インタビュー
【インタビュー】ダイハツ「タフト」で出かけるワクワク感をインテリアで表現 デザイナー皆川氏に聞く
日々楽しく過ごしたい、そんなシーンにマッチするクルマに
2020年8月18日 10:08
ダイハツ工業から登場した新型軽クロスオーバー「タフト」。そのパッケージングコンセプトは「Backpackスタイル」で、それが如実に表れているのがインテリアだ。そこでチーフデザイナーのダイハツデザイン部担当デザイナー・主担当の皆川悟氏に具体的に説明してもらおう。
人がクルマに乗って出かけるワクワク感を表現したインテリア
――Backpackスタイルとは、前席と後席・荷室、人がいるスペースと使うスペースとを分けて考え、人が出かけるときに気軽にバックパックを背負って、さっと出かけるシーンを思い浮かべながらパッケージとデザインを融合させたものとのことです。その点についてインテリアデザインではどのように反映されているかについて教えてください。
皆川氏:まず1つは室内色を思い切って分けてしまえということが挙げられます。あとは造形的にもBピラーよりも後ろは人が乗って質感を感じるというよりも、どちらかというと荷室としてガンガン使ってもらえるように、色々な趣味の道具を乗せたりするときに、頑丈に見えるというようなところにこだわりながら意匠をしていきました。
――一方で前席まわりは人が乗ってワクワクしてどこかに行きたくなる雰囲気ということですね。
皆川氏:座って運転して、見て触ってワクワクするというところです。そういったところを部品デザインまでこだわっています。
――具体的にはどういうところで表現されていますか。
皆川氏:分かりやすいのは、エアアウトレットなどのオレンジ色のアクセントです。あとはメーターの中にも思い切ってオレンジを入れて、機械のような、ギア感をダイレクトに表現し、機能とワクワクする雰囲気にこだわりました。
全体のトーンとしては、わざとガチャガチャした空間にしています。通常ではすっきりとした空間として質感を出していくのですが、あえてワクワクというキーワードから追って行くと、自分の目の前がガチャガチャしていた方が楽しそうに感じるという、自分たちの実感からこの表現が生まれました。まるでブロックを組み合わせたような、ワクワクする雰囲気が味わえると思います。
運転するワクワクでは、エアアウトレットのオレンジにもつながるのですが、ドアのパワーウインドウのところも少し傾斜させたり、シフトまわりも縦につないだり、いわゆるコクピット感にもこだわった空間にしています。
――オレンジは目線が行って何となく楽しくなりますね。あえてオレンジというビビットなカラーを用いたのは勇気のある決断だと思います。
皆川氏:社内的にはかなりもめました(笑)。本当にオレンジを入れることによって棄却する人が出てこないかと、心配事ではありましたが、結果的に営業サイドも納得してオレンジになりました。このクルマの特徴であるスカイフィールトップを開けた時に、しっかりと映える色にしたいとこの色味を選んでいます。
個人的には、オレンジ色を嫌いな色という人はあまりいないのではないでしょうか。好きとは必ずしもいわないまでも、オレンジから連想するものは、柑橘系の果物や、太陽など、マイナスなイメージを持っているオレンジはあまりないのではないかと思っています。そこで使うのであれば、やはりこのアクティブなイメージにつながる、元気が出るという意味でのオレンジにはこだわりました。
思い切って提案した前後の違いを明確にする空間デザイン
――軽自動車のインテリアをデザインする際には、横基調にしてできるだけ幅広く見せたくなります。しかし今回はあえてど真ん中にセンタークラスターを通すなど、コクピット感やギア感を演出していますね。ここを横方向に通したりなどの案はなかったのでしょうか。
皆川氏:もともと電気式のパーキングブレーキをレイアウトする都合上、何かしらコンソールのようなものが必要だというのがパッケージ的にはありました。そこも含めて、コンソールを生かしたデザインにしていこうと、逆に運転席と助手席をバシッと切ってしまうアイディアはありました。
一方で、通常の軽自動車のように横方向に広がっているデザインは最初からあまり検討していません。運転席まわりは密度の高さをしっかり作ろう、それ以外のところの密度は低くして、粗密みたいなイメージで運転する空間とそれ以外とを分けるのが考え方です。厳密にいうと3つの空間になる……。
まず、最初のアイデア選択の段階では運転席のみとそれ以外という考えもありました。しかしさすがにそれだとちょっとやり過ぎだろうとなったのです(笑)。やはり前と後ろくらいだろうと、軽自動車なのでそれほど幅広くはありませんので、運転手と助手席の人が使える空間という形で前と後ろにしました。
――通常、コンセプトとして前後を分けるということはありますが、色まで変えて前後の違いを明確にするのはほとんどなく、凄いことですね。
皆川氏:その通りで凄いこと(笑)。とりあえず思い切って提案してみたらそのまま通ってしまった(爆笑)。どこかで消えるだろうなと思いつつ、いわれたら戻せばいいというところが本音です。普通に戻す分にはいつでも戻せますから。
実は後ろで使っているグレーは新しいタントで開発した新しい室内色で、その色が比較的ニュートラルなグレーで、荷物を積んで、例えば傷がついたときに黒よりはグレーの方が目立ちにくいという話もありますので、その機能にできるだけこだわろうということもありました。
当初はオレンジ色にしてしまえという案も。東京モーターショー2019に出展したWAKU WAKUは室内の後ろはオレンジにしていました。男性が持っているポーターのカバンなどは中がオレンジ色になっていて、そうすることで、中の荷物が見えやすくなるというアイデアも実際に検討したのです。しかし、さすがにやりすぎだろうということになり、結果的にグレーに落ち着いたのですが、機能にもこだわってはいます。
――WAKU WAKUも皆川さんの担当ですか。
皆川氏:これは本体が開発しているところで、モーターショー専用部隊が動いて開発しました。ただし、アイディア選択の時の初期のアイデアやキースケッチを上手に取り込みながら、それに忠実に仕上げていったイメージです。初期にやりたかったのですが市販するにはなかなか難しかったところを、もう一度モーターショーなのでやってしまえとなったところもあります。
――そこで評判がよかったので、取り入れなければとはならなかったのですか。
皆川氏:実はいくつかの部位ではそういう話もあったのですが、開発が終わっているタイミングでしたので、間に合いませんでした。今後の育成の中で検討していくアイテムも少しあるかなと思っています。
――最後にアピールするとすればどういうことでしょう。
皆川氏:デザイン的にはデザイナーの想いをそのままダイレクトに製品にしていったかなと思っていますので、正直、好き嫌いが分かれるところもあるでしょう。しかし、共感してもらえる方ができるだけ多くいるとうれしいですね。その共感というのは細部よりも、当初考えた、日々楽しく過ごしたいということです。特にこんな時代ですから、なおさらこのクルマは、日々楽しく過ごしたいというシーンにマッチするクルマになったかなと思っています。