一度は行ってみたい、日本の自動車博物館探訪記

第1回:国内最大級を誇る「日本自動車博物館」(石川県)

約1万2000m2の床面積に圧巻の500台を展示

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として外出の制限が出てずいぶん経ちました。長期戦の様相も見せている今回の件では、ストレスが溜まっている人も少しずつ増えてきているのではないでしょうか? 不便なことも何かと多いご時世ですが、こんな時は嘆いていてもはじまりません。こんな時こそ収束後に思いき切り羽を伸ばすための情報集めなどいかがでしょう。今回は自動車好きなら1度は行ってみたい日本最大級の自動車博物館、石川県にある「日本自動車博物館」をご紹介します。

 政府も日々の対策とともに、「新型コロナ収束後~『Go Toキャンペーン』に約1.7兆円」など、収束後の観光需要を喚起するキャンペーンを考えているようですし、そんなおトクな話を視野に入れながら今から旅の計画を立ててみてはいかがでしょう。収束がいつになろうと博物館は逃げたりしませんので、ぜひ!

日本自動車博物館(石川県小松市)※2020年4月13日~5月1日まで臨時休業

 石川県小松市にある「日本自動車博物館」は、常時約500台を展示する日本最大級の私設自動車博物館です。1978年に開館したこの博物館のコレクションは、年代やジャンルを問わず幅広く、1899年(明治32年)に製造されたガソリン自動車の元祖とも言える「ド・ディオン・ブートン」の4輪車から、ちょっとだけ懐かしい平成生まれの「ユーノス・ロードスター」など幅広いラインアップが特徴です。展示車の多くはメーカー別に分けられ非常に見やすくなっていますが、3輪トラックだけのコーナーや日本から海外へ輸出されたクルマのコーナーなど、さまざまな切り口で集められたコーナーも充実していて、クルマ好きなら1日中眺めていても飽きることはなさそうです。世界にたった1台しかない、ここでしか見られない貴重なクルマから、かつて誰もが街で見かけた大衆乗用車や商業車までもが一堂に揃う巨大博物館、それが日本自動車博物館なのです。

地上3階建の館内は約1万2000m2。しかもその2階、3階部分の外周部は2層構造となっており実質5つのフロアに所狭しと並んでいるクルマの数は圧巻の500台

このクルマが見られるのはここだけ! 貴重なクルマの数々

ジオット・キャピスタ(1989)

 バブル景気に沸く1989年の第28回 東京モーターショーで参考出品された「ジオット・キャスピタ」の1号車。「公道を走るF1マシン」を目指し企画され、たった1台だけ製作されたスーパースポーツが見られるのはこの博物館だけです。ちなみにジオット・キャスピタは後に2号車も製作されますが、バブル景気の崩壊とともに計画は頓挫し量産されることはありませんでした。

ロールスロイス シルバースパーII(1989)

「ロールスロイス シルバースパーII」は、世界で1台のクルマというわけでもありませんが、この個体は1993年12月から1999年2月まで英国大使館で使用され、サッチャー元首相やチャールズ皇太子、そして故・ダイアナ妃も来日時に使用されたもの。英国大使館から寄贈されたこのクルマの歴史を知れば、その貴重さも納得の1台です。ちなみに後方に見えるクルマは、金沢市の仏壇店が開発に8年もかけて純金箔1000枚を使用し、外装を仕上げた「マツダ カペラ」(1989)。このような金箔車も日本には1台しかないそうです。

ブラザーイベントカー Nander-21

 このピンクの大型バスは、ブラザー工業が昭和59年に創立50周年記念事業の一環として製作した多目的イベントカーです。このクルマを使った同社のイベント活動は平成3年まで行なわれ、勇退後にこの博物館に寄贈されたそうです。ベースは「三菱ふそう」でソーラーシステムや水洗トイレ、車いす用電動リフトなどを備えています。展示車両のジャンルの幅広さを感じる1台です。

 そのほか、大学などが研究を重ねてきた水素自動車の試験車両や、戦中に大本営で使用され、後に早稲田大学自動車部の部車となった「キャデラック」など、興味深いエピソードを持つクルマが数多く展示されています。

メーカーの歴史が分かるメーカー別展示

展示車はメーカー別に整然と区分けされています。写真は左がいすゞ、右が日野のコーナー

 日本自動車博物館の基本的な展示スタイルはメーカー別です。現在では乗用車を生産していない日野やいすゞの乗用車コーナーはもちろん、日産とプリンスはきちんと別のコーナとして展示してあるなど、1つひとつのコーナーがとても充実しています。

いすゞ
日産
ダイハツ
三菱
トヨタ
日野
マツダ

はたらく自動車の充実っぷりは圧巻

日本自動車博物館の原点である商業車のコーナー

 戦後、日本の復興を支えたのがトラックなどの商用車。物資の少ない時代から修理しながら大切に使ってきたそれらのクルマも、高度成長期には簡単に廃車に追い込まれてしまいました。それを残念に思った地元・石川県の実業家 前田彰三氏が、1978年に創立したのがこの日本自動車博物館です。それゆえ日本製の古い商用車の展示はこの博物館の原点とも言え、次々とあらわれる新しいクルマとともに展示されるこれらの商用車を通じて日本が経験してきた道のりと、国産車の進化が感じられるラインアップとなっています。

大型トラック・バスのコーナー
国産三輪車のコーナー
日本の復興や市民生活を支えてきたクルマが数多く並んでいます
天井に届きそうな高い台に数多くのパネルとともに誇らしげに展示されているのは、1941年型の「くろがね四起」。軍の要望で生まれたこのクルマはアメリカの「ジープ」より早い1936年に量産が開始された純国産4輪駆動車です

1980年代~1990年代のクルマも充実

手前は初代「ホンダプレリュード(1981)」。奥には大流行した赤いBD型「ファミリア」や「パオ」「エスカルゴ」など日産のパイクカーが並んでいます

 メーカー別の展示でもジャンル分けの展示でも、今でも街でたまに見かけるちょっと懐かしい1980年代~1990年代のクルマが充実しているのも、この博物館の大きな特徴の1つです。

左が稀少な「オーテック ザガートステルビオ(1991)」、右が超稀少な「ザガート カビア(1993)」
1980年代~1990年代のクルマもとても充実しています

見応えある輸入車のラインアップ

 輸入車も珍しいクルマが目白押しです。戦前の貴重なモデルや商用車から、映画やTVにまつわるクルマまで幅広く展示してあります。また、欧米のモデルだけでなく、旧ソ連や旧東ドイツ、中国など、いろいろな国のメーカーのクルマが並んでいます。

輸入車のラインアップも充実
フォードのコーナーは戦前車中心の展示
ウーズレーやバンデンプラ、トライアンフなどの小型車や欧州フォードやメルセデス・ベンツのドイツ勢、シムカなどさまざまな国の自動車が並んでいます
古き良きアメリカのキャデラックや旧ソ連の政府高官向けに作られたジム、中国の要人が使った紅旗などの大型セダンや世界各国のジープタイプの4WDなど輸入車も充実しています。東ドイツのトラバントは1989年のベルリンの壁崩壊でイッキに有名になりました

二輪車の展示も見逃せません

ずらりと並んだ二輪車のコーナー

 2輪車の展示は、比較的新しいモデルから1950~60年代の「ライラック」や「メグロ」「陸王」など、今その名前が残っていないモデルまで多数展示してあります。また、「ラビット」などの古いスクーターや「モトコンポ」のような変わり種もあり、膨大な自動車展示の中では一見少々見劣りするようでもありますが、実は質量ともに充実しています。

自動車にまつわる懐かしい商品などの展示

日野「コンテッサ」のカタログ

 館内には新車発売時のカタログやプラモデル、雑誌などクルマにまつわるグッズも数多く展示されています。カタログのデザイン、プラモデルの箱絵などのどれもに、その時代の雰囲気を感じ、ミニカーにいたっては専用の展示スペースが用意されるほど充実しています。

カタログやミニカーなどクルマにまつわる商品を多数展示
昭和の生活を再現したスペースや初期の携帯電話、ポケベル、ワープロなども展示してあります。リヤトレイに置くタイプのスピーカーはメーカーロゴが光るタイプで、その頃流行したBBSの3ピースホイールなど時代も合っています

 今回は膨大な展示の中のほんのわずかな台数を紹介しましたが、1台1台に興味をもってじっくり見ると丸1日はかかりそうな台数です。また展示台数は約500台ですが、この博物館が所有しているクルマの数は800台を超えているそうです。そしてその数は今でも増え続けているとのことです。

 実はここに展示してあるクルマの多くはこの博物館に寄贈されたもので、オーナーが長年大切に乗ってきたクルマを何らかの理由で手放す際、廃車にしたり他の人が乗ったりするより、ここで大切に保管していて欲しいと希望する人が多いそうです。そんなクルマが並ぶ博物館ですから、どのクルマもデモカー的美しさとはちょっと違った、どこかオーナーと過ごした時間が宿っているような佇まいのクルマが多いように感じます。

 また、巨大なレンガ造りの建物の外には4台のトラックやバスが展示されています。「ゼトロス」「ウニモグ」「Gクラス」の3台のメルセデス・ベンツは、2011年の東日本大震災の際にドイツのダイムラーAGより被災地復興の支援として寄贈された中の3台です。緊急空輸されたこれらのクルマは元々国内の排出ガスや車両の規定に合致しないもので、期限付きのその役目を終えた後ここへやってきたそうです。また、日産自動車から寄贈された1台のバス「シビリアン」は、被災地域の美容師さんたちを乗せ、仮設住宅を巡りボランティア活動を行なった移動式の美容室でした。どのクルマも単なるハードウエアを超えた歴史の証です。

 展示されたそれぞれのクルマが走ってきた時代を伝える博物館。それが日本自動車博物館なのです。

東日本大震災の復興に活躍した4台
日本自動車博物館

住所: 〒923-0345 石川県小松市2ツ梨町一貫山40番地
開館時間: 9時~17時 ※入館は16時30分まで
休館日: 年中無休(年末12月26日~31日は休館)
※2020年4月13日~5月31日まで臨時休業
入館料: 大人(高校生以上)1200円 / 小人(小・中学生)600円
65歳以上シニア割引(証明できるものを提示)1000円
障がい者割引(証明できるものを提示)大人600円 / 小人300円
※介護者1人は半額料金
5人以上で団体割引もあり
駐車場: 無料(乗用車200台/大型バス20台)
ミュージアムショップ: あり
アクセス: JR加賀温泉駅よりCANバス利用 / JR粟津駅よりタクシーで7~8分
ウェブサイト: http://mmj-car.com
電話: 0761-43-4343
オフ会等での利用: 可(ウェブサイトより事前申し込みが必要)
EVの充電: 普通充電が可能(認証カードは利用する方がご用意ください)

※喫茶ローバーは土日のみ営業していますが、貸切などで一般利用ができない場合があるので、利用したい場合は事前の確認をおすすめします(4月14日現在、COVID-19対策のため休業中)。近隣に飲食店がありませんが、当日の途中退室しても再入館が可能ですので、途中で外で昼食などを取りながらゆっくり鑑賞したい方はクルマでの利用がおすすめです。

高橋 学

1966年 北海道生まれ。下積み時代は毎日毎日スタジオにこもり商品撮影のカメラアシスタントとして過ごすも、独立後はなぜか太陽の下で軽自動車からレーシングカーまでさまざまな自動車の撮影三昧。下町の裏路地からサーキット、はたまたジャングルまでいろいろなシーンで活躍する自動車の魅力的な姿を沢山の皆様にお届けできればうれしいです。 日本レース写真家協会(JRPA)会員