インプレッション

三菱自動車「ミラージュ(2016年1月マイナーチェンジ)」

制御の見直しでこれほど変わるとは

 2015年末にタイでひと足早く触れることのできた、ビッグマイナーチェンジを受けた新型「ミラージュ」を日本の公道でドライブする機会が訪れた。

 登場から3年半。最近ではこのクラスの競合車もあの手この手で商品力を高めてきている中で、ミラージュも見た目の雰囲気を一変させるとともに、内容の充実を図ったことはすでに感触を掴んでいる。

 タイで試乗した際には明らかになっていなかった日本での価格は、充実装備の「M」が138万240円、上級装備の「G」が148万5000円とされた。ベーシックな「M」同士で比べると約4万円上がっているとはいえ、内外装の仕様や走行性能の向上、予防安全技術「e-Assist(イーアシスト)」の採用など、以下でお伝えする中身の上がり幅からすると、実質的には値下げといえるであろうことをあらかじめお伝えしておこう。

1月にマイナーチェンジした新型「ミラージュ」。新色のサンライズオレンジメタリックを採用する撮影車は上級装備を備えた「G」グレードで、ボディサイズは3795×1665×1505mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2450mm。今回のマイナーチェンジで直列3気筒DOHC 1.0リッターエンジンは廃され、直列3気筒DOHC 1.2リッターに1本化。そのほか低車速域衝突被害軽減ブレーキシステム「FCM-City」と誤発進抑制機能(前進時)を標準装備するなど、安全性が高められているのもトピックの1つ
フロントデザインは大幅に刷新され、ボリューム感のあるボンネットフード、クロームメッキで加飾されたアッパーグリルとロアグリル、下部にエアダム形状を配したフロントバンパーを採用し、スポーティなデザインに変貌
ブラック塗装&切削光輝仕上げの15インチアルミホイールを新採用。タイヤはブリヂストン「POTENZA RE050A」(タイヤサイズ:175/55 R15)を採用した
リアまわりでは大型リアバンパー、LEDリアコンビランプとともに、空力性能を高める新形状のルーフスポイラーを採用
「G」グレードはライトチューブ式LEDポジションランプを組み込んだ省電力ディスチャージヘッドライトを標準装備。「M」グレードはハロゲンヘッドランプとなる

 今回は臨海副都心と呼ばれる都内の湾岸エリアを主体にドライブした。

 タイで試乗した機会にも概ね感じていたとおり、パワートレーンとシャシーの改良による走りの変化は実に分かりやすいもので、仮設のショートコースではなく公道をドライブして、いかに動的質感が引き上げられているかを実感した。エンジン、CVTとも基本構成パーツは従来から変わっていないものの、制御の見直しによりフィーリングは別物といえるぐらいよくなっている。

 伝えられていたとおり、日本向けも1.0リッターエンジンが廃され、直列3気筒1.2リッターMIVECエンジン搭載車のみに絞られた。もともとトルク特性に優れるこの3気筒エンジンとの兼ね合いで、出足からあまりストレスを感じることなく加速していき、アクセルの踏み込みに対してリニアにエンジン回転が上昇し、そのとおりに速度が高まっていく感覚が心地よい。制御だけでこれほど変わるものなのかと思うほど違う。

新型ミラージュに搭載する直列3気筒DOHC 1.2リッターエンジンは、最高出力57kW(78PS)/6000rpm、最大トルクは100Nm(10.2kgm)/4000rpmを発生。今回のマイナーチェンジにより、アイドリングストップ機能「オートストップ&ゴー(AS&G)」では新たに車速が約13km/h以下まで減速するとエンジンを停止させる「コーストストップ機能」が追加されるとともに、低フリクションタイプのタイミングチェーンの採用などにより、JC08モード燃費は従来から+0.4km/Lの25.4km/Lに引き上げられた

 D-Sモードにすると、よりダイレクト感のある走りとなる。強めに加速させたいときに、即座にダウンシフトしてくれるようになったところも進化点だ。いわゆるラバーバンドフィールが残っているのは否めないものの、モノは同じでもよくぞここまで躾けられるものだと感心した次第である。

 アイドリングストップ後のエンジン再始動からの発進のショックも穏やかにされているし、それでいて出足にもたつきを感じさせることもない。ストップ&ゴーを繰り返す日本の交通事情下でも煩わしさを感じずにすむことだろう。

 アイドリングストップ機構の「オートストップ&ゴー(AS&G)」に減速時に約13km/h以下からエンジンを停止させるコーストストップ機能が追加されたのもマイナーチェンジでの変更点で、よりエンジンが止まることをつぶさに感じることができるようになったのも新しい。

「G」グレードはブラック内装を、「M」グレードはブラック&アイボリー内装を採用。「G」グレードでは、スポークの一部にピアノブラック&メッキ加飾を施した本革巻きステアリングホイールを標準装備したほか、メッキリング付きの高輝度常時透過照明点灯タイプのメーターを採用
ラゲッジルームでは、フロア下に新たにカーゴフロアボックスを採用して収納性を向上。また、後席シートバックを前倒しした際にラゲッジフロアをフラットにするなど、積載性も高められている

乗り心地を損なうことなく操縦安定性が向上

 シャシーの味付けも大きく変わって、しっかりとした印象になった。

 当初の味つけはいささかソフトすぎるきらいがあり、乗り心地のよさを訴求するためであることは理解できたとはいえ、ちょっと速度域が高くなるとやや不安感を覚えたのは否めず。ところがマイナーチェンジ後は、持ち前の乗り心地のよさを損なうことなく、操縦安定性が大幅に高まった。

 ストラットの上部を強化したことも効いてか、路面からの入力の受け止め方も変わって、剛性の高さを感じさせるようになった。強い横Gのかかるコーナリングで深くロールするのは従来とさほど変わらないが、そこにいたるまでの過程がぜんぜん違う。従来はすぐにペタンとロールしていたところ、新型はGの高まりとともにリニアにロールしていく印象で、クルマの動きが掴みやすい。

 また、リアが粘るようになったのも従来との大きな違い。ボディはコンパクトながらも欧州車的なドッシリとした乗り味を身に着けている。念を押すが、それでいて持ち前の乗り心地のよさがまったく犠牲になっていないところもよい。

 電動パワステのフィーリングも、パーツに変更はないもののずいぶんよくなった。足まわりが変わると、それだけで電動パワステとのマッチングに影響するものだが、今回のサスペンションセッティングの変更に合わせて再調整された結果、全体としてとても自然なフィーリングに仕上がっている。とくに戻し側の味付けがリニアで心地よい。CVTと同じく、ハードウェアの限界もある中で、よくここまで仕上げられたように思う。

 総じてフットワークの印象はなかなかのもの。また、3.8mを切る車体はとても取り回しに優れることをあらためて実感した。コミューターとしての実力も申し分ない。

コストパフォーマンス高し

 音の侵入に関しては、タイのクローズドコースで試乗したときはあまり気にならなかったのだが、日本の公道で乗ると現在の水準としてはあまり静寂というわけではない。パワートレーン系から入ってくる低い音は、不快な音質ではないが音量はそれなり。

 ただし、音質は少し変わったように感じられたのだが、それはCVTの変更でエンジン回転の上がり方が穏やかに上昇するよう変わったから。さらにはラゲッジにボックスが設定されたことも、後方からの音の侵入を抑えるのにひと役買っているようだ。

 大きく変わったエクステリアデザインも、あらためて日本の風景の中で見てみるとずいぶん立派になったことを実感する。それに加えて、お伝えしたとおり中身もグンとよくなっているわけだ。

 デビュー当初はそれなりに話題になったものの、最近ではすっかり存在感が薄れていたのは否めないし、タイ生産であることが日本では不当なまでに低いイメージを持たれる感もあるが、それは実にもったいない話。クルマとしての実力は申し分なく、今回の改良でさらにコストパフォーマンスの高いコンパクトカーに成長したことは間違いない。

 軽自動車を含めた価格帯の近いクルマたちと比べても、価格に対するバリューにおいて新しいミラージュは俄然、優位に立ったように思えるのである。

こちらは新型ミラージュの試乗会会場に展示されていた、2015年12月にフルモデルチェンジした新型コンパクトミニバン「デリカ D:2」。新開発の直列4気筒DOHC 1.2リッターエンジンとマイルドハイブリッドシステムを組み合わせるとともに、車重を先代モデルから約100kgダイエットされたことなどにより、JC08モード燃費は2WD車で27.8km/L(4WDは23.8km/L)を実現。撮影車は「HYBRID MZ」(ピュアホワイトパール)
先代モデルからエンジンルームの最小化、ホイールベースを30mm延長するなどし、クラストップの居住空間を実現。また、後席スライドドアの開口長を先代モデルから+60mmの640mmとし、乗降性も高められている

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛