レビュー

新しくなったアウディ「Q3」シリーズを乗り比べ、オススメのグレードは?

新型アウディ「Q3」と「Q3 スポーツバック」を試乗

 2006年発売の初代「Q7」にスタートをしたアウディのSUVラインアップ。“Q”の記号とひと桁の数字で車名が表されるその中にあって、2017年に2代目へとバトンタッチされた「Q5」と、それに続いて2018年にフルモデルチェンジが行われた「Q3」は、「アウディQモデルの中核」と言ってもよい存在だ。

 日本への上陸が始まった新型Q3の大きな特徴は、そのシリーズ中に新たなボディバリエーションを迎え入れたこと。従来型のイメージを強く受け継いだベースボディに加え、アウディが「スポーツバック」と呼称する、より流麗でクーペ風味の強い造形のキャビン部分を備えたボディを用意することが、まずは新しいQ3の大きな特徴となっている。

 基本的なボディの骨格構造や採用するランニング・コンポーネンツは、もちろん2タイプのボディで共通のもの。1.5リッターのターボ付き4気筒ガソリンエンジンと、2リッターのターボ付き4気筒ディーゼルエンジンという2つのパワーユニットが設定されるのも同様だ。ただし、現時点ではボディタイプの違いによらず、ガソリンエンジンはFWDシャシーのみ、ディーゼルエンジンは4WDシャシーのみとの組み合わせ。これは、日本独自の設定である。

 日本仕様ではトランスミッションの選択肢がなく、選べるのは全車で“Sトロニック”を謳う7速DCTとの組み合わせ。欧州向けには残されているMTを選ぶことは叶わない。

 テストドライブは、新たなボディであるスポーツバックをディーゼルで。また、従来型の流れを受け継ぐベースボディを、ガソリンの上級グレード「アドバンスド」で行なった。

 前述のように、前者は4WDで後者はFWD。また、スポーツバックのディーゼルモデルのグレードは、スポーティさを強調する内外装のアイテムや19インチの大径シューズ、スポーツサスペンションなどを標準装備とした「Sライン」に限られることになる。

河村康彦氏が新しくなったアウディ Q3を試乗した

新設されたスポーツバックの居住性は?

 SUVらしく逞しいロワボディに、ルーフラインが後ろ下がりの薄いキャビンを組み合わせたスポーツバックのルックスは、よりダイナミックなデザインのSライン用バンパーやボディ下部にコントラストカラーが採用されたことなどもあって、端的に言って「何ともスタイリッシュ」な仕上がりだ。そんなカッコよさに、居住性に関してはさして期待をせずに乗り込むと、後席の頭上空間もそれなりに確保されていることに、まずは予想以上の好感が抱けることとなった。

1台目の試乗車はQ3 Sportback 35 TDI quattro S line。ボディカラーは「ターボブルー」
Sラインならではのフロントバンパー
スポーツバックではハニカムグリルとなる
Sラインのホイールは19インチ。タイヤサイズは235/50R19だ
サイドステップにもシルバーの架飾が加えられる
リアバンパーもスポーツバックは意匠が異なる
後ろ下がりのルーフラインがスポーツバックの特徴
サイドシルにもSラインのロゴ
Sラインのバッヂ
リアゲートにはクワトロの文字も

 もちろん、それでもスポーツバックの居住性が「ベースボディと同様」と言うことはできない。後席での空間を重視するのであれば「ベースボディの方がオススメ」ということは間違いない。

スポーツバックの後席(左写真)。スタンダードなQ3(右写真)と比べれば頭上空間のゆとりが少ないが、我慢を強いられるようなものではない

 それでも、あのスタイリングと大人でも後席で長時間を過ごせる空間デザインを両立させたことは賞賛に値する。スポーツバックのスタイリッシュさは、“我慢”の上に成り立ったものではないのだ。 ただし、標準ボディ/スポーツバック共に「130mmのスライドと7段階のリクライニング」が謳われるリアシートの調整機構は、どちらかと言えば「ラゲッジスペース拡大のため」というのが実際に使ってみての印象だった。

 例えば、スライド位置を最後端にセットしても、それほど広大な足下スペースが出現するわけではないし、リクライニングも快適と感じられる角度よりも、さらに垂直方向へとセットできるのが特徴。

 すなわち、後席使用時でもその状態をキープしながら、さらに少しでも大容量のラゲッジスペースを得る工夫がなされているという印象。見た目の流麗さを意識しつつも、かくも細かいユーティリティ性向上の策が考えられているのは、いかにも欧州発のSUVらしいポイントと言えそうだ。

インパネまわりは基本的にはスポーツバック通常のQ3と違いはない
Sラインのフラットボトムのレザーステアリング。パドルシフトも備える
ペダルまわり
10.25インチ高解像度液晶ディスプレイ
高解像度10.1インチタッチパネルを採用するMMIナビゲーション
トランスミッションは全車7速Sトロニック
前席。シートにはSラインのロゴが入る
後席はスライド、リクライニングができる
収納式のアームレストも装備
Q3 スポーツバックのラゲッジスペース。トノカバーはフロア下に収納可能
後席をスライドさせて奥行きを増やすこともできる
後席は3分割可倒式で真ん中だけを倒して長尺モノを搭載するような使い方も可能だ

ディーゼルで4WDのスポーツバックの走りは?

 日本でのディーゼルモデルは、前述のようにイコール4WD仕様という設定。それもあって車両重量はそれなりの“重量級”で、1.7tをオーバーする結果になっている。

直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ディーゼルターボエンジンは、最高出力110kW(150PS)/3500-4000rpm、最大トルク340Nm(34.7kgfm)/1750-3000rpmを発生

 その関係もあってか、動力性能全般は「不満はないが余裕も少ない」というのが率直な印象。加えれば、加速シーンに伴うノイズも、「喧しいとは言えないがディーゼルエンジンの持ち主であることは明瞭で、静粛性が際立って高いとは言えない」と、それが実感ということになった。

 それでも、2500~3500rpm付近でのトルク感の強さは「さすがはディーゼルエンジンの持ち主」と言いたくなるたくましさ。そうしたゾーンでのアクセルペダルの踏み込みに対しては簡単にはキックダウンが行なわれず、そのままのギアでグングンと加速して行く様が快感だ。

ディーゼルらしいトルクがあるが4WDならではの車重の重さも感じる

 逆に少々残念に思えたのは、停止寸前まで車速がおちた場面から再加速を行なうと、ギアが1速まで落ちずに2速発進の状態となって、緩慢な加速力しか得られない場面に少なからず遭遇したこと。こうした状況が、日常の街乗りシーンにおいて動力性能に対する印象を大きく下げることになっていたのは残念だ。

 フットワークのテイストは、しっかりと路面に地についた感覚が基本でありながらも、全般に「かため」の乗り味という印象が強いもの。このあたりは、Sラインゆえに標準装備をされる“スポーツサスペンション”に、19インチという「見た目重視」と思われるシューズを組み合わせていることも大いに影響をしていそうだ。

Sラインらしい硬めの乗り味

FWDならではの軽快感が際立つガソリンモデルのQ3

 そんなスポーツバックのフットワークに対する考察があながち誤りではないことは、標準サスペンションに18インチのシューズを組み合わせたガソリンモデルへと乗り換えると納得ができる。フットワークの軽快感はこちらがグンと上。加えれば、軽快感がアップしたのはフットワーク・テイストのみならず、加速感やハンドリングの感覚でも同様であった。

2台目の試乗車はQ3 35 TFSI advancedでボディカラーはタンゴレッド
こちらはSラインではないスタンダードな意匠のバンパー
Q3ではグリルが縦フィンとなる
ホイールは18インチでタイヤサイズは235/55R18
比較的垂直に立ち上がったリアまわり。バンパーの意匠もスポーツバックとは異なる
ステアリングまわり
ステアリングコラム左側にはウインカーやクルーズコントロールのレバー
ステアリングコラム右側はワイパー
灯火類のスイッチ
センターコンソールのトレーは対応するスマートフォンをワイヤレスで充電できる
電動調整式のフロントシート
ルームランプなど
標準装備の「Audi バーチャルコックピット」は通常のメーター表示だけでなく、車両情報からナビ画面までさまざまな情報をさまざまなパターンで表示できる
高解像度10.1インチタッチパネルディスプレイでは、カーナビのほか、各種設定を変更可能。また、「Apple CarPlay」や「Android Auto」にも対応する
BANG & OLUFSENのオーディオシステムも用意される
サブトランクにはサブウーファーも装備
ベーシックモデルでのサイドシル
ラゲッジスペース
後席のスライドやリクライニング、分割可倒によるアレンジができる
リアゲートは電動タイプだ

 こちらはFWDということもあり、比べれば車両重量が180kgほども軽い点も大きく影響をしているに違いない。いずれにしても、見た目の雰囲気とは裏腹に、「運動性能全般が遥かに軽さを増し、むしろこちらの走りの印象の方がスポーティ」というのが、前出ディーゼルから乗り換えた偽らざる印象だった。

車重の軽さが生きて、むしろディーゼルよりスポーティに走りを楽しめる
最高出力110kW(150PS)/5000-6000rpm、最大トルク250Nm(25.5kgfm)/1500-3500rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴ガソリンターボエンジンを搭載。ディーゼルエンジンよりトルクで劣るが2WDで車重が軽い

 こうなると、新型Q3シリーズの個人的なオススメは、今回はテストドライブがならなかったものの「恐らく、スポーツバックのベーシックグレードである『35TFSI』なのではないか」と言いたくなってくる。ベースボディに比べると確かに後席居住性はやや見劣りをするが、それでもそのパッケージングは大人4人が長時間を過ごすのに問題がないもの。豊富に用意をされたパッケージオプションを選択すれば、上級グレードに匹敵する装備の持ち主へと仕上げることも可能。乗り味も、恐らくこちらの方が上質なものとなりそうだ。

 いずれにしても、スポーツバックの登場によってその商品力が大幅にアップをしたことは間違いナシ。従来型以上に「売れそう」な新型Q3シリーズなのである。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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Photo:堤晋一