インタビュー

F1 2023シーズン22戦21勝を記録したレッドブル ホンダの折原氏、湊谷氏、吉野氏の3名とシーズンを振り返る

 2023シーズン、レッドブルの圧倒的な成績でチャンピオンを獲得しました。

 ホンダとしても、2年連続チャンピオンを獲得したことにもなるのですが、ホンダとしてもう1つ、1988年にセナ選手とプロスト選手がマクラーレンMP4/4の搭載したホンダRA168Eエンジンで成し遂げた記録した16戦15勝という記録があります。

 そもそも、長いF1のシーズンを1敗しかしていない記録は途方もない記録なわけです。世界一を目指して複数のコンストラクターがしのぎを削りあうわけなので勝ち続けることは至難の業となるわけです。ですから、1988年の記録を更新するのは不可能かと僕は思っていました。

 ところがどっこい、同じホンダが2023シーズンに22戦21勝で勝率の記録更新しました!

 2023年最終戦のアブダビで3人のホンダ戦士にインタビューしましたので読んでいただきたく思います。

折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネージャー

折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネージャー

 折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネージャーは、今年から前任の本橋さんから現場のトップを任された笑顔が似合うナイスガイです!

熱田:今年、重責を担い、見事最多勝利数&コンストラクターズタイトルを獲得できたわけですが、レースが終わった直後ですが今どのような気持ちですか?

折原氏:ホッとしたということに尽きますね。無事終わり、記録も達成できましたしホッとしました!

熱田:成功した結果ですし信頼性も進化しましたが、今シーズン一番落ち込む出来事はどんなことでしたか?

折原氏:やっぱり、モンツァで角田選手のエンジンがフォーメーションラップでブローしたことですね……あれは一番堪えました。

 それまでは信頼性がほぼ完璧にきていて、自分の中でも自信ができつつあったなかで、結構派手なブロー、しかもチームの地元GPで順位もよかった。しかも新品エンジンでしたから落ち込みましたね。原因が分かるまでは不安で仕方なかったです。その原因は部品の品質不具合で、特定して交換し、以降は解決しました。

熱田:では、最高の出来事は?

折原氏:やっぱり、このアブダビのレースで新しい記録を達成できたということはうれしいです!

熱田:それは誰に一番伝えたいですか?

折原氏:サクラに帰って一緒に開発してきた仲間に「やったね」と話をしたいですね。やっぱりシーズン中意識はしていましたけれどシンガポールで勝てなかったときは厳しいな~と思っていたのでそのあと最終戦まで勝てて本当にうれしいです。

熱田:オフシーズンは日本ですか?

折原氏:そうですね。テストが始まるまでは、日本でおいしいものを食べて少しゆっくりもしてみたいです。

熱田:来年の体制は決まっているんですか?

折原氏:今年と人数的には一緒です。2026年に向けて人を育てつつローテーションは見直しています。

熱田:ありがとうございました。

湊谷圭祐チーフレースエンジニア

湊谷圭祐チーフレースエンジニア

 湊谷圭祐チーフレースエンジニアは、慶應大学理工学部卒業、2009年にホンダ入社、2013年からF1の開発に携わり2016年から現場担当エンジニアを務めている。

熱田:今年を振り返ってみてどんな1年でしたか?

湊谷氏:レッドブルに関して、信頼性を強く後押しできた1年であったように思います。サクラから送ってきたPUをオペレーションしているわけですが、積み上げてきた開発力が2021年、2022年とチャンピオンを取っているわけですが、2023年はさらに磨きがかかった1年であったと思います。チームにとっても充実していた1年でした

熱田:勝率の記録を達成に関してはどうですか?

湊谷氏:それはものすごく素晴らしいことだと思います、ホンダの記録をホンダが打ち破るということは、ホンダの担当していた先輩方もうれしいと思いますし、僕らとしても歴史を自分たちの手で塗り替えられるということはものすごく意義のあることだと思います。

熱田:シンガポールの1敗は今になってどう思いますか?

湊谷氏:もともとシンガポールは鬼門だろうとは言われていて、全体的に低速区間で、バンプがあり縁石を乗りこなすサーキットはクルマのパッケージとして得意ではないところで勝てませんでしたが、まだまだ続いていくサーキットなので将来の勝ちのために楽しみに取っておけばいいのかなと思います。

熱田:フェルスタッペン選手を間近で見ていて、ここまで強い理由を1つでもいいので教えていただけませんでしょうか?

湊谷氏:そうですね。例えば、ブリーフィングで起きている事象をエンジニアに対して理路整然と分かりやすい言葉で伝えてくれるので、その結果エンジニアからのサポートをより強固なものにすることにもなり、それが好循環につながっているんです。もちろん強力なドライビング能力があってさらにフィールドバック能力が素晴らしいということです。他のドライバーではそうはいきません。

 あと具体的な例を1つお話しすると、ダウンシフトにすごく敏感なんです。ダウンシフトというのは減速に入ってからダウンシフトに入りますよね、そのときはもともとタイヤのグリップ限界で減速しているので余計なショックを与えたくない。しかもフロントに荷重が乗っていてリアは荷重が減っている状態なわけですから、それを補うためにブレーキバイアスなどでリアが弱くなりすぎないようにコントロールしたりするんですけど、その微妙な状態でダウンシフトをするということは、エンジン、ギヤボックス、足まわりがつながっているのでショックが出る可能性があるわけで、ドライビングには不要なショックであるわけです。そのほんの少しのマイクロスリップのことについて一番意見が多いのはフェルスタッペン選手です。

 ラスベガスのときにずっと改良を進めていたギヤボックスの設定がやっとできて試したんです。フェルスタッペン以外の3人のドライバーはそもそも問題だと思っていないのですが、その微妙な違いに気づくのはフェルスタッペン選手だけです。そのセンシティブさには本当に感動します! コメントとデータの相関性の一貫性がすごい、本当に素晴らしいです!

熱田:いや~すごく面白いお話です! あと、全然レースとは関係ないのですが、サーキットに来始めのころ、湊谷さんもっとぷっくりしてましたよね?

湊谷氏:そうですよね!(笑)今すごく走っていて……。

熱田:ですよね。吉野さんもF1に来てしばらくするとすごくマッチョになってきてますし、何かあるんでしょうか?

湊谷氏:レッドブルのメンバーはすごく普段からジムにも行くしトレーニングしているんですよ。それを見ていて、じゃあ自分もやってみようかなと軽い気持ちから始めたんです。トレーニングを始めてみると、自分のメンタルに非常によい影響があるなと思えたんです、例えば走っていると無心になれるので1日のストレスをリセットできるいい時間になっているんですよね。自分にとっては必要不可欠な時間となっています。

熱田:見習わなければいけません……。

吉野誠チーフメカニック

吉野誠チーフメカニック

 吉野誠チーフメカニックは、幻のRA099というホンダF1プロジェクトから、第3期のF1にも参加して多くの経験を積み、第4期もレッドブルと仕事が始まった2019年から参加、現在に至る。普段は超優しい人柄ですが、レース中はこわもてのことが多いかも。

熱田:シーズン最終戦まで来て今どんな気持ちですか?

吉野氏:正直に申しますと、シーズンが長く感じます。連戦が続いたこともありますし、23戦レースをやることにこれまでとは違うプレッシャーがありました。

 チームもホンダメンバーもラスベガスからアブダビで移動や時差の影響で疲弊していないと言ったら嘘になります。いつもとみんな雰囲気違いますね。やっとここまで来たなというのが、今の心境ですね。

熱田:記録更新についてはいかがですか?

吉野氏:期待と不安、いつもとは違う緊張の中、目標を達成できて本当にうれしいです。ホンダの先輩方が作った記録を更新するというのは、ここに来ているメンバー全員の強い希望でもありましたら大きな達成感があります。

熱田:シンガポールの1敗に関しては今思うとどうですか?

吉野氏:直後の鈴鹿では、少しホッとしたという部分もあったのは事実です。でも来年からのモチベーションにするということでしょうか……。いや、でも正直に言うと勝ちたかったですね。全勝というとまた違いますからね。

熱田:オフシーズンはイギリスですか?

吉野氏:そうですね。サンクスデーで一度帰って、1週間ほどサクラで仕事をして、その後はイギリス、ミルトンキーンズに戻ります。

2023シーズンお疲れさまでした&おめでとうございました!

HRC社長の渡辺さんをグリッドで案内する湊谷さんと吉野さん

 僕個人的には、2023シーズンのレッドブルとホンダ、そしてフェルスタッペン選手の速さ、強さを記録することができて、僕自身のモチベーションになりました。

 日本人として日本人が作るPUが勝ちまくる、そしてチャンピオンになるということはとても励みになりました。

 おめでとうございました!

 そして2024シーズンも引き続きドキドキワクワクさせてください!