インプレッション
三菱自動車「eKスペース」
Text by Photo:堤晋一(2014/3/18 12:47)
日本で2013年に販売されたクルマのうち、約3台に1台が軽自動車(商用軽自動車を除く)だが、なかでも三菱自動車工業「eKスペース」が属する容積型ともいえるビッグキャビンをセールスポイントにした実力派モデルの引き合いは強い。乗り込んでみると、確かにボディーサイズに制約のある軽自動車とは思えないほど空間に余裕があるし、助手席との距離であるカップルディスタンスにしても、こうした容積型の場合は縦方向にゆとりがあるため、日本人の平均的な身長であればたとえ男性同士であっても窮屈さは不思議と少ない。人気の秘密はこうしたスペース効率の高さにも表れている。
eKスペースは、先にデビューしている「eKワゴン」のトールボディー版だ。御存知のとおり、eKワゴンは日産自動車とのジョイントベンチャー(資本比率は50:50)である「株式会社NMKV」で企画/開発されている軽自動車で、eKスペースも同じ三菱自動車の水島製作所で製造される。ちなみにeKスペースの日産版は「デイズ ルークス」を名乗り、eKワゴンと同タイミングで発売された「デイズ」をベースとする流れも同じだ。
eKスペース専用に設計されたインテリア
eKスペースに乗り込んでの第一印象は「eKワゴンとは装備や造形にかなりの違いあるな」ということ。もっとも室内の高さが120mm高い1400mmも確保されているわけだから、それに伴い頭上空間が広がりを見せるのは当然で、セダンライクなeKワゴンに対してeKスペースはまさにミニバン。登録車で表現するなら「マークX」や「スカイライン」に対してボディー全高がたっぷりと取られた「アルファード/ヴェルファイア」や「エルグランド」級だ。
インテリアの全体的なトーンはeKワゴンを踏襲するも、たとえばインパネ全体の造形からメーター内の配置、さらにエアコンパネルやドアの内張り形状(腕があたる部分のえぐりを拡大)に至るまでeKスペースの専用設計となった。薄利多売がモットーの軽自動車でありながら、これだけの専用設計を採り入れつつコスト管理がしっかりと行えるあたりは、さすがNMKVの手腕が発揮されたということか。
ただ、こうしたインテリアの専用設計は、何も意匠変更によるイメージチェンジだけが目的ではない。「eKスペースは全高を高くすることで軽自動車としてはトップクラスの広いキャビンを実現していますが、それに伴い、ドライバーの操作性にも格段の配慮をしています」と語るのは、三菱自動車の西角新也氏(デザイン本部デザイン部)。確かにeKワゴンよりもアップライトなドライビングポジションとなったことで、シート高、ステアリング位置、アクセル/ブレーキペダルの配置など、eKワゴンとは違いが発生するため、そのままeKスペースに移植したとしても操作性がわるくなってしまうことは容易に想像できる。
そこでNMKVの開発チームは、そうしたディメンションの違いに応じて大胆に、そして基本を忠実に守りながら専用設計を取り入れたのだ。シートは高さ調整機構の調整幅を見直しつつ、アップライト化により上から踏みつける格好になりがちなアクセル/ブレーキペダル配置に角度をつけて対処。また、最近のニューモデルに増えてきた静電タッチパネル方式を採用するエアコン操作部も、ボタンにあたる操作部分の光沢を落とすことで摩擦係数を増やしながら、同時にボタンを触感で認識できるように、操作部分を楕円で囲んでいる。これは運転時に視線を落とすことなくエアコンの操作を行うブラインドタッチに対応させるためだ。
実はこのエアコン操作パネル、同じく静電タッチパネル方式を採用するeKワゴンでは全面的にフラットなツルッとしたパネルを採用していたのだが、一部のユーザーから「ボタンの位置が分かりづらい」との声が上がっていたという。eKスペースではこうした声を受けていち早く対処しているが、「素早い対応ができたのはNMKVのチーム力があってこそ」と、清水圭一氏(NMKV開発グループ 設計チーム)は胸を張る。
エンジンラインアップは自然吸気(ekスペースとeKスペース カスタム)とターボ(eKスペース カスタムのみ)だが、試乗車の関係で主にステアリングを握ったのはターボモデルであり、自然吸気モデルはターボモデルとの違いを確かめる意味合いで10分程度に限られていた。
安心感たっぷりの走りが堪能できる
早速、成人男性3人+30kg程度の撮影機材などを搭載した状態で試乗を開始。朝イチからの試乗枠で、エンジンもCVTも完全に冷え切ったコールドスタートだったため、まずは車両の各部の感触を確かめるようにゆっくりと走り出す。
ここで早くも意外だったのはeKワゴンよりも90kgかさむ車重(カスタムTでの比較)でありながら、動き出しから非常にスムーズで力強いことだった。これは重くなったeKスペースに合わせてCVT変速制御を加速方向に振ることで得られた特性だ。じつはeKワゴン(およびデイズ)がデビューした当時、日常的によく使う速度域での加速力が明らかに不足していたのだが、eKスペースでは先の対処によって加速力を向上させている。
加速力の向上は同時にエンジンの常用回転域をも上げるため、キャビンへ侵入するエンジン音が大きくなる傾向にある。eKスペースの場合、3500rpmあたりから侵入するエンジン音が大きくなりはじめ、5000rpmを超えるとかなり騒がしい印象。ちなみに5000rpmを超えるような状況は高速道路上での追い越し加速時に頻繁に見られる。もっとも、この時のアクセル開度はほぼ全開であるため相応の音量といえばそれまでだし、しっかりと伸びのあるパワーを即座に生み出しているため、実際の加速力とドライバーの要求レベルにもズレはない。ただ、高回転域でのエンジン音がザラついた音質であるため、ドライバーには実際の音量以上に感じられてしまうことが惜しい。
足まわりの設定は非常にしっかりとしていて、同じく容積型であるダイハツ工業「タント」やスズキ「スペーシア」と比べても全体的に落ち着いた印象が強い。とはいえ、細かく見ていくと30km/hあたりの速度域で前席の足下付近を中心とした小刻みに前後左右に振られる振動が発生し、それが乗り味を悪化させていたのも事実。これは発生個所から推測するに、スライドドアを採用したことによるボディーの剛性強化部分とその他との剛性差異による共振であると判断できる。しかし35km/hを過ぎたあたりからその共振は徐々に減少し、45km/hを過ぎたころにはピタリと収まる。また、そこからの速度域ではむしろボディーの一体感が強まる傾向となり、eKスペースならではの安心感たっぷりの走りが堪能できた。
一方の自然吸気モデルは、eKワゴン(M/Gグレードの2WD車)に搭載されている圧縮比12.0の燃費スペシャル版は搭載されず、eKスペースでは圧縮比10.9の標準タイプのみだ。しかし、CVTのファイナルギヤ比を6.8%ほど加速側に変更(10.9版同士での比較)しつつ、ターボモデル同様にCVT変速制御を加速方向に変更したため、車両重量がeKワゴンから100kg増加しているにも関わらず、発進加速時からもたつき感はなくイメージ通りに速度を乗せていく。市街地走行が多く、多人数乗車での高速道路利用が少ないのであれば自然吸気モデルでも十分だ。少なくともeKワゴン(自然吸気モデル/圧縮比12.0版)に抱いていた加速力に対する不満は解消された。
ただし、安全技術に関してはライバルに遅れをとってしまったのは明らかだ。今や軽自動車であっても「衝突被害軽減ブレーキ」の装着が選べないことは販売の面からも大いに不利。開発陣もその必要性を感じているというから、この装着は時間の問題と考えていいだろう。