一度は行ってみたい、日本の自動車博物館探訪記

第4回:「トヨタ博物館~クルマ館編~」(愛知県)

何度見てもその都度新しい発見がありそうな奥深い展示

トヨタ博物館(愛知県長久手市)

 トヨタ博物館(愛知県長久手市)はトヨタ自動車創立50周年記念事業の1つとして1989年に設立された自動車博物館です。東京ドームちょうど1つ分の敷地に建てられたクルマ館と文化館の2棟で構成され、クルマ館では主に車両を、文化館では自動車文化にまつわるさまざまなアイテムや資料を中心に展示しています。

 今回紹介するのは「クルマ館」。3つのフロアに展示された約140台を通じ、自動車の誕生から現代までの歴史を楽しむことができます。体系的にレイアウトされた展示車両からは自動車の技術的進化はもちろん、自動車文化の変遷や時代時代の世相をも感じられる大変充実したものです。

1階 シンボルゾーン

1936年に生まれたトヨタ初の生産型乗用車「トヨダAA型乗用車(レプリカ)」

 エントランスホールを通り展示スペースに入場すると解放感に溢れた吹き抜けの下に展示された「トヨダAA型乗用車(レプリカ)」が目に入ります。この博物館の開館に合わせて当時の図面を基に忠実に再現されたトヨタ初の生産型乗用車が来場者を迎えます。壁には建設当時の挙母工場のレリーフも展示されています。

2階 自動車の黎明期から1950年代

1890年から1910年、自動車の黎明期を紹介する「ゾーン1」右端は蒸気自動車「スタンレーステチーマー モデルE2(1909年 アメリカ)」。奥には電気自動車、ガソリン自動車と続きます
2階の入口に展示されている「ベンツ パテント モトールヴァーゲン(1886年 ドイツ)」※レプリカ
「ベイカーエレクトリック(1902年 アメリカ)」電気自動車の歴史はとても古く19世紀にはすでに登場していました
1869年(明治2年)日本人によって開発された人力車は大正時代まで活躍していました

 1階のシンボルゾーンに展示されているのはトヨダAA型乗用車1台のみ。すぐさまエスカレーターで2階へ。このフロアは自動車の誕生から1950年代までのモデルを8つの時代に分けて展示しています。

 まずは18世紀にフランスで生まれた蒸気自動車、続いて電気自動車、そして現在も自動車の主役となっているガソリン車がそろい踏み。黎明期の展示からはじまります。その後生まれた贅を尽くした気品溢れるモデル、T型フォードの登場により大衆化した時代のモデル、スポーツカーの登場などに分類された展示が続きます。そして第2次世界大戦終結とともに、新たに歩み始めた戦後生まれのモデルへと、分かりやすくカテゴリー分けされた8つのゾーンによって自動車の変遷が理解できると同時に、時代時代の世相も感じることができます。

20世紀初頭、急速な進化を遂げた自動車を紹介する「ゾーン2」。自動車の基礎技術の多くが確立され、性能が飛躍的に向上した時代の高品質な自動車が並びます
徹底した製品管理のもとで生まれ、現代の高級車の源流となった「ロールスロイス40/50HP シルバーゴースト(1910年 イギリス)」
カウルを曲面で構成したモダンなスタイルの「ベンツ 14/30HP(1912年 ドイツ)」
エンジンなど展示では見えないところを映像で見せているのは丸型ラジエーターグリルが特徴的な「ドゥローニー ベルビユタイプ HB6L(1911年 フランス)
自動車が大衆のものとなった1910年から1930年を紹介する「ゾーン3」。大量生産システムによって大衆化を実現したフォードモデルT。写真は「フォード モデルTツーリング(1909年 アメリカ)」
フォードモデルTのライバルとして登場した「シボレー シリーズ490(1918年 アメリカ)」や「エセックス コーチ(1923年 アメリカ)、のちに生産台数でフォードモデルTを抜き世界のベストセラーカーとなった「シボレー スペリア シリーズK(1925年 アメリカ)」など大衆車がズラリと並んでいます
「ゾーン4」。工芸品としての造形美と工業製品としての高い技術水準で人々を魅了した豪華なクルマを紹介する「ゾーン4」。写真は豪華なボディと強力なV型16気筒 7.4リッターエンジンを備えた「キャデラック シリーズ452A(1931年 アメリカ)」
レーシングカーやスポーツカーの進化がわかる「ゾーン5」。自動車の誕生とともにレースが始まっている事に驚かされ、より軽く、より低くというスポーツカーに求められる要件はこのころから何も変わっていないことを実感させられます。また、フランスのレーシングカーは青、イタリアは赤、イギリスは緑という国際レースにおけるナショナルカラーが制定されたのもこの頃で、現在制度自体はなくなっていますが最近のレーシングカーやスポーツカーの色にもその名残を感じることはあります
「アルファ ロメオ 6C 1750 グランスポルト(1930年)」はイタリアのレーシングカーですから当然ボディカラーは赤です
青いボディのレーシングカーはフランスの「ブガッティ タイプ35B(1926年)」。スーパーチャージャー付きの高性能モデルです
館内の随所に見られる額装されたポスターは非常に貴重な本物で、こちらも必見です
1930年代に登場し、やがて全盛期を迎える流線型のクルマを展示したのが「ゾーン6」です。製造技術の向上にともないファッショナブルなスタイルや空力技術を導入をしたこの時代にトヨダAA型乗用車も生まれます。中央のグリーンのクルマは「プジョー402(1938年 フランス)」
「キャデラック シリーズ60 スペシャル(1938年 アメリカ)」
トッポリーノの愛称で親しまれた「フィアット500(1936年 イタリア)
「トヨダAA型(1936年 日本)※レプリカ」の奥には、そのシャシーやボディ構造を参考にしたという「デ ソート エアフロー シリーズ SE(1934年 アメリカ)
奔放でユニークなアメリカ車、高性能なドイツ車、格調高い芸術性をもったフランス車など1930年代の国情や国民性が反映された、個性的なクルマが目白押しの「ゾーン7」手前から「メルセデス ベンツ500K(1935年 ドイツ)」「ランチア アストゥーラ ティーポ 233C(1936年 イタリア)」コード フロントドライブモデル812(1937年 アメリカ)」「ブガッティ タイプ57C(1938年 フランス)」「ドラージュ タイプD8-120(1939年 フランス)」
第二次世界大戦後に生まれたクルマが並ぶ「ゾーン8」。写真はアメリカのBIG 3に対抗すべく参入した新興メーカーの1つタッカーの「タッカー’48(1948年 アメリカ)」。わずか51台が生産されただけで会社は倒産してしまいました
「フォード モデルGPW(ジープ)(1943年 アメリカ)」
「メルセデスベンツ 300SLクーペ(1955年 ドイツ)」
「フォード サンダーバード(1955年 アメリカ)」。後ろは「シボレー コルベット(1953年 アメリカ)」

 驚くべきことに、忠実かつ非常に美しくレストアされた展示車両は黎明期のモデルまでほとんどの車両が走行可能であり、館内の技術スタッフの手により常に良好なコンディションが維持されているという徹底ぶりです。

3階 アメリカ、ユーロッパ、日本、それぞれが再出発した戦後のクルマたち

 3階は戦後のモデルのフロア。第二次世界大戦を経てそれぞれの国情を背景に進化した米欧日のモデルが5つに分類され展示されています。アメリカ車は快適さと豊かさを求めより大型化への道を進みます。一方で小さく合理的なクルマにクラスレスな独自の価値を見出したのがヨーロッパ車。後発の日本車はノックダウンなどによる欧米技術の導入を目指すメーカーや独自技術で臨むメーカーなどが入り乱れて自動車の未来を模索します。経済成長とともに生まれる新しいニーズや環境問題、安全性の向上が求められる社会背景に対応すべく登場したさまざまなモデルが並び、それぞれのお国柄をクルマを通じ感じることができるのも特徴です。

アメリカ、ユーロッパ、日本、それぞれの国情を反映した戦後のクルマが地域別に展示された「ゾーン9」
1950年代のアメリカを象徴する1台。「キャデラック エルドラド ビアリッツ(1959年 アメリカ)」
「シトロエン2CV タイプA(1953年 フランス)」「メッサーシュミット KR200(1955年 ドイツ)」など小型の欧州車がズラリと並んでいます
「三菱500(A11型 1961年)」や「スバル360(K111型 1959年)」などの日本車
経済成長とともに加速した日本のモータリゼーションを象徴するクルマが並んだ「ゾーン10」。このあたりからは懐かしいと感じる世代もいるラインアップです
「マツダ コスモスポーツ(LB10型 1969年)」
「トヨタ2000GT(MF10型 1968年)」「トヨタ スポーツ 800(UP15型 1965)」
「トヨタ セリカ(TA22型 1970年)」
手前から「スズキ フロンテ360(LC10型 1967年)「ホンダN360(1969年)」「ダットサン フェアレディ(SP310型 1963年)」
手前から「マツダ ファミリア(SSA型 1966年)」「ダットサン サニー1000(B10型 1968年)」「トヨタ カローラ(KE10型 1966年)
手前から「三菱 コルト ギャランGTO-MR(A53C型 1971年)」「いすゞ 117クーペ(PA90型 1970年)」
交通事故や大気汚染などの社会問題が環境や安全技術開発のへの転換点となった時代「ゾーン11」。1971年アメリカで成立した大気浄化法「マスキー法」をクリアしたCVCCエンジンを搭載した「ホンダ シビックCVCC 1200 1200GL 3ドア(1975年)」と世界で初めて3点シートベルトを搭載した「ボルボ PV544(1959年 スウェーデン)」
初期モデルの操縦安定性の欠陥疑惑が後にアメリカにおける安全性や環境に関する法律の制定へと発展したという「シボレーコルベア(1960年 アメリカ)」
世界初の3点式シートベルトが見られるようドアが開けられた状態で展示している「ボルボ PV544(1959年 スウェーデン)」
1964年・1965年版 ボルボ PV544のカタログも展示されています
日本企業の海外進出が進み仕向地に合わせた車種の開発や現地生産が進んだ時代のクルマを展示した「ゾーン12」。ライフスタイルの多様化にあわせミニバンやクロスオーバーSUVなどが登場した時期でもありあます
「スバル レオーネ エステートバン4WD(1972年)」「アウディ クワトロ(1981年 ドイツ)」
「トヨタ ソアラ2800GT-EXTRA(1981年)」
「トヨタ ハイラックスサーフ(1987年)」
地球温暖化などの環境問題を抱える21世紀のクルマを展示した「ゾーン13」。さまざまな動力源のクルマが並ぶ展示はまるで2階の一番最初に展示されていた黎明期の並びのようです

 この博物館の特徴の1つとして挙げられるのが、140台もの台数を展示しながらも1台1台が比較的ゆとりをもって配置されているため多くの展示車両が後ろからも楽しめます。リアのスタイリングが魅力的なクルマも少なくない事を考えればこの配置はクルマ好きには嬉しいポイントです。また360度グルリと見回せる配置や、オープンカーのインパネを見学するために少し高めの台が用意されているところがあるなど、細かな配慮がなされています。

前からはもちろん後姿を堪能できるクルマも多く、階段を登ってインテリアを見学できたり、俯瞰できるスペースがあったりと展示方法にも工夫が見られます
アニメや映画の中のミニカー展示もなかなか楽しいものです
1936年(昭和11年)のThe Autocar。日本の自動車産業が紹介されています
トイレの壁のオブジェも全部ホンモノ。「クライスラーニューヨーカー(1956年 アメリカ)」のパーツです

 館内では見所や自動車の歴史をスタッフの解説を聞きながら見学できるガイドツアーが用意されています。また無料音声ガイドアプリも用意されているのでダウンロードして楽しむこともできます(ガイドツアーは新型コロナウイルスなどの感染予防のため現在中止中です)。

博物館スタッフによるガイドツアーもあります(現在は新型コロナウイルスなどの感染症予防のため中止しています)
スマートフォンによる音声ガイドも充実しているので、事前にダウンロードしておくことをお勧めします

食事もゆったり楽しめるミュージアムレストラン「AVIEW」

クルマ館の館内にあるミュージアムレストラン「AVIEW」

 館内での食事はクルマ館1階のミュージアムレストラン「AVIEW」と文化館1階のミュージアムカフェ「CAR&BOOKS」がありますが、今回はミュージアムレストラン「AVIEW」を紹介します。

 AVIEWは洋食中心のレストランで、黒毛和牛のステーキからお子様ランチまでメニューは豊富で名古屋風あんかけパスタなどのご当地メニューも楽しめます。なかでも看板メニューのカレーは5種類(お土産用レトルトタイプは7種類)と多く、6月に登場したばかりの新メニュー、グリーンカレーは最も辛いメニューとのことですが辛さだけではなく味わいはとても深く本格的なものでした。また現在、トヨタ2000GT 50周年を記念して誕生した「TOYOTA2000GTホットドッグ」なども楽しめます。このレストランは無料スペースにありますので、食事だけ楽しみに訪れる事も可能です。また室内はもちろん野外のテラス席も用意されていますので天気の良い日は外で食べるのも楽しそうです。

新メニュー「グリーンカレー」はとても深い味わい。直6エンジンを表現した肉厚ウインナーをはじめ実は色々とこだわりがつまっているトヨタ2000GTホットドッグはこれ1つで十分に満たされるボリュームで、2000GTランチョンマットも付いています。どちらも数量限定メニューです
お土産のレトルトカレーは7種類。パッケージに辛さとカロリーが表記されています

 ゆとりあるスペースにメンテナンスの行き届いた展示車両が並ぶトヨタ博物館は自動車が辿ってきた歴史を知るには絶好の博物館です。トヨタ博物館はその名前の通りトヨタの博物館ですがトヨタ車の博物館でないことは一度見学すれば一目瞭然です。むしろ日本車がいかに後発組であったかも事も知らされるその展示には黎明期に試行錯誤を重ね、今なお我々の生活を支え、そして彩ってくれるクルマを生み出した欧米への敬意すら感じます。

 また、その展示は奇をてらわず分かりやすい半面、実はその並びに非常に細かい工夫と意図が見られます。何度見てもその都度新しい発見がありそうな奥深い展示は、サラリと自動車の歴史を感じるもよし、深掘りするのもよし。楽しみ方はアナタ次第の博物館だと感じます。

 次回はさらに深みにハマりそうな~文化館編~を紹介します。

 この文化館では現在 企画展「30年前の未来のクルマ」を開催中です。トヨタ博物館が開館した約30年前にトヨタがモーターショーで公開したコンセプトカーや、それをもとに商品化されたクルマなどを一堂に展示するもので2020年10月11日まで開催しています。

文化館で現在開催中の企画展「30年前の未来のクルマ」は2020年10月11日まで
トヨタ博物館

住所: 〒480-1118 愛知県長久手市横道41-100
開館時間: 9時30分~17時 ※入館受付は16時30分まで
休館日: 月曜日(祝日の場合は翌日) および年末年始
入館料: 大人1200円 シルバー(65才以上)700円 中高生600円 小学生400円 障がい者300円(小学生は200円)※介護者1名 無料
トヨタ産業技術記念館との共通券、団体料金、年間パスポートなど、さまざまな割引制度あり。詳細は公式ウエブサイトにて要確認
駐車場: 無料(乗用車320台/バス8台/障がい者用8台)
ミュージアムショップ: あり(館内にカフェ、レストランもあり)
アクセス: 名古屋瀬戸道路「長久手IC」より西へ0.4km(東名高速道路日進JCT経由)/リニモ(東部丘陵線)「芸大通駅(トヨタ博物館前)」で下車〔1番出口〕徒歩約5分
電話: 0561-63-5151
オフ会等での利用: 可(詳細はウェブサイトを参照)
EVの充電: G-Station(PHV/EV用充電スタンド)5台

 なお、2020年シーズンは当面のあいだ新型コロナウイルスなどの感染症予防のため、営業内容や日程に変更の可能性があるとのことなので、最新の情報は公式Webサイトを確認してください。

【修正】記事初出時からサブタイトルを変更いたしました。

高橋 学

1966年 北海道生まれ。下積み時代は毎日毎日スタジオにこもり商品撮影のカメラアシスタントとして過ごすも、独立後はなぜか太陽の下で軽自動車からレーシングカーまでさまざまな自動車の撮影三昧。下町の裏路地からサーキット、はたまたジャングルまでいろいろなシーンで活躍する自動車の魅力的な姿を沢山の皆様にお届けできればうれしいです。 日本レース写真家協会(JRPA)会員