試乗記

ボルボのバッテリEV「EX30クロスカントリー」にRWDモデルが登場 真骨頂はしなやかな動きを操る楽しさにあり!

ボルボのコンパクトバッテリEV「EX30クロスカントリー」のRWDモデルに試乗する機会を得た

 ボルボで最もコンパクトなBEV(バッテリ電気自動車)「EX30」のアウトドア仕様となるのが「クロスカントリー(Cross Country)」。その特別仕様車として、RWD(後輪駆動)モデルが加わった。

 これまで日本に導入されていたEX30 クロスカントリーはツインモーターによる四輪駆動のみだったが、シングルモーターの後輪駆動が選べるのは初めて。価格はグレード名を改め、ツインモーターの「Ultra P8 AWD Electric」が649万円なのに対し、今回のシングルモーターで後輪駆動の特別仕様車「Ultra P5 Long Range Electric」は599万円で、50万円も安いプライスで導入された。

 EX30の2027年モデルは、グレード名の変更のほかにも、いくつかのトピック(変更)がある。ベーシックなグレードとして設定されていた「EX30 Plus Single Motor」は廃止。内装はブリーズインテリアが廃止された代わりに、柔らかなベージュのハーベストインテリアが追加され、外装色にはP8 AWDに爽やかなクラウドブルーが追加された。

今回試乗したのは後輪駆動の特別仕様車「EX30 Cross Country Ultra P5 Long Lange Electric」
ボディサイズは4235×1850×1565mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2650mmで変更はなし。ただし、モーターが1個になったので車両重量は1790kg(AWDは1880kg)

 さらに、UX(ユーザー・エクスペリエンス)は、Android Ver15が導入され、インフォテイメント系の表示内容や使い勝手が改善された。EX30はソフトウェアのアップデートでクルマの機能を進化させていくSDVではあるが、クルマの機能と向き合う上でフラストレーションを感じていた点をモデルライフ中に細やかに改善してみせるスピード感は、既存のエンジン車とは違う世界にあるのだと実感させられる。

OTA(Over The Air)アップデートが頻繁に行なわれ、常に最新のソフトウェアを享受できるのもポイント

 今回試乗した後輪駆動の特別仕様車「Ultra P5 Long Range Electric」は、四輪駆動モデルと比較して、モーターが1つ減ってはいるものの、それ以外の装備面は何も削られていない。

 エクステリアにおけるクロスカントリーの特徴として、フロントフェイスには黒い樹脂製のパーツを大胆にあしらっているが、そこにはスウェーデンの最高峰「ケブネカイセ山」の等高線と座標が描かれているのも変わりなし。19インチのマットブラック塗装の専用ホイールには外径が大きい235/50R19サイズのタイヤを装着している。

フロントとリアのバンパー下部はヴェイパーグレーとなる
クロスカントリー専用のフロントシールドは、スカンジナビア山脈北部にあるスウェーデンの最高峰「ケブネカイセ山」周囲の標高線をトポグラフィーで描くとともに座標(67°54'0"N,18°31'0"E)も刻まれている
フロントシールドと同じくリアのテールランプの間もブラック仕上げとなる
新たに「P5 Long Range」のプレートがあしらわれる
フロンク(フロント+トランク)を備える
Cピラーと専用リアバンパーの下部に「CROSS COUNTRY」の文字が配される

 ボディサイズは全長4235mm×全幅1850mm×全高1565mm。地上高を高めたクロスカントリーは全高が1550mmに制限される機械式駐車場には収まらないものの、全幅は1850mmのパレット内にかろうじて収まるため、高さに余裕のある機械式駐車場ならマンション住まいでも現実的な選択肢になりそうだ。

 一方、背が低いタイプのEX30は全高を1550mmに抑えてくれていることで、現時点で日本で販売されているBEVとしては、日本の一般的な機械式駐車場に収まる数少ないモデルの1つといえる。

クロスカントリー専用の19インチホイール(7.5J)は、5スポークでカラーはマットグラファイト/マットブラック。装着タイヤはグッドイヤーの「エフィシェントグリップ パフォーマンス SUV」でサイズは前後とも235/50R19。また、ダークカラーのホイールアーチ・エクステンションで力強い印象を際立たせている

クロスカントリーらしい世界観を599万円で

 インテリアにも随所に北欧ブランドらしい工夫が見られる。リサイクル素材を活用したパネルをはじめ、シートはスカンジナビアの森に生息する松やモミの葉からインスピレーションを得たという、くすみ掛かったグリーンの松脂や再生PETから生成された素材とウールとリサイクル・ポリエステルを混紡したテイラード・ウールを採用している。天然素材とリサイクル材、バイオ素材を組み合わせた内装は多少汚れても手入れがしやすく、BEVのEX30 クロスカントリーのキャラクターが相まって、森やアウトドアフィールドがじつによく似合う。

水平基調ですっきりと視界の開けたインテリア
シート地はウールブレンドと、バイオベースのレザーフリー素材であるノルディコのコンビネーション

 上位装備を施した「Ultra」にはHarman/Kardonのオーディオシステムやパノラマ・ガラスルーフも標準装備されている。走行時に静粛性が際立つ車内で、手持ちのスマホアプリで好みの音楽を再生し、クオリティの高い音楽を楽しめるのは尊い時間となるだろう。モダンなホームオーディオを彷彿とさせるサウンドバーがハイセンスで居心地のよい空間演出にひと役買っている。

ステアリングの上にDMC(ドライバー・モニタリング・カメラ)を搭載し 注意力散漫や疲労度を検知して警告する「ドライバーアラートコントロール」機能を備える
ダッシュボードの中央には12.3インチのセンタースクリーンを配置
オーディオはharman/kardon(ハーマンカードン)製の1040Wプレミアムサウンド・オーディオシステムを採用。ダッシュボードのサウンドバー(5スピーカー)を含め計9個のスピーカーを搭載する
アームレストには格納式ドリンクホルダーを装備

 使いやすさが考え抜かれた収納装備も満載だ。センターアームレストにはプッシュ式で出し入れできるカップホルダー(小物入れにもなる)が内蔵されているほか、スマホのワイヤレス充電、センターコンソール下には二重底のストレージ、ドア内張りに大容量のドアポケットが設けられていたりと、コンパクトなボディの空間を効率よく活用。リアシートは大人が乗り降りしやすく、快適に過ごせるだけの居住空間が備わっている。

 ラゲッジフロアの床下には普通充電用のケーブルや傘などを隠しておけるスペースも。後部座席は左右独立でアレンジできたりと、荷物の量や使うシーンに応じて臨機応変に使い分けできる。

クロスカントリーはパノラマガラスルーフを標準装備
後席は6:4の可倒式。5人乗車でも318Lのラゲッジスペース容量を確保。ラゲッジスペース下段には61Lのアンダーフロアストレージも備える

20mm高い車高と専用サスペンションが生む、しなやかな走り

今回の試乗はあいにくの雨模様だったが、逆にRWDのしなやかな走りを体感するにはピッタリだった

 後輪に搭載するモーターは最高出力200kW(272PS)、最大トルク343Nmを発生。69kWhのバッテリを搭載し、WLTCモードの一充電走行距離は530kmを確保している。タイヤの駆動は四輪駆動よりも二輪駆動のほうが消費電力が少なく、コンパクトなBEVの中では航続距離は長め。初めて電気自動車にチャレンジする場合に、まだ充電に慣れていないとか、自宅や勤務先に充電器を設置できないケースでも、安心して乗り換えられるだけの航続距離といえそうだ。

少しゆったりと車体を上下に動かしながら路面からの入力をいなしていく

 クロスカントリーは通常のEX30に対して最低地上高を20mm高めた195mm。単に車高が上げられただけでなく、前後のサスペンションのバネレートを下げ、リアのアンチロールバーは径を細くし、外径が大きいタイヤに合わせる形で前後のショックアブソーバーを最適化。さらには、パワステの制御も最適化することで、クロスカントリーらしい乗り味を実現しているという。

 試乗会の前に、地上高の低いEX30に試乗してみたが、今回の後輪駆動のクロスカントリーで感じた明らかな違いは、足まわりの柔軟さ。橋の継ぎ目で大きな入力を受けると、サスペンションがしなやかにストロークして、路面から受ける衝撃を丸く受けとめていく。地上高が低いほうのEX30がコンパクトBEVらしい低重心でキビキビした身のこなしを得意とするなら、クロスカントリーはもう少しゆったりと車体を上下に動かしながら路面からの入力をいなしていく印象だ。

運転操作に対してクルマの動きが滑らかにつながる印象

 ただし、柔らかいからといって動きが曖昧になる訳ではない。ワインディングではむしろ、サスペンションが立体的にストロークし、ステアリングを切り込めば、適度なロールを伴いながら車体が一体となって向きを変えていく。アクセルペダルを踏み込む、戻す、ブレーキを踏む、ステアリングを切る。それら一連の運転操作に対してクルマの動きが滑らかにつながり、ドライバーがイメージした場所へ持ち込みやすい。

 モーター駆動のメリットも大きい。エンジン車のようにアクセル操作から駆動力が立ち上がるまでのタイムラグがなく、右足の操作に対してクルマが遅れなく反応する。バッテリは車体の低い位置に敷き詰められたBEVのレイアウト、バッテリまわりをガッチリ固めた車体構造は余計な動きが入り込む隙を与えず、しなやかで精度の高い走りに貢献していると感じた。

下り坂ではまるでタイヤと路面が磁石でくっついているかのように狙ったラインをたどりやすい

 特に印象的だったのは急勾配のワインディング路。下り坂では、まるでタイヤと路面が磁石でくっついて走っているかのように狙ったラインをたどりやすかった。反対に、上り坂で踏み込む際はモーターの力強さと振動のない静かさが際立つ。エンジン車のように回転を上げて唸ることはなく、少しの踏み込みでゆとりをもって登っていける。高速道路の本線合流も同様で、必要な車速を静かに滑らかに引き出せるのはBEVならではの強みだろう。

 絶対的なスタビリティでは、車高が低く、クロスカントリーほど足まわりを柔らかくしていない標準モデルのEX30のほうがフラットライド感を得やすい。クロスカントリーはサスペンションを積極的に動かし、姿勢変化を活かしながら、クルマとの対話を満喫する感覚だ。しなやかに沈み、荷重が移り、向きが変わる。その一連の動きをリズミカルにつなげていけるところが乗り味フェチの私には刺さった。

上り坂ではモーターの力強さと振動のない静かさが際立っていた

 ひと言付け加えるとすれば、ツインモーターでAWDのクロスカントリーは、後輪駆動よりも一段上のしなやかさと洗練された乗り味を感じさせてくれること。前輪側にも駆動力を与えることで、より安定性が高く、理想的な車両挙動の制御が可能になることも関係しているのだろう。

 とはいえ、今回の後輪駆動で動力性能に不足感はない。272PS/343Nmという性能も十分といえるが、モーターはアクセルを踏んだ瞬間から力強いトルクを発生するものであるし、そもそもAWD仕様の発進加速はポルシェ並みのスタートダッシュを見せるほどパワフルだと考えれば、一般的なエンジン車で2WDと4WDを比較するときほど、パフォーマンスの差を意識する場面は少ないレベルにある。

アクセルOFFで回生ブレーキを行なうワンペダルドライブは、ステアリングのボタンで切り替え可能
下り坂などで重宝する強めの「高」、街中などで便利な弱めの「低」のほか、高速道路などで活躍するコースティング(惰性で走行)する「OFF」の3モード

 今回の試乗を通して思ったことは、クロスカントリーだからといって、悪路を走るためだけのクルマではないということ。しなやかで快適な乗り心地と実用性。北欧ブランドらしい居心地のよい空間。クロスカントリーらしい世界はそのままに、50万円価格を抑えたRWDは、EX30 クロスカントリーの魅力をより身近に味わえる1台といえるだろう。

藤島知子

幼い頃からのクルマ好きが高じて、2002年より市販車やミドルフォーミュラカーのレースに参戦。2017年より競争女子選手権「KYOJO CUP」に参戦。スーパー耐久 富士24時間レースにホンダ シビックタイプRで参戦するなど、自身のドライブ体験を通じたレポートも行っている。現在はレース活動で得た経験や走り好きの目線、女性目線をもとに自動車メディアやファッション誌などに寄稿。テレビ神奈川の新車情報番組『クルマでいこう!』は出演16年目を迎え、お茶の間にクルマの楽しさを幅広い世代に向けて発信している。趣味は好奇心の赴くままに走る冒険ドライブ。日本自動車ジャーナリスト協会理事、日本力ー・オブ・ザ・イヤー選考委員

Photo:堤晋一