インタビュー

熱田護のF1インタビュー ホンダの折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネージャー「レースの現場に行きたいと言っていたので夢が叶った。ホンダって素晴らしい会社だって思います」

 2023年シーズン前テスト、開幕戦から、前任の本橋正充エンジニアと入れ替わりでF1現場責任者として配属された、折原伸太郎さん(ホンダF1トラックサイドゼネラルマネージャー)、46歳。

 1991年、1992年のマクラーレンホンダを見て憧れ、F1のエンジンを作ってみたくて、大学は大阪市立大学の機械工学科に入学。2003年にF1をやりたくてホンダに入社。

 入社後はアメリカで売っている2.0リッターターボエンジンの開発、その後にNSXに乗せるはずだった幻のV10エンジンの開発などをしていたら、2012年末にF1に復帰するのではないかといううわさが聞こえてきたので、その時の上司にぜひF1をやらせてほしいと直訴! その願いが叶えられて、第4期最初からのメンバーに選ばれました。

「当初は関わっている人数も少なくて、全く手探りの状態で始まり、こんな規模で大丈夫なのかと思っていたら、案の定ダメでしたね……」と語った折原さん。

 プロジェクトが始まってからは、イギリスのミルトンキーンズのHRDの立ち上げに参加して、現場には2015年バルセロナとヘレスのウインターテストに参加。イギリスには2017年の中盤まで駐在し、その後はサクラでエンジン開発に携わることになります。「帰国してからは、翌2018年からトロロッソに搭載するエンジンのベンチ部門のチーフをやってました」という折原さんにお話をうかがいました。


──当初のホンダPU(パワーユニット)は走っては壊れ、走っても遅い……ということの連続の中で、実際に関わっていた折原さんはどのような心境で仕事をしていたんでしょう?

折原さん:もちろん毎年よかれと思って開発し、まさに暗中模索のような感じで、何をやっても馬力が上がらず、そのころはみんな、心が折れそうな感じだったのではないでしょうか。

 ただ、2017年のトロロッソに搭載するPUからは、高速燃焼に対する突破口が少し見えてきていたんです。その芽を育てていけばいけるのではないかという希望が見えていたので、そのころはみんな先が見えていたのでモチベーションを高く保てていましたね。その希望の光を見つつ、本当にものになるのか不安と戦いつつ仕事をひたすら続けていくような感じでした。

──仕事の進め方というのはどのようにしていたのですか?

折原さん:設計のチーフの方と、1年を通してどの開発をどの順序で進めるかを綿密に話し合いながら進めていきます。その過程を滞りなく進めていく感じです。

──では、高速燃焼の話と同じように新骨格エンジンの話を聞きたいのですがどんな感じだったんでしょう?

折原さん:実は2019年からは、エンジンベンチではなく新骨格エンジンの開発をしていました。しかしコロナの影響で一度新骨格はやめようということになったんです。それを聞いて落ち込んでいたんですが、ほそぼそと続けていました。

 そしたら浅木さん(当時のF1開発責任者)から、「新骨格行けるか! どうなんだ!」って急に言われて、「行くぞ!」となったんです。でも時間的に非常に厳しかったので、正直難しいかもしれないと思う人は多かったと思いますが、自分としては「やった!」って思っていましたね。

 その浅木さんから話があったときは、まだ撤退という話は出ていなくて、その1週間後くらいに撤退が発表になり、それからみんなの目の色が変わって、最後の集大成だからダメもとでやろ~ぜ! そんな雰囲気でどんどん開発が進んでいった感じでした。

 その後、新骨格PUのエンジンベンチチーフを2022年までやって、5月ごろに2023年から本橋さんに変わって現場の取りまとめ役をやることになりました。もともとレースの現場に行きたいと言っていたんです。だから夢が叶った感じでしたし、子供のころの自分から見ればすごいことだなって思います。ホンダって素晴らしい会社だなって思います。でも本橋さんのあとを継いでいくのは大変だろうなとも思いました。

──サクラで仕事をしていて現場の仕事を想像していたのと、実際にサーキットに来てみてその仕事内容にギャップはありますか?

折原さん:仕事の質の違いがあります。開発の仕事は加点式なんです。どんどんいいものを入れていって、どんどん馬力を上げていき、失敗してもいいからというトライの連続です。サーキットでは減点式。ここで積み上げてきたパフォーマンスをちゃんと使い切らなければならない、あとはミスをするとどんどん落ちていく。それをミスなくやるというのはプレッシャーですね。

──本橋さんに聞きましたが、考え出すとキリがないジグソーパズルが何種類もあって、本当に吐きそうになるということでしたが、実際はどうでしたか?

折原さん:そう思いますね。こうなったどうしよう、ああなったらどうしよう、それに対してこうすればいいはずだ、というのがあるんですが、でも実際に走ってみないと分からない部分もあるので、それに対してきちんと対応できたのかという不安は常にあります。

──今年、ちゃんと寝られてますか?

折原さん:今のところ、寝られています(笑)。

──本橋さんからは具体的な助言はありましたか?

折原さん:いろいろありましたが、一番ありがたかったのは、「判断するのはお前だ。判断したことについて間違ったとしても誰も文句は言わない。だから間違いを恐れず判断していいんだ」と言ってもらえたのが一番助かりました。

──2026年以降の継続という発表がありました。そのことについてはどうですか?

折原さん:まずは2025年までしっかり今のチームとレースを戦ってチャンピオンを取り続けるということ。2026年以降については継続できるということはありがたいです。活動ができるということと、技術をつないでいけることは何よりうれしいです。

──最後に、鈴鹿に来てくれるファンやホンダファンに向けてひと言ください。

折原さん:まずは、F1をやりたい人はぜひホンダに入ってください! 若い人の力が必要です! 鈴鹿に来てくれるファンに向けては、僕も毎年チケットを買って鈴鹿に奥さんと2人でキャンプしながら行っていたんです。ぜひ、鈴鹿のF1を楽しんでください。角田選手、ホンダへの応援もよろしく願いいたします!


 F1の現場で戦う折原さんにお話を聞きましたが、気さくで真面目な感じのナイスガイです。連続チャンピオン、そして年間最多勝利数の更新など、われわれの夢でもあるので、日本のホンダを全世界に向けてアピールしていってほしいですね!