特別企画

【特別企画】SUPER GTタイヤメーカー インタビュー 2013(ダンロップ編)

 住友ゴム工業は、ダンロップやファルケンブランドで知られるタイヤメーカーだが、米国グッドイヤーと提携をしたことにより、アジア地域でグッドイヤーブランドでのタイヤも販売している。ダンロップ、グッドイヤーの2ブランドのタイヤをアジアおよびオセアニア地域で、ファルケンブランドのタイヤをワールドワイドで展開する体制だ。

 住友ゴム工業は、SUPER GTにダンロップとして参戦しており、特に日本人初のフルタイムF1ドライバー中嶋悟氏のチームであるナカジマレーシングとのGT500における長期パートナーシップは、ファンにはおなじみの組み合わせだろう。

 GT300においては、トップチームの1つであるゲイナーと組んで参戦をしており、2011年は惜しいところでチャンピオンを逃すなど、毎年チャンピオン争いや優勝争いに絡むなど高い競争力を発揮している。岡山で行われた開幕戦では、今年からメルセデスベンツSLS AMG GT3に車両を変更した11号車GAINER DIXCEL SLSが2年連続の開幕戦優勝を飾り、2013年もGT300におけるチャンピオン争いの主役となっている。

お話をうかがった住友ゴム工業 モータースポーツ部 課長 中田氏(左)、モータースポーツ部長 植田氏(右)

 そうした住友ゴム工業のSUPER GTでの活動について、住友ゴム工業 モータースポーツ部長 植田氏、住友ゴム工業 モータースポーツ課長 中田氏のお二人にお話しをうかがってきた。

 なお、このインタビューは第2戦富士の際に行ったものだ。SUPER GT500クラスは第6戦富士まで消化し、残るは第7戦オートポリス、最終戦もてぎと2戦を残すのみ。GT500は6ポイント差に6チームが収まる状況で、チャンピオンの行方はまだまだ分からない。GT300も混戦となっている。GT500に参戦するタイヤメーカー4社(ブリヂストン、ミシュラン、横浜ゴム、ダンロップ[住友ゴム工業])のインタビュー記事を順にお届けするので、一連の記事とあわせて、SUPER GTの終盤戦を楽しんでいただきたい。

●GT500クラスの順位(第6戦富士終了時)

順位マシン名(ドライバー名)ポイントタイヤ
1位18号車 ウイダー モデューロ HSV-010(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ)46MI
2位12号車 カルソニックIMPUL GT-R(松田次生/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ)46BS
3位23号車 MOTUL AUTECH GT-R(柳田真孝/ロニー・クインタレッリ)44MI
4位38号車 ZENT CERUMO SC430(立川祐路/平手晃平)43BS
5位17号車 KEIHIN HSV-010(金石年弘/塚越広大)41BS
6位37号車 KeePer TOM'S SC430(伊藤大輔/アンドレア・カルダレッリ)40BS

※:MI=ミシュラン、BS=ブリヂストン

●GT300の順位(アジアン ル・マン終了時)

順位マシン名(ドライバー名)ポイントタイヤ
1位16号車 MUGEN CR-Z GT(武藤英紀/中山友貴)68BS
2位11号車 GAINER DIXCEL SLS(平中克幸/ビヨン・ビルドハイム)52DL
3位61号車 SUBARU BRZ R&D SPORT(山野哲也/佐々木孝太)51MI
4位52号車 OKINAWA-IMP SLS(竹内浩典/土屋武士)45YH
5位4号車 GSR 初音ミク BMW(谷口信輝/片岡龍也)42YH

※:BS=ブリヂストン、DL=ダンロップ、MI=ミシュラン、YH=ヨコハマ


2年連続開幕戦優勝を遂げたGT300、2013年は悲願のチャンピオン獲得を

──岡山で開催された2013年の開幕戦ですが、GT500では32号車Epson HSV-010が予選2位、GT300ではGAINER DIXCEL SLSが2年連続の開幕戦優勝となかなかの成績を残しました。
植田氏:2012年のGT500はトラブルが多くタイヤの開発も思ったように進められませんでした。そこで、今年のシーズンオフには、開発方針を変えて、昨年までは参加していなかったセパンテストに参加するなどして他社と比較しながらの開発を進めて行きました。その結果、新しい開発の方向性は間違っていないという感触を得ることができました。岡山に向けてドライバーもこれならというモノを入れることができたので、予選ではそれを見せることができました。それに対して、決勝では、我々が予想していたよりも風が冷たく、それが理由でタイヤが冷えてしまい、スタートの1コーナーで飛び出してしまうなどにつながってしまったのが残念でした。

──つまり、レース前に予想していた温度よりも路面温度などが低くなってしまったのですね?

植田氏:そのとおりです。我々が予想していた温度レンジよりも低い温度になってしまったため、タイヤが能力を発揮する作動温度領域に入れることができなかったのです。レース中はずっとアンダーステア(ハンドルを切っても曲がりにくい状況)が出てしまい、レースができる状況ではなくなってしまったのです。ただ、トップグループとは差がついてしまいましたが、第2グループの中ではそんな状況の中でもいいレースができ、前走車を追い抜くこともできたので、ポテンシャルは確認できました。今後、路面の温度をきちんと的中させることができれば、十分戦えるパフォーマンスがあると考えています。ただ、天気ばかりは我々が決めることはできませんので、そこが難しいところです。

──GT300の方は決勝で見事2年連続開幕戦優勝を遂げました、
植田氏:今年から車両がメルセデス・ベンツSLS AMG GT3に変更になると聞いたとき、昨年この車がフロントタイヤがどんどんダメになってアンダーステアになるということに苦労していると聞いていたので、オフのテストではこの点に特に重点を置いて開発を進めました。普通であれば、タイヤのグリップ(路面に吸い付く力のこと)を上げる方向に振りますが、今年のタイヤはグリップを上げるのではなく、フロントタイヤの変化を抑える方向の開発を進めました。オフシーズンのテストでは、11号車のドライバーである平中克幸選手がかなり走り込んでくれたので、それにより開発が大きく進みました。

オフのテストでは、単独テスト中心から合同テストに参加へ方針転換

──2012年シーズンに抱えていた課題と、今シーズンそれをどのように解決していったのかを教えてください。
植田氏:タイヤメーカーには、タイヤメーカーテストというのが認められていて、そこでタイヤメーカー自身が独自のプログラムを組んで、様々なテストを行います。例えば、菅生を重点レースにしようと思えば、菅生に向けたテストプログラムを組んで取り組みます。これに対して、ほかのタイヤメーカー様は異なるプログラムを組んでいて、これまではなかなか一緒にテストをする機会が少なく、単独テストとなることが多かったのです。

 単独テストをすると路面も綺麗で、なかなかのタイムが出るのですが、それをレース用として持ち込むと全然タイムが出ないということが何度かあり、去年はそれが極端に出てしまいました。そこで、今年は単独はやめて、ほかのメーカー様と一緒に走るテストの機会を増やすことにしました。その中で、これまでのシーズンオフでは参加してこなかったセパンテストに参加することにして、レースコンディションでタイムが出るタイヤに開発の方向性を変えたのです。

──開幕前の岡山テストにも参加されていたと思いますが、そこから得られたモノはありましたか?

中田氏:例えばほかのメーカー様がテストを行う場所は同じだったとしても時期が違えば気温、路面状況などが異なってきます。そうしたことを考えると単独でやっていると評価が難しい。しかし、他メーカー様も一緒であれば比較が容易になります。岡山テストに参加して分かったことは、グリップレベルが向上したなという感触が持てました。それを積み重ねていけば、GT300のような結果を出せるのではないかという手応えがつかめたことが大きいです。

──グリップレベルがつかめたというのは、タイムですか?ドライバーのフィードバックですか?
中田氏:両方ですね。タイムだけならコンディションが刻一刻と変わっていく中での評価が難しいのですが、ドライバーのフィードバック、タイムの出方、さらには他社のタイムの出方を比較することで正しく評価することができるようになるのです。

植田氏:ドライバーがこれはグリップがあってイイと言ってくれてかつタイムがでるようなタイヤでないと、速く走ることはできないのです。結局ドライバーがあまり差がないよというタイヤはタイムが出ないのですよ。もちろん、ドライバーが「グリップしない、タイムが出ない」と言ってるタイヤは論外ですが…。

GT500も、GT300もユーザーチームは体制強化へ

──GT500は2012年同様、ダンロップと長年のパートナーシップを組むナカジマレーシングで続行になりました。

植田氏:ナカジマレーシングとは、長期間に渡ってご一緒させて頂いており、さまざまな思いを共有させてもらっています。お互い、後は勝つだけだということで、今年のオフはより密接に協力して改善を進めてきました。ドライバーラインアップにも中嶋大祐選手が加わって、新しくなったことも好材料だと思っています。

 もちろん、ベテランの道上龍選手のような経験はまだありませんが、若い選手は伸びしろが非常に大きいのが特徴で、最初は正直大丈夫かなと思っていた面もあったのですが、走り始めたらメキメキと力をつけてすぐにコンスタントなタイムで走れるようになったのです。ドライバーも、車両も、そしてオフテストでタイヤも速くなってきているので、パッケージとしてのレベルは上がり始めていると感じています。

──GT300のゲイナーチームはどうでしょうか?ゲイナーチームは今シーズンから2台になりましたが?
植田氏:昨年は開幕戦で優勝しましたが、結局シーズン中盤で失速してしまいました。ですが、実は密かにチャンピオンは狙っていましたし、それだけの体制だと評価していました。ただ、BOP(性能調整)の面で昨年の車両がシーズン途中で一転して不利になるということもあり、残念なシーズンになってしまいました。それだけに開幕戦で優勝した時に平中選手も言っていましたが、今シーズンはコンスタントにポイントを取っていくことが大事だと考えています。ゲイナー様が2台になったことは、とれるデータ量が増えるので歓迎したいです。

2014年に向けて準備を進めていくがSUPER GT

──2014年シーズンには、GT500で車両規定がDTMと統合されて、新規定でのレースがスタートします。その準備はどのような状況なのでしょうか?
植田氏:弊社としては、現在のパートナーであるナカジマレーシングと、来年以降も継続してやっていきたいという意向を持っていますので、その車の準備が出来次第というところがあります。現在からの大きな変更としては、フロントタイヤが小さくなるということが有りますので、フロントタイヤの開発が鍵になるだろうと考えています。ただ、弊社のユーザーチームであるナカジマレーシングが利用するホンダの車両はミッドシップになることはすでにホンダ様が明らかにされている通りで、その点では他のGT500とは大分異なるかもしれません。基本的な構造設計やタイヤの形などは、車がなくても考えられるのですが、実際には車につけてみて走ってみないと分からないでしょうね。

──2014年のタイヤ戦争はどのような形になると考えていらっしゃいますか?
植田氏:2014年型の車両規定を元に考えると、車を構成するパーツなどは指定部品になりますので、車ができあがったあとはあまりいじれなくなります。そうなると、差がつく部分はタイヤしかなくなってくると考えられるので、よりタイヤ競争が激しくなる恐れはあると思います。

──タイヤメーカーにとってはタイヤへの注目が集まるという意味ではいいのではないですか?
植田氏:もちろんそうなんですが、レースの面白さとしてはそれだけになってしまうのもよくないと思うんです。結果を左右する要素が、車だけ、タイヤだけ、エンジンだけ、ドライバーだけというのではなくて、複数の要因、要素を足し引きした結果として出てくる答えが沢山ある、それがモータースポーツの醍醐味だし、それがあるからこそ技術が蓄積されていく部分がある。ある部分にだけフォーカスが当たって、そうじゃない部分は技術の進化が止まってしまうとかになっては面白さが減ってしまうと思うのです。

 現在のDTMを見ていると、タイヤはワンメイクで、チームはサスペンションのセッティングなどいじれる小さな範囲の中で競争している状況です。しかし、SUPER GTではタイヤ戦争がありますので、それがタイヤだけになってしまう危惧がある。そこはもっと議論があってよいと私は考えています。

──SUPER GTのマーケティング的な価値についてはどのように評価していますか?
植田氏:SUPER GTは言うまでもなく、日本モータースポーツの最高峰ですので観客が多い。特に実際に現場に足を運んでいただいているファンの方は、技術にも興味を持っておられる方が多く、そこで結果を残すことは技術アピールにもなりますし、ブランド力の向上につながります。そうしたお客様が市販タイヤをお買い求めになるときに“ダンロップ”をブランドして選んでいただくことにつながります。

 もう1つはレースに足を運んでいただいているのは、熱心な“マニア層”のファンだけでなく、ご家族が多いのも特徴です。それらファンの皆様に向けて、ダンロップがモータースポーツで頑張っているということアピールできる仕掛けを、マーケティングが考えてくれていて、グランドスタンド裏での活動などを地道に行っています。

 そうしたことに貢献する意味でも、レースの現場としてはしっかり結果を出していかないといけないなと考えています。特にGT300では、弊社、ブリヂストン様、横浜ゴム様、ミシュラン様、ハンコック様の5社によるコンペになっていますので、その中でチャンピオンを獲ることには大きな価値があると考えています。

──最後に今シーズンの目標をお願いします。
植田氏:GT500は早いうちに勝ちたいです。GT300に関してはチャンピオン獲得を目指していきます。今後ウエイトが乗ってきたときにどうかなという懸念はありますが、今年は車も、チームも、ドライバーも、すべての要素がそろっていますので、昨年までの雪辱を果たしてチャンピオンを獲得していきたいです。


 ダンロップは、GT500での1勝こそ実現していないものの、GT300のランキングは、2戦を残して2位の位置に付けている。このクラスはヨコハマタイヤが連覇中だが、2013年シーズンは、ダンロップ、ブリヂストン、ヨコハマタイヤ、ミシュランが激しい争いを繰り広げている。10月5日からオートポリスで開催される「2013 AUTOBACS SUPER GT 第7戦 SUPER GT in KYUSHU 300km」には要注目だろう。

笠原一輝

Photo:安田 剛