インプレッション

アウディ「A4(2016年2月フルモデルチェンジ)」

ターボ付き直噴4気筒ユニットは2種類のスペックを設定

 メルセデス・ベンツ「Cクラス」にBMW「3シリーズ」。そんな両巨頭を筆頭に、強豪ひしめく欧州Dセグメントの中で健闘を続けてきたアウディ発のモデルが「A4」。前身の「80」時代にまでカウントを遡ると、世界での累計販売台数は1200万台以上。名称をA4と改めた1994年以降でもすでに20年以上の歴史を備えるこのモデルは、今や名実ともに「アウディ・ラインアップの屋台骨」と称して過言でない存在だ。

 いよいよ日本上陸となったここに紹介する新型は、前出の初代A4から数えると5代目となる。プレスラインのシャープさや、パネル間の隙間の少なさや均一性の高さなど、仕上がりのレベルに目をやれば、それが最新のモデルあることは明確。一方で、ルックスが放つ雰囲気全般がこれまでのモデルにかなり近く思えるのは、従来型のエクステリア・デザインに対する自信の表れを感じさせられる部分でもある。

 視線をインテリアへと移すと、こちらではフルモデルチェンジが一目瞭然。大型のメーター・クラスターを採用し、センターパネル部分にマルチメディア用ディスプレイをビルトインしていた従来型に対し、新型では水平基調のダッシュボードをセンターコンソールと視覚的に分離させ、ディスプレイはそのセンター部分にタブレットを立てかけたような昨今流行のデザインを採用。

 そんな新型のインテリアでのハイライトは、全グレードでマトリクスLEDヘッドライトなどとのセットオプションになる「Audiバーチャルコックピット」。12.3インチのカラーディスプレイにメーターやナビゲーション・マップなどをフルデジタル表示するこのアイテムは、新型「TT」が先鞭を付けた、新世代アウディ車が誇る最新装備だ。

「Audiバーチャルコックピット」の表示例。12.3インチのカラーディスプレイではスピードメーター、タコメーター、DIS(ドライバーインフォメーションシステム)に加え、地図やナビゲーションなどの情報を確認できる

 ヨーロッパ市場に向けては1.4リッターのターボ付きガソリン・モデルや、2.0リッターあるいは3.0リッターのターボ付きディーゼル・モデルも用意される新型A4。しかし、日本への導入はまずは2.0リッターのガソリン・ターボエンジンに7速DCTを組み合わせたものに限られている。

 この日本に導入されるターボ付き直噴4気筒ユニットには2種類のスペックを用意。ミラーサイクルを採用の“エコノミー仕様”が2WDモデルに、それよりも62PS増しの252PSの最高出力を誇る“ハイパワー仕様”が4WDモデルに搭載される。

2WD(FF)の「A4 2.0 TFSI」。ボディサイズは4735×1840×1430mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2825mm。従来モデルから15mm長く、15mm広くなり、全高は10mm低くすることでよりワイド&ローを強調するプロポーションを実現。車両重量は1540kg。車両価格は518万円だが、撮影車はオプション設定のボディカラー(アーガスブラウンM)、レザーパッケージ、17インチアルミホイール(7.5J×17)+225/50 R17タイヤ、マトリクスLEDヘッドライトパッケージ(マトリクスLEDヘッドライト、LEDリヤコンビネーションライト、LEDインテリアライティング、ヘッドライトウォッシャー、バーチャルコックピット)などを備え総額631万5000円
「A4 2.0 TFSI」が搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンは、最高出力140kW(190PS)/4200-6000rpm、最大トルク320Nm(32.6kgm)/1450-4200rpmを発生。JC08モード燃費は18.4km/Lとなっている。使用燃料は無鉛プレミアムガソリン
オプションのレザーパッケージで構成されるインテリア。先代モデルから室内長が17mm延長されるとともに、ショルダー部分の幅を11mm、前席乗員のヘッドクリアランスを24mm、後席足下空間を23mm(数値は欧州仕様での比較)拡大して快適性が高められた。また、新型A4では万が一の事故の際にフロントのシートベルトを巻き上げて拘束力を高める「アウディプレセンスベーシック」、約85km/hまでの速度で周囲のクルマや歩行者を感知し、衝突の危険性がある場合に警告を行なうとともに、必要に応じて自動ブレーキを作動させる「アウディプレセンスシティ」をはじめ、「リヤビューカメラ」「アダプティブクルーズコントロール(ACC)」「アウディパーキングシステム」などを全モデルに標準装備。ACCには0~65km/hで渋滞時に先行車両に合わせて制御を行ない、車速が0km/hになっても3秒以内に先行車両が動き出せば自動的にクルマを再発進させる「トラフィックジャムアシスト」機能が追加されるなど、充実の安全装備も特徴の1つ

 今回テストドライブを行なったのは2WD仕様のベースグレード「A4 2.0 TFSI」と、アウディ流儀で「クワトロ」と称する4WD仕様のスポーツグレード「A4 2.0 TFSI クワトロ スポーツ」。2つのグレードの差別化は、スポーツシートやスポーツサスペンションなど一部装備品や、バンパー・デザインの違いなどによって行なわれる。

 ちなみに今回取材したクワトロ スポーツは、さらにオプションで専用デザインのバンパーやドアシル・トリム、ベースグレードよりも1インチ大径の18インチ・シューズなどから成る「Sライン・パッケージ」を採用。

 そんな新型のボディは、全長とホイールベース、そして全幅が、それぞれ従来型よりも15mmずつ(Sライン付きの場合、全長は20mm)拡大されている。新骨格の採用などで重量増を回避したことは評価に値するが、じわじわと続くボディの大型化に今回も歯止めが効かなかったのは、特に日本の事情を考えればそろそろ憂慮すべき状況と言わざるを得ない状況だ。

4WDの「A4 2.0 TFSI クワトロ スポーツ」。撮影車はオプションカラーのデイトナグレーPEを採用するほか、専用バンパーや18インチアルミホイールなどをパッケージにした「S lineパッケージ」、マトリクスLEDヘッドライトパッケージなどを装備し、車両本体価格624万円に対し701万5000円というプライスになっている。車両重量は1660kg
A4 2.0 TFSI クワトロ スポーツに搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンは、最高出力185kW(252PS)/5000-6000rpm、最大トルク370Nm(37.7kgm)/1600-4500rpmを発生。JC08モード燃費は15.5km/L。使用燃料は無鉛プレミアムガソリン
マトリクスLEDヘッドライト
ドアミラーは先代モデルからマウントをボディ側に移すとともに、静粛性向上を目的に細かいリブが加えられた新デザインのもの
テールランプもLEDで構成
18インチアルミホイールは5ツインスポークスターデザイン(8J×18)。タイヤサイズは245/40 R18
クワトロを示すバッヂ
「S lineパッケージ」装着により、インテリアではデコラティブパネルがマットブラッシュトアルミニウムになるとともに、シートはS lineロゴ入りクロス/レザーのコンビネーションになる

190PSのベースグレードも十分な加速

 まずは2WDのベースグレードへと乗り込み、ドライビング・ポジションを決める。と、この時点で即座に抱いたのは、「従来型に対してより自然な姿勢で座れる」という好印象だ。

 実はこれまでのA4では、左足を理想の位置に置くことが困難だった。パワーパック縦置きのアウディ車の場合、その後端からアウトプットされた回転軸が、トランスミッション・ケース右側を通ってフロントアクスルへと“Uターン”する構造。そのため、右ハンドル仕様では左足のためのスペースが犠牲になっていたのだ。

 一方の新型では、そうした足下スペースのタイト感は大幅に解消。まだわずかにペダル全体が右側にオフセットした印象は残るものの、それも「気にしなければ分からない程度」にまで自然なポジションが採れるようになっている。同時に、全方向への視界のよさも高く評価したいポイント。特に右側ドアミラー周辺の抜けがよく、死角が最小限に抑えられている点は、当然安全上からも大いに歓迎できる仕上がりだ。

 先に“エコノミー仕様”と紹介したエンジンを搭載するものの、実はこれでも加速の能力は十二分。実際、0-100km/h加速タイムは7.3秒というから、十分過ぎるほどの速さの持ち主だ。

 ただし、惜しむらくはアクセルワークに対し、加速感がリニアさに欠ける場面があること。スタートの瞬間がわすがに力強さに欠け、それゆえアクセルを踏み加えてしまうと、今度は飛び出し感に見舞われるという挙動が現れがち。エンジントルクがタイトに伝達される感覚は、2WD仕様にも新採用されたDCTならではの美点。けれども、出足や中間加速での自然さという点では、従来型に分があったかも知れない。

 標準比で1インチ増しとなる17インチ・シューズをオプション装着していたことも影響してか、乗り味はわずかに硬めの印象。軽快で自然なハンドリング感覚やボディのしっかり感の高さは、このモデルの走りの魅力の1つだ。

 また、パワーアシスト感に人工的なテイストが表れがちなのがこれまでのアウディ車の常だったが、このモデルではステアリング・フィールがごく自然で滑らか。これも新型A4の走りの魅力ポイントと言えそうだ。

4WD仕様は一級のスポーツモデルの水準

 そんな2WD仕様から、4WD仕様のスポーツグレードへと乗り換える。最高出力/最大トルク値ともに、2WD仕様よりも大幅に高められた心臓を搭載するが、街乗りシーンではそれほど格段に力強さの差があるという印象にまでは至らない。車両重量が120kgほど上まわることや、2WD仕様の方がより低い回転数から最大トルクを発するエンジン設定であることなどが、そうした印象をもたらしていると考えられる。

 一方で、アクセルペダルを深く踏み込み、より高いエンジン回転数までを積極的に用いる走りのシーンでは、そのパワフルさは明確にこちらが上まわる。0-100km/h加速は5.8秒と、前出の2WD仕様との差は1.5秒。このデータはもはや一級のスポーツモデルの水準。実際、感覚的には「これならば“S4”を名乗ってもよいのでは」と、それほどの速さが実感できる。

 ところで、2WD仕様も含めてこのカテゴリーのトップランナーではないかと思えたのはその静粛性の高さ。滑らかな回転フィールとともに、高い回転数まで引っ張るのに抵抗が少ないことも、動力性能をより高いものに感じさせる一因であるのは間違いなさそうだ。

 スポーツグレードゆえスポーツサスペンションを標準採用することも手伝ってか、ハンドリングは2WD仕様以上に軽快かつ自在な感覚。前述のように18インチ・シューズを履いていたものの、快適性はさほどわるくない。

 こうして、かくも想像以上にスポーティなキャラクターの持ち主である一方で、単に「4WD仕様のA4が欲しい」という人にとっては、ここまでの動力性能は過剰とも映ってしまいそう。よりベーシックな心臓を搭載しながら、さらにリーズナブルな価格を実現させたクワトロや、すでに欧州市場に向けてはローンチされているディーゼル・モデルの設定なども期待をしたくなる――そんな思いも感じさせられる新しいA4シリーズの販売スタートだ。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は、2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式にしてようやく1万kmを突破したばかりの“オリジナル型”スマート、2001年式にしてこちらは2013年に10万kmを突破したルポGTI。「きっと“ピエヒの夢”に違いないこんな採算度外視? の拘りのスモールカーは、もう永遠に生まれ得ないだろう……」と手放せなくなった“ルポ蔵”ことルポGTIは、ドイツ・フランクフルト空港近くの地下パーキングに置き去り中。

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Photo:堤晋一