インプレッション

メルセデス・ベンツ「CLA シューティングブレーク」

クーペよりも異彩を放つ!?

 メルセデス・ベンツの販売が好調だ。

 2014年には、輸入車ブランドでフォルクスワーゲンに次ぐ2位となる6万834台を販売し、さらに2015年の上半期はフォルクスワーゲンをしのぐ実績を挙げており、久々に輸入車でナンバーワンの座に返り咲きそうな勢いを見せている。

 その原動力となっているのが、「MRF」と呼ぶメルセデスの新しいFFプラットフォームによる一連のコンパクトモデルだ。2014年にはAクラスが9461台、Bクラスが4495台、CLAが4376台、GLAが4160台(数値はJAIA[日本自動車輸入組合]調べ)の販売を達成しており、輸入車販売のトップ20にコンパクトモデルがすべて入っている。合計すると2万2492台と、メルセデス全体の中での販売比率も前年の19%から34%へと大幅に向上した。

 その勢いをさらに増すことになりそうなニューモデルとして加わったのが、「CLA シューティングブレーク」だ。クーペの高いデザイン性を犠牲にすることなく、広い室内空間とラゲッジルームを実現したことがポイント。リアエンドまで伸びた流麗なルーフラインや、特徴的なサイドウインドーグラフィックを見るにつけ、異彩の放ちっぷりはむしろこちらのほうが上では? と思わせるものがある。

スタイリッシュなフォルムに後席の居住性とラゲッジスペースを確保した「CLA シューティングブレーク」。撮影車は「CLA 180 シューティングブレーク スポーツ」で、ボディーサイズは4685×1780×1435mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2700mm。クーペモデルのCLA 180と比べ45mm長く、5mm高いサイズ。なだらかなAピラーや大型アンダーパネルなどの採用によって空力性能を高め、Cd値は0.26を実現している。ボディーカラーはポーラーシルバー
CLA 180 シューティングブレーク スポーツではAMGスタイリングパッケージ(フロントスポイラー、サイド&リアスカート)を装備するほか、LEDのポジショニングライト、ウインカー、リアコンビネーションランプ、リアフォグランプが標準装備される
アルミホイールは18インチのAMG5ツインスポークを採用。そのほかMercedes-Benzロゴ付ブレーキキャリパー&ドリルドベンチレーテッドディスク(フロント)を標準装備する
CLA 180 シューティングブレーク スポーツのインテリアはブラックを基調とし、トリムにブラッシュドアルミニウムを組み合わせる。そのほかAMGスポーツステアリングやAMGフロアマットなども標準で装備する。CLA比で後席のヘッドクリアランスを42mm拡大して居住性を高めているのもポイントの1つ

ワゴンというよりハッチバックに近い

 試乗の前に実用性をチェック。

 ラゲッジルームについては、まずこのクラスで自動開閉テールゲートを設定しているあたりはさすがである。そして容量についても、通常時で495L、最大で1354Lまで拡大できるとのことで、スタイリッシュなフォルムを維持しながら意外にもかなりの広さを確保している。

 ただし、リアバンパー上面とラゲッジフロアは掃き出しではなく段差が設けられていたり、テールゲートの角度がかなり寝かされていたりして、使い勝手としてはワゴンというよりもハッチバック車に近いと言えそう。

 それゆえ大きな荷物の出し入れには向かなさそうなのだが、リアタイヤ後方は横幅が広くなっているので、ゴルフバッグは1つなら真横に向けて積める。また、テールゲートの角度が寝ているため、車両の後方に障害物のある状況で駐車しても、荷物の出し入れがしやすいというメリットもある。

ラゲッジルームは通常時で495L(VDA方式)を確保。2:1分割可倒式の後席バックレストを倒すと最大1354Lまで拡大することが可能。自動開閉テールゲートは「CLA 180 シューティングブレーク」をのぞく全車に標準装備

 後席のヘッドクリアランスはクーペのCLA比で42mm拡大しており、CLAは平均的な成人男性の体格(身長172cm)の筆者が座ると、頭頂部あたりにやや狭さを感じたところ、シューティングブレークはこぶし1つ分ほど余裕がある。後方に行くにつれアーチを描きながら急激に天地高が狭まるユニークなサイドウインドー形状ゆえ、開放感が損なわれているのではと予想したがそれほどでもなかった。

 CLAとは後席の乗り心地も違うとのことだったので、先に後席の乗り心地を確認したところ、路面への当たりがマイルドで、突き上げ感があまり気にならなくなっていた。スペース的に、横3人掛けは少々キツそうだが、2人掛けでの乗り心地を含む居住性は、長時間の乗車にも十分に応えるものだ。

 一方、運転席に座って気になったのは後方視界だ。むろん、このスタイリングが手に入るのなら構わないだろうという話ではあるのだが、リアウインドーの視野が天地方向、左右方向とも狭いうえ、この形状のリアピラーによる死角も大きめで、斜め後方の視界もあまりよろしくない。

 それは運転中はもとより駐車時にも影響するので、リアビューカメラは装備されるものの、メルセデスで「360度ビュー」と呼ぶ、周囲の状況を俯瞰映像で確認できる装備が設定されているとなおよかったように思う。

こちらは専用の内外装を纏った特別仕様車の「CLA 250 シューティングブレーク オレンジアートエディション」。ボディーカラーはマウンテングレー
フロントグリル内側、ドアミラー、リアスカート、バイキセノンヘッドライトのリングなどにオレンジのアクセントを配したエクステリアを採用。専用となる19インチAMGマルチスポークアルミホイールのフランジ部にもオレンジの塗装が施される
CLA 250 シューティングブレーク オレンジアートエディションのインテリア。バケットタイプのAMGパフォーマンスシート、AMGパフォーマンスステアリングを装備するほか、シートやコンソールボックス、ドアトリムなどにオレンジのステッチをあしらい、内外装での統一感を図っている

幅広い層に受け入れられそう

 5.1mの最小回転半径と、1800mmを切る全幅による取り回しのよさも、このクルマならでは。今や数少ない手ごろなサイズのコンパクトワゴン的な使い勝手のよさも魅力に違いない。

 今回は、見た目に新しい感覚のデコレーションを施した特別仕様車「CLA 250 シューティングブレーク オレンジアートエディション」(567万円)と「CLA 180 シューティングブレーク スポーツ」(428万円)を、湘南の自動車専用道路と一般道でドライブ。前者は直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジンを、後者は直列4気筒DOHC 1.6リッター直噴ターボエンジンを搭載する。

 どちらもDCTとの組み合わせで、トルコンを持たないことによる機構的な負荷を低減すべく、あえて初期のトルクの立ち上がりを抑えているせいか、走り出しからタウンスピードの流れに乗せるまでの印象は、2.0リッターで211PS/350Nm、1.6リッターで122PS/200Nmというスペックの違いからイメージするほど大きな差はないように感じた。

CLA 250 シューティングブレーク オレンジアートエディションに搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボ「270M20」エンジン。最高出力155kW(211PS)/5500rpm、最大トルク350Nm(35.7kgm)/1200-4000rpmを発生。JC08モード燃費は14.6km/L、無鉛プレミアムガソリン仕様
CLA 180 シューティングブレーク スポーツに搭載する直列4気筒DOHC 1.6リッター直噴ターボ「270」エンジン。最高出力90kW(122PS)/5000rpm、最大トルク200Nm(20.4kgm)/1250-4000rpmを発生。JC08モード燃費は15.9km/Lで、こちらも無鉛プレミアムガソリン仕様となっている

 ところが、そこから上の速度域まで加速させたいときの印象には、パーシャルスロットルでの車速の伸びや、絶対的な動力性能には、やはりスペック相応の違いがある。

 価格と内容のバランスを考えると、CLA 180 シューティングブレーク スポーツがベストバイではないかと思うところだが、別の機会にAMGが開発に携わった「CLA 250 シュポルト 4MATIC シューティングブレーク」(545万円)をドライブしたのだが、そちらの走りはまた別物。機会があれば詳しくリポートしたいと思う。

 競合車に対しては、レーダーセーフティパッケージやCOMANDシステムといった、メルセデスがアドバンテージを誇る優れた装備の数々が用意されている点も魅力。クーペのCLAと同じくユニークなスタイリングは、これだけでも欲しいと強烈に思う人が少なくないはず。その上に、これほど多くの訴求点を身に着けたクルマなどこのクラスには不在だ。そしてメルセデスの中でも、一連のコンパクトモデルにおける隙間を埋めるだけでなく、こうした新しいアプローチを見せてきたところも興味深い。

 スタイリッシュなコンパクトワゴンとしての需要はもとより、同門の中でも、クーペのCLAに魅力を感じていたもののユーティリティ面で不安のあった人や、AクラスやBクラスを検討していたが、少し予算を増やしてでも欲しいという気持ちになった人など、CLA シューティングブレークは幅広いユーザーを取り込むことができそうだ。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸