インプレッション

ボルボ「V60 D4 ポールスター・パフォーマンス・パッケージ」

ボルボのディーゼルに早くも次なる一手

 2015年7月、一気に5モデル同時にラインアップという鮮烈なデビューを飾ったボルボのディーゼルが、矢継ぎ早に次の一手を打って出た。

 件の出て間もない直列4気筒2.0リッターディーゼルの「D4」と、直列4気筒2.0リッターガソリンの「T5」に、ガソリンの直列4気筒1.6リッターの旧型「T4」や、直列6気筒3.0リッターの「T6」で好評を博している「ポールスター・パフォーマンス・パッケージ」がラインアップされたのだ。

 少しおさらいすると、ポールスターというのは1996年に設立され、ボルボを駆りレースに参戦してきた、もともとボルボにとって「公式パートナー」と呼ぶ位置づけの集団。2009年からは市販車のソフトウェアビジネスを展開している。

「ポールスター・パフォーマンス・パッケージ」というのは、そのポールスターが手がけたエンジンマネージメントプログラムであり、専用ソフトウェア導入によりエンジンの出力やトルクを最大限に引き出すというものだ。今回の「D4」と「T5」については、ボルボの新世代パワートレーン「ドライブE」で初めて同パッケージが設定されたことになる。

 ご参考まで、ボルボが日本にディーゼルを導入したちょうどそのころ、本国のボルボがポールスター社のビジネス部門の株式を取得した。ただし、レース活動の部門は従来どおり。よって今後は、もっとボルボ×ポールスターの名前を目にする機会が増えていくことと思われる。

 今回は「D4」に同パッケージを装着したV60をドライブすることができた。

撮影車両はV60 D4 ポールスター・パフォーマンス・パッケージ。車名にあるとおり、専用エンジン・マネジメント・プログラム「ポールスター・パフォーマンス・パッケージ」を装着したモデルとなる。パッケージは専用ソフトウエア、POLESTAR リアエンブレム、オーナーズブック(英語版)、POLESTAR ソフトウェア搭載認定証、メーカー保証が付属し、価格は18万8000円(作業工賃込み)
外観上で「ポールスター・パフォーマンス・パッケージ」の装着/非装着がひと目で分かるPOLESTAR リアエンブレム
撮影車は18インチアルミホイール(タイヤサイズ:235/40 R18)を装着
インテリアでベース車との差異はない

最高出力10PS、最大トルク40Nm向上

「ポールスター・パフォーマンス・パッケージ」の装着により、ベース車の最高出力140kW(190PS)/4250rpm、最大トルク400Nm/1750-2500rpmから、147kW(200PS)/4000rpm、440Nm/1750-2250rpmへと性能アップ

 こうしたメーカー直系のチューニングというのは、近年では多くのメーカーがこれまでにも増して力を入れているように見受けられる。そんな中で、クリーンディーゼルをチューニングしたというのがポイントだ。世にも珍しいチューンド・ディーゼルである。

 実のところ、ガソリンほど緻密に燃焼をコントロールできないディーゼルというのは、本来的にはチューニングによる効果が現れにくい。ところがポールスターは、もともとドライブEの開発に初期段階から深く関与しており、どのようにチューニングすると効果的なのか、その勘所をよく知っているわけだ。

 エンジンスペックは、そもそもがハイパワーな標準の「D4」に対し、最高出力は140kW(190PS)から147kW(200PS)へと7kW(10PS)も向上するとともに、発生回転数は4250rpmから4000rpmへと低まった。最大トルクは400Nm(40.8kgm)から440Nm(44.9kgm)となり、発生回転数は1750-2500rpmから1750-2250rpmへと、やや低回転よりに移行している。

 10PS増しのパワーももちろんだが、実に40Nmも向上したピークトルクの上がり幅の大きさには、期待せずにいられない。さらにはパワーについても、ピークではなく2000-4500rpmの中速回転域での最大出力も上がっているという。ノーマルのままでも十分に美味しい「D4」が、さらにひと手間かけることでどんなドライブフィールになるのか、楽しみだ。

ディーゼルながらスポーティ!

 D4は低回転域からトルクフルで、レスポンスも概ねよく、ディーゼルとしてはシャープな吹け上がりを実現するなど、もともと高い実力の持ち主である。ところが同パッケージ装着車をドライブすると、やはり違いは小さくないことを直感する。

 我々が普段運転していて感じるのはパワーよりもトルクの方なのだが、それが大幅に上がっているのだから推して知るべし。最大トルク発生回転数である1750rpmの少し下の回転域から、トルクの厚みの違いを感じる。

 スロットルレスポンスもより俊敏になっているし、踏み込んだときだけでなく、アクセルをOFFにしたときの回転落ちも速い。これもドライブを積極的に楽しもうという上では重要な要素だ。中~高回転域にかけては、吹け上がり方がより伸びやかになっていて、これまた全体としてディーゼルながらなかなかスポーティなフィーリング。いわゆるドライビングプレジャーを感じさせる仕上がりだ。もちろん、ガソリンでは味わえないディーゼルならではのトルクフルな走りはまったく損なわれていない。

 モード燃費が悪化することもなく、メーカー保証もそのまま対象となるので、装着によるデメリットは何もない。「そんなにいいものなら最初から標準装備にしてもいいのに」と思うくらいだが、そこは特別なものとして、後付けを前提にあえて区別しているのだという。

 とにかく、このところ日本でもディーゼルの注目度が高まっている中で、ボルボはいち早く、まだ多くの人が未体験であるチューンド・クリーンディーゼルの世界に踏み出したことに、ぜひ多くの人に目を向けてほしい。もともとオーバースペックといえる「D4」のポテンシャルをさらに引き出し、より深く味わうことのできる、価値ある18万8000円である。価格自体についても、従来より引き下げられたことも歓迎したい。

 新車を注文して納車前に装着することももちろん可能だが、しばらくノーマルを味わってから装着した方が、より同パッケージの効果をつぶさに体感できてよいかもしれない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛