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レッドブル・レーシング躍進の牽引役、HRC 浅木泰昭部長にホンダF1のこれからを聞く「レースはホンダのDNA」の真意とは

株式会社ホンダ・レーシング(HRC) 四輪レース開発部 部長の浅木泰昭氏(左)と、レッドブル・レーシングのマックス・フェルスタッペン選手(右)

 HRC四輪開発部部長の浅木泰昭さんにF1開幕戦のバーレーンのパドックでお話を伺いました。

 第2期のF1エンジン開発、第4期の2018年からF1プロジェクトに携わり、2021年のフェルスタッペン選手のチャンピオン獲得、2022年の30年ぶりのコンストラクターズタイトル獲得という躍進の牽引役となった浅木さん。

 今年の4月末でホンダを定年退職することになっています。

「新しいチームと組んでチャンピオンになれば、ホンダがチャンピオンにしたという新しい歴史を作れるのではないか」

熱田:浅木さん、4月末の退職を目の前に、開幕戦の現場に来てみてどんな気分ですか?

浅木:よくここまで来たな……って感じですかね。昨日の予選で1−2を取ったわけですからね。

 私が始めたトロロッソと一緒にやっていた頃は、メルセデスとのパワーの差があって、何をすればあんなに差が出るんだという感じでしたから。でも、やっているうちに、こうすればなんとかなるんじゃないかということがいくつも出てきて、5年でここまできましたからね。

熱田:浅木さんにとって第4期に関わった5年というのは長かったですか、短かったですか?

浅木:最初の3年は長かったですね(笑)。新骨格エンジン、新しいバッテリを出したあたりから自分のPUという感じがするし、2021年にマックスが最後の最後でチャンピオンを取ってくれたし、2022年は結構余裕を持ってコンストラクターズタイトルを獲得できたので、定年を延長してレースの現場に戻ってきてよかったかなって思いました。

 ホッとした感じとともに、世界最先端の世界で技術者として関われて本当に楽しかったですよ!

熱田:ついに、世界の最先端でチャンピオンを獲得しました。しかし、2026年以降はこのレッドブルと一緒にはレースをしないということになりましたが、率直にどう思いましたか?

浅木:残念だけど、ホンダのせいだから仕方ないですよね。レッドブル・パワートレインズを作らなければならないように追い込んだのはホンダですから……。

 ただ、あのまま撤退するのではなく2025年まで支援したのは最低限のパートナーシップは維持できたかなと思っています。ほかにチームはたくさんありますし、今後、ホンダの経営陣がどんな決断をしても対応できるようにわれわれはやってきています。

熱田:でも、この最先端の場所でチャンピオンを取るというのはとてつもなく難しいことじゃないですか? トップチームのメルセデス、フェラーリにはホンダPUは載らないわけですし、その中でレッドブルというのは最適最強なパートナーであるわけです。そんな完璧な現状を構築できたところなのに手放してしまうということが僕にとっては非常に残念で悔しいんですよ……。

浅木:いや~、もったいないですよね。でも、先ほども言いましたけど、そのように追い込んだのはホンダですから……。われわれの選んだ道でもありますし、それを聞いたレッドブルが選んだ道でもあるから仕方ないと思いますよ。

 ただね! この世の終わりみたいに日本のメディアが書かれていますけど、私はそうは思っていないです!

 新しいチームと組んでもう一度チャンピオンになれば、それこそレッドブルにチャンピオンにしていただいたということではなく、ホンダがチャンピオンにしたんだというような新しい歴史をつくれるんじゃないかと思うんです。そういうことを今いるホンダの若い人たちに期待しています。

サラリーマンがF1で勝とうと、もがき苦しみながらチャンピオンを目指すことがホンダのDNA

熱田:浅木さんにとってF1というのはどんな意味を持ちましたか?

浅木:技術者にとってF1に勝つということは、世界一になるということなんですよ! 最高峰レースですからね。その自信を味わえる唯一の場所なんです。だって、量産をやっていて世界一になったかどうかは明確にはならないですからね。

 そもそも、サラリーマンがF1で勝とうなんてのは無謀なんですよ、F1パドックでPUを作っているメーカーとはシステムが違うじゃないですか。無謀なことをホンダはやって、伸びてきて、今があるわけです。歴史をたどればマン島TTに出場宣言をして、優勝してその後チャンピオンになり、ろくに四輪を作ってもいないときにF1に打って出て優勝したりしてきたわけです。

 レースはホンダのDNAであるという言葉があります。それはなんぞやと若い人たちに問うんです。どんなレースでもDNAになるのか? それは違うと言うんです。世界一だという自負を持てるレース(がホンダのDNA)だと。単純に世界のトップと無関係なところで草レースをやって勝って、ホンダのDNAというのでは意思が通じてないと私は思うんです。

 だから、最高峰のF1の世界に打って出て、サラリーマン集団がもがき苦しみつつチャンピオンを目指すことこそ、ホンダのDNAだと言っているんです。そんなサラリーマンがF1で勝って自信を持ち、ほかの企業の人間が考えないような量産を作ってここまで来た。だから面白い会社なんです。だから私はホンダが好きなわけです。

 22歳で入って65歳で退職する43年間のホンダ人生は、思う存分技術者としていろんなことができたし、狙い通りのサラリーマン人生でした。まあ、運もあるんですけれど、実力もあるんでしょう(大笑い)。

熱田:浅木さんはご自身で自信家だと思いますか?

浅木:関わった第2期で世界一になったという自信で今までやってきたんです。ルノー、フェラーリ、フォード、ランボルギーニ、ポルシェに勝ったわけですから。

 われわれが世界一になったんだという自信を得る手段ですから、それこそレースをやる意味だと私は思うんですよ。私より前の先輩も皆同じだと思います。


 僕がF1に行き始めたのは1991年。第2期のV12気筒の素晴らしい音とともに、ゼッケン1を纏ったセナ選手が走っていました。

 第4期の始まった頃、あのどん底なホンダPU。サクラで多くのエンジニアがもがき苦しみつつ、正しい方向に開発が進んで、ようやく手にしたチャンピオンPUという称号。2021年にフェルスタッペン選手がセナ選手から30年後に得ることができたゼッケン1。

 僕は単純に嬉しかった、日本のメーカーが世界一番になってくれて。

「どうだ、見たことか!」という思い。

 ホンダの人たち、そのサプライヤーの人たちが一体どんな苦労をしていたのかはなかなか教えてくれないし、想像するしかありません。でも、2021年のアブダビのレース後に見た笑顔と涙を思い返すと、皆、一様に万感の思いでありました。

 ホンダF1は撤退と発表があった事実はあれど、微妙に継続できればしたほうがいいのではないか? などと揺れている最中だと思います。いやそう思いたいです。

 ご存知の通り、どちらともはっきりした答えは現在出ていません。自動車業界、レース界とも、大きな過渡期にいることは間違いなく、その中でホンダにとってF1とどのように関わっていくのか、いかないのか。

 多くのファンの人にとっても、なにかモヤモヤするところではあります。ホンダにとっても大きな市場であるアメリカで人気爆発していて、アウディとフォードが参加決定している理由はなんでしょうか?

 今後はレギュレーションでカーボンニュートラル燃料になります。

 浅木さんが言っているように、レースはホンダのDNAで、レースとはF1であるならば、ホンダの技術者のために、ひいてはホンダ、世界のホンダファンのために2026年以降の継続を望みたい。

 現在の日本のメーカーで、最高峰のF1で戦えるのは、トヨタや日産、スズキ、マツダ、スバル、三菱ではなく「ホンダ」なんです。

 浅木さん、ありがとうございました! お疲れさまでした!