レビュー

【タイヤレビュー】ブリヂストン「レグノ」ブランドの新製品「GR-XII」は摩耗時でも本当に静か?

新品と40%摩耗時を乗り比べ。運動性能の高さも体感

 EV(電気自動車)やハイブリッドカーが浸透しつつある現在、クルマはどんどん静かになっている。それは遮音性の向上や空力性能の向上もあるのだろうが、クルマ自体から発する音が軽減され、みるみるうちに静粛性が高まったことは多くの人々が体感しているところだろう。だが、自動車メーカーが最後まで自らで手を付けられないのが、路面に接触しているタイヤが発するロードノイズやパターンノイズである。タイヤメーカーはそこに対し、常に真摯に向き合っている。

 その最高峰といっていいのが、ブリヂストンのトップブランドである「REGNO(レグノ)」だろう。ラテン語で王者を意味するレグノは、1981年に登場した初代「GR-01」以来、静粛性にこだわり続け、最新の技術を投入。防弾チョッキなどにも使われる衝撃吸収部材であるアラミドを採用するなど、他とは違ったアプローチを開始。それ以降もトレッドパターンの位相ずらしを行ない、路面への当たりを分散させることで衝撃を吸収したり、衝撃吸収シートをトレッド下に備えたり、さらには縦溝に対してサイドブランチ型消音器を備えることで音を打ち消したりといった技術も次々に盛り込まれたのだ。

 そのレグノが生まれ変わる。新たに投入されることになる「GR-XII」が最も注力したのは、減った状態でも変わらぬ静粛性を備えること。縦溝から横にひげのように伸びるサイドブランチ型消音器は、従来では減った状態になるとその姿を消してしまい、そこで高周波ノイズの“シャー”という音が高まってきてしまうというネガを持っていた。そもそも消音器を持たないタイヤは、縦溝と路面との間で生まれる筒状のところから、ヒューヒューと鳴く気柱管共鳴音を前後から発する。減った状態になった場合、一般的なタイヤと同様の状態となり、レグノが目指す静粛性とはかけ離れた状態になるというところが問題だったわけだ。

 そこでブリヂストンは溝が減った状態でもサイドブランチ型消音器をが消失しないように、シークレットグルーブを開発。これは、新品時は細い状態なのだが、トレッドの底へ向けて溝が拡大する形状をしており、ゴムが薄くなっても消音器自体の体積が変化しないようにしたものだ。展示品を手にしてゴムをめくれば、その下にはかなり大きい溝が構えていることが理解できる。こんな形状をしていると剛性が気になるところだが、走りもウエットも、そして静粛性も犠牲にしない「GREAT BALANCE REGNO」を謳うのだからきっと大丈夫なのだろう。

ブリヂストンのプレミアムブランド「REGNO(レグノ)」の乗用車用タイヤ「GR-XII」
GR-XIIは、気柱管共鳴音を低減できる「ダブルブランチ型消音器」を採用して静粛性を高めた「3Dノイズ抑制グルーブ」と、摩耗に応じて形状が変化する新開発の消音器「シークレットグルーブ」を組み合わせた新しいトレッドパターン技術を採用し、新品時・摩耗時ともに静粛性を向上。また、独自の超微細技術「ナノプロ・テック」によるゴムの進化とトレッド形状の最適化により、従来品の「GR-XI」と比べて転がり抵抗を14%低減、摩耗性能を6%向上させた
サイドデザインには縁起物とされてきた“分銅繋ぎ”デザインを従来品の「GR-XI」より踏襲するとともに、一部サイズでは最先端の微細加工技術により鮮やかな黒のコントラストを実現した「LUXBLACK(ラックスブラック)」を採用
試乗会場に用意されていた展示品を見ると、表面に見えているその下にさらに大きい溝が見受けられる。この溝が今回新開発された消音器のシークレットグルーブで、摩耗によって表面に出てくると消音効果を発揮する
レグノのグレートバランスについて
GR-XIIの概要
静粛性向上のための搭載技術
摩耗時の静粛性向上のために、摩耗後も効果が持続する消音器の開発に着手
摩耗時静粛性向上のための新技術「シークレットグルーブ」
新技術の効果
乗り心地・運動性能両立のための搭載技術
低燃費・ウェット性能両立のための搭載技術
サイドデザインについて

 試乗をする前に、同乗走行でその静粛性を味わうことにした。まずは新品のGR-XIIの静けさを体感した後に、GR-XIIを40%摩耗させたものに乗ると、ほとんどその違いを感じることはない。厳密に言えば摩耗したことでトレッドの剛性が高まってしまうため、若干高めの音はあるのだが、気にならないレベルになっていることはたしかだ。その後、従来製品の40%摩耗状態を試したが、こちらはシャー音が明らかに気になるレベルになっており、そこを解消したかったというのは頷ける。摩耗しても静かであるという当初の狙いはきちんと達成できているように感じた。

GR-XIIの新品と40%摩耗品、従来品の40%摩耗品の3種類の試乗車に同乗。その音の違いを確認した
左が新品のGR-XII、右が40%摩耗品のGR-XII。摩耗してもしっかりと溝があることが分かる

 だが、それで終わりというわけではない。GR-XIIはタイヤの形状を変更することで、少しラウンドした形状としているところも見どころの1つだという。突起に対してリニアに当てていくことで、衝撃を一気に高めることなく心地よさを改善したというのだ。波状路においてそれを体験したが、タイヤが第2のサスペンションとなり、路面からの入力を見事に吸収してくれていることが確かに理解できる。トレッド下に備わるノイズ吸収シートIIの効果もあるのだろう。

 ここまで静粛性やダンピングのよさを追求すると走りが気になるところだが、スラロームを繰り返しても狙ったラインをトレースすることも可能。もちろん、スポーツタイヤのようにハイグリップを生み出すわけではないのだが、リニアな動きは実に心地いい。また、コーナリングしてタイヤがヨレた時であっても、音の変化が少なかった。このステージで基準タイヤとして引き合いに出した「ECOPIA NH100」では、突起の乗り越えもパタンパタンとややハード。コーナリングした瞬間から音が高まるところも、いかにも基準タイヤといった感じだった。

路面との接地形状の最適化により、段差を乗り越える際の衝撃を5%軽減。実際にロープを置いて作られた波状路を試乗してみると、従来品に比べて衝撃が穏やかに感じられた
ブリヂストンの独自技術「ULTIMAT EYE」を活用して非対称形状・パターンを採用することで、従来品と同等の操縦安定性と直進安定性を確保。乗り心地と高い運動性能を両立した

 最後は一般道~高速道路においてその走りを体感してみたが、直進安定性にも優れ、速度を高めてみても静粛性が相変わらずだったところはマル。急激なレーンチェンジでもきちんと受け止められる頼りがいのあるところも好感触だ。新コンパウンドを採用することで、低燃費タイヤのグレーディングにおいて、転がり抵抗「AA」を獲得しているだけに、スーっと転がる抵抗感の少ないところも魅力の1つ。今回は試すことができなかったが、ウェット性能も「b」を獲得しているから、問題はないだろう。

トヨタ自動車「クラウン」とメルセデス・ベンツ「Eクラス」で一般道と高速道路の走りを体感。非常に高い静粛性と運動性能、ストレスなく走れるスムーズさも感じられた

 このように、あらゆるシーンにおいて永続的にその効果が発揮されるGR-XIIなら、新品から廃棄するまで心地よさを得られることは間違いがなさそうだ。これぞまさに、GR-XIIの“GR”のもとになった「GREAT BALANCE REGNO」。レグノはまだまだその道の最高峰を突き進んで行きそうだ。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学