試乗記
カヤバが手掛ける最新キャンピングカー「ヴィラトール」を体験してみた
2025年12月12日 11:18
デュカトをベース車両に選んだ理由
油圧機器大手のカヤバがキャンピングカーを手掛けているのは知る人ぞ知るだ。メルセデス・ベンツのバン「ハイマー」をベースにしたキャンピングカーを各地で展示して存在感を示した。得意の油圧技術でウネリでもフラットな姿勢を保てた乗り心地はおどろきだった。さすが油圧のスペシャリストだ。
そして2025年の東京オートサロンで展示されたのは、Lクラスのハイマーに続くフィアットの商用バン「DUCATO(デュカト)」をベースにした中型キャンピングカー「VILLATOR(ヴィラトール)」。日本ではあまりなじみはないが、欧州では大量の荷物を積んで長距離を走れるバンとしてベストセラーになっている。選ばれる理由の1つに架装のしやすさも挙げられ、日本でもひそかに人気が出はじめている。カヤバが白羽の矢を立てたのはまさにその点だ。
日本で販売されているのは2種類のホイールベース(3450mmと4035mm)があり、今回の試乗車はロングホイールベースで全長は5995mmある。本来はがらんどうのラゲッジルームはその形跡もなく豪華なキャビンに変貌している。
まず走らせてみよう。全モデルとも全幅は2100mm。個人的には大きなクルマが苦手なだけにちょっとビビリながら運転席に乗り込んだ。全高の高いバンはアイポイントが高く、前方視界も広いので安心する。
エンジンは2.2リッターのディーゼルターボ一機種のみ。132kW/450Nmの出力で8速ATと組み合わせる。イグニッションを入れるとディーゼル特有な音でまわり出した。わずらわしい音は抑えられていながら欧州車らしいディーゼル音だ。
粘りのある加速はディーゼルの低速トルクの大きさと8速ATとの相性で、加速していくとトントンと変速していく。予想以上に乗りやすい。しかもハンドルの切れ角が大きく小回りが効くことも大きな発見だ。と言っても4035mmのホイールベースは内輪差に注意が必要だ。
ボディはいったんバラして想定されるキャビンの重量増に耐える剛性を確保するため、フロントからリアに至るまでポイントごとに必要な補強が入り、走行中もヨレが全く感じられない。GTのような剛性感はないがステアリングホイールはドンと座り、堂々とした直進性。手を添えているだけで良いのはホッとする安心感だ。
もちろんサスペンションも手が加えられている。得意のショックアブソーバーは前後ともデュカト専用に最適セッティングされている。通常のキャンピングカーではリアだけ変えるが、カヤバではリアに合わせてフロントストラットにも手を入れて最適バランスを確保している。
路面からの入力は柔らかい上下動に変えられ、凹凸路でもバネ上の動きは抑制されている。さすがにデュカトではハイマーで取り入れられた油圧装置が入るスペースはなく、コンベンショナルな形式だがカヤバらしい技術を活かしている。
熊谷工場の技術をいかんなく発揮
贅を尽くした室内は「大人が楽しむラグジュアリーな空間」を標榜するだけに、インテリアデザイナーが製作に携わった各所に欅を配したのもそのこだわりだ。広さを求めるより「贅沢な空間で快適に移動する」というのがカヤバ製キャンピングカーの目指すところだが、無駄な空間はなくドア付き収納スペースを各部に設けていることでキャビンを美しく広く見せている。またキャンピングカーには電源も欠かせない。高価で大きいが最適なバッテリを収納しているところも腕の見せどころだ。
製作過程を見せてもらったが1台1台手作りされており、生産ラインと呼べるものはない。ラインは習熟して、要所要所が理解してコストのかけ方も理解してから取り掛かるという。現在は本格的な受注に向けて模索しているところ。この職人技を見ると2000万円以上といわれる価格も安く感じられる。
キャンピングカーを作る熊谷工場はミキサー車などを生産する主力工場で、ユーザーの要望に応じてカスタマイズする技術が蓄積されている。そこで培った板金技術やボディ剛性を確保する技術をいかんなくキャンピングカーにも発揮されている。キモであるキャビンにブレスを配置することなく、ボディ剛性を確保できているのもうなずける。
一方で特殊車両の製造技術を活かし、社会に貢献できる車両開発も今後続けていくことになると聞く。夢のある話だ。





















