レビュー

【タイヤレビュー】グッドイヤーの新オールシーズンタイヤ「Vector 4Seasons Gen-3」を雪上&氷上で試した

7月19日発表の新オールシーズンタイヤ「Vector 4Seasons Gen-3」をモータージャーナリストの橋本洋平氏が試した(写真手前は普通車用、奥はSUV用)

第3世代はどう進化した?

 日本市場に対していち早くオールシーズンタイヤの「Vector 4Seasons」を投入した日本グッドイヤー。その第3世代となるタイヤが今回発表されることになった。「Vector 4Seasons Gen-3」と名付けられたそれは、これまでオールシーズンタイヤが苦手としてきた音や振動、そして雪上性能についてもアップさせてきたところがポイントとなる。アレもコレもと欲張るのだから、どこかにネガがあることは百も承知だが、どこまでウイークポイントが改善されたか否かが興味深い。今年2月に行なわれた長野県の女神湖での試乗と、その周辺の一般道で得たインプレッションをお伝えしたいと思う。

 Vector 4Seasons Gen-3のトレッドパターンを旧製品「Vector 4seasons Hybrid」と見比べてまず理解できたのは、切り込みが多く入れられていたセンターリブを廃止し、独特なV字パターンをさらに寝かせて細かく溝本数を増やしたことだった。ブロックには多くの切り込みが入れられ、それもまた細くなっている。いかにも雪に食いつきそうにも見受けられるがどんな意図があったのか? 開発ドライバーにその訳をうかがってみると「まず気を使ったのはノイズの低減でした。そのためには斜めに入っている溝のボリューム、つまりは溝の太さを落とす必要があったんです」とのこと。

 センターリブをなくしたのは、V字の溝を増やしてできるだけサイドに排水することを目的としたための対策らしい。結果として静粛性は大幅に向上し、雪上性能は4%アップ。氷上性能については推奨してはいないが1~2%はアップしている。コンパウンドについてはスタッドレスほどの極低温時のしなやかさはないが、細かい溝を増やしたことで冬性能をアップさせたということのようだ。

グッドイヤーのオールシーズンタイヤ「Vector 4Seasons」の第3世代となる「Vector 4Seasons Gen-3」。従来のVector 4seasons Hybridからセンターリブが廃止され、ブロックには多くの切り込みが入れられているのが分かる。サイドウォールには浅雪用を示す「M+S」(マッド&スノー)が刻印されるとともに、欧米では「M+S」以上に冬道性能が高いスノータイヤと認められている「スノーフレークマーク」が入る

縦と横のバランスが適正化

まずは旧製品「Vector 4seasons Hybrid」を装着するスバル「レヴォーグ」に試乗

 まずは最もオールシーズンが苦手とするアイス、スノーの性能を試すため、女神湖上に用意された特設コースを旧製品で走ってみる。路面はところどころに雪があり、そこを目指していけばグリップしそうだが果たしてどうか?

 走らせてまず感じたことは、発進時からかなり慎重にアクセルを入れないと動き出しからスリップが始まるところはスタッドレスとは違う。だが、気を使えば動けるというのは間違いない。サマータイヤでは到底無理な状況で動けることは確認できた。ストッピングパワーについても同様で、制動距離は長いものの、止まれないわけじゃない。ネガとして感じるのはステアリングを操舵した瞬間の応答性だった。切り始めてもフロントはなかなか応答せず、小舵角における安心感は薄い。先読みして切り始め、大舵角を与えればそれが抵抗となり曲がり始めるが、そうでなければなかなかクルマの向きは変わらないというのが正直なところだ。

Vector 4Seasons Gen-3を履くプジョー「3008 GT HYBRID4」

 Vector 4Seasons Gen-3に乗り換えてまず感じたことが、その操舵した瞬間の反応がかなり高まったことだった。微小な操舵角であったとしても応答が始まる。感覚としては10年ほど前のスタッドレスタイヤくらいとでも言えばよいだろうか? 路面状況を読み、コーナーへのアプローチ速度をきちんと落とせば難なくこなしていける感覚があったのだ。縦方向グリップについてはそれほど大きく進化したとは感じることができなかったが、縦と横のバランスがかなり適正化したこと、これがVector 4Seasons Gen-3で感じられた部分だった。雪の多い路面を狙って走ればクルマの動きの全てを手の内に収めることは十分に可能ではないだろうか?

 一般道に出てSUV用を走らせてみたが、舗装路における感触は以前よりも改善されている感覚はある。もちろん、サマータイヤのように滑らかにとはいかず、ゴロゴロ、ザラザラとした感触はステアリングやフロアに伝わってくるものの、以前感じたオールシーズンタイヤとは違った印象がある。雪上も氷上もあれだけ動けることを考えれば十分と言っていい。また、軽貨物用のものも試したが、空荷で急勾配となると動けないシーンがあったものの、平坦な路面では十分に動けることが確認できた。

女神湖の外周路ではVector 4Seasons Gen-3装着のトヨタ「ハリアー」に乗った

 このように、あくまでも動けるレベルを確保しつつ、一般的なサマー性能もそこそこ満たしているというのが実情であることに変わりはない。もちろん、着実にレベルアップしていることは間違いないが、冬タイヤとしての性能を過信してはいけない。丁寧に乗り、いざとなればチェーンを巻ける環境は整えておくべきだろう。そういう姿勢で使うのであればオススメできるタイヤだと思う。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はスバル新型レヴォーグ(2020年11月納車)、メルセデスベンツVクラス、ユーノスロードスター。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一