レビュー

【スタッドレスタイヤレビュー】ダンロップ「ウインター マックス 03」を0℃付近のスケートリンクで試す

0℃付近の滑りやすいスケートリンクでウインター マックス 03のアイス性能をチェック

 ダンロップのスタッドレスタイヤ「WINTER MAXX(ウインター マックス)」が02(ゼロツー)から03(ゼロスリー)へとフルモデルチェンジして、8月1日より発売された。今回はその最新ウインター マックス 03をスケートリンクで試す機会を得た。スタッドレスタイヤの進化は、いつも各社が最先端の技術を盛り込む傾向があり、それは技術解説を聞いても、実際に乗ってみても興味深いものが多いが、今回のウインター マックスはスタッドレスタイヤ造りの概念を根本から変えてしまうもののように感じるものがあった。

 それは「ナノ凹凸ゴム」(特許出願中)と名付けられた構造だ。氷の表面に浮く水膜を除去することがアイス路面を征するといっても過言ではない。そのため、これまでにもどのメーカーもその水膜を除去する技術を開発しており、例えばゴムの中に空洞を設けることで、そこに水を吸収させるといった考え方で技術投入しているメーカーも多い。

 だが、ウインター マックス 03はナノ凹凸ゴムの突起部分が起点となって強い水の流れを生み出して水膜を除去し、グリップをさせるという。これは簡単に言えば、尖ったゴムが路面に叩きつけられる力を利用して水を飛ばすということだろう。たしかに考えてみれば濡れたテーブルに手のひらを叩きつければ、水があっという間に周囲に飛び散り、手はテーブルにグリップする。手のひらにイボイボを付ければ、さらにそれは速まるということだろう。そのイメージ図についてはアニメーションをご覧頂きたいが、ナノ凹凸ゴムがいかに除水時間を短くしているかが分かるだろう。

WINTER MAXX 03 テクノロジー解説| ダンロップスタッドレス(2分34秒)

 トレッドパターンについても全面刷新され、旧製品と比較するとアウト側のブロックが大きくなったことが伺える。これもまた、アイス路面のコーナリングでゴム接地面積をいかに稼ぐかという回答のように感じられる。対してイン側は引っ掻き効果を発揮するような斜めの溝が切られた部分が多い。トータルして旧型とシーランド比を比較すると3%アップとなったそうだ。

ウインター マックス 03(左)と従来モデル02(右)の比較。03のほうが溝の面積が減ってランド比がアップしている
ウインター マックス 03のIN/OUT指定のトレッドパターン。写真左がIN側、右がアウト側となる

 だが、ここまでゴムの接地面積優先にすると、氷の路面はよくなるが、雪上を走った場合に引っ掛かりが少なくなる。そこでセンターの2本の溝の底部に対して「シングルスロープ」なるノコギリ状の凹凸を採用。これまではいわば2次元で路面を捉えていたが、溝底まで使う3次元で路面をつかみに行ったようなもの。ダンロップの解析によると、雪上では溝のカドや交差点近くに雪が踏みかたまり、それをつかんでかき出すことでグリップしているとのこと。溝面積が減るということはカドや交差点の減少となるため、それを取り返す必要があったそうだ。そこで生まれたのが溝底の「シングルスロープ」だったというわけである。たしかにこれならギザギザの部分に雪が引っ掛かり、つかんでかき出しそうだ。ちなみにこの2本はノコギリの方向性が異なり、回転方向を変えてもシッカリと効くように設計されている。

縦溝の奥にシングルスロープと呼ばれるノコギリ状の凹凸を設けることで雪をつかむ性能をアップさせた

 また、溝に雪が詰まってしまうと、これまた雪上グリップの低下に繋がってしまう。そこで排雪にも気をつかった設計が行なわれている。ポイントとなるのはイン側から2つ目のリブで、ひし形のブロックに対してジグザグの溝が切り込まれているところだ。ひし形のどの辺とも平行にならない溝を切り込むことで、ブレーキングやトラクションなどの縦方向の入力でヨレが発生した場合、そこに詰まった雪がニュルッと押し出されるようになっているのだ。肌の角栓を押し出すかのような動きとでも言えば伝わるだろうか?(笑) いずれにせよ、とにかく細かく対策が行なわれているのだということが伝わってくる。

ジグザグの溝によって溝に詰まった雪を押し出すパターンとした

0℃付近の滑りやすいアイス路面で比較

 さて、今回はスケートリンクという試乗環境のため、あくまでも氷上性能のみのチェックとなる。果たして「ナノ凹凸ゴム」の効果はどうか? ちなみに今回はあえて滑りやすいシチュエーションでの性能を比較してほしいとのメーカー側の意向により、会場内は0℃付近という室温に保たれていた。氷が溶け出し始める、一番滑りやすいシチュエーションと言えるだろう。

 まずは従来モデルからチェック。ウインター マックス 02で走り出すと、さすがに悪条件のためトラクションがなかなか路面に伝わらず、トラクションコントロールが絶えず効いている感覚でのスタートとなった。ブレーキテストを行なうための進入スピードは20km/hを目安にということだったが、思ったように加速ができず13km/hが精一杯である。そこからフル制動を試みるが、ABSが効きっぱなしとなり、停止距離は12mくらいだった。続いて定常円旋回ステージに突入すると、ステアリングの切りはじめの操舵感が薄く、グリップを簡単に失ってしまう感覚があった。

ウインター マックス 02で氷上ブレーキ性能をテスト。約13km/hからのフルブレーキで完全停止したのは12mほどの位置
ハンドリングも試す。場所によってはかなり氷が解けているようなところもあって、非常に滑りやすくコントロールに苦労する状況

 続いて新製品となるウインター マックス 03に乗り換えると、まずはトラクションの違いに驚くほどだった。速度は簡単に乗せられるイメージで、先ほどの進入スピードに合わせるにはアクセルをかなり緩める感覚があった。先ほどと同じ13km/hからフル制動を試みれば、ナント7m弱で止まるではないか! これぞ「ナノ凹凸ゴム」の効果なのだろう。それは定常円旋回でも変わらずに効果を発揮。ステアリングの切りはじめからステアリングに反力が生まれており、路面に確実に食い込んでいることが伝わってくる。グリップ限界も高く、操舵角が少なくて旋回できるイメージがあり、安心感がかなり高まっていた。氷上ブレーキ22%アップ、氷上コーナーリング11%アップというダンロップのデータはウソじゃなさそうだ。むしろ今回のテスト環境ではそれ以上の体感があったように思える。

ウインター マックス 03ではなんと7m弱で停止することができた。22%どころの差ではない
ウインター マックス 03ではハンドリングもまるで手応えの印象が違う。先ほど滑りやすかった場所でもしっかりと手応えがあって安心感が違う

 ここまでよくなっていると、気になるのは耐摩耗性能だが、従来よりは落ちるものの、社内基準はシッカリと満たしているとのこと。走りの性能が高まれば、どこかが落ちるのは当然のこと。逆に耐摩耗性能が若干落ちていますとうたうところに好感が持てる。今回は氷上性能のみしか確認できなかったが、雪上の性能がどうなっているのかも、機会があれば試してみたいところだ。

ぜひ次は雪の上でも試してみたい

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。