インプレッション

スズキ「アルト ターボRS」

左が2014年12月発売の「アルト」、右が3月にデビューした「アルト ターボRS」

 2014年末に販売が始まった新型「アルト」は、新規に開発された軽量プラットフォームを採用したことにより、最軽量モデルの車両重量は610kg(バン 2WD 5速MT)と驚異的な軽さに仕上がっているうえ、ボディーには剛性感もあり、コンベンションなエンジンも省燃費性が高く最高の実用車として人気を集めている。

 そんな新型アルトの発表会の際に会場に展示され、ほかのアルトやアルトバンと異なるスポーティな出で立ちで注目を浴びていたのが、今回発表された新型「アルト ターボRS」だ。会場の片隅にひっそりと置かれていたのだが、「アルトワークスの再来か!?」と騒がれていたのを覚えている。

 新型アルトがベースの派生車種といえども、「ターボRS」を名乗るだけあり、内外装やパワートレーンなど多くの部分が専用開発されたモデルとなっている。

「パールホワイト」のアルト ターボRS
フロントマスクではディスチャージヘッドライトを標準装備し、メッキ加飾のヘッドランプガーニッシュとフロントバンパーアッパーガーニッシュによって上質感を演出。フォグランプも標準装備となる
ピュアレッドに塗装されたLEDサイドターンランプ付ドアミラーをターボRS全車で標準装備
ボディーサイドデカールは「パールホワイト」(写真)と「ブルーイッシュブラックパール3」がレッド、「ピュアレッド」がブラックになる
リアハッチの車名ロゴの下に「TURBO RS」のバッヂを装着

 まずエンジンは、同社のワゴンR スティングレーなどにも採用するR06A型に改良を加えて搭載。スペックの最高出力は47kW(64PS)/6000rpmで同様だが、最大トルクは98Nm(10.0kgm)/3000rpmと3Nm(0.3kgm)向上させている。力強い加速を行うために、低速トルクの向上を主眼に開発を行ったとのことで、ターボチャージャーは、コンプレッサーやベアリング、排気流路など全面的に改良を加えている。吸気ポートも高タンブル(縦渦)化することで耐ノック性を高め、低速トルクの向上を図った。

 改良型のR06Aエンジンに組み合わされるトランスミッションは、MTをベースにクラッチおよびシフト操作を自動で行うAGS(オートギヤシフト)になる。スポーツドライビングを楽しむために5速マニュアルモードを操作するパドルシフトが追加されていることに加え、アルトの搭載品から変速時間を短縮するといったターボRS専用のチューニングも施されている。

直列3気筒DOHC 0.66リッターターボのR06A型エンジンは最高出力47kW(64PS)/6000rpm、最大トルク98Nm(10.0kgm)/3000rpmを発生する
ブラケットやエクステンションなどの板厚をアップしてストラット取付部の剛性を強化。直径の太いストラットタワーバーも装着して車体剛性を高めている
こちらはベースとなるアルト Xのエンジンルーム。CVT仕様のR06A型自然吸気エンジンは最高出力38kW(52PS)/6500rpm、最大トルク63Nm(6.4kgm)/4000rpmを発生

 ボディーはフロントまわりを中心に剛性を上げるため、ストラットタワーバーやフロントバンパメンバーを装備し、板厚アップなどによってストラット部の取り付け強度も高めている。また、前後のドアやリアハッチなどの開口部でスポット溶接の増加も行っていて、ねじり剛性は新型アルトに対して5%アップさせた。

 足まわりでもダンパー、スプリング、ブレーキなどに専用品を装備。ダンパーは減衰特性をスポーティな方向に振っていて、スプリングレートもアップさせた。ブレーキは1インチ大径化した13インチのベンチレーテッドディスクを採用する。さらにタイヤも専用開発されたPOTENZA RE050A(165/55 R15 75V)を履いている。

タイヤはブリヂストンのPOTENZA RE050A(165/55 R15 75V)。ホイールはエンケイの「all one」をベースに新開発した軽量ホイールを採用。カラーリングはターボRS専用
カラーリングがシルバーになるアルト Xのホイール。タイヤサイズは165/55 R15 75VでターボRSと同じだが、銘柄がECOPIA EP150となる
フロントブレーキに13インチのベンチレーテッドディスクを採用
前後のショックアブソーバーにKYBの専用品を投入スプリングのばね定数も最適設定として、しなやかな乗り心地とロールの低減を両立

誰が乗っても安心して楽しめるセッティング

 エンジンからボディー、足まわりまで、全面的に専用パーツの採用やチューニングを行ったアルト ターボRS。試乗会場となった神奈川県にある芦ノ湖スカイラインのワインディング路にクルマを進めると、スズキが狙っているという“胸のすく気持ちのよい本格的な走り”の姿が見えてきた。

 勾配がきつい登り坂でも、最大トルクを98Nmまでアップさせたエンジンにより申し分なく加速していき、レッドゾーンの7000rpmまでしっかりとパワー感のあるままクルマを引っ張ってくれる。ステアリングを切り込めば、即座に狙ったラインをトレースする。高速域で追操舵を行ってもしっかりと反応するので、まさにオンザレールといった感覚で運転できる。フロントまわりの剛性感が高いことに加えて、リアまわりもしっかりとしていてダンパーの追従性もよいため、アンダーステアの傾向もない。またステアリング操作にトルクステアもなく、誰が乗っても安心して楽しめるセッティングとなっている

 エンジンのインテークには、ターボ過給を逃がすリサーキュレーションバルブも付いていて、アクセルを抜いたときにバルブから抜ける音が「ターボ車に乗っている」という実感を際立たせ、ドライバーに高揚感を与えてくれる。

インテリアはブラックを基調に赤いアクセントカラーを使ってスポーティさをアピール。ステアリングのパドルシフトはターボRS専用の装備
ターボRS専用フロントシートはシートバックとシートクッションの断面形状を変更し、両サイドの形状を大型化したほか、シートバックのボルスター部は硬度をアップしてドライバーの上体をしっかりと支えるスタイルとした
アルト Xのインテリアはベージュや薄いブルーなどの明るい色遣いでくつろぎ感を演出
アルトは全車でヘッドレスト一体型のフロントシートを採用。上位グレードのXとSではリアシートにもヘッドレストを装備する

 ターボRS専用にセッティングされたAGSは、ドライブモードでも積極的に高回転を使う制御を行っているようで、どんなシチュエーションでも不満なく加速していく。マニュアルモードではステアリングに装備されたパドルでもシフト操作が可能になり、コーナーリング中でも容易に変速できる。また、変速時間のタイムラグも通常モデルから短縮させているという。ただし、登り坂などでシフトアップする際にはマニュアルモードでも空走感があり、ドライブしていて違和感を覚えることもある。例えるなら、自転車で登り坂を走っているときにギヤを変えると、一瞬加速が止まってしまう。このときの状況に似ていて、やや息継ぎをするように感じるのだ。平坦な道や下り坂ならば空走感が少ないため、ギヤチェンジしても違和感は少ないのだが、上り坂でのシフトチェンジには慣れが必要になるだろう。

ターボRSのインパネ。メーターは中央の大型スピードメーターの左側にタコメーター、右側にデジタルメーターを備える3眼式
本革巻きのステアリングとシフトブーツはレッドステッチ入り。セレクトレバーでの変速操作は下がシフトアップ、上がシフトダウン

 AGSを採用した理由は、数多くいるAT限定免許のドライバーにも運転してもらいたいとのことだったが、真のスポーツドライビングを味わってもらうならマニュアルトランスミッションの設定があってもいいと思う。

“最高の実用車”として設計されたアルトから、後席のスペースや各部の使い勝手などを譲り受けているため、スポーティな仕上がりながら実用車としての実力も十分に備えているアルト ターボRS。価格設定も魅力的で、2WD(FF)は130万円を切るプライスタグが付けられている。多くの専用パーツとチューニングレベルから考えれば、かなりお勧めできる内容となっている。

真鍋裕行

1980年生まれ。大学在学中から自動車雑誌の編集に携わり、その後チューニングやカスタマイズ誌の編集者になる。2008年にフリーランスのライター・エディターとして独立。現在は、編集者時代に培ったアフターマーケットの情報から各国のモーターショーで得た最新事情まで、幅広くリポートしている。また、雑誌、Webサイトのプロデュースにも力を入れていて、誌面を通してクルマの「走る」「触れる」「イジる」楽しさをユーザーの側面から分かりやすく提供中。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。

Photo:安田 剛