インプレッション
スズキ「ソリオ」「ソリオ バンディット」(マイルドハイブリッド)
Text by Photo:中野英幸(2015/10/20 00:00)
2代目となった「ソリオ」と「ソリオ バンディット」(以下、ソリオ系)がハイブリッドシステムを搭載。カタログ燃費は27.8km/Lとクラストップを獲得し、併せて全車エコカー減税対象となった。
「ついにスズキも登録車にオリジナルのハイブリッドシステムを搭載!」と話題になったが、今回ソリオ系が搭載するハイブリッドはマイルドハイブリッド方式であり、「ワゴンR」や「スペーシア」「ハスラー」など軽自動車に搭載されているS-エネチャージと同じシステム構成だ。とはいえ、ソリオ系では1.2リッターエンジンとの組み合わせとなるため実力は未知数。さて、いったいどんな走りなのか?
まずはハイブリッドシステムのスペックを知るために軽自動車勢に採用されたS-エネチャージ方式との違いを見てみたい。肝心のバッテリーだが、どちらもリチウムイオンタイプで容量やSOC制御も同じ。違うのはモーターで、S-エネチャージが「WA04A型」を名乗り2.2PS&4.1kgmの性能であるのに対して、ソリオ系のマイルドハイブリッドは「WA05A型」で3.1PS&5.1kgm(発生回転数はともに同じ)となる。モーターのパワーアップは走りに直結するが、技術者曰く「ワゴンR比で160kg増えた車両重量に対応させた結果」とのこと。つまりS-エネチャージとマイルドハイブリッドが目指している方向性はともに燃費向上が主たる狙いであることが分かる。
力強い加速力、優れた燃費数値
こうしたことを念頭に早速試乗する。いわゆる簡易型ハイブリッドなのでモーター単独でのEV走行はできないから、エンジン始動→Dレンジという流れは通常のエンジンモデルと同じ。しかし、走りは発進時から大きく違った。モーターの力強さが上乗せされてグッと押し出される加速感がアクセルを踏み込んだ瞬間から体感できる。車格はワンランク上になるが、60km/h程度までの加速力であればトヨタ自動車「ラクティス」あたりと互角だ。
ちなみにISG(インテグレーテッド スターター ジェネレーター)によるモーターアシスト領域は、発進後~約85km/h。燃料消費の多くなる発進加速時のアシストを増やしてカタログ値と実用燃費数値の両方を向上させている。さらに、1回あたりのアシスト時間も最長30秒とし、この30秒間のアシスト後もSOCやバッテリー温度によってはアクセルを一度緩めることで、再び最長30秒のアシストが受けられる。また、エンジン負荷の低い通常走行時にはバッテリーへのチャージも頻繁に行うプログラムも織り込まれた。
こうした実用領域で力強く、そして優れた燃費数値の両立は、①新プラットフォームと徹底したボディーの軽量化と、②新型エンジンと緻密なCVT制御によって生み出された。以下、詳細を探ってみたい。
①の軽量化は、国内外のAセグメント車両向けに開発された新プラットフォームよって軽くて強く、そしてしなやかな土台によって成し遂げらた。この新プラットフォームは今後、国内の各モデルにも採用される見込みで、当然グローバルモデルにも適応される。ソリオ系の場合、980MPaの超高張力鋼板の使用率を重量比で約16%(従来は約1%)に高めつつ、高張力鋼板(440~780MPa)の使用率も重量比で約35%(従来は約44%だったが超高張力鋼板の使用率向上にともない減少)と最適化し、軽量化に大きく貢献。また、アンダーボディーも凹凸の少ない滑らかなラインを多用することで、軽量化と高剛性を両立させた。さらに、サスペンションもサスフレームと車体メンバーとの接合部分(固定点)を増やして取り付け部の剛性を確保しながら、同時に前後サスのストロークも増やしてしなやかな乗り味も実現している。
②は新パワートレーンを意味する。搭載エンジンはポート噴射ながらインジェクションを各シリンダーに2本配した「K12C型デュアルジェット」だ。先代ソリオ系が搭載していた「K12Bデュアルジェット」から圧縮比を0.5向上させて12.5とし、併せてピストン形状と吸気ポートを見直して吸気の流れを強化するとともに、熱量の増加に対する冷却効果を向上させるためシリンダーのウォータージャケット形状やピストンクーリングジェットの見直しを行っている。また、フリクション低減を目的にバルブリフターを直打式からローラーロッカー式とし、エンジン単体での熱効率を全域にわたって向上させた。さらに、エンジン単体で約4%の軽量化を達成するとともに、エンジンルーム内での搭載角度を15度から5度へと直立させ、ラジエータなどの配置を見直すことで搭載スペースも小型化した。
また、新エンジンの出力特性にあわせて、それを100%引き出すようにCVTも制御を変更。発進時から入るモーターアシストを踏まえ、アクセルの踏み込み量にリンクしたエンジン回転上昇にこだわっている。これによりモーターアシスト介入時の段つき感をなくした、気持ちのよい加速感が味わえるようになった。
今回の試乗は時間の関係で市街地のみの走行だったが、ホイールストロークが大きくとられ、ゆったりとした乗り味は概ね好印象。しかし、40~50km/h程度のいわゆる市街地で普通に走った際のコーナリングでも車体のロールは大きめだった。また、ドライバーのみの乗車時と、後席に大人2名が乗車した際の特性変化が大きく、ブレーキング時のノーズダイブ量も大きい。
これについてソリオ系のチーフエンジニアである鈴木茂記氏に伺ってみたところ、「剛性面で不利な開口面積の大きなハイトワゴンボディーでありながら高剛性を保ち、大幅な軽量化を達成しながら4輪の高い接地性能を確保する。こうした幾重もの相克する課題を克服しながら最適な値となるよう設計しています」とのこと。言われてみれば確かに難題ばかりで、まさしく針の穴に糸を通すようなピンポイントな設計であることが伝わってくる。と同時に、軽量ボディーにおける車両安定性の確保がいかに難しいことなのか、改めて考えさせられた。加えて燃費性能の向上は販売面の上でも避けて通れない課題だ。つまりこうした特性を理解し、クルマと対話しながら走らせることが、今後こうしたクラスの車両には求められていくのだろう。
安全装備も魅力
ところで、こうした走行性能だけでなく、大きく進化した安全装備もソリオ系の魅力だ。複眼光学式カメラの「デュアルカメラブレーキサポート」の搭載によって、ドライバーへ危険を知らせる警報ブザーの発報可能速度域が約5km/h~約100km/hと、赤外線レーザー方式では成し得ない高い速度域まで拡大したのだ。さらに同速度域でも「衝突被害軽減ブレーキ」の最終段階である自律自動ブレーキの介入が可能になるなど、高い被害軽減効果が望める点も大いに評価したい。
また、衝突が避けられないとされるタイミングでドライバーがブレーキを踏んだ際、踏み込み量が足りないと自動的にブレーキ圧を増圧する「前方衝突被害軽減ブレーキアシスト機能」も約10km/h~100km/hで作動させるなど、ドライバー主体のADAS(Advanced Driver Assistance Systems)として満足のいくものだ。
搭載する光学式カメラのサプライヤーはスバル各車が搭載する「EyeSight」と同じだが、カメラ間の距離は160㎜と先にデュアルカメラブレーキサポートを搭載した「スペーシア」と同一(プログラムはソリオ系専用)で、人物と2輪車の一部も検知対象だ。加えて誤発進抑制/車線逸脱警報/ふらつき警報/先行車発進お知らせなども付く。こうなるとACC(Adaptive Cruise Control)まですぐにでも手が届きそうなものだが、「現状ではACCシステムが要求するワイパー払拭エリアが得られないため、センサーの性能的にはACC機能を持たせることは可能だが導入はしていません」(ソリオ開発者談)という。
コンパクトな容積型ミニバンの需要は右肩上がりだ。そうしたなか、ハイブリッドシステムの優れた燃費性能に加えて「予防安全性能アセスメント」で高い性能を持っていることがスペーシアで実証されたデュアルカメラブレーキサポートを装備する新型ソリオ。これにスズキならではの良心的な車両価格設定とくれば、ライバルたちの脅威になることは間違いない。