インプレッション

ホンダ「オデッセイ」

重量級ミニバンとは思えない骨太な走り

 大きく生まれ変わったオデッセイ。3代目、4代目が守ってきた低いボディー(全高1550mm)から一転して、1695mm(アブソルートは1685mm)と150mm近く全高が上がったトールボディーをまとっている。とはいえ、初代オデッセイの全高は1675mmであったことから、原点回帰ということか。そんな5代目オデッセイに試乗した。

 試乗したのは「G EX」グレードで、装着タイヤは215/60 R16サイズのダンロップ SPスポーツ230。乗り味は全車速域で非常にマイルドであり、3列目シートを多用するのであればこのG EXがオススメだ。ボディーの骨格はスポーツグレードである「アブソルート」と同じだから、走りのしっかり感は高い。しかも、その気になれば十分に速く、大きなボディーからは信じられないほど軽やかな身のこなしを披露する。この特性は「アルファード&ヴェルファイア」の「G's」に近い確かなもので、ステアリングのレスポンスも重量級ミニバンとは思えないほど骨太だ。これには入力側とアシスト側の両方にピニオンを使った「デュアルピニオンEPS」の存在が大きい。

オデッセイは全車215/60 R16タイヤを装着。G EXは6.5Jのアルミホイールを標準装備。ほかのグレードではスチールホイールにフルホイールキャップを備える

 とはいえ、さすがにワインディング路で元気よく走るとタイヤそのものがゴリッとよじれ、ボディーもそれに応じてゆったりとピッチングを始めながら、深く切り込んだステアリング操作には比較的大きなロールを許す。このあたりに不満を感じるのであれば専用パーツで足まわりを固めたアブソルートという選択肢もあるが、2、3列目シートの快適性だけを例にとってみれば、残念ながらG EXよりも2ランクは落ちてしまう。もっとも、グレードごとにクルマのキャラクターが違うことはユーザーからしてもわるいことではない。こと最近のホンダでいえば、中途半端なグレード設定をするより、こうしたエッジの効いた分かりやすいグレード構成のほうがファンからも好意的に解釈されるだろう。

 搭載エンジンは2.4リッターのi-VTECだが、直噴式のアブソルートに対して、標準仕様のG EXは通常のポート噴射式を採用する。スペック的には175PS/23.0kgmと直噴式から15PS/1.2kgmほどダウンするが、常用域である2000rpm台の実用トルクは机上だけでなく実際のドライバビリティ上でも大差がないため、全開加速時以外は出力差を体感することは少ない。また、CVTが黒子となってエンジントルクをうまくコントロールしているため通常走行にも不足がない。さらに今回の試乗では、ほぼ全域で燃費数値重視(≒燃料噴射を抑える)の特性となる「ECONモード」をオンの状態で走行したが、CVTの優秀なエンジントルク制御と相まって、もどかしいと感じる場面はほとんどなかった。

 そのCVTは新開発。DBW協調制御である「G-design Shift」を採用したダイレクトフィールが特徴だ。スロットルを深く踏み込んだときだけでなく、街なかでの右左折時に多用するジワッと踏み足す場面でも、しっかりと体感できる駆動力が生み出されるため安心感が非常に高い。さらに、先代のCVTから19%ほど変速比幅が広がっていることも手伝って、あらゆる速度域で踏み込み量に応じた加速が即座に生み出せるようになった。

 また、減速時は必要に応じてCVTのレシオが低くなるため、有段ギヤのトランスミッションのようにエンジンブレーキを積極的に活用できる。こうした制御はホンダのみならず、他メーカーの車両が搭載するCVTにも採用されているが、新型オデッセイでは他車にはないメリハリのある制御が特徴だ。非常に実用的なのは、減速の度合いや路面の傾斜角、さらにはステアリングやブレーキの操作量から判断して、Dレンジのままでも自動的にレシオが低くなる減速制御が入ること。降坂路のコーナー進入時にはあたかもその先の道路状況を把握しているかのように、ステアリングを切り込むころには減速度が立ち上がっているためコーナーリング中は終始安定した姿勢で走れる。

本革巻ステアリングホイールはアブソルート全車とG EXで標準装備。電動パワーステアリングには「デュアルピニオンEPS」を採用する
従来型比で変速比幅を約19%広げた新開発CVTが安心感と瞬発力を生み出す

 多人数乗車が目的のミニバンで過激に走ることは少ないと思うが、じつは普段の走行でもこうした制御は役に立つ。例えば、大型ショッピングセンターの立体駐車場では急なスロープに出くわすこともあるが、減速制御はこうした路面にさしかかった場面でもすぐさまレシオが低くなり、フットブレーキへの負担を軽減してくれるのだ。ステアリングコラムにパドルシフトが装備されるのはアブソルートのみだが、かなりのペースで走ってみたものの登坂路/降坂路ともDレンジのみで走り切ることができるため、正直、パドルシフトの必要性をそれほど感じなかった。今回のCVT制御はじつに優秀だ。

 高速道路ではどっしりとした巡航特性が光る。ワインディング路では鋭利な一面を見せた電動パワーステアリングも過敏なところがなく、中立付近でも座りがよいためリラックスした走行が可能だ。ただし、コーナーの途中で大きなうねりが連続して車両姿勢が不安定になりがちな場面では、まれにボディーのピッチングが増幅されることがあり、少しだけヒヤッとすることもあった。市街地走行では蓄冷エバポレーターを採用したアイドリングストップ機能を試したかったのだが、試乗車のトラブルで1回も機能することがなかった。こちらの評価はいずれ行いたい。

4代目モデルから150mm近く全高を高めたトールボディーを採用する5代目オデッセイ

居住性を向上させながら“走りのホンダ”を譲らず作り上げた1台

 肝心のインテリアだが、居住性に関しては手放しで褒められる! 全高1890mmのアルファード&ヴェルファイア同等とまではいかないものの、室内高は1325mm(アルファード&ベルファイアは1400mm)と先代比で105mmも拡大されているため、前後シート間の車内移動が簡単に行える。

 7人乗りの2列目シートは左右独立型のキャプテンシートで、足を前に投げ出せるオットマンも装備する。740mmのロングスライド量を誇るだけあって、最後端まで下げればそれこそリムジンに乗っているような居心地だ。また、リアドアの開閉形式を従来型のヒンジ式からミディアムクラス以上のミニバンで一般的なスライド式に変更したが、開口部のステップ高は約300mmと圧倒的に低い。そのため乗降性は非常に良好で、さらにフロア側のシートレールはすき間の幅を狭く造り込んでいるため、誤ってつま先が入り込むこともなく安全だ。

7人乗り仕様に装着する「2列目プレミアムクレードルシート」。オットマン、角度調節式両側アームレスト付なども備えている
3人掛けのベンチタイプとなる3列目シートはシートバックの角度を別々に調節可能

 2列目シートはリクライニング時に背中のカーブに沿うようバックレストを中折れさせて、上半分だけの角度を起こすことができる。さらに、バックレストを後方に倒すアクションに連動して座面前端が持ち上がる「クレードル機構」が組み込まれているが、座面に使われている表皮の摩擦係数の関係もあるのか、アブソルートに標準装備のコンビシート(プライムスムース×ファブリック)では制動時にお尻が前に滑ることもあった。もっとも、こうした現象はオデッセイに限ったことでなく、国内外問わずキャプテンシートを採用する全モデルに共通する傾向で、本来であればもう少し厳しい規制があってもよいと感じている。いくら快適になろうとも、車内はリビングではないからだ。

 質感に関しては、残念ながら期待値よりも低かった。先代、先々代ともにインパネ周辺の質感が非常に高いことがオデッセイの特徴の1つだったが、新型は機能的でクリーンなデザインは大いに評価できるものの、木目調パネルの質感や各種スイッチの操作フィールに物足りなさを感じてしまう。本革のしぼを模したダッシュボードのソフトパッドパネルにしても見た目はよいが、手触りはラバーフィールそのものだ。

 静電タッチ式を採用したエアコン操作パネルにいたっては、同じく静電タッチ式を採用する「フィット」のように指の腹部分で操作できるならよいのだが、オデッセイはアップライトなドライビングポジションとなるため、そのまま手を伸ばすと指は立ち気味になり、指先の爪に近い部分で操作することになる。それを避けるには、操作時に掌を少し起こしつつ手首の位置を下げ、指の腹部分で操作しなければならず少々面倒だった。

 全高を高くしたことで「既存のオデッセイファンをないがしろにしてしまったのではないか」との声もあったが、初代や2代目ユーザーからは大きなキャビンを望む声もあったという。5代目は居住性を向上させながら、“走りのホンダ”を譲らずに作り上げた1台だ。そうした意味では新ジャンルのミニバンといえる。このボディーにアコード ハイブリッドのi-MMDが搭載されたら怖いものなし、と思うのは筆者だけだろうか……。

Photo:安田 剛

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員