっとも多い。
上に本格的なSUVモデルが控えているからか、GLAクラスは乗用車に近いSUVとして企画されたようで、パッと見ではAクラスと見間違えてしまうほどだ。ところがAクラスとのエクステリアにおける共通部品はドアハンドルとドアミラーのみだという。
フロントだけでなくリアやサイドも含めガラスウインドーはかなり寝ていて、スタイリッシュであるだけでなくいかにも空力がよさそうに見えるが、実際にもCd値は0.29と、0.30を切っているというから驚く。これはセグメントトップの数値である。
ボディーサイドに配された2本のキャラクターラインも印象的で、全体としてとても若々しさを感じさせるルックスを見せる。インテリアは一連のコンパクトクラスとの共通性が高いながらも、室内空間はAクラスに比べて天地方向の余裕が増していることは明らかだ。
発売時のモデルバリエーションは、世界最強の2.0リッターエンジンを積む「GLA 45 AMG 4MATIC」(730万2000円)は別格として、それ以外では、直列4気筒DOHC 1.6リッター直噴ターボエンジンを搭載し前輪駆動の「GLA 180」と、直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジンを搭載し、4輪駆動の「GLA 250 4MATIC」に大別できる。標準車の価格はGLA 180が344万円~、GLA 250 4MATICが459万円~と、ここで115万円の差がある。
さらに、それぞれ標準モデルのほかに「スポーツ」と「オフロード」を同価格でラインアップし、それぞれの価格は標準モデルに対してGLA 180で55万円高、GLA 250で40万円高となる。装備を考えると、ほとんどの人が標準モデルよりも「スポーツ」か「オフロード」のどちらかを選ぶことになるだろう。GLA 250 4MATICの標準車とスポーツは、ひと足先に日本に上陸し、それ以外のモデルは2014年秋以降の納車が予定されている。
応答遅れがなく一体感のあるハンドリング
標準モデル、スポーツ、オフロードという3種類のモデルは、内外装デザインやサスペンションセッティングで差別化されており、車高はGLA 250 4MATICの場合で標準モデルが1505mm、スポーツが1495mm、オフロードが1535mmと異なる。SUVながら、どのモデルも日本の機械式立体駐車場に収まるサイズだ。
オンロードで試乗したのは「GLA 250 4MATIC スポーツ」。搭載エンジンの最高出力155kW(211PS)、最大トルク350Nm(35.7kgm)、車両重量1580kgというスペックからイメージできるとおり、絶対的な動力性能に不満はない。十分に力強く、吹け上がりの気持ちよいエンジンフィールを楽しめる。
さらに驚いたのが、基本的にAクラス、Bクラス、CLAクラスと共通のパワートレーンを搭載しながら、クラッチのつながりや極低回転域でのピックアップが、他のモデルに比べてずいぶん改善されていたことだ。発進時に極低回転域でトルクが絞り込まれている印象もなく、クラッチのつながりはスムーズで、とても運転しやすくなっている。
同じコンポーネントを用いたBクラスの登場から2年半が経ち、1年足らず前に試乗したCLAクラスもまだ気になるところが多々あったのだが、わずかな期間で圧倒的によくなっている。ちなみにAクラスほか既存モデルについても、エンジン~DCTの制御は同様に改善されているらしい。今度、確認することにしよう。
乗り心地について、このプラットフォームが宿命的に持っていると感じられるリアの突き上げについてはまだ気になる部分もなくはないものの、Aクラスにあった突っ張った感じや跳ねがだいぶマイルドになっている。
応答遅れがなく一体感のあるハンドリングは、メルセデスのコンパクトクラスの一連のモデルと共通で、素晴らしいというほかない。あえていろいろな入力を試しても、本当に意のままに動き、揺り返しがほとんどないところもよい。そこは競合するライバル勢と比べてもGLAクラスに優位性を感じる部分。メルセデスは、こうした乗り味を実現する何か極意でも持っているのだろうか。
予想以上のオフロード走破性能
今回は、GLAクラスがオフロードでもタダモノではないことを実感するために、山梨県は「富士ヶ嶺オフロード」での試乗も用意されていた。
メルセデスの前輪駆動車用の4MATICは通常は前輪駆動で、状況によって後輪にリニアにオンデマンドでトルクを配分する仕組み。前後の駆動力配分を100:0~50:50の間で可変制御する。そこまでは既存のAクラスやCLAクラスと同じなのだが、GLAクラスには「オフロードモード」と「DSR(ダウンロードヒル・スピード・レギュレーション)」といった機能が与えられている。考えてみると、前輪駆動ベースの4MATICをオフロードでドライブするのは初めてのことだが、果たしていかほどのものなのだろうか?
せっかくなのでGLAクラスのみに付く「オフロードモード」を常時ONで走行した。同モードをONにするとアクセル制御がよりオフロード向けに最適化されるほか、シフトタイミングがローギアで引っぱるようになり、ブレーキを適宜ロックさせるなどする。オフロードでより運転しやすくなり、走破性も高まるというわけだ。
さっそくインストラクターの指示に従いコースを走行すると、意外なほど何も起こらない。しかもオフロード用タイヤではなく普通のタイヤを履いたままだ。腹を擦ってしまいそうなモーグル路も、ライン取りさえ間違わなければ問題なく越えていける。
あまり地上高も高くないし、フロントバンパーのボトムがけっこう前に張り出していたので大丈夫なのかと思っていたのだが、まったくの杞憂だった。少々の悪路はものともせず、下から見て本当にこんなところを登ったり下ったりできるのかと思わずにいられないような場所も、なんなく走破することができた。段差のきついところも4輪のいずれかが接地していれば、少々時間がかかることもあるが、なんとか越えていける。走破性能は予想以上のものがあった。
急勾配の下り坂では、4~18km/hで任意に速度を設定可能なDSRが重宝する。これがあればアクセルやブレーキの操作が不要になり、ステアリング操作に集中できる。
もう1つ、GLAクラスに初めて与えられた新しいアイテムである「オフロードスクリーン」も、こうしたところを走る上で役に立つし、視覚的にも遊び心があって面白い。イラストでガジェット的に分かりやすく、方角、車両傾斜角、登坂角、ステアリング舵角などを示してくれる。
こうしてオンロードとオフロードを通して、GLAクラスの実力のほどをうかがい知ることができた。メルセデスのコンパクトSUVで、とてもスタイリッシュというだけでも魅力的なのに、走りの方も相当な実力の持ち主であることが分かった。さらにはボトムプライスが300万円台半ばからという車両価格の手ごろさも魅力に違いない。メルセデスのコンパクトクラスに加わった新顔は、なかなか売れそうである。