インプレッション

メルセデス・ベンツ「A 180 スポーツ」

Aクラスが大幅なフェイスリフト

 大幅なフェイスリフトを受けた新型Aクラスがいよいよ日本に導入された。ベーシックな直列4気筒1.6リッター直噴ターボを搭載する「A 180 スタイル」「A 180」「A 180 スポーツ」のほか、直列4気筒2.0リッター直噴ターボを搭載する「A 250 シュポルト 4マチック」、さらにはその2.0リッター直噴ターボをAMGによるチューンアップで381PSまで出力を向上させた「Mercedes-AMG A45 4マチック」が新たなラインアップとなった。

 フェイスリフトを受けた新型Aクラスは人気を博したボディラインをそのままに、LEDハイパフォーマンスヘッドライトで最新のメルセデスファミリーとしての品格を備えつつ、新たに採用された「ダイナミックセレクト」(全車標準装備)で4つの走行モードが選択可能になるなど、走行性能に関する装備も充実させている。そのなかで、今回は日本市場での中核グレードとなるであろう「A 180 スポーツ」(387万円)に試乗した。

 直列4気筒1.6リッター直噴ターボは122PS/5000rpm、20.4kgm/1250-4000rpm、カタログ燃費値17.6km/Lをそれぞれ発揮する。トランスミッションは従来通り7速DCTのみだ。日本では2012年に導入が始まった現行Bクラスからお目見えした当エンジンには、年々改良が加えられている。スペックこそ変化はなく、メルセデス・ベンツからの公式見解はないが、年次改良モデルに試乗するとスムーズさに磨きが掛けられたり、出力特性に変化が付けられていたりするなど、常に各部の進化を体感する。

撮影したのはサウスシ―ブルーカラーの「A 180 スポーツ」。ボディサイズは4355×1780×1420mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2700mm。ステアリング位置は全車右のみの設定。価格は387万円
新型Aクラスではヘッドライト、ポジショニングライト、ウインカーにLEDを使用する「LEDパフォーマンスヘッドライト」はA 180 Styleのぞく全モデルに標準装備
A 180 スポーツのアルミホイールはAMG5ツインスポークの18インチを標準装備
A 180 スポーツのフロントバンパー、サイドスカート、リアスカートはAMGデザインで、クロームエグゾーストエンドはバンパー一体型
車名を表すバッジはテールゲートの左側に配される

 今回はアクセルワークに対する加速度変化がよりダイナミックな特性になるなどの改良が加えられた。前述したダイナミックセレクトとの相性もよく、たとえばエンジン/トランスミッションの特性でいえば、「エコ」「コンフォート」「スポーツ」と3ステップ設けられているが、「エコ」であっても単に燃費志向というプログラムではなく、深くアクセルを踏み込んだ際にはしっかりと加速力を生み出すなど高い実用性をもつ。反対に「スポーツ」ではDCT特有の発進時に残るもたつきを緩和するためエンジン回転数を高めに保ちつつ、踏み込んだ際には低いギヤ段を積極的に保つなど、Dレンジのままで122PSをフルに使い切ることが可能だ。

 両モードの中間となる「コンフォート」は、燃費性能と走行性能とのバランス均衡点が非常に高いプログラムで、渋滞路から高速道路まで扱いやすいセッティング。じつはメルセデス・ベンツのエンジン/トランスミッション制御には、近年多くのモデルに搭載されるダイナミックセレクトのようなシフトプログラムのほかに、ドライバーの運転操作に対する学習機能がここ10年ほどのモデルに導入されている。この新型Aクラスの場合もそれは同じで、「コンフォート」で瞬間的にアクセルを深く踏み込む操作を一定時間内に繰り返していくと、それまでよりも機敏に反応するようになるのだ。そのため、日常走行シーンであれば頻繁にダイナミックセレクトのスイッチ操作を行なわずとも意図した加速力を生み出しやすい。

A 180 スポーツは直列4気筒1.6リッター直噴ターボエンジンを搭載し、最高出力90kW(122PS)/5000rpm、200Nm(20.4kgm)/1250-4000rpmを発生。JC08モード燃費は17.6km/L

 ただ、スイッチの操作性は残念ながら良好とは言えない。ダイレクトセレクトの切り替えスイッチはハザードランプボタン付近にあるため、ドライバーによる操作は正直やりづらいと感じることが多かった。モデル中期からの導入なので仕方のないことかもしれないが、スイッチは運転中に操作する機会が多くなるものだけに、たとえばスバル(富士重工業)のSIドライブのようなステアリングへの移設が叶えば、1つの理想形に近くなるのではないだろうか……。

黒を基調にしたA 180 スポーツのインテリア。本革巻きのスポーツステアリング(ナッパレザー)を装備するほか、ステアリング、アームレスト、ドアアームレストにはレッドステッチが入り、スポーティな雰囲気を演出する。インテリアトリムはカーボンデザイン
エンジン、トランスミッション、ステアリングなどの特性を統合制御する「ダイナミックセレクト」の表示画面。「コンフォート」「スポーツ」「エコ」に加え、ドライバーが各項目を個別に設定できる「インディビデュアル」の4モードを設定
ダイレクトセレクトの切り替えスイッチはハザードランプボタン付近にあり、ドライバーによる操作がやりづらかった

 ハンドリング特性は新型Aクラスになっても変わらず俊敏だ。しかし、前述したメリハリのあるパワートレーンとの相乗効果もあり、上質に、そして滑らかになった感が強い。試乗グレードであるA 180 スポーツにはベースグレードよりもハードな減衰特性の「スポーツサスペンション」(最低地上高は10mmダウンの100mm)が標準装備となるため、快適性を重視するドライバーには向かないだろうが、それでもMFAプラットフォームに共通する若干腕を伸ばすストレートアームを意識したシートポジションをとることでシートとの密着度が高まり、路面からの突き上げも多少であるが解消される。

 それにしても、今回の試乗を通じて1.6リッター直噴ターボの実力には改めて感心した。DCTプログラムの熟成も大きな効果を発揮し、フェイスリフト前の初期モデルが苦手としていた日常多用する40~60km/h前後の速度域で力強さが感じられるようになり、同時にアクセル開度に対して車体が一体となる感覚が強くなった。ダウンサイジングエンジンに対するアレルギーはほとんどの国と地域で解消されつつあると聞くが、高い満足度が得られる1.6リッター直噴ターボを主力とし、2.0リッター直噴ターボを特別なモデルとした新型Aクラスの日本における販売戦略は盤石だ。

ひときわパワフルなMercedes-AMG A45 4マチックにも試乗

 じつはこの試乗に先駆け、2015年9月に「A 250 スポーツ 4マチック」(218PS/35.7kgm)をドイツで試乗している。ここでは新装備で専用装備となる「アダプティブダンピングシステム」が光った。これはスイッチ操作で「コンフォート」「スポーツ」の減衰特性が選べる電制可変減衰サスペンションで、ダイナミックセレクトと同じく両モードには非常に明確な違いが設けられている。

 そのダイナミックセレクトとの組み合わせもなかなかよい。4つのモードのうち各セクションをドライバーの好みにセッティングできる「インディビデュアル」を選択し、ステアリングならびにエンジン/トランスミッションを「スポーツ」、サスペンションを「コンフォート」にすると、ワインディング路での追従性がグッと高まり、同時に快適性も高いレベルで両立させることができる。とくによかったのは上限100km/h程度のワインディング路(欧州郊外路は法定速度100km/h)でのしなやかさ。一気にCクラス並、とまではいかないが、熟成が進んだMFAプラットフォームを実感した。

こちらは直列4気筒2.0リッター直噴ターボエンジンに7G-DCTを組み合わせる「Mercedes-AMG A 45 4MATIC」。写真は海外仕様だが、日本販売モデルのボディサイズは4370×1780×1420mm(全長×全幅×全高)。最高出力は280kW(381PS)/6000rpm、最大トルクは475Nm(48.4kgm)/2250-5000rpmを発生。JC08モード燃費は12.6km/Lとアナウンスされている。価格は713万円

 量産2.0リッターエンジンでは世界最高峰の381PS(先代比+21PSで最大トルクは48.4kgm)を誇る「Mercedes-AMG A45 4マチック」はひときわパワフルだ。「シビック タイプR」の下から上まで炸裂するパワーとは違い、数値ほどの暴力的な加速はないのだが、空力特性に優れるボディ形状も手伝いアウトバーンの速度無制限区間においては200km/hを軽く飛び越え、250km/hのリミッターまで一直線に車速を伸ばす底力を発揮する。

 また、今回さらに各部に補強が施されたボディと、信頼性の高いブレーキパフォーマンスも所有欲を満たすには十分なアイテムだ。専用の「AMGダイナミックセレクト」は「スポーツ」「スポーツ+」とレベルを上げるごとに「コンフォート」から約100rpmずつアイドリング回転数を上げて素早い発進加速もアシストしてくれるなど、メカニカルなネガを少しでも緩和する策が採り入れられた。

 Mercedes-AMG A45 4マチックの実力を日本で出し切るシーンはサーキット以外ないだろうが、それでも法定速度における安定感は絶大なものだし、体験はしていないが、オンロード志向が強いとはいえ4マチックによる雪道の走破性能もきっと高いことだろう。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員

Photo:高橋 学