インプレッション
BMW「7シリーズ(第6世代)」
Text by 岡本幸一郎(2016/1/25 00:00)
今度もやはり革新的な装備が満載
セグメントでいうと「F」に属するラグジュアリーサルーンの世界では、ざっくりメルセデス・ベンツ Sクラス vs その他のモデル、という構図があるように思える。「その他のモデル」というのは、プレミアム・ブランドメーカー各社のフラグシップサルーンのことで、具体的にはBMW 7シリーズ、アウディ A8、ジャガー XJ、レクサス LSなど。あるいはポルシェ パナメーラやベントレー フライングスパーも含めてもいいだろう。
各モデルとも商品力の向上に勤しみ、近年ではますます激戦区と化しているように感じられる。その中で、もっともSクラスにとって強敵で、互いに切磋琢磨してきた経緯があるのが7シリーズだ。その7シリーズがモデルチェンジとあっては、これまで4台のSクラスを乗り継いできた筆者としても気にならないわけがない。
さっそく実車と対面だ。スタイリングについては、かなりチャレンジングなモデルチェンジを果たしたSクラスからすると、7シリーズは保守的に見えるのは否めない。ところが中身は驚くほど革新的だ。その革新的な装備の数々について、限られた試乗時間の中ではあるがざっと試してきたので紹介しよう。
もっとも分かりやすかったのが量産車世界初の「ジェスチャー・コントロール」だ。これは3Dカメラが手の動きを認識して、6通りの使用頻度の高い機能を簡単に操作することができるというもの。試してみるととても面白い! 便利かどうかはさておき、これは女子ウケしそうだ(笑)。
後席乗員のために用意される「BMWタッチ・コマンド」は、後席センターアームレストに取り外し可能な7インチタブレットで快適装備やエンターテインメントを操作することができる。こちらはロング・ホイールベースモデルに標準装備だ。
「BMWディスプレイ・キー」はリモコンキーに機能を与えたもので、車両のコンディションについてのさまざまな情報が表示されたり、パーキング・ベンチレーションなど選択した機能をディスプレイ内蔵のタッチパネルから操作したりできる。ゆくゆくはこうしてキーのスマホ化が進んでいくのだろうが、7シリーズはいち早くそれを実現したわけだ。さらにはこのキーを操作することで、車外から狭いスペースにも駐車できる量産車世界初の「リモート・コントロール・パーキング」が可能となるというから驚く。そちらは2016年中旬に導入予定とのことで、楽しみにしたい。
また、ステアリングを自動操舵して車線中央の走行を維持する「ステアリング&レーン・コントロール・アシスト」も、すでに同様の機構は実用化されているが、7シリーズにも装備された。これについては後ほど。また、日中のみの試乗だったので試すことができなかったが、最長600mもの距離を照射するという「BMWレーザー・ライト」も、聞いたところでは相当に明るいらしい。今度ぜひ試してみたい。
軽さがもたらした走り
こうした目に見える革新的な装備類は言うまでもないが、そもそも7シリーズは基本骨格からして革新的だ。BMW iの開発で培った技術を駆使して実現した「カーボン・コア」と呼ぶボディ構造により、従来比で最大130kgもの軽量化をなし遂げた。
走るとまさしくそのとおりで、とてもFセグメントと思えないほど身のこなしが軽い。とくに車両の挙動に影響の大きい車体の高い部分の軽量化が効いているように感じるし、車体剛性の向上にも大いに寄与していることと思う。
前後アクスルにはセルフレベリング機能付きエアサスペンションを採用。また、サスペンション、ブレーキ、ホイールの軽量化を徹底することで、バネ下重量を従来型よりも最大15%軽量化した。さらに、フロントウィンドウに設置されたステレオカメラが路面状況を検知し、常に最適なサスペンション調整を行なう「エグゼクティブ・ドライブ・プロ」を装備する。
従来型より採用している、前後輪を統合制御する「インテグレイテッド・アクティブ・ステアリング」もより洗練された。従来はやや横方向の動きが速すぎるように感じる状況もあったが、そのあたりも巧みになった。
この軽く強靭な車体に、優れたサスペンションと先進的な機構が一体となって、本当に素晴らしいというほかない卓越した走りを実現している。ハンドリングは俊敏かつ素直で、これほど大きなクルマがまさしく意のままに動く。コーナリングや加減速での姿勢変化もほどよく抑えられている。バネ下の動きにもまったくフリクションを感じさせないほどしなやかにストロークして、ラグジュアリーセダンとして相応しい上質で快適な乗り心地を実現している。
これらはすべて“軽さ”が基本にあってのこと。とにかく軽さは正義であることをあらためて実感させられた。ややリアがヤワな気もするものの、ラグジュアリーセダンであれば、このセッティングにより得られる快適性を走りよりも優先すべきで、7シリーズはまさに好バランスにある。
「ステアリング&レーン・コントロール・アシスト」も、とても自然に直進性を保ってくれる。これがあれば長距離の高速走行での疲労感は飛躍的に軽減されることだろう。
今回試乗したのは740iのみで、従来比+5kWの240kW(326PS)と450Nm(45.9kgm)を発生する新世代の3リッター直列6気筒DOHCターボエンジンを積む。スペックどおり動力性能は高いことに加えて、ターボ付きながらラグのまったくない優れたアクセルレスポンスを実現していることも印象的だった。
インテリアもラグジュアリー感に満ちている。冒頭で挙げた競合車たちも相当に力を入れきている中でも、まったく引き目を感じさせることはない。レザーとアルミニウムの巧みな使い方が印象的で、極めて上質な空間が構築されている。
このように革新的であり、ラグジュアリーセダンとしての素晴らしい完成度を見せつけた新しい7シリーズは、もしかしたら多くの部分でSクラスを超えたかもしれない、という気がしてきた。やはりSクラスの最大のライバルは7シリーズであり、こうして切磋琢磨して自身を磨き上げるからこそ、お互いがともに素晴らしいクルマに成長するのだ。