奥川浩彦の「レースと写真とクルマの話」

第1回:熱田護氏のF1写真展とJRPA写真展をハシゴしてみた

「僕がやりたかったのは、F1という世界最高峰のモータースポーツを写真で表現すること」(熱田護)

 モータースポーツはややオフシーズン。F1や国内ビッグレースの開幕には、まだ少し時間がある。だが、レース写真好きの筆者には、今年のオフシーズンはいつもと少し違う感じがする。それは日本を代表するF1フォトグラファー熱田護氏の写真展「500GP フォーミュラ1の記憶」が開かれているからだ。熱田氏のF1撮影500戦を記念して開催された写真展は2019年12月19日~2020年2月8日と2か月弱のロングラン。写真展の開催と同時に写真集も発売された。加えて、先週からJRPA(日本レース写真家協会)の写真展(東京会場は2020年1月15日~26日)もスタート。どちらも無料で観覧することができる。筆者はワクワク、ドキドキだ。2つの写真展をハシゴして見てきたので、その様子をお伝えしよう。

いざ品川のキヤノンへ

 筆者が2つの写真展をハシゴしたのは1月17日。先に訪れたのは品川駅から徒歩8分ほど、キヤノンギャラリー Sで開催されている熱田氏のF1写真展。ちょうどこの日が「500GP フォーミュラ1の記憶」の折り返しの日となる。

ビルに入りエスカレータを降りるとセナの写真が目に入る
ギャラリーの外にはヘルメットが展示されている

 この写真展を訪れるのは2回目。1度目は開催前日となる12月18日に行なわれたオープニングパーティ。その様子は関連記事(F1カメラマン 熱田護氏の写真展「500GP フォーミュラ1の記憶」開幕。12月19日から品川のキヤノンギャラリー Sにて)に掲載されている。展示されている154枚の写真は同じだが、ギャラリー内に置かれた2018年のホンダF1 PU(パワーユニット)「RA618H」が、先週から1992年にマクラーレンMP4/7に搭載されたV12エンジン「RA122E/B」に変更された。V型12気筒エンジン……カッコイイ。

1992年にマクラーレンMP4/7に搭載されたV12エンジン「RA122E/B」に変更された

 展示された写真が素晴らしいのは言うまでもない。圧巻だ。百聞は一見にしかず、訪れて自身で確認していただきたい。ギャラリー内の雰囲気は写真で見ていただきたい。

この日は平日の午後だったが、来場者が途切れることはなく、来場した人の多くが、写真集「500GP」を購入していた。ギャラリーで販売されている「500GP」は熱田氏のサイン入り(サインなし版もあるらしい)、希望した人には「TO ○○さん」と追加のサインを行なっていた。ギャラリーで購入の特典として、2つ用意されたステッカーのどちらか1つをもらうことができる。

写真集「500GP」を多くの人が購入していた。筆者は12月18日のパーティで購入済み
写真集はサイン入り。購入特典としてステッカーが1つもらえる

 入口のカウンターで気になったのは「Mamoru ATSUTA EF LENS BOOK」と書かれたカタログ(?)だ。背表紙を見るとデジタルカメラマガジンの文字。写真集「500GP」を出版したデジタルカメラマガジン編集部が作ったもので、熱田氏が使用しているキヤノンのお気に入りのEFレンズとそのレンズで撮った写真で構成された、写真展会場でのみ配布されているカタログだ。調べてみると1月6日から配布しているようだ。

 このカタログが凄い。5本のレンズがそれぞれ見開きで紹介され、そのレンズで撮った写真が数点ずつ撮影データ付きで載っている。各レンズに対する熱田氏のコメントも添えられている。筆者にとって、2回目の訪問で、最大の収穫はこのカタログかもしれない。

年明けから「Mamoru ATSUTA EF LENS BOOK」と書かれたカタログを配布中
5本のレンズが写真付きで紹介されている

 1時間半ほど滞在したので、熱田氏にカメラマン視点で質問をしてみた。

──カメラはずっとキヤノンですか?

熱田氏:プロになってからはずっとキヤノンです。

──日本にいる期間は年にどれくらいですか?

熱田氏:年の半分くらい。

──2週連続開催(back to back)でなければ帰国される?

熱田氏:帰国します。日本食が食べたい。

──以前、雑誌で1レースに2万枚くらい撮ると書かれてましたが、撮影枚数は多めですか?

熱田氏:数えているわけではありませんが、多めだと思います。EOS-1D X Mark IIIにしたら枚数が増えそう。

──撮影はRAWですか?

熱田氏:RAW+JPEGで撮っています。

──写真の保存方法は?

熱田氏:大容量のハードディスクをを2台用意して2重に保存しています。セレクトした写真は別フォルダーに保存しますが、撮った写真は全て残してあります。

熱田氏はほぼ毎日ギャラリーにいる

 写真展の期間中、熱田氏は基本的にギャラリーにいる。年末に会う機会があり「毎日ギャラリーに通ってるのですか?」と聞くと「年明けから定期を買おうかと」と言っていたので確認してみた。「人生で初めて定期を買いました。買い方知らないからネットで調べて」とのこと。出勤時間(?)はTwitterに「今日は10:30から17:30まで在廊します」などと投稿されているので、気になる人はチェックしてからギャラリーに行こう。日曜は休館日なので注意しよう。

品川から六本木へ

 熱田護氏の写真展「500GP フォーミュラ1の記憶」を後にして六本木で開催されているJRPA(日本レース写真家協会)の写真展「COMPETITION」へ。品川から六本木へはいくつかルートがあるが、都営大江戸線の六本木駅は地下深いので、オススメは品川→恵比寿→六本木の東京メトロ 日比谷線を使うルートだ。日比谷線の六本木駅からJRPA写真展が開催されているAXISギャラリーも徒歩で8分ほどかかるので、移動は1時間弱くらいだろう。

 こちらの写真展の開催期間は1月15日~26日。写真展の詳細は関連記事(日本レース写真家協会、報道写真展「COMPETITION」。マルケス選手のマシンやヘルメットも展示)で確認していただきたい。会場を名古屋に移し、3月11日~22日にはアーツギャラリー名古屋でも開催を予定している。

JRPA写真展「COMPETITION」は六本木AXISギャラリーで開催中

 JRPA写真展「COMPETITION」はJRPA=日本レース写真家協会の会員による写真展なので、2輪、4輪、F1、ル・マン、国内レース、MotoGP、8耐など、対象となるレースは多彩だ。毎年この時期に開催されているので、筆者としてはオフシーズンの楽しみの1つとしている。会場には2019年シーズンにMotoGPを制したマルク・マルケス選手(Repsol Honda Team)のマシン「RC213V」や、F1日本グランプリのFP1で山本尚貴選手が使用したヘルメットなども展示されている。

マルク・マルケス選手のマシンが展示されている
山本尚貴選手がF1で使用したヘルメットも展示されている

カメラマン視点の写真展の楽しみ方

 最後に筆者の写真展の見方=カメラマン視点の楽しみ方をお伝えしよう。筆者はモータースポーツの写真を撮るのも好きだが、見るのも好きだ。写真展を訪れると、ついつい「この写真のレンズは……、シャッター速度は……」とカメラマン視点で見てしまう。同じ場所で同じ光線で撮ることができるケースは少ないが、撮影のインスピレーションとなることは多い。

 500GP フォーミュラ1の記憶は展示された写真の使用機材や撮影データは公開されていない。だが、同時に発売された写真集「500GP」には巻末に撮影データが記載されている。写真展に展示されている写真と写真集の写真は一部は同じもの、同じでなくても同じタイミングで撮られたものが写真集に掲載されているケースもある。気になった写真を写真集で見つけられたら、そのデータを確認することが可能だ。

写真展で気になった写真を
写真集から探す
巻末に撮影データが記載されている

 JRPA写真展「COMPETITION」は会場の中央に展示された写真のデータブックが置かれている。「閲覧専用 持出禁止」なので、写真展会場で気になる写真のデータを確認することが可能だ。筆者は毎年このデータブックを持って展示された写真をジックリ見ている。あくまで“撮る人”のための楽しみ方だが、参考にしていただければと思う。

会場の中央に展示された写真のデータブックが置かれている
フェラーリの写真が気になったら
撮影データを確認することができる

 どちらの写真展も、モータースポーツ好きな人もそうでない人も楽しめる写真展だ。写真を撮る人も撮らない人も観覧に出かけていただきたい。

奥川浩彦

パソコン周辺機器メーカーのメルコ(現:バッファロー)で広報を経て2001年イーレッツの設立に参加しUSB扇風機などを発売。2006年、iPR(http://i-pr.jp/)を設立し広報業とライター業で独立。モータースポーツの撮影は1982年から。キヤノンモータースポーツ写真展3年連続入選。F1日本グランプリ(鈴鹿・富士)は1987年から皆勤賞。