高橋学のみんなで「ラリージャパン」を応援しよう!
第3回:札幌で開催された2008年/2010年のラリージャパンを振り返る
2020年6月5日 14:48
2020年11月に開催が予定されているWRC(世界ラリー選手権)の日本ラウンド「ラリージャパン」のスタートまであと5か月。1月のモンテカルロを皮切りにスタートした今シーズンのWRCは、3月のラリーメキシコまでを消化したのち足踏み状態。
4月以降に予定されていた大会はCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)に阻まれ、アルゼンチンとイタリアの2戦が延期、ポルトガル、サファリ、フィンランド、ニュージーランドの4戦はすでに中止の決定がなされています。現状では、9月のトルコまでWRCはお休みです。
とはいえ、ラリージャパンの運営スタッフは開催に向けて着々と準備を進めているとのことですので、久々に日本人がWRカーで祖国で走ることがアナウンスされている日本での開催を願いながら、われわれは待つことにしましょう! というわけで、連載3回目は札幌に会場を移して開催された2008年/2010年大会を振り返ってみます。
さらば十勝! 会場を大都市札幌に移し開催された2008年、2010年のラリージャパン
5回目を迎えたラリージャパンの大きなトピックは、メイン会場およびコースが札幌とその周辺地区に移されたことでしょう。十勝の北海道らしいダイナミックな風景に別れを告げ、人口も多く宿泊施設なども潤沢な北海道最大の都市・札幌への変更がどういう効果をもたらすのか興味深い大会でもありました。
結論から言うとSS(競技区間)は全てグラベル(未舗装路)だったためか、土埃をあげて疾走するラリーカーの迫力は十勝時代と変わらなかったように思います。むしろ土の質のせいか、撮影していて以前より土埃をたっぷりとかぶった印象すらあります。一方でラリーのメイン会場となった札幌ドームは札幌の中心部から少々離れている上に中の様子が外からは見えないためか、世界選手権がわが街にやって来た! というムードを札幌の街中ではあまり感じることはありませんでした。ラリー特有の地域との密着感は薄れてしまったようです。
と、残念なポイントもあったものの、筆者も含め北海道以外からの観戦者や関係者においては新千歳空港からのアクセスもよく、ホテル確保も容易だったのは大都市開催の大きなメリットだったと思います。そして、何と言っても最大のメリットは観戦後でも夜に歓楽街に繰り出せることでしょうか。札幌には美味しい店も楽しい店もいっぱいありますので。
愛知・岐阜で開催される今年のラリージャパンも都市部での開催のためこのようなメリットは多いと思われます。なかでもラリー会場となるモリコロパークは駅前にありますので、小さなお子さん連れの家族でも、ちょっと見てみたい、くらいの軽い気持ちでも気軽に観戦できそうな環境は大きなポイントです。今までのラリージャパンでは考えられなかった珍しい立地条件を生かした新しいラリー観戦の形が見い出せたらいいな、と思っています。
さて、話を札幌に戻します。2008年大会のステージは札幌開催といっても実際の競技区間は、南は苫小牧や千歳、北は岩見沢や三笠など広範囲に渡り、前述したように路面は十勝と同じグラベル(未舗装路)ステージでした。もっとも大きな違いと言えば、札幌ドームで行なわれるスーパースペシャルステージです。ツルツルのコンクリートの上で2台同時にスタートするステージはドーム特有の照明もあいまって独特の雰囲気です。埃1つついていないピカピカのラリーカーが争う姿はちょっとラリーっぽくない気もしましたが、スタンド席から全景が見渡せるので2台の攻防が分かり、なかなか面白いステージでした。
スズキがトップカテゴリーにステップアップし、スバルが新型車を投入した2008年大会
マシンに目を向けると2008年のトピックは2つ。1つはこれまでJWRCといういわばWRCのジュニアシリーズに参戦していたスズキがSX4WRCをひっさげてトップカテゴリーに挑戦したこと。もう1つはラリージャパンの初大会で優勝を飾ったものの、その後低迷し続けたスバルワールドラリーチームがGRB型ベースの最新マシン、インプレッサWRC2008を投入したこと。この2点でしょう。
スズキはJWRC時代からのイエローとホワイトを組み合わせたやわらかい色調のツートンボディ、スバルはブルーのボディこそ同じですが、こちらは黄色を使わず白とシルバーとの組み合わせとなり、今までとはちょっぴり違う雰囲気です。
ちなみにスズキのドライバー、トニ・ガルデマイスター選手のマシンには日本の初心者マークが貼られていました。彼の持つモナコで発行された国際免許証では日本の公道を運転できず、急遽北海道内の免許センターで試験を受け取得したそうで、世界最高峰の競技で戦うドライバーが初心者マークを付けて戦うという珍事となりました。
さて、そんなラリージャパンの結果ですが、フォードのミッコ・ヒルボネンが前年のラリージャパンに続き2年連続で優勝しました。2位は後にTOYOTA GAZOOレーシングの一員としてトヨタヤリスWRCを駆るヤリ-マティ・ラトバラ(フォード)、そして3位はセバスチャン・ローブ(シトロエン)。ローブはここで5年連続のワールドチャンピオンを決めます。速い人と速いマシンがちゃんと勝つラリーだったという印象でした。4位には新型インプレッサのクリス・アトキンソン。5位、6位にはスズキSX4WRCが続きます。
新型投入の日本メーカーはいずれも表彰台には届かなかったものの、マシンの熟成とともに今後に期待! と思ったのもつかの間、スバル、スズキともに2008年シーズンをもってWRCへの参戦を終了してしまいます。これにはちょっと驚かされました。
結局、GRBインプレッサやSX4のWRカーの走りを日本で見られたのはこの年だけという残念な結果になってしまいました。ちなみにスバルは翌年の参戦を予定していたので、2009年型WRCマシンのテスト車両が存在し、群馬のスバルビジターセンターという見学施設で今でも見ることができます。長年世界で戦ってきたスバルにとってWRCからの撤退は苦渋の選択だったのだと思います。
トップカテゴリーに日本車のいない2010年のラリージャパン
FIAがWRCのローテーション制を導入したため2009年の開催はなく、次のラリージャパンは2010年に開催されました。日本メーカーのワークス勢がいない初めてのラリージャパンでしたが、筆者個人としては印象に残っている大会です。
その1つは元F1チャンピオン キミ・ライコネンの参戦です。元と言ってもチャンピオン獲得はわずか3年前の2007年、その後もフェラーリなどのトップチームで活躍し続けたドライバーの参戦は大いに注目されました。そのためか(いや、絶対それが理由で……)会場にはドロドロの山の中や埃まみれになるステージの観戦と思えないようなファッションの若い女性が大挙押し寄せ、今までとは微妙に雰囲気の違う観戦ポイントをしばしば目にしました。
何人かの女性にどこで待っていればライコネンが見られるのか尋ねられましたが、鈴鹿サーキットの経験はあってもラリー観戦はきっと初めてだったのだと思います。F1ドライバーの女性人気を見せつけられた思いでした。個人的には、同じシトロエンチームのセバスチャン・ローブだって速くてすごくカッコいいと思うのですが……。
もう1つは初日の前半、PWRCに参戦するスバルのエース・新井敏弘選手がリタイアしてしまったことです。実はラリージャパンの場合、安全性を考慮してSS(タイムを競う競技区間)で全力疾走する姿を観戦できるポイントは非常に制限されているのですが、2010年大会ではその観戦ポイントを1度も通過することなく新井選手はラリーを終えてしまったのです。スバルワールドラリーチームが撤退し、スバルファンが今まで以上に注目していたと思われる新井選手がファンの前でその走りを披露したのは、札幌ドームでのわずかな走りのみだったのは少々残念でした。
さて、個人的な話を連ねましたが、北海道で開催される最後のラリージャパンとなった2010年はシトロエンC4WRCを駆るセバスチャン・オジェが勝利しました。
ラリージャパンが始まった2004年より9年連続で世界チャンピオンに君臨したセバスチャン・ローブの後を受け、2013年より6年連続チャンピオンを獲得したセバスチャン・オジェが台頭してきたのが、実はこの2010年シーズンでした。後に絶対王者となる超新星の走りを、日本人はこの時期に堪能できたというわけです。
2位はスバルではなく自身のプライベートチーム、チーム ペター・ソルベルグ・ワールドラリーチームからシトロエンC4WRCで参戦したペター・ソルベルグ。ラリージャパン初代王者が再び日本の表彰台に戻ってきたのは、最後のラリージャパンでした。3位はフォードのヤリ-マティ・ラトバラです。
2010年のラリージャパン勝者のセバスチャン・オジェは、2020年のラリージャパンにはTOYOTA GAZOOレーシングのエースドライバーとしてヤリスWRCで再び日本を走る予定です(エントリー締め切りは10月20日)。超新星がベテランとなって再び日本のコースを走る日が今から楽しみです。
WRCをはじめとするモータースポーツへの影響は想像以上に大きく驚いています。一方で、TVやPCモニターの中で繰り広げられるモータースポーツもファンにとって素晴らしい世界があることが分かった今回のコロナ騒動ですが、11月になったらぜひ生の音や雰囲気、そして迫力も味わってみてほしいと思います。初めての人は駅前からでも、そして10年前に味わった人は10年分のラリーカーの進歩を、愛知・岐阜でぜひ! という気持ちで騒動の収束をじりじりと家で待ち続けています。