インタビュー
【インタビュー】ファンクロスが登場した新「タント」シリーズ、3タイプ登場のきっかけとカスタムの変化の理由とは?
2022年10月7日 15:47
マイナーチェンジを行なったダイハツ工業「タント」シリーズ。アウトドアイメージを持たせた「ファンクロス」を新たに登場させて3タイプとしたほか、「カスタム」ではフロントフェイスを外板パネルの変更を伴うほど大きく変更している。
タント全体で見れば、標準車がマイナーチェンジ前のイメージを踏襲しているが、カスタムとファンクロスだけが並んでいる姿を見ると、新しいクルマが登場したかのように見える。
車両の成り立ちとしては、カスタムが従来のカスタムの延長上であり、フルモデルチェンジの際に大人のカスタムを目指して従来から雰囲気が変わっていたが、大人のカスタムながら精悍さやシャープさを少し戻し、従来からのユーザーの期待に応えた。
ファンクロスについては、ボンネットやヘッドライトまわりはカスタムに近くなっているが、ヘッドライトはカスタムとは全くの別パーツ。さらに、サイドのウインカーはドアミラー内蔵ではなく、フェンダーにあるのも標準車と同じだ。
インテリアについてはファンクロスならではの装備としてアウトドア向けに素材を変更、差し色の追加などもあるが、カスタムではなく標準車に近い部分もあり、インテリア上部は標準車と同様に明るい色を配置している。
ファンクロスについては、アウトドアイメージの内外装を備えたほか、ルーフラックなどを装備できる金属製のルーフレールを備え、フォグランプまわりのパネルを好みに応じて変更できるようにするなど、アウトドアに使いやすいものに仕上げるとともに、好みに応じたカスタマイズが可能となっている。
また、マイナーチェンジでは「上下2段調節式デッキボード」を全車に装備。パンク修理キットの置き場所が助手席足下に移動している。
そこで、今回のマイナーチェンジとファンクロスの登場について、ダイハツ工業 くるま開発本部 製品企画部 C・E(チーフエンジニア)の秋本智行氏、商品CS本部 国内商品企画部 主任の岩舘朋子氏に話を聞いてみた。
スライドドアの有無は、クルマの選択の入口に違いがある
──ダイハツでは、クロスオーバーテイストなクルマとして、すでにタフトがあるのに、なぜ、タントまでSUVらしさを求めたのでしょうか。競合したりはしないのでしょうか。
岩舘氏:タフトと、スーパーハイトワゴンのクラスというのは、お客さまの使い方が全く違います。スライドドアが付いているかどうかっていうのが、今、お客さまが軽自動車を選択されるときの入口になっているパターンがすごく多いですね。
スライドドアありで選ぶのか、なしで選ぶのかというところで、まずクルマの選択の入口が変わってきて、スライドドアをとても大事な選択としています。そのときにスライドドアがありの中で、特にご家族を乗せたいという方に選択肢を1つ加え、タフトとは違う選択肢、というふうにわれわれとして判断しました。
──ファンクロスはファミリーユーザーもターゲットとして捉えている?
岩舘氏:そうです。タントの根幹はやはりファミリーです。タフトの場合は基本的には前に2人、あるいは1人乗者での使い方を想定して作っているのですが、タントの場合は、割と頻繁に後部座席にも人が乗るようなご家族を中心に考えています。
──そもそも選択肢は多い方がいいんでしょうか?
岩舘氏:そうですね。われわれは軽自動車のトップメーカーとして、軽でフルラインナップを揃えるというところを戦略としていますので、抜け目なくさまざまな選択肢を用意する、どんな要望にも答えられるよう選択肢を用意するようにしています。
ファンクロスでレジャーに行った方がテンションは上がる?
──今後、ファンクロスにも、さらに個性を演出するようなことを考えているんでしょうか。
秋本氏:世の中を見ながら、どのような需要があるのかをよく研究しながら考えていきますが、利用シーンが広がっていって、お客さまとクルマとの付き合い方が広がっていっていただけることは非常にうれしいことです。
家族中心に使ってるタントというクルマだからこそ、こういったテイストも必要なんです。タントの中にこういうテイストのクルマを出しました。それで、外に出かけていきたいっていうきっかけになるようなクルマにもなったらいい、と思ってます。
実際私がスキー場で見たシーンの話ですが、タントを駐車場に置いていて、ミラクルオープンドアを全開にして、お子さんがクルマの中でスキーの準備をされているんですね。で、お母さんが外からお手伝いをしてるっていうシーンを見たときに、あ、これはタントだからできることなんだっていうふうに思うんです。
今回のタント ファンクロスは、外に出かけたりとか、アウトドアが好きだという方のセンサーに引っかかってくれるのではないかと思いますし、ユーティリティの面で、その使い方にお応えできるようなことを考えたいですね。ただし、ターゲットはあくまで家族です。
──今のお話で、普通のタントでスキー場に行くのよりも、ファンクロスでスキー場に行った方がテンションがめちゃくちゃ上がりそうな気がしました。
秋本氏:そうなんです、ファンクロスのCMがあるんですが、CMのような感じで使ってくれたらいいなって思うんです。
岩舘氏:私もこのクルマを企画担当する中で、実際にキャンプ場で軽自動車でキャンプする方はどんなことをしているのかな、というのを見に行ったんです。お話をうかがうと、やっぱり、クルマの色だったり、デザインだったり、そういうところでアウトドアやキャンプへのテンションを盛り上げてくれることがすごく大事です。
──タントの標準車やカスタムは2トーンカラーがあり、少しポップな感じを出したり、シックな感じを出したりしていますが、ファンクロスはアースカラーという外遊びを前提にしたボディーカラーなのは、そういうところを意識したんでしょうか。
岩舘氏:そうですね、今回のカラーリングとか、エクステリアデザインなんかもそういったテンションが上がるっていうことを特に考えて開発しています。
精悍さを出したが、ギラギラを抑えた大人のカスタムの路線は継承
──カスタムの話になりますが、今回、フェイスがモデルチェンジ前のような昔のタント カスタムに近くなっていますが、そのあたりの経緯はどうなんでしょうか。
岩舘氏:マイナーチェンジ前、モデルチェンジしたときの話ですが、われわれとしてはカスタム系の市場で大人のカスタムをやるという、割とチャレンジをしたと思っています。
モデルチェンジ前のカスタムというと、少しギラギラっとしてる感じの方が乗るクルマっていうイメージが強かったと思うのですが、それだけじゃなくて、上級で大人が乗れるクルマっていうところを目指したいなという思いでメッキの量を減らしたり、すごく尖った感じのイメージを少しマイルドに柔らかい造形に変えたりして、大人の上質感というものを表現したカスタムというチャレンジをしました。
実際にマイナーチェンジ前のカスタムをご購入いただいたお客さまには、そういうところがすごくハマって非常に喜んでいただいたんですが、一方で、カスタムと言えば、もっと精悍でシャープな顔付きがいい、少し物足りないなというお声も多くいただいていたことも事実です。
そこで、ギラギラは抑えながら大人のカスタムを表現するとことは変えずに、シャープさや精悍さというものを表現できないかということで、今回、その方向でリニューアルをしました。
──関西の方が言うところの“シュッとした”感じがします。ボンネットのカタチも変わり、丸い線も少なくなっています。
岩舘氏:はい、カスタムは少しシャープになっています。輪郭もしっかりとさせて、突っ張った印象にさせて、全体のシルエットからカスタムらしい印象というのを作り込んでいきました。
──カスタムの新しいボンネットの形はファンクロスと同じ形のようですが、ファンクロスが出ることで、カスタムも思い切って変更できたんでしょうか。
秋本氏:そこは同時期のセットの企画だったというのもありまして、カスタムとファンクロスで両立するようなスタイリングっていうのを考えた上で実現させていきました。それは造形していく中で、大きなテーマでした。
──カスタムとファンクロスはボンネットが同じならヘッドライトも同じかと思いましたが、全く違うヘッドライトになっていて、それぞれに作り込んでいくのは大変だったのではないでしょうか。
秋本氏:しっかりと顔で個性を表現するっていうのは、一番大切なところでしょうから、そこはしっかりとやりました。
マイチェン前もカスタムはモデルチェンジ以前のように売れていた
──マイナーチェンジ前だと、カスタムよりも標準車の方が街で見かけるような印象を持っているのですが、カスタムの販売比率はどうだったんでしょうか。
岩舘氏:販売の比率としては。実は以前と変わっていません。比率は半分半分くらいで、モデルチェンジ前もカスタムの比率は半分でした。比率は変わっていないので、マイナーチェンジ前のカスタムもご好評をいただいていたことになります。
──そうだとしたら、過剰に目立たないということで、まさに「大人のカスタム」の狙いどおりではないでしょうか? マイナーチェンジで変わったので、これからはもっと印象に残りそうでしょうか。
岩舘氏:そうですね。マイナーチェンジ前は印象に残りづらかったかもしれません。「大人のカスタム」をやった結果、押し出し感みたいなところは少し薄れていましたので。カスタムにはこれからもいっぱい街で走ってほしいですね。
レクサス顔ではなく、高さのあるクルマに安定感を持たせた結果のグリルデザイン
──確認ですが、レクサス顔になったと言われていますが、トヨタのグループとして意識をしたということはないんでしょうか。
岩舘氏:そういうのは全くありません。
秋本氏:いろいろ言われますけれど、デザイナーはモノマネを嫌うんです。ただ、できた結果がこうなんです。やっぱりタントの高さのあるスタイリングで、安定感というのを表現しようとしたら、グリルは台形で支えたいと。そこに尽きると思います。
岩舘氏:グリルが台形というのはカスタム系の市場で言うと、他社にはない独特の造形でして、他社さんのスーパーハイトワゴンの「カスタム」は、だいたいヘッドライトの下はすり鉢状の形状をしています。タントを買ってくださったお客さまからは「下がすぼまってるより、タントはどっしりとした安定感があっていいんだよね」って言っていただいています。このスタイルはタント カスタムのアイデンティティに近いものですので、喜んでいただいていた部分もあって踏襲しました。
母親として利用する中でのこだわりが満載。フラットな荷室は買い物にも◎
──話は変わりますが、タントは岩舘さんが母親としてのこだわりを詰め込んだクルマとうかがっていますが、どのような部分なのでしょうか。
岩舘氏:今回のマイナーチェンジもそうですが、モデルチェンジのタイミングも担当していましたので、運転席のロングスライドシートにもこだわっています。
実は当時、子供が小さかったのもあって、仕事の前後がめちゃくちゃ忙しかったんです。会社を出た瞬間から走ってクルマに行き、急いで保育園に子供を迎えに行き、スーパーに行き……ずっと走っていた印象です。とにかく1分1秒が大事で、クルマの乗り降りの時間を短縮する方法がないかって考えたことが、運転席のロングスライドシートです。そして、スライドドアの予約ロック、予約オープン機能、助手席のイージークローザーも装備しました。
実はあまり知られていないのですが、助手席のイージークローザーはタントが軽自動車で唯一備えている機能(標準車のLグレードを除く)でして、助手席のドアが半ドア状態から引き込んで全閉できる機能を搭載しています。これなら助手席に力の弱いお子さんやお年寄りが乗っても、半ドアにしてしまうようなことがなくなります。
半ドアだけでなく、親が閉めてあげるとき、強く閉めると車内の子供にぶつかってしまうと心配をすることもあるのですが、優しく閉めてあげることができ、安心感もあります。優しく閉めると半ドアになりがちですが、その閉め直しの手間がなくなるは本当にいいですよ。
そのほかに、収納にもこだわっています。アームレストのところにも、ちょっとしたものを入れられる収納を追加しています。あとは、助手席足下のコンビニフックです。後部座席にはあったのですが、前席にも欲しいという声があり、運転席からも手が届く場所にということで、追加しました。
──まだまだ岩舘さんのこだわり装備がありそうですが、いかがでしょう。
岩舘氏:今回変更したリアシートですね。元々ファンクロスを登場させようというときに、レジャーでしっかり使っていただけるクルマにするには、どうしたらいいだろうかと考えました。
キャンプ場に見に行ったところからヒントを得ているんですけれども、キャンプに行く方は、コンテナボックスに詰めてそのコンテナボックスをどんどん積み上げていきます。“積載テトリス”って呼ばれたりするんですけど、そのテトリスをするときに土台になる部分がフラットじゃないと物が安定して置けなくて崩れてしまうんです。
元々のシートだと、リアシートのクッションの厚みとの関係もあって、格納したときに平らでなく、少し斜めになってしまい不安定になっていました。ですので、今回は、荷室を上下左右方向に軽自動車の狭い空間をしっかり使いきれるよう、フラットな荷室にこだわってみました。
岩舘氏:上下2段調節式デッキボードは標準車やカスタムにも展開していますが、日常の買い物でも役に立ちます。上の高さにすると、ちょうどスーパーのカートと同じような高さになりますので、積み替えもすごく楽になります。それがないと荷室は結構低い位置になりますから、積み替えで腰に負担がかかることもなくなるかと思います。
カスタムのヘッドライトの位置は下がっている
──ヘッドライトの位置についておうかがいします。最近の対向車のヘッドライトがまぶしいという問題は、ライトの位置が高いことに関係している部分もあるように思います。タント カスタムのライトは、マイナーチェンジ前よりも高い位置になったように見えますが、いかがでしょうか。
秋本氏:ロービームの位置としては下がっています。まぶしいという問題ですが、法規で道路標識などを狙って照らさないといけないポイントというのがあります。そこで、上の方向に光が出ているところを、まぶしいと思われているのではないかと思っています。他社のクルマも見ていますが、だいたい同じレベルではないでしょうか。
燃費をよくするのは使命。WLTC燃費は上がってるので効果は期待
──今回、タントのアピールポイントとしては、燃費とうかがっていますが、どのように変わったのでしょうか。
岩舘氏:今回、燃費が向上して、クラスではトップの燃費を獲得しています。
──ユーザーはそこまで燃費を気にされているのでしょうか?
秋本氏:だいぶ薄らいできたとは思いますが、ここのところの燃料費高騰というところもあるので、ユーザーさんの観点も変わるでしょうし、われわれとしては燃費をちょっとでもよくするっていうのは使命だと思ってます。
──例えば、ユーザーが新型に乗り換えてみて、変わったな、と実感することはありますでしょうか。
秋本氏:乗り方にもよりますので一概には言えませんが、少なくともWLTCモードの値が変わってるので、改善効果は期待できるんじゃないか思っています。