一度は行ってみたい、日本の自動車博物館探訪記

第5回:「トヨタ博物館~文化館編~」(愛知県)

クルマにまつわる資料が約4000点、圧倒的な情報量を誇るクルマ文化資料室

トヨタ博物館「文化館」(愛知県長久手市)

 トヨタ博物館(愛知県長久手市)はトヨタ自動車創立50周年記念事業の1つとして1989年に設立した博物館です。動態保存されたクルマの展示を通じ自動車の歴史を知る「クルマ館」とクルマにまつわる膨大な資料やアイテムで自動車文化を語る「文化館」の2棟で構成されています。今回紹介するのは「文化館」。1999年に設立10周年を記念してオープンした、かつて新館と呼んでいたエリアです。(「クルマ館」の記事はこちら

 文化館は3つのフロアで構成されています。メインとなる2階には約4000点ものクルマにまつわる資料が一堂に展示されてる「クルマ文化資料室」と企画展示を催すスペースから成っています。また3階には自動車について広く学べる図書室があり書籍や雑誌、カタログ、AV資料など国内外の資料が閲覧できます。また、子供向けに乗り物の絵本を集めた「のりもの・えほん・としょしつ」もこのフロアに用意されています。

 1階には館の特別プログラムやイベントなどを行なう「TINY STUDIO ちっちゃい工房」や「ミュージアムショップ」、ミュージアムカフェ「CAR&BOOKS」があり、1階と3階は無料で利用できます。

圧巻の充実度「クルマ文化資料室」(2F)

文化館2階「クルマ文化資料室」

 クルマにまつわるさまざまな資料や実車のエンブレムなどのパーツ、プラモデルやミニカーなどの玩具などで世界中のクルマの歴史を知ることのできる「クルマ文化資料室」。その充実ぶりは素晴らしくここだけでも1日楽しめてしまいます。

 入場するとまず目に入るのがガラスケースに入った「レオナルド・ダ・ヴィンチの自走車」の模型。自動車が生まれるはるか昔、15世紀に天才レオナルド・ダ・ヴィンチが想い描いたゼンマイ動力のクルマの設計図を元に現代の技術者がそのメカニズムを十分に研究、理解し再現した本気の模型です。

レオナルド・ダ・ヴィンチの自走車(模型)

 のっけから本気を見せられてしまう「クルマ文化資料室」の中心に据えられているのが18世紀から現代に至るまでのクルマを1/43のミニカーでズラリと並べた展示。部屋の端から端までを使いクルマの辿ってきた歴史を一望できます。

1/43模型でつくる時間軸
キュニョーの砲車(1769年 フランス)から始まる模型群。周りに見える同時代の模型はまだ馬車ばかり
写真手前からヨーロッパ車の列、アメリカ車の列、そして奥に細々と日本車が並ぶ1950年代
列の最後はあのタイムマシンでした

 200年を超える時の流れを膨大なミニカーの車列で感じた後は、クルマにまつわるさまざまなモノで自動車文化の変遷を見学します。特に順路は設定されていませんので自由に楽しめます。

 まずはカーバッチ。クルマの先端に配されている事も多く、エンブレムとも呼ばれるメーカーのカーバッチが約400点展示されています。1929年の世界大恐慌以前はピーク時で500社もの自動車メーカーがあったそうで、今では存在しないメーカーも含め小さなバッチに込められたメーカーの思いを感じることができます。

カーバッチ(エンブレム)の展示
日本人にも馴染みの深い現存するメーカーも多い戦後のヨーロッパのエリア
バッチから自動車メーカーの複雑な歴史と栄枯盛衰が見えてくるようです
有名なこのバッチが使われたのはたった10年間だそうです
その他、コーチビルダーのバッチや日本のJAFなどのグリルバッチ、ラジエタースクリプトなどクルマに装着されたありとあらゆるものが館内にギッシリ詰まっています
トヨタ博物館でも正体がわからないバッチもあるそうです。知っている方、何らかの情報を持っている方はスタッフまで知らせてほしいとのことです

 次に、クルマのノーズを飾ったカーマスコットのコーナー。1910年頃から1930年代に流行したクルマのアクセサリーで、その発祥は目印やファッション、自己表現などのためのアフターパーツだったそうです。現在でもロールス・ロイスやメルセデス・ベンツなどに継承されていますので、ご存知の方も多いと思います。ここでは約160点ものマスコットが展示されていますが、中でもフランスのガラス工芸家ルネ・ラリックが製作したガラス製カーマスコット全29種類の常設展示は世界でも珍しいそうです。

カーマスコットのコーナー
今でもほぼ変わらぬデザインを継承しているもの、時代に合わせて少しずつ変化しているものなどさまざまです
はじめはアフターパーツだったというカーマスコット。オーナーがクルマに自分らしい個性を求める気持ちは昔も今も変わらないようです
フランスのガラス工芸家ルネ・ラリックが製作したガラス製カーマスコット全29種類の常設展示は世界的に見ても貴重です

 まだまだ続きます。お次は自動車玩具やゲームの世界。1950年代に欧米に輸出された日本製のティントイ(ブリキ製玩具)からミニカー、プラモデル、スロットカー、ミニ四駆やビデオゲームまで約780点。比較的新しい食玩の世界まであって盛りだくさん。世界初のクルマのラジコン、戦後初の金属製玩具、国産初のプラモデルなど貴重な初モノも多数。今や70~80年代のスーパーカーブームのアイコンになった感のあるスーパーカー消しゴムはもちろん、メンコなどもあり世代によって反応する場所が違うそうです。また自動車が描かれた切手のコーナーもあり、こちらは世界中から集めた約1200点を展示しています。

自動車玩具やゲームの世界
お宝級のティントイ(ブリキ製玩具)の数々
ブリキ製玩具の町工場を取材した記事
超貴重!世界初のクルマのラジコン
当時のお店の雰囲気を意識し雑然とした積み方にしたというプラモデル
1970~80年代の小学生を直撃したスーパーカーブームに登場した様々なアイテム。その出来具合のバラバラさ加減が当時を思い起こさせる消しゴムや、メンコ、プラモデルなど多数展示しています
自動車切手のコーナー

 壁一面を彩っているのは貴重なポスターです。自動車メーカーやパーツメーカーなど所蔵しているポスター約300点のうち20点を展示し、作品保護のため2、3ヶ月ごとにテーマに沿って作品を入れ替えているそうです。

ドイツのポスター画家ヨーゼフ ルドルフ ウィッツエルによるアウディのポスター(1912年)
フランスの自転車、自動車メーカー コトリューやタリードゥの地図などのポスターは19世紀後半のもの
トヨタセリカ/セリカLBのポスターは1970年代

 また、自動車雑誌や出版物のコーナーではフランスで1894年に創刊された世界初の自動車雑誌「La Locomotion Automobile」をはじめとした約60冊の表紙を展示しています。記事はもちろん広告にも時代が反映されていて、時代の空気についつい引き込まれてしまいます。また時代の空気はカタログにも色濃く反映されていて、極めて個性的なインポーターのカタログや、当時の世相や流行を感じるコピーやデザインは新鮮だったり、懐かしかったり、眺めているだけでとても楽しいものです。

自動車雑誌や出版物のコーナー
世界初の自動車雑誌「La Locomotion Automobile」(1894年)
アメリカやイギリスでも1895年には自動車雑誌が登場している
今でも日本でおなじみの雑誌は1960年代登場している
カタログコーナー
デザインやキャッチコピーに時代を感じるカタログ
ボディタイプやグレードもカタログなら一目瞭然。貴重な資料だ
クルマ館で実車が見られるモデルのカタログなどもあって見比べるのも楽しい

 世界中で発信される自動車にまつわるポスター、カタログなどの販促物や玩具、雑誌など趣味の世界のモノは、クルマのみならず、その時代の世相を映す鏡のようなものです。一方で日本独自の手法で伝えているちょっと珍しいコーナーもあります。錦絵、引札、うちわ絵、すごろくなどに描かれた明治維新以降の日本の交通手段の変遷は、日本的な絵柄の美しさも相まって独特な雰囲気です。

引札、うちわ絵のような明治、大正の広告メディアから子ども向けのすごろくまでざまざまなものに自動車が描かれているのは、いかに自動車が時代を象徴する存在であったかを物語っています

 なお「クルマ文化資料室」にはマンガ、文学や映画、音楽にまつわるコーナーも用意されていますが、現在は感染症などの対策のため現在利用できなくなっています。いずれもが自動車文化を語る上で欠かせないモノ。利用できる日が早く来るよう願っています。

文化・マンガ・映画・音楽コーナー(写真提供:トヨタ博物館)

 現在、同じ2階に併設されている企画展示室では企画展「30年前の未来のクルマ」を開催しています(2020年10月11日まで)。

誰でも無料で利用できる図書室には国内外の自動車に関する資料が充実(3F)

図書室(3F)

 書籍、雑誌、カタログ、AV資料が閲覧できる図書館は誰でも利用できます。また、図書館の一角には子供向けに乗り物の絵本を集めた「のりもの・えほん・としょしつ」も併設していて親子で楽しめます。(※新型コロナウイルス感染拡大防止のため利用できる箇所に一部制限があり、また利用方法にも注意が必要です。詳細はホームページで確認してください)

自動車関連の洋書もあります
閲覧スペース
「のりもの・えほん・としょしつ」

ミュージアムカフェ「CAR&BOOKS」(1F)

ミュージアムカフェ「CAR&BOOKS」(1F)

 クルマ館1階にはレストラン「AVIEW」がありますが、こちら文化館にはミュージアムカフェ「CAR&BOOKS」があります。美濃加茂市「コクウ珈琲」の自家焙煎豆を使った7種のコーヒーや名古屋「えいこく屋」の有機紅茶(ダージリン、アールグレイ)、スイーツなどを楽しめます。またパンはサクッとした軽い食感ながら結構ボリュームもあります。
(通常は店内に用意された自動車関連書籍を読みながら食事を楽しめますが、現在閲覧は中止しています。)

盛りだくさんの博物館ですから明るく落ち着いたカフェで途中一休みしながらの見学がオススメです

ミュージアムショップ(1F)

ミュージアムショップ(1F)

 博物館巡りの楽しみの1つ、ミュージアムショップも充実しています。人気のオリジナル「博物館カレー」やここでしか買えない限定グッズ、書籍、ミニカーも豊富です。また、まずここで博物館の公式ガイドブックを入手しカフェで眺め、小腹を満たしてから見学をスタートするのも楽しそうです。

オリジナル「博物館カレー」。辛さとカロリーは2眼のメーター表示
オリジナルプルパックカーは車種選定が秀逸
1/43ダイキャストモデル トヨダAA型乗用車は1936年の実車価格で販売しています

 トヨタ博物館では乗車可能なクルマも用意されています。文化館1階にはスイフト9HP(1905年 イギリス)、ローバー6HP(1907年 イギリス)、屋外にはトヨタ ボンネットバス(1963年)の3台。戦前の英国車やアジア初のオリンピックに向け発展し続ける日本のバスで時代の空気を体感できます。(現在展示中)

乗車可能なスイフト9HP(1905年 イギリス)※現在展示中
乗車可能な ローバー6HP(1907年 イギリス)※現在展示中
乗車可能な トヨタ ボンネットバス(1963年)※現在展示中

 また屋外にはトヨタ博物館にほど近いモリコロパークで2005年に開催された「愛・地球博」で運行された大型低公害バスIMTSも置いてありますのでかつてのボンネットバスと見比べるだけでも時の流れを感じます。また文化館1階には今年100周年を迎えたマツダ、スズキのクルマも展示しています。マツダは三輪トラックCTA型(1953年)、スズキはスズライトSL型(1957年)でどちらもトヨタ博物館で動態保存されている車両です。

愛・地球博開催時に運行された大型低公害バスIMTS
マツダ三輪トラックCTA型(1953年)
スズキ スズライトSL型(1957年)

 以上「文化館」は実際に触れて楽しむ展示に関して現在新型コロナウイルスなどの感染予防のため制限があるものの、それでも非常に満足度の高い内容となっています。その展示は一見マニアックですが(というか、実際かなりマニアック)、女性や子供でも楽しめる内容で家族連れなどではお父さんが「クルマ館」で夢中になっている間、お母さんと子供が「文化館」で楽しんでいるという風景は珍しくないそうです。

 丁寧にレストアされ動態保存された名車の数々を堪能する「クルマ館」と合わせて楽しむと相当なボリュームとなりますが、途中でカフェやレストランで休息をとりながら丸一日かけて目一杯楽しんでみてください。クルマに対する関心や想いがチョッピリ変わるかもしれません。

トヨタ博物館

住所: 〒480-1118 愛知県長久手市横道41-100
開館時間: 9時30分~17時 ※入館受付は16時30分まで
休館日: 月曜日(祝日の場合は翌日) および年末年始
入館料: 大人1200円 シルバー(65才以上)700円 中高生600円 小学生400円 障がい者300円(小学生は200円)※介護者1名 無料
トヨタ産業技術記念館との共通券、団体料金、年間パスポート等、また様々な割引制度あり。詳細は公式ウエブサイトにて要確認
駐車場: 無料(乗用車320台/バス8台/障がい者用8台)
ミュージアムショップ: あり(館内にカフェ、レストランもあり)
アクセス: 名古屋瀬戸道路「長久手IC」より西へ0.4km(東名高速道路日進JCT経由)/リニモ(東部丘陵線)「芸大通駅(トヨタ博物館前)」で下車〔1番出口〕徒歩約5分
ウェブサイト: https://toyota-automobile-museum.jp/
電話: 0561-63-5151
オフ会等での利用: 可(詳細はウェブサイトを参照)
EVの充電: G-Station(PHV/EV用充電スタンド)5台

 なお、2020年シーズンは当面のあいだ新型コロナウイルス等の感染症予防のため、営業内容や日程に変更の可能性があるとのことなので、最新の情報は公式Webサイトを確認していただきたい。

高橋 学

1966年 北海道生まれ。下積み時代は毎日毎日スタジオにこもり商品撮影のカメラアシスタントとして過ごすも、独立後はなぜか太陽の下で軽自動車からレーシングカーまでさまざまな自動車の撮影三昧。下町の裏路地からサーキット、はたまたジャングルまでいろいろなシーンで活躍する自動車の魅力的な姿を沢山の皆様にお届けできればうれしいです。 日本レース写真家協会(JRPA)会員