インプレッション
BMW「2シリーズ アクティブ ツアラー」
Text by 岡本幸一郎(2015/4/15 00:00)
あくまで「2シリーズ」の一員
「アクティブツアラー」と名づけられたこのクルマ。すでに「2シリーズ」としてクーペとカブリオレが存在し、偶数のシリーズはスポーティ系と伝えられていたところ、クーペやカブリオレとは成り立ちのまったく異なるこのクルマが「2」の一員とされたことを疑問に思ったのだが、偶数のシリーズは奇数のシリーズに対して、“新しい”という意味もあるとのことを聞いて納得した次第である。
といっても、BMWにとっては新しいタイプのクルマには違いないとはいえ、世間的には真っ向から競合するであろうメルセデス・ベンツ「Bクラス」をはじめ、こうしたスペースユーティリティを追求した、欧州で「MPV」と呼ぶクルマというのはすでにいくらでもある。そこに満を持して送り込まれたこのクルマにBMWならではの持ち味、とりわけ「駆けぬける歓び」がどのように表現されているかが興味深いところだ。
フロントマスクを見るとひと目でBMWであることが分かるものの、やはりまだ「これがBMW?」という気がしてしまうのは否めず。FFなのにフロントオーバーハングが異様に短いことも印象的だ。
インテリアデザインはBMWの一連のエントリーラインアップとの共通性が高く、それが2シリーズ アクティブ ツアラーでは地上高の高い位置にあるわけだが、Aピラー前に小窓が設定されているのも効いて視界は良好、見晴らしもよい。
室内空間は広々としていて開放的だ。ルーフの大部分を開口部としたグラスルーフ(オプション)もそれに一役買っている。開口部の前端が前席乗員の頭上なので、運転席と助手席の乗員はあまり恩恵にあずかれないのだが、後席の乗員は大いに喜んでくれることだろう。
リアシートは前後スライドが可能で、最後端にするとニースペースにはかなり余裕が生まれる。ラゲッジスペースは外見から想像するよりもずっと広くて、フロア下にも深いボックスがあることに驚いた。この後席の居住性と広いラゲッジスペースこそ、まさしくFF化によって手に入れたものに違いない。
1.5リッター3気筒エンジン+トルコン8速ATの恩恵
肝心の走りはどうか?
BMW初のFF車であり、初のMPVタイプのクルマであることはさておき、同車は走りに関するメカニズム面ではMINIとの共通性が高いのだが、乗り味はあくまでBMWだったことを、まずはお伝えしておこう。
それが意味するところは、前輪駆動であることを感じさせない素直なハンドリングと、しなやかな乗り心地だ。
試乗車にはBMWでは初採用となる1.5リッター直列3気筒エンジンが搭載されていたが、MINIでもすでに確認しているとおり、性能的には申し分ない。過給機付きエンジンとしては低回転域からレスポンスに優れる上、高速巡航時にさらに加速したいような状況でもストレスなく加速してくれる。フィーリングは上々だ。
これに寄与しているのがトルコン8速ATだ。このクラスはDCTやCVTを採用する車種も見られるが、ドライバビリティとしてはATがイチバンであることを、あらためて実感した次第である。多段化によりシフトチェンジのマナーもよく、全域でとてもスムーズ。むろんDCTのような低回転域での扱いにくさもないし、CVTのような滑り感もない。8速で100km/h程度で巡行したときのエンジン回転数はわずか1700rpmにとどまる。
ただし、「音」が残念なのは否めない。BMWといえばサウンドにも期待せずにいられないところだが、MINIならまだしもそこはBMWの一員、もう少し何かひと工夫あってもよかったかもしれない。
前輪駆動を感じさせない
一方で、フットワークはまさしくBMWのそれだ。
まず、前輪を駆動していることを感じさせない、スッキリとしたステアリングフィールが心地よい。そして、ステアリングを操作した通りに素直にクルマが反応する。その感覚は後輪駆動のBMWの上級モデルと大差ない。
乗り心地も快適だ。MINIではあえてカート感覚を表現するためかなり引き締められているが、2シリーズ アクティブ ツアラーはしなやかでしっとりとした印象もあり、これまた後輪駆動の上級モデルに通じるものがある。後席にも乗ってみたが、その快適性は変わらず。ここはMINIとの大きな違いを感じる部分であり、競合するメルセデス・ベンツ Bクラスあたりと比べてもこのクルマが上回っている部分でもある。また、先進安全運転支援装備や快適装備が比較的充実しているのも、このクルマの強みだ。
それにしても、BMWまでもがこうしたクルマを手がける時代。さらにはすでにこれをベースとする3列シート版の情報も出ており、BMWが「SAT(スポーツ・アクティビティ・ツアラー)」と表現するこちらの路線も、ゆくゆくはXシリーズのようにBMWの1つの柱になっていくのかもしれない。
あるいは、BMWがこれまで築いてきた“走り”のブランドイメージも、このクルマの商品性の一端になっていることに違いない。このクルマは日本でもけっこう売れそうな気がする。