奥川浩彦の「レースと写真とクルマの話」

第2回:印象に残った写真を振り返る

 新型コロナウィルスの影響で、日本最大のカメラショー「CP+」、モータースポーツシーズンの開幕を告げるイベント「モースポフェス 2020 SUZUKA~モータースポーツファン感謝デー~」の中止が決まりガッカリしている写真好き、レース好きの読者も多いだろう。筆者もその1人で、ほぼ毎年参加していた両イベントの中止は落胆のひと言だ。出鼻をくじかれた感の2020年シーズンだが、本格的な開幕はもうすぐだ。

 筆者は各レースを前に、そのサーキットで過去に撮った写真をチェックする。「最近スプーンカーブで撮ってないな」「この写真はもう1段シャッター速度を落として撮った方がよかった」など、撮影プランの参考にしている。今回はシーズンインを前に、印象に残った2019年の写真を振り返ってみたい。

チャンピオンを決めた瞬間

 2019年のSUPER GTは既報のとおり6号車 WAKO'S 4CR LC500(大嶋和也/山下健太)がチャンピオンを獲得した。最終戦もてぎのレース終盤、3位から2位に上がる瞬間=チャンピオン獲得を決めたシーンがこの写真だ。

6号車が36号車を抜き2位浮上。チャンピオン獲得の瞬間だった(フルHD)

 サーキットでは必ずしもバトルやアクシデントが撮れるわけではない。レース展開を読んで多少は撮影ポイントを移動することはできるが、アクシデントは予想できないし、例えば鈴鹿サーキットで2コーナーからヘアピンやスプーンに短時間で移動することは不可能。トップ争いやアクシデントが撮れるのは運に頼るところが大きい。

「チャンピオンの座を左右するバトル」「その2台がコースオフ」という、数年に1度あるかないかの貴重な瞬間が撮れたことはラッキーだった。

 この瞬間の10分ほど前に時計の針を戻そう。6周前、1位の37号車 KeePer TOM'S LC500(平川亮/ニック・キャシディ)の後方で2位の36号車 au TOM'S LC500(中嶋一貴/関口雄飛)、3位の6号車が争っている。このままの順位ならチャンピオンは37号車だ。2位の36号車は1位の37号車と同じTOM'S。なんとしても2位の座を死守して援護射撃をしたい状況だ。

6周前の1位、2位、3位

 まだオーバーテイクには時間がある判断。絵のバリエーションを稼ぎたい筆者は、ストレート方向に100mほど移動して、最終コーナーから立ち上がるマシンを撮影。この写真が2周前だ。

撮影ポジションを①、②、③と移動して撮影した(Googleマップを加工)
2周前、②のポイントから最終コーナーを立ち上がる2位の36号車と3位の6号車を撮影

 再び最終コーナー③に戻りその時を待つ。

1周前の最終コーナー

 いよいよその瞬間へ。ピエール北川さんの場内放送で90度コーナーでバトルが展開されていることを認識。「来るぞ」と待ち構えての撮影だ。ただ、この時点では2台が最終コーナーを飛び出して、真っ直ぐ向かってくるとは想像していなかった。1周前の写真の前後が入れ替わった絵を撮るつもりだった。

 ここからは連写した33枚をノーカットで並べてみた。6号車がやや前。ほぼ接触したままでコーナーに進入してきた2台はそのまま最終コーナーを突っ切った。

連写した33枚

 撮影そのものはシャッター速度1/500秒で、ほぼ正面からの撮影なので難しくはない。その瞬間が撮れたのは、本当に運がよかったのひと言だ。2019年の最も印象に残る写真となった。貴重な瞬間だったので、連写した中の4枚をこのレースのフォトギャラリーの最初と最後に掲載した。

初・撮影ポイント&シーン

 新しい撮影ポイントを見つけることは写真の醍醐味だと思っている。同じポイントでも別のレンズでそれまで撮ったことのない絵が撮れるとうれしい。2019年も初めて撮影したポイントやシーンがいくつかあるので、その写真を紹介しよう。

金網のマス目を狙って

 最初は富士スピードウェイ。場所はピットロードの入口付近のパドックエリアだ。ピットロードの入口付近の金網には、報道カメラマン用のカメラホールが設置されている。ここはコースサイドのサービスロードのカメラホールと違い、パドックパスを持った来場者も入れるエリアなので、多くのアマチュアカメラマンがここのカメラホールで撮影している。

 筆者はそこから数mほど最終コーナー側に移動し、金網越しに撮影をしてみた。シャッター速度は1/30秒で、そこそこ難易度は高め。加えて、金網のマス目を狙ってレンズを振っても、筆者の運動神経ではピタっとマス目の中心位置でシャッターを切ることができずボツ写真を大量生産した。金網がしっかり写ったボツ写真と、金網の影響を比較的受けなかった写真を掲載しよう。

金網がしっかり写ったボツ写真
左下に金網が写っているが初・撮影ポイントなので許容範囲とした1枚。レタッチあり(フルHD)
金網を消して

 次も富士スピードウェイ。ピットロードの出口と1コーナーの間で、サービスロードからメインストレートに背を向けて金網越しにコカ・コーラコーナーへ向かうマシンを撮影した。ここは撮影ポイントの風景も撮っておいたので見ていただこう。

サービスロードからメインストレートに背を向けてコカ・コーラコーナーへ向かうマシンを撮る
マス目が細かめの金網。ボカして流して消す方法で撮影

 手前がサービスロード、金網は細かい縦横のマス目となっている。高い脚立で金網の上から撮る方法もあるが、三脚の使用すら制限されるサービスロードでは現実的ではない。金網越しに撮る方法の基本はボカすか流すか。ボカす方法はレンズのフードを外して、レンズ先端をギリギリまで金網に近付ける。NDフィルターを使用して絞りを開放に近付ける。流す方法は、スローシャッターで金網を見えにくくする。

 スローシャッターにすると絞り込まれるので、絞りを開放に近付けたくても相反する点が悩ましい。NDフィルターをより暗いものにする手もあるが、暗いNDフィルターはAF性能が落ちるので、筆者はND4かギリギリND8だと考えている。結局、シーンごとに絞りとシャッター速度のバランスを取るしかない。強いて言えば快晴よりは曇天、雨天の方がシャッターチャンスとなる。

フィルター径67mm、77mmのND4とND8のNDフィルター

 シャッター速度1/30秒。NDフィルターを付けても絞りはF10。5月のSUPER GTは10連休中の開催で、過去最高の入場者数となった。そのお陰で、背景となる駐車場のクルマがアクセントになってくれた。富士のSUPER GTの写真はフォトギャラリーに掲載されている。

コカ・コーラコーナーへ向かうマシンをメインストレート側から金網越しに撮影した(フルHD)
季節外れのおかげで

 富士スピードウェイの最後はDTMの交流戦から。11月下旬という季節外れのおかげで撮れた1枚だ。DTM交流戦は、普段のSUPER GTのスタート方法と異なっていた。各マシンがインディカー方式と呼ばれる2台隊列の密集状態でローリングスタートを行なった。左右のスターティンググリッドの内側に全車が密集する珍しい光景なので、これを撮影することに。

 春夏に1コーナー付近のカメラマンスタンドからスタートライン付近を撮っても陽炎でマシンのロゴが読めないが、初冬に加え天気も曇天のためギリギリ許容範囲。副産物は背景の木々がいつもと違う紅葉。おかげで春夏のレースとは雰囲気の違う絵を撮ることができた。DTM特別交流戦の写真はフォトギャラリーに掲載されている。

スローシャッターでシケイン進入を撮る

 次は鈴鹿サーキットのシケイン。ここは数え切れない回数を撮っている定番の撮影ポイントだ。特にシケイン2つ目の進入から立ち上がりは広角レンズ、望遠レンズ、高速シャッター、スローシャッターとさまざまな設定で撮ってきた。

 Q1/Q2スタンドからは130Rからシケインに進入するマシンがよく見えるが、コースの反対側に立つと130R方面はまったく見えず、マシンの姿を見ることができるのはADVANブリッジを抜けたシケイン1つ目の直前からとなる。そのため、シケイン進入の写真はほとんど撮ったことがなかった。

 マシンが見えたときにはかなり減速していて、普通に撮ってもイマイチ。そこでシケインに進入するマシンのスローシャッターで撮影してみた。

シケインに進入するマシンをスローシャッターで撮影

 シャッター速度は1/15秒。この撮影ポイントからはギリギリまでマシンが見えず、レンズを振る助走が取れないため難易度の高い撮影となった。鈴鹿サーキットのSUPER GTの写真はフォトギャラリーにも掲載されている。

ヘアピン進入のコーナーイン側から撮影

 もう1つ鈴鹿サーキットから。筆者はヘアピンのイン側で撮影することが少ない。アウト側と比べると5分の1くらいの頻度だ。いくつか理由はあるが、デグナー~ヘアピン間のアクセスのわるさが最大の理由だ。

 ヘアピンのアウト側は、立ち上がり(常設スタンドの少し先)からクリッピングポイント付近は定番の撮影ポイント。ヘアピンの外側をまわって、デグナーのイン側まで移動するルートは歩きやすくはないが危ないと感じることはない。

 ヘアピンのイン側もデグナーのアウト側まで移動できるが、このルートはガードレールの外側が一部急坂で、滑落しそうな斜面を金網につかまりながら横切って移動しなければならず、かなり危険。足下を蛇が走り抜けたこともあり、神は見ないけど蛇は見る危険ルートだ。

 昨年、F1日本グランプリでヘアピンのイン側で撮影をした。めったに行かないヘアピンのイン側。F1マシンをここで撮影するのは初めてだった。布石となるのはSUPER GTで試し撮りしたこの写真。ヘアピンの進入マシンを300mmのレンズで撮ったものだ。

SUPER GTでヘアピンに進入するマシンを撮影

 被写体までの距離が近いこともあり、ヘアピンに進入するマシンの相対速度は高い。レンズでマシンを追うというより、レンズを野球のバットのように振りまわすイメージだ。シャッター速度は1/125秒とかなり高めだが、歩留まりがわるく苦戦した。

 F1日本グランプリの金曜日午後のフリー走行2回目。ヘアピンのイン側で撮影するカメラマンは筆者だけ。最初はヘアピンを立ち上がるマシンを広角レンズで撮影。その後、進入するマシンをGTの撮影と同じ300mmのレンズで撮った。

まずはヘアピンの立ち上がりを広角レンズで撮影
ヘアピンに進入するマシンを300mmのレンズで撮影(フルHD)

 撮影開始のシャッター速度は1/125秒。その後は1/100秒。なかなかヘルメットに芯がこないしフレーミングも安定しない。想定の範囲内だが、「ジジイは運動神経鈍いぜ」と感じながら歩留まりのわるいまま撮影を終えた。SUPER GTの撮影と異なるのは、背景のEmiratesの看板が雰囲気を高めてくれたこと。次にここで撮るのはいつになるか分からないが、撮影ポイントの1つ(=バリエーション)としては収穫となった。F1日本グランプリの写真はフォトギャラリーにも掲載されている。

初ラリー撮影

 最後は初ラリー撮影となったセントラルラリー。11月に開催されるWRC ラリー・ジャパンのテストラリーということで、筆者を含めて初ラリー取材の人が大勢いた。

 ラリーの撮影は、ひと言で言うと「大変」だ。4時起きして山奥へ移動。撮影ポイントの下見などをして2~3時間後に競技車両を撮影するが、基本的にワンチャンスしかない。SSを全車が通過すると撮影する次のSSに移動。そのSSの撮影が終わると、先まわりしてSSからサービスパークに戻るリエゾンで撮影。長時間、長距離移動の割に撮影枚数は少なめ。普段はサーキット撮影で、暑い、寒い、疲れたと言っているが、ラリーと比べればサーキットは楽、初ラリー撮影は大変だった。全てが初めてなので、土曜日の撮影を時系列で紹介しておこう。

三河湖SSに6時台の到着し、9時過ぎに最初の1台が目の前に現れた
撮影開始、目の前をヤリスが通過
撮影ポイントを移動して流し撮り
目の前でダイブ
三河湖から山を下りて、岡崎市内の公園へSSを撮影
高速道路を使って先まわりし、SSを終えて戻るマシンをリエゾン区間撮影
シーズン開幕

 全てのモータースポーツが冬がオフシーズンなのではなく、WRCやWEC、フォーミュラEなどは現在シーズン中。とは言えF1、MotoGP、SUPER GT、スーパーフォーミュラの2020年シーズンはこれから。F1グランプリの開幕戦、オーストラリアGPは3月13日~15日。MotoGPは1週早く3月6日~8日に開幕する。

 新型コロナウィルスの影響が気になる国内レースも、スーパーフォーミュラは4月4日~5日に鈴鹿サーキット、翌週4月11日~12日にはSUPER GTが岡山国際サーキットで開幕する。楽しいシーズンになることを期待したい。ぜひ、サーキットに足を運んでいただきたい。

奥川浩彦

パソコン周辺機器メーカーのメルコ(現:バッファロー)で広報を経て2001年イーレッツの設立に参加しUSB扇風機などを発売。2006年、iPR(http://i-pr.jp/)を設立し広報業とライター業で独立。モータースポーツの撮影は1982年から。キヤノンモータースポーツ写真展3年連続入選。F1日本グランプリ(鈴鹿・富士)は1987年から皆勤賞。