試乗記
BMWの新型バッテリEV「iX3」にクローズドコースで初試乗 ノイエ・クラッセ第1弾の注目ポイントは航続距離の長さ
2026年6月8日 08:00
欧州WLTCモードで最大805kmの航続距離
BMWがこの先の100年を切り開くことをテーマに、新しく掲げた次世代EVシリーズ「ノイエ・クラッセ」。その第1弾となるモデル「iX3」に試乗することができた。グレードは「50 xDrive」だ。
ノイエ・クラッセ──。英訳すれば「ニュー・クラス」。そのルーツは1960年代に登場した「BMW 1500」シリーズの登場にまで遡る。それは当時のBMWが社運を賭けて開発したミドルセダンであり、現行5シリーズのご先祖さまだ。この1500シリーズが大ヒットすることで、BMWは現在に続くスポーティなブランドイメージを確立した。そして100年に一度の大変革期となった電動化の未来に、ふたたびノイエ・クラッセの名前を掲げたというわけだ。
全長4782mmのボディに大型バッテリを敷き詰めたDセグメントの電動SUV。iX3における一番の注目ポイントは、なんといってもその航続距離の長さだ。欧州WLTPモードで計測された一充電あたりの航続距離は、なんと最大805km。正確に言うとそれは19インチタイヤを装着する標準仕様の値で、シリーズ全体としては679km~805kmの間。おそらく今回試乗したM Sport(21インチ)では、679km以上と考えた方がよいだろう。
とはいえ日本のWLTCモードは高速巡航速度が欧州モードに比べて低いため、さらにその航続距離は伸びるだろう。ぬか喜びはできないけれど、おそらく標準モデルで900kmを超えてくるのではないか? と目されている。
となれば常用電費の乖離を7割に見積もったとして最大で630km、M Sportモデルでも475km以上走れることになるわけだ。走ったあとの充電を考えるとまだまだインフラ面での課題はあるが、初めての「ストレスなく遠出ができるEV」として、iX3に期待をしてしまうのは分かっていただけることだろう。
こうした航続距離の長さを実現する要となるのは、108.7kWhの容量を持つ第6世代のリチウムイオンバッテリだ。ちなみにバッテリ容量が近しい同クラスのライバルを見渡せば、フォルクスワーゲングループのポルシェ マカン4 Electric(100kWh/613km)や、アウディ Q6 e-tron quattoro Advanced(100kWh/652km)よりもその航続距離は長く、最高出力も469PSと一番高い。グレードによってはひとクラス上のアウディ Q8 e-tronや、メルセデス・ベンツ EQSよりも高性能だ。
ライバルに差を付けたポイントはバッテリセルの高効率化だ。これまで角形だったセルは外圧や内部膨張に強い円筒形(直径46mm/高さ95mm)となり、モジュールパックを使うことなくセル同士の接着が可能となった。これによってバッテリパックを軽量化できただけでなく、そのまま構造材としても使えるようになった。ちなみにiX3はフロアパンを敷かず、バッテリパックをそのままフロアとして使っている。その土台は第6世代となるEV専用プラットフォームだ。
電圧システムにもとうとう800Vアーキテクチャが採用された。ちなみに欧州では320kW充電器に対応し、SOC(State of Charge:バッテリ残量)10%の状態から80%までの充電時間はわずかに21分。10分チャージするだけでも320kmの走行が可能だという。
日本だとまだ150kW充電器の普及すら追いつかない状況だから、せっかくのメリットを使い切れないのは確かに歯がゆい。e-Mobility Powerが2026年夏に東名高速道路の海老名サービスエリア上下線で、280kW対応の急速充電器を合計8基増設すると発表しているが、こうしたインフラの拡充はまだまだ必要だ。
参考までに普通充電でiX3をチャージした場合、200V/6kWだと0~100%までの充電には約18時間かかる。現実的なところで言えば、たとえば約30%から80%まで充電した場合だと約9時間と少し、といった具合だ。
駆動方式はAWDで、フロントにBMW初となるコンパクトな誘導モーター(ASM)を採用。後輪にはレア・アースを使わず環境負荷の少ない巻き線界磁式同期モーター(EESM)をインストールした。その出力は前述のとおり最高出力45kW(469PS)/645Nmという高出力ぶりだが、車重も2360kgと重たいため、0-100km/h加速は4.9秒と想像を絶する速さではない。
とはいえ直列6気筒3.0リッターターボを搭載するX3 M50 xDrive(4.6秒)よりも少し遅いくらいだから、かたや1021万円のガソリンモデル、こなた1034万円のBEVモデルと考えれば、その価格設定はまずまずといえるだろうか。
近未来感が満載のコクピット
コクピットに収まってまず目を引くのは、17.9インチの大きな「フリーカット・ディスプレイ」だ。わずかにドライバー側へ傾斜した筐体は菱形になっていて、前に進んでいく感じがしておもしろい。操作はタッチパネル式で、センタートンネルからダイヤル式のiDriveコントローラーが姿を消していた。
数字だけを見れば43.3インチと、とてつもなく巨大なスクリーンを想像する「パノラミック・ビジョン」はしかし、ピラー・トゥ・ピラーに細長く埋め込まれていてすっきりとした見た目。目線を伸ばした先に速度やADASの制御状況などが表示されており、スクリーンの大きさにおどろくというよりも、とても自然になじむことができた。
縦型スポークとなったステアリングは賛否の分かれるところだろう。メーターをパノラミック・ビジョンにインストールしたことで可能となった形だが、駐車時などステアリングを大きくまわす状況だと進行方向が分かりにくく、頂点にマーキングやカラーリングがしてあればよいと筆者は感じた。ちなみにMモデルではこのスポークが下側2本となるらしい。
肩に力の入らない現代的なe-SUV
クローズドコースで開催されたテストドライブは、先導車に引っ張られる形でスタート。走り出しで感じたのは、意外にも動きの軽さだった。アクセル追従性の良さはEVの特権だが、iX3はさらに一段抜けたレスポンスであり滑らかさだ。またその加速力も数字どおりで、桁外れではないけれど実用的には申し分ない力強さである。
前走車に近づき過ぎると「アダプティブ回生ブレーキ」が作動して、適度な距離感を保とうとする制御にも時代を感じた。ならばとACCを稼働させてみると、曲率の高いカーブでは追従しきれない場面もあったが、かなりの領域まで操舵をアシストできており、その制御もかなり自然だった。
センターディスプレイからスポーツモードを選ぶと、一瞬モニターが赤くフラッシュして走りが鋭さを増す。そしてアクセルの踏み加減に合わせて、室内に宇宙船のようなサウンドが響くようになる。そのスタイルは現行iシリーズと同じであり、特別目新しいところはない。個人的にはBMWならではの直6サウンドをギミックしたり、もう少し遊び心があってもよいと思う。
カーブでの身のこなしも、加速と同様とても軽やかだ。足まわりには電子制御ダンパーを装着していたらしいが、その身のこなしがあまりに自然で、減衰力の変化すら分からなかったほど。EVならではの低重心さと、BMWならではのセッティングの良さを活かして、ソフトな足まわりでも実に気持ち良くコーナーをクリアしてくれる。電子制御スタビライザーや後輪操舵といった、無理矢理にクルマを曲げていくデバイスがないから、確かにずぼらな運転だとラインを外すこともある。とはいえこうした装備を省くことでコストを抑えて重量を減らし、航続距離が伸ばせるならば十分以上の操縦性だ。
またニュルブルクリンクの「カルーセル」コーナーを模した段差路でも、路面からの入力を上手に吸収していた。乗り心地は一般道を走らなければ結論付けられないけれど、かなり良さそうな雰囲気だ。
総じてその第一印象は、爽やかで軽やか。まるで炭酸飲料のCMのような感想だけれど、つまりは肩に力の入らない現代的なe-SUVだと感じた。そして走りの良さもあいまって、その独特な顔つきやリアハッチまわりの造形にまで、親近感が湧いた。
となればあとは、使い勝手も含めて実際にロングドライブをしてみるだけだ。これで本当に500km以上の距離を無充電で走ったら、EV時代の扉が大きく開くことになる気がする。














