試乗記
ヒョンデの新型FCEV「ネッソ」(2代目)試乗 一充填走行距離1000kmオーバー、その実力は?
2026年8月17日 13:02
従来型よりひとまわり大きいクロスオーバー車
燃料電池車はアポロ宇宙船で水と電気を作り出す重要なエネルギー源として脚光を浴び、内燃機関に代わる次世代動力源として注目された。その後、技術開発や応用が進み、さまざまな分野で使われている。
自動車では水素と酸素を結合させて電力を作り、EV(電気自動車)として走らせる。排出物は水しか出さないので、究極のクリーンエネルギーと言われて久しい。充電に時間のかかるBEVに比べて、FCEVはガソリン給油と同程度の時間で水素を充填できるメリットもある一方、インフラの整備費が高く、設備も全国で約150か所ほどに限られている。技術的、市場状況のハードルがある中、市販しているのは世界でもヒョンデとトヨタだけになってしまった。
FCEVは自動車メーカーとして将来に向けての技術投資という意味もあるが、多分にメーカーの矜持の部分もある。その一方で乗用車より多くの水素ボンベを積むことができ、水素の充填が便利な定期航路を走る大型トラックやバスは、ヒョンデもトヨタも販売しており、環境を重視する国や自治体の方針により一定の需要はある。
前置きが長くなった。ヒョンデは30年以上にわたってFCEVを開発し、2013年には「ix35」で量産車として初のFCEVを発表。2018年にはFCEV専用車の「NEXO(ネッソ)」を発表し、日本にも導入されていた。2代目のNEXOが本国で発表されたのは2025年。そして2026年春に日本でデビューした。日本にR&D拠点を置いていることもあって、日本仕様の開発も順調に進んだという。
フルモデルチェンジした新型NEXOは、従来型よりひとまわり大きいクロスオーバー車。トヨタ「RAV4」と同じカテゴリーのサイズで、4750×1865×1690mm(全長×全幅×全高)となっている。デザインは好き嫌いが分かれるが、「IONIQ 5」に通じるキュービックスタイルは確かに際立っている。
パッケージングは先代から大きく変わっており、EVプラットフォームの良さをうまく引き出している。水素ボンベは54Lを3本、計162Lをリアのシート下とラゲッジルームのフロア下に搭載する。フロア高は許容範囲に抑えられており、フラットで奥行きもあり、実用性は高そうだ。
さらに大きなメリットは室内長が長いこと。リアシートのレッグルームは十分に広く、フロントも助手席の足を伸ばせる。2790mmのホイールベースを活かしたパッケージングだ。ちなみにホイールベースは従来型のNEXOと共通である。駆動方式は前輪駆動で、フラットなフロアも効果的に活かされている。
サスペンションはフロントがストラット、リアがマルチリンク。装着タイヤはネクセン「N'FERA Sport」で、245/45R19を履く。低転がり抵抗のタイヤだ。標準グレードのVoyageは18インチ(225/55R18)だが、上級グレードである試乗車のLoungeでは19インチが標準である。
1回の充填で約1000kmの航続距離を実現
ヒップポイントはやや高めだが、水平基調の視界はスッキリしている。ダッシュボードに取り付けられたディスプレイも視界の邪魔にならない。改めて眺めると、インテリアもヒョンデらしくクリーンに仕上げられている。
前方視界が開けていることとスクエアなボディで見切りが良く、さらに最小回転半径は5.5mで、意外なほど取りまわしが簡単だ。特徴的なCピラーの造形で左斜め後方の視界は限られるものの、実質的にはミラーやカメラでカバーされている。
シフトスイッチはステアリングポスト右に生えたレバーにあり、先端のスイッチをひねることで操作できる。従来型NEXOではスイッチがずらりと並んでおり、階層に入って作動させるのが苦手な身としてはありがたかったが、新型ではできるだけ感覚的に操作できるよう配慮されたパネル操作になっている。確かにレクチャーされると、すぐに使える。
走り出せばEVそのもので、静かで振動がほとんどないため、疲労感が少ない。乗り心地は市街地と高速道路を走った限りでは好感触だ。1970kgある重量を支える足下の19インチタイヤはパターンノイズが少しあるが、低転がり抵抗を身上とするタイヤとしてはしなやか。稀にある舗装路面の高いジョイント部、あるいは郊外路の舗装が剥がれた荒れた路面を通過する際はリアがバタつくことがあるが、基本的にEVならではの快適さを楽しめる。
ハンドリングはオーソドックス。ハンドルの応答性は穏やかに設定されている。グリップ力はもう少し高くてもいいように思うが、約2tのクルマが軽々と反応するのもクルマのキャラクターに合わず、NEXOは突出した性能よりも、角のないハンドリングを目標としているようだ。
高速道路はACCを使って走ったが、前車への追従性は高い。NEXOは一般道で使われることを想定したSmart Cruise Control(SCC)と、高速道路で使うHighway Driving Assist(HDA)のパターンを持っているが、その判定はクルマ側で行なわれる。クルコンスイッチを押した時点で作動する。
またLane Keeping Assist(LKA)は、ステアリング上にあるスイッチを長押しすることで作動できる。こちらは安全サイドに設定されているので、引き戻され感が強いが、高速道路などでは同じスイッチをクリックすると車線中央をキープできる。コーナーのRも、ある程度まではカバーしてくれた。
車体側としては、もう少しどっしりと接地させた方が車格に合うように感じた。何しろ1回の充填で1000km以上の航続距離(Voyage)を誇るNEXOだからこそ、ロングドライブはさらに快適で、退屈しないものであってほしいと思う。
動力性能は150kW/350Nmで大きなトルクで軽々と走る。瞬発力も必要十分で、高速道路の合流もいつの間にか流れに乗っている感じで荒々しくないのがスマートだ。
EV特有の回生ブレーキは、パドルで4段階に選択できる。左パドルを1秒引くとi-Pedalに移行できる。アクセルオフだけで減速できるが、強い回生力はあまり使われないと判断したのか、いわゆるワンペダルドライブは想定されていない。
サスペンションは本国仕様ではハードな設定になっていると言われるが、日本仕様ではソフトな仕様となっていると説明を受けた。確かに、これまでのヒョンデ車はリアからの突き上げが強めだった。NEXOでは前後バランスが日本の使用環境に合っているようだ。
さて、NEXOはグローバルでも累計販売台数が4万7000台以上に達しており、特に韓国では新型NEXOが発表されて以来、すでに7500台以上が販売されているという。韓国は国策としてFCEVに多くの補助金があり、水素インフラも日本とほぼ同数が設置されている。国土、人口とも日本の約半分であることを考えると、FCEVの普及が想像できる。
日本での価格はVoyageが750万円、Loungeが820万円、そしてさらにオプションを追加したLounge+では835万円と公表されている。FCEVの場合は国の補助金に加え、自治体では特に東京都の補助金が多く、Voyageは400万円台半ばから購入できる。先代のNEXOから、顧客はカーボンニュートラルを標榜する企業や自治体がほとんどだ。しかし1000kmの航続距離を誇るFCEVなら、個人ユーザーも興味を持つのではないだろうか。
そんなユーザーのFCEVへの不安を解消するために、「Hyundai プレミアムケア」が用意されている。購入から売却までカバーするもので、将来の価値が分かる残価設定ローンや、購入後の車検も含めたコストフリープログラムなどを揃えているのもNEXOの大きな魅力となる。
冒頭にも記したが、FCEVはトヨタのミライとクラウン、ヒョンデのNEXO、そして間もなくやってくるBMWだけで展開されており、残念ながらホンダは米国でGM(ゼネラルモーターズ)との合弁会社Fuel Cell System Manufacturing LLCにて生産している燃料電池システムについて、2026年中に生産を終了すると発表している。夢のある技術だけにコストやインフラも含めて使いやすいものに進化してほしい。


















