【タイヤレビュー】ミシュランの2輪車用新スポーツツーリングタイヤ「ROAD6」試乗 間違いのない機動力アップと一体感の向上

2022年1月10日 発表

ミシュランの新スポーツツーリングタイヤ「ROAD6」試乗した

4年ぶりに登場したROADシリーズの新製品

 日本ミシュランタイヤは2022年2月下旬より、2輪車用スポーツツーリングタイヤ「ROAD6」を販売する。2002年の「PILOT ROAD」から始まった一連のシリーズの新製品で、2018年に登場した前世代「ROAD5」の進化版に位置付けられるものだ。今回はテストコースにて同タイヤをいち早く体験することができたので、製品の概要とインプレッションをお届けしたい。

ミシュラン「ROAD6」サイズラインアップ一覧。価格はオープンプライス

前後とも「2CT+」化&ボイドレシオの最適化でウェットグリップ15%向上

シリーズ6世代目となる「ROAD6」

 ミシュランのラインアップにおいて「スポーツツーリング」というカテゴリーに属するROADシリーズは、濡れた路面など状況の変化に左右されにくく、長距離ツーリングを安心して楽しめる十分なグリップと高い耐久性を備えるラジアルタイヤだ。その6世代目となる新しいROAD6は、前世代のROAD5からウェットグリップで15%、耐久性で10%、高速安定性で5%、それぞれ向上させているのがポイントとなる。

ROADシリーズの歴史

 なかでも15%アップのウェットグリップ性能に貢献しているとアピールする要素の1つが、新設計のトレッドデザインだ。トレッド全体に占める溝の面積(ボイドレシオ)は14%で、ROAD5の12%から拡大した。両製品を並べると、ROAD6の方は見た目でも明らかに広くえぐられていることが分かる。

ROAD5 フロント(回転方向↓)
ROAD5 リア(回転方向↑)
ROAD6 フロント(回転方向↓)
ROAD6 リア(回転方向↑)
ROAD6のボイドレシオは14%に
溝は見た目でも明らかに拡大している

 そのうえで、排水(斜め)方向におけるボイドレシオもリーンアングルに関わらず可能な限り一定になるよう最適化を進め、ウェット路面のグリップ力を向上させながら、ドライ路面のグリップ力維持にもつなげている。

排水方向のボイドレシオが一定になるよう最適化が進められた
トレッドの摩耗が進んでもサイプ(細溝)の排水性能を維持する「ミシュラン・ウォーター・エバーグリップ・テクノロジー」はROAD5から引き続き採用

 2世代目の「PILOT ROAD2」から採用されてきた、センターと左右ショルダーに異なるコンパウンドを用いる「2CT(2コンパウンドテクノロジー)」は、ROAD5でリアのみ「2CT+」へと進化していたが、ROAD6ではフロント・リアの両方が2CT+化を果たした。

 従来の2CTはセンターがハードコンパウンド、左右ショルダーがソフトコンパウンドと、単純に3分割されているもの。一方の2CT+では、ショルダー部もハードコンパウンドをベースにし、その上にソフトコンパウンドが重ねられている。これによって特にバンク時のタイヤ剛性が増し、全体的な走行安定性の向上も狙えることになる。

フロントも2CT+となった

 コンパウンドについても一新してシリカ100%とした(着色のためにカーボンブラックが用いられているはずなので、正確に100%ではないと思われるが)。低温から高いグリップ力を発揮するシリカの性質をさらに活かせるようにすることで、ここでもウェットグリップの改善を図っているようだ。

コンパウンドはシリカ100%に
サイドウォールの一部、ロゴ部分に、マットな質感を表現する「ベルベット・テクノロジー」が採用
ROAD5とROAD6の性能比較。ドライグリップやハンドリングには大きな違いはないようだ

 なお、ROAD6は軽量車から重量車まで幅広く対応する製品だが、加えて大型ツアラーのような超重量車向けには「ROAD6 GT」も用意されている。GTは主にリアタイヤの内部構造を変えており、ROAD6がポリエステルとアラミドのプライ(カーカス)がそれぞれ1枚ずつ、繊維が垂直方向になるように重ねられているのに対して、ROAD6 GTではさらにポリエステルプライを1枚、斜め方向に重ねる形で追加されている。重い荷物を積載するときやタンデム走行するときの安定性を考慮したタイプとなる。

ROAD6 GTはサイドウォールにも「GT」が記されている
ROAD6との主な違いはリアタイヤの内部構造。GTではカーカスが1枚追加されている

重量車のCB1300に「軽さ」を感じるROAD6

ウェット路面、ドライ路面の両方のシチュエーションを試せるテストコースへ

 テストコースでは、ROAD5とROAD6の2製品について、中排気量から大排気量まで多数用意された同一車種同士で比較試乗できた。そこから筆者が選択したのは、試乗車のなかで(ROAD6 GT装着車を除き)最も重量のある「ホンダ CB1300 SUPER BOL D'OR(車重272kg)」と、反対に最も軽量な「ヤマハ MT-07(重量184kg)」の2台。その差88kgという大人1人分以上の車重の違いによってタイヤフィーリングに差が出るかどうかもあわせて確認してみることにした。

最初はROAD5を装着する重量車のCB1300から

 最初に乗ったROAD5を装着するCB1300では、タイヤの頼りなさが気にかかった。ブレーキング時にフロントが潰れすぎるため、コーナーへの突っ込みではどうしても慎重にならざるを得ず、恐る恐る手探りするようにバンクさせていくしかない。その後の立ち上がり加速ではリアがつぶれすぎているのか、常にヌルヌルと滑っているような感覚が伝わってくる。

フロントは頼りなく、コーナー侵入時に不安感を抱くことも
リアは立ち上がりで滑っている感覚があり、頼りない

 CB1300の車重に対してタイヤの剛性が前後とも明らかに不足している。ワインディングを軽く流したり、高速道路を一定速度で駆け抜けるような、ごく一般的な走行シーンでこうしたネガを感じることはないと思うけれど、誤ってオーバースピードでコーナーに向かってしまったとき、危険回避のために急制動・急旋回をしなければならなくなったときなどに、不安を感じてしまう瞬間はありそうだ。

次にROAD6を装着したCB1300を試乗

 しかしROAD6を装着したCB1300は、おそらくは主にフロントの2CT+化による剛性アップが影響しているのだろう、ROAD5にあったような不安感は取り除かれている。走り出した最初のコーナーで、すぐに車体の「軽さ」を感じ取ることができた。左右に倒すときの力が一段少なくなったようなイメージだ。

フロントは2CT+で剛性がアップしたためか「軽さ」を感じる

 バンク中の接地感は確実に増し、立ち上がりのリアのヌルヌル感も抑えられている。リアタイヤは剛性面ではROAD5とそれほど変わらないはずなので、荷重がかかったときのつぶれ方は同じようなものだと思われるが、コンパウンドを一新したことによるグリップ力向上が安定感、安心感につながっているのかもしれない。走っている最中に「これだよ、これ!」とつぶやきながら、笑顔になっている自分がいる。

スラロームコースでは常に安心感をもってアクセルを開けられる

 15%アップしたというウェットグリップ性能は、ウェット路面での急制動テストである程度客観的に確認できた。ROAD5では時速50kmからの制動距離が12メートル前後だったところ、ROAD6では10.5~11メートルほどに短縮した。同じテストを5、6回繰り返しても同じ傾向が見られたので、制動力(グリップ力)が上がっていることは間違いない。15%のうたい文句に限りなく近い性能を発揮している。

制動距離はROAD6でマイナス1~1.5メートル。うたい文句通りのウェットグリップ性能と言える

軽量車の機動力にはさらなる磨きがかかる

軽量なMT-07ではどうか

 続いて試乗したのはMT-07。先ほどの重量のあるCB1300のときはあまり気にならなかったが、ROAD5を履かせたMT-07ではタイヤの温まりに時間がかかるように感じた。少しでも無理すればスリップダウンしそうな感覚がつきまとい、スラロームコースの最初の数周はペースを上げられない。タイヤを地面に押しつける力が単純に弱い軽量車ということで、走り始めの接地感が余計に薄く感じられるのかもしれない。

ROAD5装着車は走り始めの接地感が薄い。目線も下がりがちに

 しかし、その車体の軽さのおかげでROAD5でもタイヤがつぶれすぎず、一度タイヤが温まればコーナーの突っ込みで不安に感じることはないし、立ち上がりでリアの横滑り感に怯えることもない。ただ、車体を左右に振ったときのもたつき感はあり、ROAD6装着車に乗り換えるとその部分の違いがはっきり見えてくる。

ROAD5は温まればグリップ感は出てくるが、思い切ってバンクしにくい

 ROAD6ではフロントタイヤに張りがあるような、タイヤのエアボリュームをしっかり活かしながら走れるような、そんな感触。抵抗少なくパタパタと左右に素早く倒し込んでいける。ここはタイヤの温まりが早く不安が少ないこともあるだろう。加減速時にメリハリをつけても破綻する気がしないから、必然的にスピード域も上がる。そもそも機動力の高い2気筒のMT-07だが、その性格に一段と磨きがかかり、MT-07らしい軽快さを容易に引き出せる。

ROAD6のMT-07に乗り換え。すぐにバンクセンサーを擦るまで倒し込める
2気筒のトルクフルな特性を活かした加速にもついてくる
もともと機動力のあるMT-07がさらに軽快に

 時速50kmからのウェット路面での制動距離は、CB1300ほどの違いは出なかったが、MT-07の場合もROAD5で10.5メートル程度、ROAD6で10.0~10.2メートル程度という結果になり、性能アップを実感できる。近年はABS搭載が標準的になり、パニックブレーキ気味にガッツリ握り込んだとしても転倒を恐れることなく安全に停車できるが、グリップ力が上がったROAD6ならそのメリットを最大限に活かし、気持ちの上でもさらに余裕が生まれそうだ。

MT-07での制動距離はマイナス0.5メートルほど。重量車ほどではないとはいえ、軽量車でも制動力は上がっている

 そんななかで、5%アップしたとされる高速安定性については、今回の試乗コースにおける条件下では差をはっきりと感じ取ることはできなかった。時速100km以上で走行できる高速外周路で、フラットなラインだけでなく、あえてレーン間の縦に継ぎ目のあるラインを走行してみたりもしたが、ROAD5でもROAD6でも同様の操縦安定性。CB1300とMT-07のどちらについても、その印象に変わりはない。

 当日はときどき強い横風も吹き付けてきたが、そうした外乱要素でのふらつきも抑えられている。高速外周路上に置かれた直線パイロンスラロームで左右にバイクを振ったときの転がりが、ROAD6だとなんとなくスムーズかもしれないな……と思う程度だ。

CB1300とMT-07で高速周回路をテスト。ROAD5でもROAD6でも、高速安定性や操安性に明確な差はないように感じた
ROAD6 GTを装着したBMW R 1250 RTも最後に試乗
こうした超重量車でもより安定した高速走行を可能にしている

バイクとの一体感を重視したいライダーに

 ROAD6の外観を最初に目にしたときは、溝が大きくなりボイドレシオが上がったことで、トレッド表面における剛性が低くなる=軽快さが失われるのではないかと心配していたが、杞憂だったようだ。重量車でも軽量車でも、ROAD5以上に軽快に操ることができる。

 ただし軽快に操れるとはいっても、接地感が薄くなっているようなことはない。アスファルトをきちんと面で捉えていることが分かるし、これによってタイヤをより一層信頼でき、車両への信頼にもつながって、バイクとの一体感がより高まる。そういった意味では、ずっとツーリングタイヤを使ってきて、「いまいち自分のバイクと仲良くなれていないな」と感じている人にとっても、ROAD6に履き替えるメリットは大きいはずだ。

 また、高速安定性の5%アップについては、今回の試乗では実感できなかったことから、高速道路メインのロングツーリングだとROAD5でも不満なく走れるレベルにあったに違いない。しかしながら絶対的なグリップ力の向上があることを考えればROAD6の優位性は明らか。もともとROADシリーズで定評のあったタイヤライフ自体も10%向上していることから、幅広い層のライダーがROAD6にすることで得られる恩恵は大きく、満足度も高いと言い切れるだろう。

ツーリング中にありがちな突然の降雨でも、高いグリップ力を発揮できる安心感は心強い
日沼諭史

1977年北海道生まれ。Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターに。IT、モバイル、オーディオ・ビジュアル分野のほか、四輪・二輪や旅行などさまざまなジャンルで活動中。2009年より参戦したオートバイジムカーナは2年目にA級昇格、2012年にSB級(ビッグバイククラス)チャンピオン獲得。

Photo:堤晋一