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どうなる? ラリージャパン。事務局長 高橋浩司氏に聞いてみた

2020年11月19日~22日 開催

ラリージャパン運営事務局長の高橋浩司氏

10年ぶり7回目のWRC日本開催

 2020年のWRC(世界ラリー選手権)は全13戦で争われる。その最終戦は11月19日~22日に日本で開催される「ラリージャパン」だ。新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で、モータースポーツの大会は世界中で延期・中止が相次ぐ中、WRCでも第4戦~第6戦が延期されることとなった。果たしてラリージャパンはどうなるのか。「答えは誰にも分からない」ことは承知で、ラリージャパン運営事務局長の高橋浩司氏に話を聞いてみた。

 まずはラリージャパン開催に至る経緯をザックリと振り返ってみよう。日本でWRCの大会が初めて行なわれたのは2004年。北海道の帯広市にヘッドクォーターおよびサービスパークが設置され、十勝地方で2007年まで4年連続で開催された。2008年と2010年には舞台を札幌に移し、通算6回の大会が北海道で行なわれた。

2010年のラリージャパンを制したのはシトロエンのセバスチャン・オジェ選手

 2017年からトヨタ自動車がWRCに(復活)参戦。WRCを日本開催する招致活動も始まり、多くのラリーファン、モータースポーツファン念願のラリージャパンが2020年11月に開催されることとなった。北海道開催から通算すると10年ぶり7回目のWRC日本開催となる。戦いの舞台は愛知・岐阜。ヘッドクォーターおよびサービスパークは東名高速道路の名古屋IC(インターチェンジ)から7kmほど東にある愛知県長久手市の愛・地球博記念公園(モリコロパーク)に置かれる予定だ。

2月12日~14日(現地時間)に行なわれたWRC 第3戦 ラリー・メキシコはトヨタのセバスチャン・オジエ/ジュリアン・イングラシア組が優勝した

テストイベントとしてセントラルラリーを開催

 2019年11月には、2020年のラリージャパン本番に備えたテストイベントとして「セントラルラリー愛知・岐阜2019」が開催された。勝田貴元選手が「ヤリスWRC」で参戦したこともあり、モリコロパークやSS(スペシャルステージ)の観戦エリアにはテストイベントとは思えないほど観客が集まった。

「ヤリスWRC」を駆る勝田貴元選手
岡崎中央総合公園
豊田市羽布町
豊田市羽布町
モリコロパーク
FIAのスタッフによる確認も行なわれた

 セントラルラリー愛知・岐阜2019でFIA(国際自動車連盟)から指摘を受けた改善点やコース、観戦エリア、観客の導線、PR方法など、さまざまな項目を見直しながら、1年後の本番に向けて順調に進んでいるかと思われたが、新型コロナウイルスの影響で世界中に激震が走ることとなった。

 ラリージャパンはどうなるのか、現状はどうなっているのか。多くのラリーファンが気になっているだろう。日を追うごとに状況が変化し、先を予測することは不可能なことは承知の上で、ラリージャパン運営事務局長の高橋浩司氏に話を伺った。

新型コロナウイルスの影響は

――避けては通れない状況ですので、まずは新型コロナウイルスの影響についてお聞かせください。

高橋浩司氏:日々ニュースは注視していますが、多くのモータースポーツが延期や中止になる中、幸いなことにラリージャパンは11月開催なので、予定どおり開催できる希望はあると思っています。

――ラリージャパンはSUPER GTなどが終わった後、日本で行なわれるメジャーモータースポーツの最後ですね。

高橋氏:もっと早い時期の開催も考えていましたが、11月開催になったことが、もしかしたらわれわれはラッキーだったかと考えて準備を進めています。(WRCの)ラリー・アルゼンティーナが延期と聞いて、彼らは40周年の記念大会だったので本当に残念だったと思います。

愛知・岐阜で開催されるWRC

――開催地が愛知・岐阜となったことはどう思われますか。

高橋氏:モータースポーツを観戦したことがある人は、富士スピードウェイ(静岡県)や鈴鹿サーキット(三重県)に行ったことがある人が多いので、その中間に位置する愛知県、岐阜県での開催は観戦しやすい立地だと思います。今年は無観客開催となってしまいましたが、(愛知県で開催されている)新城ラリーを観戦される人はラリージャパンに興味を持ってもらえると思います。

「新城ラリー」は例年5万人ほどの観客が集まる人気イベント

ヘッドクォーターやサービスパークが置かれるモリコロパークについて

――ヘッドクォーター、サービスパークが置かれる予定の愛・地球博記念公園=モリコロパークは立地、広さ、設備など理想的な会場では?

高橋氏:モリコロパークは2005年の愛・地球博(愛知万博)で作られた設備なので、インフラは当時のままです。仮設の建物と比べると充実しているように見えますが、世界選手権のレベルに当てはめると、通信インフラ、電気、地面の強度などパーフェクトではありません。とは言え、郊外にパーフェクトな施設を探すのは不可能なので、モリコロパークは最善の会場だと思います。

愛・地球博は2005年に開催された

(以下、筆者による補足)

 気付けば愛・地球博(2005年日本国際博覧会)から15年が経過した。愛・地球博のメイン会場だった長久手会場が現在の愛・地球博記念公園(モリコロパーク)だ。2005年3月開幕の愛・地球博の開催に合わせ、東海地方の交通インフラは劇的に充実した。

 名古屋市営地下鉄 東山線の終点駅である藤が丘と万博会場を結ぶリニモは2005年3月に開通した。これにより、名古屋駅から愛・地球博記念公園駅へは地下鉄、リニモを乗り継いで50分ほどで移動できる。

 同じく2005年3月に東海環状自動車道の豊田東JCT(ジャンクション)~美濃関JCT間の東回り区間が開通。同時に開通した伊勢湾岸自動車道の豊田東JCT-豊田東IC間と合わせ、東名高速、新東名高速(2016年に接続)、中央自動車道、東海北陸自動車道を結ぶルートが開通している。ジャンクション名を聞いてピンと来ない人もいると思うが、イメージとしては圏央道の開通に近い。東名高速の日進JCTと長久手ICを結ぶ名古屋瀬戸道路も2004年に開通している。

東海環状自動車道の東側は開通済み

 これらの開通により、愛・地球博記念公園の最寄りのインターチェンジは、東名高速の名古屋IC(約7km)、名古屋瀬戸道路の長久手IC(3km弱)、東海環状自動車道の豊田藤岡IC(約10km)などがあり、クルマでのアクセスは良好だ。

 ラリージャパンはモリコロパークで競技が完結はしないが、メイン会場の目の前に駅があり、3つのインターチェンジが近隣にあるので、日本一交通の便がよい鈴鹿サーキットよりもアクセスしやすい。


観戦者数は

――2019年のセントラルラリーは山間部のSSのチケットが即完売になるなど、かなり観戦者数を絞った印象がありますが、モリコロパーク、SS、岡崎中央総合公園を合わせて観戦者数は何人ぐらいでしたか。

高橋氏:セントラルラリーはテストイベントだったので、山間部のSS観戦エリアは100人~300人分のチケットしか用意しませんでしたから、モリコロパークと山間部のSS観戦エリアを合わせて1万人ぐらい。岡崎中央総合公園は岡崎市の発表で3万人と聞いていますから、合計で4万人ぐらいでした。

岡崎中央総合公園の駐車場を利用したSSは観戦客に囲まれていた

――ラリージャパンの観戦者数はどれくらいを考えていますか。

高橋氏:モリコロパークは1日3万人くらい来ていただきたいと思っています。山間部のSS観戦エリアを含めて3日間で12万人くらい。リエゾン区間で応援する人も含めると40~50万人の人に見ていただきたいと考えています。世界選手権を見たいというお客さまがたくさんいると思いますから、できるだけ観戦エリアを用意したいのですが、初年度は安全に観戦できて、輸送計画が成り立つところで余裕を持って見ていただきたいと思います。

2010年のラリージャパンでは、リエゾン区間で多くのファンが応援。信号待ちでサインをもらう人もいた

(以下、筆者による補足)

 北海道で開催されたラリージャパンでは、十勝地方で20万人ほどが観戦したらしい。札幌に場所を移してチケット販売が3倍近くになったとのことなので、立地に恵まれた2020年のラリージャパンは多くの人が世界最高峰のラリーカーを目にすることができそうだ。


SSのコースは

――SSが行なわれるコース設定は決まりましたか。

高橋氏:コースプランはわれわれがベースを作りました。予定ではFIAから役員が来て、コースの確認がすでに完了している時期ですが、新型コロナウイルスの影響で来日が延期になりました。現在、ビデオカンファレンスなどは定期的に行なっていますが、FIAやプロモーターの人に現地を見てもらって、彼らの意見も聞いて最終確定になります。道路の狭さ、傾斜、観戦ポイントの位置などは、現地を見ないと最終ジャッジは難しいと思います。特に安全性の確認は現地を見ないでOKとは言わないでしょう。現段階では5月に来日して確認してもらう予定ですが、来日できるか否かは4月半ばにならないと分かりません。

――2019年のセントラルラリーで山間部のSSに行きました。町の雰囲気がとてもよかったという印象を持ちましたが、ラリージャパンも同じコースを使用するのでしょうか。

高橋氏:ラリージャパンを開催するためのテストイベントとしてセントラルラリーを行なったので、同じコースを当然ベースとして考えていますが、テストイベントの段階でFIAからさまざまな指摘を受けているので、修正はあります。ありがたいことに、セントラルラリーで使用したコースの町には歓迎されていますけど、最終的な決定はFIAの確認が取れてからになります。同じコースを使用するのか、同じ町を通るのかはまだ分かりません。


(以下、筆者による補足)

 筆者は名古屋が地元だが、セントラルラリーで三河湖の存在を初めて知った。観戦(取材)エリアとなった羽布町(市町村合併以前は下山村)は、ラリーがなければ一生訪れることがなかった地だと思われる。愛知県民でも知らない人がいる山間部の町に、ある日突然「世界選手権」が来る。もし筆者が地元住民だったら、「夢のよう」「感動的」「奇跡的」「青天のへきれき」「アンビリバボー」……。とても言葉では表せないほどのできごとだと思う。

 セントラルラリーで筆者が早朝から訪れた羽布町はアットホームな雰囲気に溢れていた。FIAからOKが出て、ラリージャパンの本番でもこの町をWRCマシンが走り抜けてほしいと思っている。筆者の勝手な思いは、回を重ねてWRCが町に定着し「俺の会社の敷地を駐車場に使っていいよ」「俺んちの土地に仮設スタンドを建てよう」などと収容できる観客数が年々増え、時を経て「定番の観戦ポイント」になり、WRCから愛される町、観戦客から愛される町、町に愛されるWRCへと発展してほしい。2019年のセントラルラリーの写真で町の様子を見ていただきたい。

競技開始1時間半前。観戦ポイントには徐々にラリーファンが集まってきた
SSのコースのすぐそばにイベント会場が用意された
「ヤリスWRC」が登場
神社を背景に走るラリーカー。黄色、青、緑のタバードを付けているのは報道陣。橋の手前左側や神社の境内にいる人は観戦客や地元住民
ヘイキ・コバライネン選手は“おとっと”。クラッシュしていたらデグナーカーブのように「コバライネンコーナー」と呼ばれたかも
民家の目の前をラリーカーが疾走する。自宅前にWRCって想像できない幸せ
自宅の軒先が観戦席。素晴らしすぎる
その目の前でダイブ
観戦客の目の前をラリーカーが走り抜ける
「地域住民」と書かれたパスを首から下げ、楽しそうに観戦するお姉さまたち
SS終了後には、手づくり工房「山遊里(やまゆり)」で地元グルメが楽しめる
観戦客用の駐車場が用意された。これとは別に小学校の校庭も駐車場として開放されていた
シャトルバスの時刻表

チケット販売のスケジュールは

――WRCのチケット販売はいつから始まりますか。

高橋氏:チケットの発売は6月を予定しています。F1などは半年前に発売しているので、5か月前は早すぎることはないと思っています。現在、観戦ポイントの計測、アクセス、駐車場などの確認を進めています。コースや観戦エリアが確定したら、できるだけ早く情報を出したいと思っています。残念なのは、新型コロナウイルスの影響でWRCのPRイベントとして考えていた「モータースポーツジャパン」「モーターファンフェスタ」が中止、新城ラリーも無観客開催となってしまいました。WRCカーのデモ走行などを見てもらってPRしたかったので残念です。

――最後にラリージャパンについてひと言あれば。

高橋氏:3年間で日本にラリー観戦を定着させたいと思っています。初年度はしっかりした競技運営をすることが使命だと考えています。アイテナリ(ラリーの詳細なスケジュール:理解するには経験が必要)が公開されるので、誰でも分かりやすい形にして観戦情報を提供したいと思っています。1年目から大成功とはいかないと思いますが、セーフティを重視して合格点が取れる大会にしたいと思います。


 筆者にとって高橋浩司氏は、オートスポーツの編集長としてレース中継の解説をしていた印象が強い。「ブラウン管の中の人(←死語)」だ。モータースポーツを隅々まで、裏も表も知り尽くしている人だと思っている。インタビューをさせてもらい「気配りが凄い」と感じた。長年、インタビューをする側もされる側も経験しているから当然なのだろうが、ラリージャパンも丁寧に着実に、開催までの道のりを進めている印象だ。「セーフティ」という言葉を何度も耳にした。高橋氏は、無理をせず、背伸びもせず、時間を掛けて日本にWRCを定着させてくれるだろう。世界中を震撼させている新型コロナウイルスがいつ終息するのか誰にも分からないが、ラリージャパンの開催はもちろん、モータースポーツが再開する日を期待して待ちたい。