インプレッション
三菱自動車「ミラージュ(2016年1月マイナーチェンジ)」
Text by 岡本幸一郎(2016/3/8 00:00)
制御の見直しでこれほど変わるとは
2015年末にタイでひと足早く触れることのできた、ビッグマイナーチェンジを受けた新型「ミラージュ」を日本の公道でドライブする機会が訪れた。
登場から3年半。最近ではこのクラスの競合車もあの手この手で商品力を高めてきている中で、ミラージュも見た目の雰囲気を一変させるとともに、内容の充実を図ったことはすでに感触を掴んでいる。
タイで試乗した際には明らかになっていなかった日本での価格は、充実装備の「M」が138万240円、上級装備の「G」が148万5000円とされた。ベーシックな「M」同士で比べると約4万円上がっているとはいえ、内外装の仕様や走行性能の向上、予防安全技術「e-Assist(イーアシスト)」の採用など、以下でお伝えする中身の上がり幅からすると、実質的には値下げといえるであろうことをあらかじめお伝えしておこう。
今回は臨海副都心と呼ばれる都内の湾岸エリアを主体にドライブした。
タイで試乗した機会にも概ね感じていたとおり、パワートレーンとシャシーの改良による走りの変化は実に分かりやすいもので、仮設のショートコースではなく公道をドライブして、いかに動的質感が引き上げられているかを実感した。エンジン、CVTとも基本構成パーツは従来から変わっていないものの、制御の見直しによりフィーリングは別物といえるぐらいよくなっている。
伝えられていたとおり、日本向けも1.0リッターエンジンが廃され、直列3気筒1.2リッターMIVECエンジン搭載車のみに絞られた。もともとトルク特性に優れるこの3気筒エンジンとの兼ね合いで、出足からあまりストレスを感じることなく加速していき、アクセルの踏み込みに対してリニアにエンジン回転が上昇し、そのとおりに速度が高まっていく感覚が心地よい。制御だけでこれほど変わるものなのかと思うほど違う。
D-Sモードにすると、よりダイレクト感のある走りとなる。強めに加速させたいときに、即座にダウンシフトしてくれるようになったところも進化点だ。いわゆるラバーバンドフィールが残っているのは否めないものの、モノは同じでもよくぞここまで躾けられるものだと感心した次第である。
アイドリングストップ後のエンジン再始動からの発進のショックも穏やかにされているし、それでいて出足にもたつきを感じさせることもない。ストップ&ゴーを繰り返す日本の交通事情下でも煩わしさを感じずにすむことだろう。
アイドリングストップ機構の「オートストップ&ゴー(AS&G)」に減速時に約13km/h以下からエンジンを停止させるコーストストップ機能が追加されたのもマイナーチェンジでの変更点で、よりエンジンが止まることをつぶさに感じることができるようになったのも新しい。
乗り心地を損なうことなく操縦安定性が向上
シャシーの味付けも大きく変わって、しっかりとした印象になった。
当初の味つけはいささかソフトすぎるきらいがあり、乗り心地のよさを訴求するためであることは理解できたとはいえ、ちょっと速度域が高くなるとやや不安感を覚えたのは否めず。ところがマイナーチェンジ後は、持ち前の乗り心地のよさを損なうことなく、操縦安定性が大幅に高まった。
ストラットの上部を強化したことも効いてか、路面からの入力の受け止め方も変わって、剛性の高さを感じさせるようになった。強い横Gのかかるコーナリングで深くロールするのは従来とさほど変わらないが、そこにいたるまでの過程がぜんぜん違う。従来はすぐにペタンとロールしていたところ、新型はGの高まりとともにリニアにロールしていく印象で、クルマの動きが掴みやすい。
また、リアが粘るようになったのも従来との大きな違い。ボディはコンパクトながらも欧州車的なドッシリとした乗り味を身に着けている。念を押すが、それでいて持ち前の乗り心地のよさがまったく犠牲になっていないところもよい。
電動パワステのフィーリングも、パーツに変更はないもののずいぶんよくなった。足まわりが変わると、それだけで電動パワステとのマッチングに影響するものだが、今回のサスペンションセッティングの変更に合わせて再調整された結果、全体としてとても自然なフィーリングに仕上がっている。とくに戻し側の味付けがリニアで心地よい。CVTと同じく、ハードウェアの限界もある中で、よくここまで仕上げられたように思う。
総じてフットワークの印象はなかなかのもの。また、3.8mを切る車体はとても取り回しに優れることをあらためて実感した。コミューターとしての実力も申し分ない。
コストパフォーマンス高し
音の侵入に関しては、タイのクローズドコースで試乗したときはあまり気にならなかったのだが、日本の公道で乗ると現在の水準としてはあまり静寂というわけではない。パワートレーン系から入ってくる低い音は、不快な音質ではないが音量はそれなり。
ただし、音質は少し変わったように感じられたのだが、それはCVTの変更でエンジン回転の上がり方が穏やかに上昇するよう変わったから。さらにはラゲッジにボックスが設定されたことも、後方からの音の侵入を抑えるのにひと役買っているようだ。
大きく変わったエクステリアデザインも、あらためて日本の風景の中で見てみるとずいぶん立派になったことを実感する。それに加えて、お伝えしたとおり中身もグンとよくなっているわけだ。
デビュー当初はそれなりに話題になったものの、最近ではすっかり存在感が薄れていたのは否めないし、タイ生産であることが日本では不当なまでに低いイメージを持たれる感もあるが、それは実にもったいない話。クルマとしての実力は申し分なく、今回の改良でさらにコストパフォーマンスの高いコンパクトカーに成長したことは間違いない。
軽自動車を含めた価格帯の近いクルマたちと比べても、価格に対するバリューにおいて新しいミラージュは俄然、優位に立ったように思えるのである。