試乗記

ホンダ「N-VAN e:」に八丈島で試乗 改めて感じた軽EVの特性と魅力

八丈島で本田技研工業「N-VAN e:」に試乗。いつもの都市部での試乗と違い、軽自動車がしっくりくる地域での軽商用EVはどんな印象なのか

コンパクトな生活圏での軽EVの使い勝手を実際に体験

 2024年に発売された本田技研工業の軽商用EV(電気自動車)「N-VAN e:」に、八丈島で試乗する機会を得た。このクルマで島内を移動して、N-VAN e:の離島での使い勝手を体験させてもらった。

 八丈島はひょうたん型をした島で、自治体のデータでは島の面積は69.11km 2 。八丈富士と三原山という2つの山に挟まれた島の中心部分に空港を含む主要な生活圏が形成されている。

ひょうたん型の地形の八丈島。北と南に山があることから地形に高低差があるため、比較的平らな島の中央部分に生活圏の多くが集まっている

 八丈島は観光地ではあるが、街中、郊外ともいわゆる観光地っぽさがないし、いまはどこに行っても大勢見かける外国からの観光客の姿も少ない。それだけに「島に住む人たちの生活」を感じながらの滞在ができるので、「見るもの、やること」に追われず、のんびりとした旅の時間を過ごしたい人にはおすすめの場所だ。

 八丈島の生活圏は比較的コンパクトにまとまっているけど、移動にはクルマは必要。公共交通機関としてバスが通っているが、島の方々のほとんどは自家用車を利用しているように見えた。そして走っているクルマの多くは軽自動車で、たいていが1人で乗っている感じだ。

 こうした状況は日本各地の地方の街と同じようなものである。八丈島だと離島という特殊な環境での話と捉える部分もあるだろうが、地方によくある「比較的コンパクトな生活圏におけるN-VAN e:の使い勝手」という認識でいいと思う。また、前述したように八丈島の道路はアップダウンが多いので、山あいの地域にとっては電費を含めて参考になることもあるだろう。

今回は八丈島でN-VAN e:の試乗をさせてもらえることになった。後方の山は島の北側にある八丈富士という山だ

 では、改めてN-VAN e:の主要なデータを紹介する。N-VAN e:は軽自動車規格の軽商用EVで、ボディサイズは3395×1475×1950mm(全長×全幅×全高、4WDの全高は1960mm)。モーターは定格出力39kWのMC27。商用特化型のグレードであるe:Gとe:L2が最高出力39kW(53PS)、最大トルク162Nm(16.5kgfm)。主要グレードであるe:L4とe:FUNは最高出力47kW(64PS)、最大トルク162Nm(16.5kgfm)とスペックに違いがある。動力用の主電池は全車共通のリチウムイオン電池で容量は29.6kWh。航続可能距離はWLTCモードで245km。充電時間は普通充電(6kW)で約4.5時間。急速充電(50kW)では約30分となっている。

試乗車はN-VAN e:のe:L4。ボディカラーはタフホワイトIII
e:L4の価格は269万9400円。N-VAN e:は令和7年度の補助金対象となるので、国からの補助金と各自治体からの補助金が利用できる。東京都の場合、国と自治体の補助金を合わせると97万4000円
乗車定員は4名。フォールダウンするシートアレンジを実現するため、助手席はリクライニングのみでスライドしなくなっているが、フロアが低いので座った際の足下が極端に狭いということはない
運転席以外のシートはフロアと同じ高さにたためる。フロアの最大長(助手席側)は2645mm。こうしたシートアレンジができるのがN-VAN e:の特徴
左側はピラーレスなので開口部幅は1580mmと広い。シートアレンジと組み合わせると、このような開放感になる
ガソリンモデルとは異なるデザインの運転席まわり。e:L4はインテリアカラーがグレー。e:FUNはアイボリーとなる
ステアリングは2本スポークタイプでスッキリしているけれど、ステアリング操作中に上下が分かりにくくなることも
ホンダの軽自動車では初採用となるエレクトリックギアセレクター
コンテナをイメージした内装パネル。ガソリンモデルよりも薄型なので運転席に座った際、余裕を感じる
充電口はフロントグリルにある。運転席側が普通充電用で助手席側が急速充電用
普通充電の充電口のふたはプッシュするだけで開けられるが、急速充電の充電口は車内にあるボタン操作で開く。操作法を変えることで差し間違いを防いでいる

 今回の試乗では八丈町内をあちこち走りまわることに加えて、電費を意識しつつ島の外周道路を走ることが条件となっていた。

アクセルのツキのよさが際立った八丈一周道路試乗

 八丈島には海沿いに島をぐるりと回れる「八丈一周道路(都道215号線)」が通っている。N-VAN e:の試乗コースは島の北側、八丈富士側のルートが指定された。なお、八丈一周道路は海に近いところを通っているが、地形的に海の真横を通すことは難しかったのか、走っているとアップダウンがあることもあって、山あいの峠道のよう。地形的に電費がどうなるか予想しにくいところだった。

 島内の道路は制限速度が40km/h、もしくは50km/hとなっていたが、八丈一周道路はほぼ40km/h。そのため試乗では40km/hを限度とするペースで走行したが、カーブがきつい箇所もあるのでアベレージとしてはもっと低い速度になる。

こちらは八丈島観光協会が頒布している観光マップ。観光協会の許可を得て撮影・掲載させていただいている。青い線の八丈一周道路が、どんなところを通ってるのかよく分かる
生活圏を少し離れると峠道になる。しかも、面積に対して山の高さがあるため、全体的に勾配はきつめという印象を受けた
島の中心部の道路は平らな部分もあるが、基本的には起伏が多い。一定のペースを保ちつつ電費を意識するのはそれなりに難しそうだ

 筆者は2018年からガソリンモデルのN-VAN(ターボ)に乗っているので、自分のN-VANとN-VAN e:の走りを比べてみた。

 N-VANのターボエンジンは低回転域からトルクを出すような設定なので、一時停止や信号からのスタートなどでも加速に不満はないが、それと比べてもN-VAN e:は走り始めがよりスムーズ。これはトルクの値がどうこうというより、踏めばすぐにトルクが発生するというアクセルのツキのよさが効いている。ただ、アクセルをさらに踏み込んでいったときはN-VANの方が気持ちよさを感じるが、島内では“伸びがいい”より“ツキがいい”といった出力特性が合うのではないだろうか。

信号や一時停止からの発進ではアクセルのツキのよさが気持ちいい。制限速度内でもメリハリの効いた走りをしやすいという部分がよく感じられた

 また、ツキのよさはカーブが続く区間でもいい印象だった。八丈一周道路の峠道にはカーブとカーブの間の短いストレートがちょくちょくあるので、自然に走っているとこの区間で加速をしたくなる。これは運転のリズムを取るためにメリハリをつけるという意味の加速で、上り勾配の場合はメリハリをつけると同時に、一定の速度を維持するための加速でもある。

 そうしたアクセルワークに対してN-VAN e:の出力特性は合っていた。アクセルを軽く踏むとすぐに加速してくれるのは、とてもリズムに乗りやすいという印象を受けた。それに、すぐに速度が乗るので早めにアクセルから足を離すこともできるから、次のカーブに対して気持ちの余裕を持つことができた。また、アクセルOFF時の回生ブレーキによって適度な減速感があるので、N-VANと比べてフットブレーキを踏む回数や踏み込みの具合も少なくなった印象だった。

 こうした特性ならばカーブが連続する峠道が苦手な人でも余計な緊張を感じることなく走れるのではないだろうか。また、運転に慣れた人であっても、リズムが取りやすく気疲れしにくいものだと思う。

写真はEM1 e:の試乗時に撮ったもの。八丈一周道路はほぼこのような道幅でカーブが続くため、アベレージは低いのだが、カーブとカーブの間にある短いストレートではアクセルを踏むことになる。その際にトルクの立ち上がりがいいN-VAN e:は運転のリズムを作りやすいと感じた

 このような感じで八丈一周道路を半周した結果、11.4km/kWhという電費になった。これはかなりいい数値になったのではないかと思うが、試乗中に意識していたことといえば、市街地・八丈一周道路ともに制限速度を守ることと、加速が必要なときのアクセルワークを丁寧にすること。そして下り坂では基本的にアクセルOFFにするという、ごく基本的なことのみである。

 正直なところ、筆者はEVに乗り慣れているわけではないので、こういった操作の中でどれが一番効果があるのかは分からないが、普段乗っているガソリンエンジンのN-VANでも、やはり車体に合った速度域で走ることと、加速時のアクセルワークを丁寧にすることで燃費が向上することは体験している。今回のN-VAN e:の走らせ方もそれを実践したものであるから、EVであったとしても航続距離を伸ばすための走らせ方は同じようなものなのかもしれない。

八丈一周道路を約半周する試乗コースを走った結果、11.4km/kWhという電費が記録できた
走っているクルマは少ないので、ほかのクルマを意識することなく、自分のペースでメリハリを効かせて走らせることができる。そんな運転のしやすさは、景色のよさと合わせて気持ちのいいものだった
生活圏から少し走るとこのような風景になる。島自体は大きくないが、見どころは多いところだった

 短い時間ではあったが、八丈島でN-VAN e:に乗った感想は地域の事情に合っているのではないか、というものだった。走りについては前記したように、速度を控えたまま加減速のメリハリが効いた走りをするのがポイントだが、こうした走りは交通量の多い都市部ではなかなかやりにくいだけに、それを徹底してやれた部分に面白さと新鮮味を感じた。

島内には細い道もあるし、スーパーなどの駐車場も駐車枠は軽自動車や小型車でちょうどいいサイズのように思えた。こういうサイズ感からも、軽商用EVのN-VAN e:は向いていると言える
島内では軽自動車を多く見たが、その中でもワンボックスのワゴンやバンが目に付いた。おそらくは普段の足だけでなく、仕事にも軽自動車を使っている人が多いのだと思うが、その点に関してもN-VAN e:はマッチする

 それに、EVで一番気になる一充電での走行距離についても、島内の移動であれば十分すぎるほどの能力があるので、ここを気にする人はあまりいないように思える。1日の移動は10km以下であることがほとんどらしいので、フル充電してあれば、半月ぐらいは普通に充電なしで乗れそうだ。

 ただ、八丈島にはまだ急速充電器のインフラがないので、充電は自宅での普通充電が主体になるだろう。そのため、N-VAN e:を所有するには自宅から電源を引けるかどうかが条件になるが、島内は駐車場付きの戸建てがほとんどのように見えたので、その点は問題ないと思われる。

 このようなことから、八丈島においてN-VAN e:は走行性能も充電の環境についても十分にマッチングがよく、不便は感じないのではないだろうか。価格についても約270万円となっているが、国と東京都からの補助金を利用すれば約173万円(e:L4)で収まる。また、東京都だと条件付きでさらに補助金が出るので、それを利用できればもっと手ごろな値段で購入ができる。

 また、充電についてだが、不便さを回避したいと思うのであれば自宅で充電できるN-VAN e:はきっと便利に感じるのではないだろうか。というのも、ガソリンエンジンのN-VANはタンク容量が27Lなので、毎日乗った場合、ガソリンスタンドに給油に行く回数はそれなりに多くなる傾向だ。しかし、最近はガソリンスタンドの数も減っているので、住んでいる場所によっては給油のために、少し遠くまで走らなければいけないということもある。また、地方ではガソリンスタンドの数が少ないだけでなく、営業時間が短かったり休業日が多かったりすることもあるので、給油したいタイミングで給油ができないこともあるだろう。

 ガソリン車と電動車についてはどちらがいいのかと考えてしまうところもあるが、クルマは趣味で乗るほかに、生活や仕事のための道具でもあるから、自分にとって適している方を選べばいいということが、改めて分かったような試乗会であった。

宿泊したホテルの駐車場内には充電器が設置されていたが、設置してからしばらく経っていて稼働はしていないそうだ。レンタカーのEVは普通充電で充電をしていた

 そして、八丈島という環境の中でN-VAN e:は使いやすいクルマだった。八丈島と同じようなクルマ利用の環境を持つ地域は日本各地にあると思うので、そうしたところでもN-VAN e:はマッチするのではないだろうか。機会があれば今度は別の地域でN-VAN e:を走らせてみたい。

電動スクーター「EM1 e:」にも試乗

 また、ホンダの電動スクーター「EM1 e:」の試乗も盛り込まれており、EM1 e:でも八丈一周道路を半周した。原付スクーターと同じレベルの出力なので、生活圏で走らせるには力不足を感じなかった。

ホンダの電動スクーター「EM1 e:」。搭載されるEF16Mモーターの定格出力は0.58kWで、最高出力は1.7kW(2.3PS)/540rpm、最大トルクは90Nm(9.2kgfm)/25rpm。一充電での走行距離は53km(30km定値走行)
リアホイールはインホイールモーター。車体サイズは1795×680×1080mm(全長×全幅×全高)。車両重量は92kg
動力用のバッテリはHonda Mobile Power Pack e:。リチウムイオン電池でスペックは、定格電圧が50.26V、定格容量が26.1Ah。充電は専用充電器と接続して行なう
シート下にHonda Mobile Power Pack e:をセットした状態
EM1 e:でも八丈一周道路を半周した。原付スクーターと同じレベルの出力なので、生活圏で走らせるには力不足を感じないが山道の区間に入るとややつらくなる。そのためスロットルはワイドに開けることも増えるので、山道区間ではバッテリの消耗も激しくなった
リアのインホイールモーターからの出力はマイルドな特性になっているので、スロットルを急に開けても飛び出すようなことはない。そのためカーブ区間でもスロットル操作がやりやすい印象だった
八丈一周道路を半周した後のバッテリ残量。これはけっこう電費を意識した走りをしたものなので、EM1 e:のバッテリ交換なしで島を1周するのは無理だろう。ただ、近場の移動で乗るのであれば小回りが効くぶん、N-VAN e:より気軽に移動できる

走るための電気を自給自足するN-VAN e:がいた

 実は八丈島には面白いN-VAN e:が走っていた。それが自動車評論家の国沢光宏氏が所有するN-VAN e:だ。

 国沢氏は八丈島が好きでよく訪れていたそうで、そのうちこちらにも拠点を持つこととなった。そして島内の移動のためにN-VAN e:を本州から持ち込んでいるのだが、このN-VAN e:では「太陽光発電で得られる電気だけで走らせる」という取り組みを行なっていた。

自動車評論家の国沢光宏氏は八丈島でN-VAN e:に乗っている。そしてそのN-VAN e:はルーフに太陽光パネルを積み、ここから発電した電気のみでN-VAN e:を走らせているのだ

 その仕様を簡単に紹介すると、ルーフキャリアに545Wの太陽光パネルを乗せて、そこで発電をした電気を5120Wのポータブルパワーステーション(大容量ポータブルバッテリ)で蓄電し、充電が必要な際はこのバッテリに充電ケーブルをつないで充電をするというもの。

 八丈島は天気のいい日が多く、影を作るような高い建物がないので、走っているときも駐車中でも充電の効率がいいという。そのため、八丈島でのN-VAN e:の充電はすべて太陽光発電でまかなえてしまい、現状、まったく不便はないそうだ。

太陽光パネルから送られる電気が直流で、車体側のバッテリも直流であるものの、充電機能は交流しかないということから、間にポータブルバッテリを介すようにしているという
太陽光パネルは技術がどんどん進化しているので、その状況を正確に把握し、よりよいものが出てきた場合はN-VAN e:に取り入れて、さらに効率のいい発電ができるクルマにしていくとのこと
N-VAN e:とEM1 e: