試乗記
スバル「BRZ STI Sport TYPE RA」の“S耐直系”バランスドエンジンをサーキットで試す!
加速時のアクセル全開シフト&シフトダウン時のヒール&トゥ不要のシフト操作も体感
2025年11月21日 00:00
スーパー耐久で培った技術を市販車にフィードバック
2025年を締めくくるスーパー耐久第7戦が富士スピードウェイで開催されたレースウィーク中の11月14日に、同じく富士スピードウェイのショートコースで、スバル「BRZ STI Sport TYPE RA」の試乗会が開催された。
11月13日の発表ですでにその概要はご存じだとは思うが、これはBRZ STI Sportをベースとした特別仕様車だ。末尾に付いたRAの文字には“Record Attempt”(記録への挑戦)という意味が込められており、スバルは代々モータースポーツ直系のモデルやコンプリートカーにこの名前を与えてきた。
そしてこのBRZ STI Sport TYPE RAには、まさに「Team SDA」(スバルがS耐参戦のために結成したチーム。SDAはスバル・ドライビング・アカデミーの意味)が、スーパー耐久の現場で培った技術が搭載されている。だからこそ試乗の場には富士スピードウェイが選ばれ、翌日からのS耐最終戦で、その姿がファンにお披露目されたというわけだ。
そんなBRZ STI Sport TYPE RAの目玉は、なんといっても「バランスドエンジン」だろう。2.4リッター水平対向4気筒「FA24」エンジンは、その各部がS耐車両と同じクオリティでバランス取りされている。ちなみに回転運動を伴うパーツとしては、クランクシャフトのバランス公差を80%低減。合わせてフライホイール(67%低減)と、クラッチカバー(50%低減)もバランスが取られた。
そして往復運動が主となるピストンとコンロッドは、それぞれ重量公差が50%以内の部材をそろえた。
こうした手間がかけられた結果、その生産台数は標準仕様で200台、カーボンリアスポイラー付き車両で100台、合計300台となった。
バランスドエンジンとシフト制御の妙
バランス取りされたエンジンは、マニアにとってひとつの憧れだ。それがメーカーの手によるものであれば、なおさら胸がときめく。
となると気になるのはその効果だが、誤解を恐れず言えばこのバランス取りは、FA24のポテンシャルを劇的に変えるものではなかった。
恐らくベースとなるFA24ユニットは、そもそもの素性がかなりいいのだろう。当日はベースとなるBRZ STI Sportと乗り比べできたが、向かい合うピストンがお互いに振動を打ち消し合うボクサーユニットの特性もあって、そのフィーリングがかなりいいのだ。むしろ適度な荒さの分だけ、これをエモーショナルに感じるドライバーもいるのではないかとさえ感じた。
比べて、バランスドエンジンは、その吹け上がりが確かに滑らかだ。しかし全開領域だと、両者の差は体感しにくいというのが本音だった。
そういう意味ではハイカムを入れたり、エンジンそのものに出力向上やパンチを与えるアイデアも検討された。S耐で280馬力オーバーを実現したノウハウを使えばそれも可能だったが、基準車と同じ保証を与えるために、今回はバランス取りにとどめた。ちなみにオーバーホール時も、同様にバランス取りされたパーツが供給できるように手配が進められているのだという。
また、こうした滑らかなエンジン特性は、第2の目玉となるシフト制御にも役立っているのではないかと感じた。
加速側の制御となる「フラットシフト」では、アクセル全開のままスムーズなシフトアップが可能だ。クラッチを切った瞬間から次のギヤが許容するエンジン回転数を割り出し、その回転をキープしてくれるから、ギヤはスムーズに入るし、そのままクラッチを勢いよくつないでもショックがとても少ない。特に3から4速といった、直線的なシフトはとても気持ちよかった。
感心したのは2から3速といった、クランク軌跡のシフトまでもが滑らかに決まることだ。
斜めシフトはシフトミスによるオーバーレブの可能性も高まるから、心理的にはどうしても全開シフトしにくい。しかしこの制御は約2秒、次のギヤ回転に適切な回転をキープしてくれるから、思ったよりも焦らず全開シフトできるのだ。
こうした制御のおかげで、エンジンや駆動系への負担はかなり減るだろう。また、路面状況が悪かったり、タイヤがたれてきたりした状況でも、挙動が安定しそうだ。まさにそれは耐久レースを戦い抜く技術であり、スポーツ走行を楽しむユーザーにとっても、愛車を長持ちさせることができる魅力的な制御だと感じた。
シフトダウン時に働く「レブシンク」も、かなり有効な制御だ。
フラットシフト同様にクラッチを切ったあと次のギヤを予測して、適切な回転までエンジンをブリップ&キープしてくれるから、ヒール&トゥなしでシフトダウンがスムーズに決まる。ちなみに2速から1速へのシフトダウンはトルク変動が大きいため、作動しないとのこと。また4速から2速といった飛ばしシフトは1速分、つまり3速へのシフトダウン用ブリッピングのみを行なう。そんなときは2速ダウン時に少しアクセルを足す必要がありそうだが、4→3→2速と普通にシフトダウンしても、かなりテンポよくシフトダウンしてくれる。
レブシンクはヒール&トゥが苦手なドライバーへの手助けにもなるけれど、たとえば曲がりながらシフトダウンするような場面で、挙動を乱さないのが素晴らしかった。
また、ドライバーがあえてヒール&トゥをしても、これを感知してエンジン回転が余計に上がりすぎないようにしてくれるのもいい。フラットシフト/レブシンクの制御は「SPORT」モードを選択し、VSC制御を「TRACK」もしくはOFFにしたときに作動する。ドライバーの習熟を考えると、ON/OFF機能があってもよいと思う。
対するシャシーは、STIが担当した。
基準車との違いは、まずその足まわりにZF製ダンパーがマッチングされたことだ(スプリングは同じ)。ダンパーでロールスピードを抑える一方、リニアな回頭性を得るためにSTI製のフレキシブルVバーと、フレキシブルドロースティフナリアを装着。さらにバネ下には、BBS製の18×7.5J鍛造アルミホイールを採用。カラーリングはSTIドライカーボンリアスポイラー付き車両がマットブロンズ、標準仕様がマットグレイとなっている。
その走りは、まさに狙い通りの出来栄えだ。サーキットの荷重領域だと基準車はピッチおよびロールスピードが速めで、その後タイヤに荷重が一気にかかる。
対してTYPE RAは、ブレーキングから荷重のかかり方が穏やかだ。そしてハンドルを切っていくと、キビキビとしたレスポンスと共に旋回してくれる。
ただ、ターンミドルからアクセルを踏み込んでいくと、割と簡単にリアが流れるのは基準車と同じだった。むしろ動きがリニアで素早い分だけ、操作は忙しい。そういう意味ではもう少し、電動パワステが重めでもよいと感じた。
惜しいのはターンアウトでリアに荷重がグッとかかり、まさに「ここから!」というときに、割とズバッ! と、横方向にスナップしてしまうこと。
もちろんこの動きを丁寧にアクセルでコントロールするのが後輪駆動を運転するドライバーの仕事だけれど、もう少しだけアマチュアには、穏やかにトラクションを維持してほしいと感じた。ちなみにGR86はターンインからオーバーステアとなり、これをアクセルでバランスさせる傾向。だから進入こそチャレンジングだけれど、ターンミドルからはバランススロットルでトラクションをかけやすいというキャラの違いがある。
そういう意味でリアウイングには興味津々だったが、ショートコースだと効果はやや控えめだった。リアに荷重がかかる分だけブレーキングはさらに安定し、アンダーステアも少しだけ増えるけれど、全体的には挙動がシッカリする。
しかしミドルコーナーでアクセルを踏み込んでいけば、やはりスナップは起きてしまう。
ウイングはもう一段迎え角を付けられたが、TYPE RAに対する推奨は現状だというから、より高いダウンフォースを得るには、富士で言えば100Rのような高速コーナーが必要かもしれない。だからウイングはあるに越したことはないけれど、ミニサーキットを中心に走るユーザーなら、これを節約して標準車を選ぶのはありだ。
ちなみにデフケースは、鋳鉄部分の底面が、カップカーと同じフィンタイプとなった。
このことからもわかる通り、BRZ STI Sport TYPE RAはプレミアムな限定車というよりも、クラブマンレーサーが腕を磨き、その走りを長く楽しむために作られたコンプリートカーだ。そんな実直さは、実にスバルらしくて好感が持てる。
抽選300台というのは狭き門だが、その内容を考えれば納得もいく。そして願わくば、カタログモデルであるBRZ STI Sportに今後、「フラットシフト」と、「レブシンク」を標準装備して、S耐で得た技術を広く伝えてほしいと感じた。

























