レビュー

【タイヤレビュー】横浜ゴムの新製品「アドバン dB V553」初試乗 摩耗しても静粛性と操縦安定性を維持する技術とは?

2024年2月から順次発売

オープンプライス

横浜ゴムのプレミアムコンフォートタイヤの新製品「アドバン dB V553」を試す機会を得た

ブロック剛性と静粛性を高次元で両立させた

 今春発売予定となっている横浜ゴムのADVAN dB V553を試走させる機会を得た。dB(デシベル)というブランドは、1998年にASPEC dBとして誕生。新たなるV553はその7世代目となる。「LUXURY SILENCE」をキーワードとし、静粛性、上質さ、そしてウエット性能の高さや上質なハンドリングを狙ったコンフォートタイヤであることに変わりはないが、今作のポイントは摩耗時にもあらゆる性能劣化が少なくなるようにしたことだ。

 トレッドパターンはイン側にウエット、アウト側にドライを狙った非対称パターンを採用。主溝は4本となるが、溝壁を立たせ気味にすることで摩耗時の溝体積変化を低減。以前は溝壁が斜めに立ち上がるような形状だったため、摩耗時に溝体積が減る傾向にあったところを改善した。つまりは、新品時から摩耗時まで原型をできるだけ止めるように設計されたということだ。

2024年2月より順次発売予定の横浜ゴムのプレミアムコンフォートタイヤ「ADVAN dB V553(アドバン・デシベル・ブイゴーゴーサン)」。写真のサイズは225/45R18 95W
左がアウト側、右がイン側。主溝は4本だが溝壁を立たせ気味にすることで摩耗時の溝体積変化を低減している

 さらに、接地形状は角がある横長の長方形のような形だったが、V553は角が丸くなり滑らかな接地形状とすることで、耐摩耗性や偏摩耗性能が向上。結果として摩耗時のロードノイズは22%、摩耗時ウエット制動は9%、耐摩耗性能は11%向上がみられたという。

 一方で静粛性の対策も多く取り入れられている。イン側のショルダーは144ブロックに細分化され、ラグ溝をオールサイプ化することで、ブロックダウンやポンピング音を抑制。これらはサブディバイド・サイレントブロックと名付けられている。また、サイプからなるショルダーをサイレントショルダーと呼んでいるが、サイプを3D形状とすることでブロック剛性を向上。操縦安定性の保持や耐摩耗性の向上にもそれらが寄与している。

 剛性を高めれば高めるほど、タイヤが路面に叩きつけられた時の音は大きくなるが、音を小さくしようとすると、それらをなるべくソフトに仕立てる必要がある。けれども、柔らかくなればハンドリングも摩耗性も期待できない。これらを両立するポイントがこれらの技術というわけだ。

ADVAN dB V553で最小サイズとなる155/65R14 75H
左がアウト側、右がイン側。185以下の幅のサイズには「V553A」パターンを採用し、主溝の4本や細分化されたイン側のショルダーなど同様だが、幅の狭いサイズ用にデザインの最適化が図られている

 こうした考え方はベースゴムやコンパウンドにも及ぶ。V553に採用されたサイレントベースゴムは、ベースゴムの厚さをサイズごとに最適化。耳障りに感じる100~160Hz帯のロードノイズを低減。一方でサイド補強ベルトは重量級の車体にも耐える剛性を確保することで走りを高めている。コンパウンドは専用設計となり、横浜ゴム独自のA.R.T.Mixing技術によりシリカ分散性が向上しウエット&燃費性能が向上したという。

 これらトータルでパターンノイズは15%低減。新品時のパターンノイズは、ピッチ数に依存する1次ピッチ周波数522Hzにおいて約2.5dB低減。摩耗時のロードノイズは125~400Hzあたりの中周波数領域で約2.0dB低減している。

1.ADVAN dB のために専用設計されたコンパウンドにより、低燃費性能、ウエット性能、耐摩耗性能を高次元でバランスした。2.走行時に常に変形を繰り返すことでサイド部の発熱を抑える低燃費サイドゴムを採用し、低燃費性能を向上。3.サイレントカバーによりベルト部の剛性を高次元でコントロール。タイヤの振動を抑制、ロードノイズを低減する。4.サイレントベースゴムは、キャップコンパウンドのベースとなるゴムの厚みをサイズごとに最適化。人間が耳障りに感じる100~160Hz周波数帯のロードノイズを低減。5.一般的なタイヤベルトよりも幅広のベルトを採用。ノイズの原因となる、ショルダー部の振動を抑制し、静粛性を高めた。6.重量級プレミアムカーやSUVにおいても確かな操縦安定性と乗り心地を提供するサイド補強ベルトを採用

 さて、新たなるADVAN dB V553は実際にどんな仕上がりをしているのか?

セダン、SUV、ミニバンに乗り、一般道で試乗してみた

 まずはプリウスに乗って試してみることになった。装着されている状況を外から見ると、サイドウォールにあるロゴが以前よりもクッキリと際立つように改められたことが理解できる。また、ウエットの高さを示すレインドロップス・サイドデザインが与えられ、鮮明かつスタイリッシュに、そしてダークなデザインとなったところが新鮮。さらに、横浜ゴムが新車用のOEタイヤ開発で培った低燃費、静粛性技術が入ったものに与えられるE+マークが導入されたことも目新しい。

レインドロップス・サイドデザインを採用
クッキリした文字が特徴のスタイリッシュ&ダークデザイン。電動車への対応商品を示す「E+」マークが入る
従来品「V552」のサイドウォールの文字

 走り始めてまず感じることはロードノイズが低く抑えられていることだった。確かに中周波や高周波ノイズは気にならず、音が遠くのほうで低くなっているようにしか感じられない。つまりは耳障りではないわけだ。モーターだけで走行している時にはそれが実にありがたく、エンジンが始動してしまえばタイヤの音はどこへやら? 高いシャーという音が出ないだけで快適性はかなり高まるものだ。

 それは続いて試乗したエクリプスクロスPHEVにおいて、EV走行を続けた時に特にありがたく感じた。電動化が加速していくこれからの時代にマッチするタイヤであることがよく理解できる。

新製品V553を履いた新型プリウスを試乗
一般道と高速道路を試走してみた
ほどよい素直な応答性と高速走行時の外乱も少なく、直進安定性もきちんと確保されている

 けれども音ばかりに気を使っているわけではなく、ハンドリングも適度に仕立てられているところは絶妙だ。いずれのクルマでもほどよい素直な応答性と、高速走行時の外乱も少なく、直進安定性はきちんと確保されている。抵抗感のない転がり感もなかなか。残念ながらウエット路面は確認できなかったが、トレッドパターンの顔つきが変化しにくいのであれば安心だろう。なにせ、グレーディングは全サイズでウェットグリップは「a」、転がり抵抗は17サイズで「AA」、29サイズで「A」なのだから。

三菱自動車の「エクリプスクロスPHEV」でも試乗
ミニバン「アルファード」では後席での静粛性も合わせて確認した

従来品「V552」との比較試乗で進化のポイントを確認

 続いてはクローズドコースで新旧比較を行なった。それも2万3000km走行想定で摩耗させた状態でテストだというから興味深い。そもそも摩耗寿命に10%の開きがあるため、距離合わせ。旧V552は新品8.0mmから4.3mmへと削り摩耗率59%、新V553は8.2mmから4.7mmへと削り摩耗率53%でのテストとなる。車両はクラウンクロスオーバーの225/55R19サイズ装着車だ。

比較用タイヤを履いた3台のクラウンクロスオーバーが並べられた

 まずは新品状態を確認。静粛性の高さは相変わらずといった感覚。突起の乗り越しなどもしなやかにこなす。ここではスラローム的なことも行ったが、少ない操舵角で駆け抜けられる感覚だった。

新製品V553新品時
アウト側のショルダー部には真っ直ぐな溝が入る
V553の新品時は少ない操舵角で駆け抜けられる感覚

 続いては摩耗させたV553に乗るが、多少ゴロついた感覚があるものの、音に関しては気にならないレベル。少し高い音が出ているかなというくらいなものだ。摩耗したからといっていやな感触はない。ハンドリングは多少よくなったかに感じられる。ブロックのヨレが少なくなったのだろう。これでウエットも遜色ないのならうれしい仕上がりだ。

摩耗率53%(削り)の新製品V553。溝の深さは新品時の8.2mm→4.7mmにしてある
磨耗しても新製品V553のアウト側ショルダー部の溝はしっかりと残っている
摩耗したからといっていやな感触はない

 最後に乗った旧製品のV552は、単一評価していればこれでも十分に静かだと感じるレベルなのだが、相手がV553だと話は変わってくる。ロードノイズは明らかに大きく感じてしまう。さらに違っていたのはステアリングの操舵角がやや大きめだったことだ。おそらく、こうした違いにより摩耗もより進んでしまうのだろう。

摩耗率59%(削り)のV552。溝の深さは新品時の8.0mm→4.3mmにしてある
磨耗した従来品V552のアウト側ショルダー部は溝が消えそうな部分も見える
V553と比べるとロードノイズは大きく感じてしまう

 新型のV553は旧製品と比べると明らかにステアリングの操舵角が少なく、コーナリングパワーが上がった感覚がある。結果として摩耗しにくく、トレッドも崩れにくいから静粛性やウエット性能をキープしやすいように仕上がっているのだろう。あらゆる性能を突き詰めた結果がそこにある。これは長く、快適に付き合えそうなタイヤだ。

サイズ一覧
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。