インタビュー

【インタビュー】ダイハツ「タフト」のエクステリアデザイナー皆川氏が語る、「日常シーンで“気分がアガル”仕掛け」とは

子供が上を見上げた時に空が見えて会話が弾むことは、すごく嬉しいものになる

外形アイデア①(ダイハツ提供)

 ダイハツ工業から軽SUVの新型「タフト」がデビューした。バックパックスタイルという独特のコンセプトのもとにデザインされたこのクルマのエクステリアについて、担当デザイナーであるダイハツデザイン部 担当デザイナー・主担当の皆川悟氏にお話を伺った。

生活を楽しくするクルマ作り

――このクルマの始まりから教えてください。いつ頃からどのような成り立ちでこのクルマの企画がスタートしたのでしょうか。

皆川氏:ダイハツの軽のラインアップをこれからどうしていこうかという話がありました。ちょうど新プラットフォームのDNGAが出てきたころで、今後も国内の軽市場をダイハツとしてしっかり維持していかなければいけません。そこでイース、ムーヴ、タントの3本柱に加えてラインアップをどうしようかということが企画で議論が進んでおり、市場として将来性がありそうなSUVのジャンルはしっかり押さえておこうという話になったのです。そこでこの企画がスタートしました。だいたい2017年秋くらいです。

外形初期アイデア(ダイハツ提供)

――そこからチーフデザイナーとして皆川さんが担当することになったわけですが、その時にどう思いましたか。

皆川氏:正直、最初は立ち位置が難しい企画のクルマという印象でした。会社としては市場を確保していくために必要なクルマだといいながら、どんなクルマだったらそれができるのかということに対して少し曖昧なスタートだったのです。つまり、SUVというジャンル感だけは決まってはいましたが、どんなクルマかというところが少し曖昧な状態で企画がスタートしていたのです。

外形キースケッチ(ダイハツ提供)

 とはいえ市場を支えていくクルマとしての骨太なものにはしたい。そこで、最近SUVが一般化してきていますので、どちらかというと僕の想いとしては、ある意味“スタンダード”なクルマくらいのつもりで考えるべきかなと思ってスタートしました。

 もう1つ、このクルマでやりたいと思ったのは、楽しいクルマにしようということです。これは企画としても楽しいというキーワードが最初から出ていました。軽自動車を作っているダイハツとしては、お客さまの日常シーンを非常に重要視しながらクルマを作っていくのが、基本的な考え方です。私としては日常使っているシーンでいかに楽しく見えるかがすごく大事なところだと思ったのです。楽しく過ごすというのは人としてスタンダードな考え方という気持ちで、そういう生活を皆さんが送ってもらえるようなクルマを作るのがわれわれの使命かなと思っていました。

楽しいとはどういうこと?

外形アイデア②(ダイハツ提供)

――このクルマをパッと見た時に、ネイキッドの再来とも感じましたが、何か意識はしたのでしょうか。

皆川氏:企画上はネイキッドをそれほど意識はしていませんが、話題にはなりました。デザインをしていくうえでは、色々な部分で勉強もしています。ダイハツの過去のクルマをいろいろと企画やデザインのメンバーと勉強していく中で、“楽しい”というキーワードで切った時にフェローバギーの話もありました。

 では、単純に楽しいとはどういうことなのか。結果的にスカイフィールトップみたいなものもありますが、やはりネイキッドみたいに色々アレンジできる楽しさや、個性的なものに乗る楽しさといったところも、1つヒントにはなっているかなと思います。

――その楽しさとはどういうものなのでしょう。

皆川氏:人によって違うかなというのが正直なところではありますが、今回特にこだわったのは、よくワクワクという言葉を使います。そのワクワクするとはどういうことなのかを皆でよく議論をしました。今回ターゲットとして若年男性をしっかり取れるクルマを作りたいので、若年男性のワクワクはどういうところなのかは、議論を占めたところです。

外形アイデア③(ダイハツ提供)
外形アイデア④(ダイハツ提供)

 その一方で、企画担当や僕などは若年男性とは呼べませんが、自分たちが楽しいと思う瞬間はどういう時なのかも考えました。そのメンバーの中では「屋根が開いて空が見えると普段乗っているだけでちょっと気分がアガルよね」という話は初期の段階からしていたのです。また例えば、普段子供を保育所に送ってから会社に来るという企画のメンバーも、「子供が上を見上げた時に空が見えてお父さんと会話が弾むことは、日常シーンではすごく嬉しいものになる」という話もしていました。

外形アイデア⑤(ダイハツ提供)
外形アイデア⑥(ダイハツ提供)

楽しさのアイテム「スカイフィールトップ」

――ではその頃からルーフの形状は考えられていたのですね。

皆川氏:そうですね。具体的にどんなハードウエアかは決定していませんでしたが、日常シーンで気分がアガル仕掛けをどうやって入れるかは、初期の段階から会話をしていて、それこそキャンバストップみたいなものがあったらいいとか、ざっくばらんに話をしていました。

――スカイフィールトップの位置はかなり前方に配されていることから、サンルーフよりも解放感を覚えますね。

皆川氏:ガラスをどの位置につけるかは、かなり早い段階から人間工学も巻き込んで、チーフエンジニア主導で研究をしました。例えば、人の目線の角度に対してそこからプラスアルファ前にどれだけ出すかというところはアカデミックにやって、そこと意匠的にAピラーを立てたいということがマッチして、良いところに置けたと思います。

ファイナルレンダ(ダイハツ提供)

クルマの容積感と視界の良さと

――なぜAピラーを立てたいと思ったのですか?

皆川氏:やはり楽しく見せたいということでは、クルマの容積感は大事だと思っています。人が乗るスペース、荷物を積むスペースそれぞれを軽自動車の寸法の中で表現しながら、どこにでも出かけられそう、どこにでも行けそうという雰囲気を出すのには、ある程度の容積感は必要だということです。

 それから、最終的に限られた寸法の中でしっかりとクルマを大きく見せたいということもあります。ボディに対してキャビンを薄く長く見せたいので、Aピラーを立てることはけっこうこだわりました。

アイデア選択案A案(ダイハツ提供)
アイデア選択案B案(ダイハツ提供)
アイデア選択案C案(ダイハツ提供)

――Aピラーが立つと見切りも良く視界も確保できますね。

皆川氏:少し首を動かせば見たいものが見えるようになりますので、運転はしやすいでしょう。

 また、今回はフードを運転視界にしっかりと入れることもこだわって、運転のしやすさは担保しています。軽自動車といえども、ウインドウシールドより前のところが見えないクルマでは、なかなか運転し難いという意見も聞いていましたので、特に車両寸法を把握しやすいこととして、フードもしっかり見えるようにもデザインでこだわったところです。

アイデア選択案D案(ダイハツ提供)

欧州のコマーシャルバンが発想のもと

――タフトのデザインのコンセプト、バックパックスタイルですが、ここに至る経緯を教えてください。

皆川氏:正直にいうと、最初からバックパックコンセプトと明言できていた訳ではありません。楽しく見えるということに関して私が最初に考えたのは、逆に楽しく見えていないのは何だろうということでした。軽を普段街中で見かけるときに、1人か2人しか乗っていないシーンが多く、その後ろに無駄な空間を積んで走っているような印象が、あまり楽しくないなと感じたのです。

 ではそのシーンを楽しく見せるためにどうするか。そこで1人か2人乗ることを中心に考えるとすれば、その後ろにいろいろなものを積んで出かけるシーンを、外の人が見ても分かりやすく表現することができないか。その結果、生活を楽しんでいる人に見えて欲しいという考えで、人が出かけるときに気軽にバックパックを背負って、さっと出かけるシーンを思い浮かべながらパッケージとデザインの整合を取っていったのです。

後にいろいろなものを積んで出かけるシーンを外から見ても想像できるスタイルを目指した

――なかなかそこまで割り切っては考えられないものですが、何か大きなヒントやきっかけがあったのでしょうか。

皆川氏:確かになかなか割り切れないのが普通ですよね、実は個人的な思いから始まっています。昔欧州に駐在した経験がありまして、その時に欧州のコマーシャルバンを見ると、これは当然荷物を運ぶクルマですから、人が乗るスペースと荷物を載せるスペースが別れています。荷物を載せるスペースはパネルになっていて、そこに楽しげな広告が描かれていて、街で見ていてすごくワクワクして、楽しげに見えていたことが頭の中にありました。そういうシーンが日本の街中でも少し感じられるクルマがあったらいいなというのがあったのです。

――そこで前席と荷室の部分がある程度セパレートして考えてもクルマは成り立つということが分かっていたのですね。

皆川氏:そうです。これはデザインの想いではありましたが、思い切ってやってしまえと。その結果だれも止めませんでしたし、そのままになりました(笑)。

前席と荷室はある程度セパレートして考えられた

機能感をダイレクトに表現

――そこからSUVテイストに仕上げていくわけですが、エクステリアでこだわったのはどういったところでしょう。

皆川氏:若い男性をしっかり取るために、その志向をいろいろ調べました。最近では、機能性を重視したハードなものを普段の生活の中に取り入れている方々が結構いることにヒントを得ながら、タフな使われ方、雑な使い方をしても大丈夫そうなイメージを持てるくらいのものを作って行こうと、スクエアなスタイルは結構こだわっています。

頑丈さを感じるスクエアスタイルを随所にちりばめている

 今回の開発メンバーの友人に、スケートボードをやる人がいるのですが、彼等はなぜか最新ではないiPhone SEという少し四角いものを好んで使っているそうです。また、最近ノースフェイスなどの分厚いダウンジャケットを冬に街中で着こなしている方々がいるなど、そういう人たちは機能感を重要視されているようです。そういったところをダイレクトに表現できるものを目指しました。

――その機能感はエクステリアではどこで表現されていますか?

皆川氏:具体的にここというところはないのですが、アイポイントが高いことに紐づいている見切りの良さや、下まわりの樹脂パーツを活かしていろところです。これらは若年男性だけに限らず、地方に行くと普段の生活でも悪路を走るシーンもありますので、地上高を確保しつつ、下まわりに樹脂パーツが使われていることでガンガン乗ってもらえることを愚直に表現したつもりです。

ガンガン乗ってもらいたいイメージを下まわりに配置した樹脂パーツに込めた

――その樹脂パーツではリアフェンダーの斜めにカットが入っているところは面白いですね。

皆川氏:実はキースケッチの段階ではもっと面積が広くて、機能とはいえないのですが、ラフに使えるという意味では、蹴っ飛ばして閉めることができるくらいのイメージでした。蹴っ飛ばせるくらいの(樹脂の)面積を確保して、そこからもこのクルマの性格をしっかり表現しようと考えていました。その名残がリアドアの下の部分に残っているのです。

両手いっぱいに荷物を持っていたら足を使ってドアを閉めるところまでイメージができていた

――それでタフトの名前のところに少し意匠が入っているのですね。

皆川氏:そうです。最初は足形を入れ「蹴っ飛ばしてください」ぐらいの勢いでした(笑)。

最終的には足形……ではなくタフトのロゴが入った

機能とリベンジと

――さて、タフトのフロントまわりは特徴的なデザインに仕上がっています。

皆川氏:皆川氏:これは半分裏話が入るのですが、ダイハツには軽自動車でSUVライクに仕上げたキャストアクティバがありました。当然競合と戦えるクルマとして投入し、実際のハードでのスペックは負けていませんでしたが、フロントバンパー下端あたりで、タイヤをしっかりと見せることができず、悪路走破性があまり高く見えなかったのです。

 そこでしっかりとタイヤのトレッドパターンが見えるところまで切り上げましたが、一方で弊害も出てしまいました。日常生活で使ううえでのウォータースクリーンの問題と、空力上の問題とを実験部署と連携しながら両立を図り、結果的に単純に切り上げるだけではなく、下側にバーのような形状を横に通しました。これがタイヤの前にはみ出していることがポイントで、それがないと水たまりに突っ込んだ時に自分のクルマで水柱を上げてしまい視界がわるくなるのです。それでは商品として提供できませんので、日常にこだわるダイハツであればしっかりそこは解決し、その性能と意匠性を成り立たせていきました。その結果、いままで見たこともないような意匠になったわけです。

バンパーの左右を黒くしたことで、正面から見るとタイヤのがっしり感を強調

 もう1つはフロントを塊に見せる話です。バンパーをできるだけ厚く見せて、フード部分をできるだけ薄く見せたいというのが大きなプロポーションの考え方です。薄く見えているところは思い切り平面のカーブをつけて、バンパーとは平面の考え方を変えて作ることで、しっかりと分厚いボディと薄いキャビンというプロポーションの狙いを表現しました。

――バンパーは左右から黒くガシッとはめ込んでいる意匠になっていて、ここもポイントですね。

皆川氏:そうです。やはりタイヤの存在感をしっかりと見せよう、大きなタイヤがしっかりと地面に食いついているところを強調するために、正面から見た時にタイヤと同じくらいの幅を黒で見せているのです。当然軽ですから、外形寸法は決まっています。ですから単純に張り付いたようなものではなく、塊として見えるようにこだわってデザインしました。

2本のキャラクターラインの訳

――リアまわりもリアコンビをはじめとして結構凝った造形をしていますね。

皆川氏:ヘッドライトも含めて全体のスクエアな印象をより強調しようという思いで、リアコンビを含めて部品デザインを行なっています。特に灯火器に関しては、車両の塊に対して、さらにワイドで外にはみ出させるくらいのレイアウトにしました。灯火器の中のグラフィックも目線が外に外に行くように、点灯時も非点灯時も一番外に目が行くように工夫しています。

灯火類は目線が外へと向くように、車幅ぎりぎりのところに配されている

 クルマ全体としては、軽の寸法の中でそのまま仕上げると、どうしてもペランペランになりがちです。しかし塊感をしっかり出すためにCピラーあたりは絞っています。クルマを空から見た時に、クルマとしては背面に向かって閉じていっているように見えるのですが、リアコンビのところではもう一度平面を少し真っ直ぐ気味にして、結果的に車両の平面よりもリアコンビの角がもう一度外に出るような形状に見せているのです。

 競合車と比較し、パッケージ上タフトのほうが背は低いので、それを活かしてサイドビューは長く、正面と背面で見たらワイドに見えるようにしています。

塊感を出すために絞ったというCピラー周辺

――ヘッドライトからドアハンドルを通るように、直線的なキャラクターラインが入っていますね。

皆川氏:これが最後まで結構苦労したところです。実は15mmくらいの幅でキャラクターラインは2本入っているのです。途中までは普通に1本の凸折れだったのですが、しっかりとキャラとして表現したいと2本にしました。

――通常、こういうラインは長ければ長いほどクルマ全体も長く見えますので、リアコンビにまで通したくなります。しかし、これはリアドアで蹴り上げていますが、これはどういう理由からでしょう。

皆川氏:リアドアで蹴り上げるのが目的というよりも、荷室まわりの容積感をしっかり表現したいというこだわりであったからです。そこでリアクォーターのところに傷をつけたくないというのがありまして、そこはしっかりと張った大きな面で見せたい。欧州のコマーシャルバンにも通じるところでもありますが、そういった表情もすごく大事にしながらデザインしています。

約15mm幅のキャラクターラインが2本入っている

――Bピラー部分の斜めのカットもそういう意識ですか。

皆川氏:そこまでではありません(笑)。実はピックアップのようなシルエットになったら面白いなというのがありまして、そこは設計にも無理をいって斜めにしました。リアのキャビンを取っ払ったらピックアップみたいな雰囲気にならないかなと思ったのです。

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